【文徒】2018年(平成30)8月14日(第6巻151号・通巻1325号)

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1)【記事】日経新聞「トリツギの危機」報道をめぐるネット上の反応
2)【本日の一行情報】

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1)【記事】日経新聞「トリツギの危機」報道をめぐるネット上の反応(岩本太郎)

日本経済新聞電子版が13日朝に掲載した「『トリツギ』の危機 書店に本が来なくなる日」は、トーハンの藤井武彦社長(現顧問)が講談社を訪ねて野間省伸社長に「自助努力の限界です。物流コストの追加負担をお願いします」と頭を下げるという冒頭のシーンに始まり、随所に現在の出版業界関係者の悲鳴のごときコメントが盛り込まれたレポートだった。
記者の亀井慶一は版元や取次のほか、出版物流を担う業者にも取材。大半の会社から「取次さんとの取引については話せない」と拒否されたものの、何とか応じてくれたという首都圏の1社の社長からこんな証言を引き出している。
《「長年、宅配便などに比べると何十分の1という運賃で本を運んでいた。もう限界に近づいている」》
《もっとも困るのがコンビニへの配送だという。配送先は急増しているが、運ぶ書籍や雑誌は減っている。取次からの支払いは運んだ重量に比例するため、運賃は減少の一途だ。4トントラックの半分も埋まらないまま、深夜から早朝にかけ少なくとも40軒、多いときには60軒のコンビニを回る。売上高は10年で半減した》
 それを受ける形で亀井は、そうした実態の根源にある《出版社と取次、書店の3者のもたれ合いの構図》にも言及。専修大学教授(出版学)の植村八潮の「漫画誌と単行本の漫画の成功が取次の構造的な問題を見えにくくさせ、右肩上がりを前提とするビジネスモデルを転換する判断を遅らせた」との指摘、「業界全体が持ちつ持たれつの関係で、誰も構造改革を強く訴えてこなかった」と自戒を込めて話す「大手出版社の幹部」の話。KADOKAWAによる書店との直接取引の現状(取次関係者は「資金負担が大きく、長期的にはうまくいかないだろう」とコメント)などを紹介。最後は《川下の配送網の疲弊は限界まできている。出版業界が旧弊を改革しようとしなければ、書店に本が届かないという最悪のケースも笑い話ではなくなる》と締める形で警鐘を鳴らしている。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO34052820Q8A810C1000000/
「出版流通」の最奥にあたる物流の実態にまで日経あたりの大手新聞が切り込んだということで、13日は朝からさっそく出版業界関係者らがネット上で反応した。もちろん、物流と言うことに関して言えば、これを取り上げる新聞に対するこんな皮肉も出てくる。
《全方位に冷淡な記事という印象で、配達ってラストワンマイルが破綻しているという意味では新聞社もそんなスタンスでいいのかいな感》
https://twitter.com/kissenger800/status/1028836263682441216
新聞の場合は「ラストワンマイル」である販売店や販売員の疲弊が極めて深刻化している。
《需要の減退、メディアの変化、ITの進歩を考慮すれば、紙の取り次ぎに未来がないのは自明。残すべき分野を決めて、計画的撤退を考える以外に道はない》
https://twitter.com/nhosoe1/status/1028827805029556224
《自業自得、独占殿様商売で顧客サービスを疎かにした(店頭注文で届くのは2週間後?)罰だ?
その昔、某取り次ぎが自社のコンピュータシステム更新の費用を取引先に負担させようとした話は記憶に新しい。》
https://twitter.com/oyaji_ga_ga/status/1028840705865596928
《運送費の値上げがいろんなところに影響してきてる。中小の出版社は書店やネットとの直取引を増やして関節費を減らしていくしかない?》
https://twitter.com/0kawary/status/1028861290075238400
映画プロデューサーでアップリンク代表のほか、『WEB DICE』の編集長も務めるなどミニコミ業界にも通じている浅井隆はこんな意見を披露。
《出版関係者以外も知っておきたいこと、往復で配送コストがかかる再販制度はなくなり片道だけの買取制に将来はなるのか、これは。》
https://twitter.com/asaitakashi/status/1028804599346388992
他にも「ポストトリツギ」の出版流通の未来像(?)を思い描くコメントもいくつか上がっている。
《存続させずに出版を維持するスタイルを考えたらやれそうな気がするのだが。街の本屋から人が離れるのも、取次マストで配送に二週間かかったりするからなんだし。》
https://twitter.com/arima_y/status/1028849102623100928
電子書籍やECだけでなく、ダイレクトパブリッシングやマッハ新書の存在・伸びにより、取次の存在感はますます薄れていくでしょう。》(エンジニアのふくもとてるひさ)
https://twitter.com/terry_i_/status/1028834481979895813
《米国西海岸Santana RowにあるAmazon BooksをYouTubeで発見。Amazonはネット書店としてリアル書店を駆逐して、そして自社でリアル書店を開店…。S.ジョブズ流に言えば「Amazonは書店を再発明しました」といったところか(笑)。》
https://twitter.com/mdd125/status/1028838095347625984

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2)【本日の一行情報】(岩本太郎)

月曜社が8月21日に取次に搬入予定の新刊『来るべき種族』(エドワード・ブルワー=リットン著・小澤正人訳)について、同社のTwitterアカウント「ウラゲツ」が《今回の場合はアマゾンやホントを除き、リアル書店での受注店数は全国で70店舗です。残念ですが配本ゼロ県もあります》と前置きのうえ、発売前からかなり詳細な配本状況をスレッドで報告していた(以下、抜粋)。
《10冊以上のご発注があった書店さんは以下の4店舗です。紀伊國屋書店新宿本店、ジュンク堂書店池袋本店、東京堂書店神田神保町店、ブックファースト新宿店。5冊以上となるとあと7店舗増えます。》
《全70店舗の都道府県別店数。北海道3、秋田1、宮城1、福島1、栃木1、茨城1、埼玉1、千葉1、東京22、神奈川1、静岡1、愛知3、長野1、新潟1、富山1、石川1、京都8、大阪6、兵庫3、広島4、岡山2、香川2、福岡1、熊本1、鹿児島1、沖縄1。うち、もっとも多いチェーンはMJで29店舗。》(註:MJ=MARUZEN&ジュンク堂書店
《正直に申し上げておきますと、この店舗数は弊社にとって特段に悪い数字ではないです。今年の自社発行物では限定出版本を除くと、最も多くて111店舗、少なくて57店舗です。最も受注数が多いのは断トツでアマゾンです。今回の新刊では一番受注数の多かった書店さんの9倍の受注が市川FCから入りました。》
《こうしたリアルな話にご興味を持っていただける方がどれだけいらっしゃるか分からないのですが、零細出版社の受注から見た書店業界の現実の一側面ということで。ちなみに配本ゼロ県については、バラマキ配本をしない版元にとっては、なかなかクリアしがたいものがあります。》
《まとめてみると、弊社のような零細専門出版社の場合、売上冊数ではアマゾン依存、店舗数ではMJ依存ということになります。今回の新刊では総受注冊数のうちアマゾンが約38%で、MJが約18%。店舗数では70店舗のうちMJが29店舗で約41%。今回はアマゾンの発注が多かったので別の書目ではまた別の結果に。》
https://twitter.com/uragetsu/status/1028092876285075456

文春ジブリ文庫から今月発売された『ジブリの教科書19 かぐや姫の物語』からピックアップした「鈴木敏夫が語る高畑勲」が『文春オンライン』で10日より連載開始。第1回目から日本テレビ社長だった故・氏家齊一郎高畑勲の作品に惚れ込んでいたとの有名なエピソードが綴られるが、その冒頭にはこんな証言もあった。
《氏家さんは徳間書店の社長、徳間康快と同じ読売新聞の出身。経営者としても仲がよく、徳間の葬儀では弔辞を読んでもらいました。そのお礼を言いに訪ねていくと、氏家さんはしみじみと語りました。「徳さんはすごかったな。会社から映画まで自分でいろんなものを作った。あの人は本物のプロデューサーだった。おれの人生は、振り返ると何もやってない。70年以上生きて、何もやってない男の寂しさが分かるか」
僕は返答に困って、愚にもつかないことを言いました。「マスメディアの中で大きな役割を果たしているじゃないですか。日本テレビの経営を立て直したのも氏家さんでしょう」。氏家さんは「ばかやろう!」と怒鳴りました。「読売グループのあらゆるものはな、ぜんぶ正力(松太郎)さんが作ったものなんだ。おれたちはそれを維持してきただけだ。おれだって何かひとつ自分でやってみたい。そうしなければ死んでも死にきれない」。真剣な表情でした》
http://bunshun.jp/articles/-/8406
正力の死後、読売新聞の最高権力者となった「販売の鬼」故・務臺光雄に追われた氏家が、渡邉恒雄と共に学生として日本共産党にいた時代からの友人である故・堤清二や故・高丘季昭によるセゾングループに一時期招き入れられたのは既に30年も昔の話になってしまった。

◎『月刊アクション』から今年5月に連載を『週刊ヤングマガジン』に移して話題を呼んだ『私の少年』の著者・高野ひと深が担当編集者と共に『ねとらぼ』の12日付インタビューに登場。『私の少年』本編の出張掲載も併せて行われている。
《高野:『月刊アクション』(双葉社)での連載当時から、男性の方からも根強い支持はいただいていたんですよ。それでも30〜40代男性の読者層が薄めなのは事実なのですが、担当編集の三村さんが購買データも調べた上で「これまでの支持層ではない読者が読んでいる雑誌だからこそ、連載するメリットもあるんじゃないか」と提案してくれたんですね。》
《三村:だって、毎回本当に面白いので。ぼくのようなおっさんでも、聡子に感情移入できるんですよ。思考や言葉遣いが女子すぎないというのもあるし、何より、聡子が仕事や人生で悩んでることって実は普遍性がある。うちの編集長も「なんか、胸にくるんだよ……」「読むと、聡子になっちゃうんだよな……」と言っていたくらいです》
http://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1808/12/news002.html#utm_term=share_pc

集英社『りぼん』が千趣会の通販サイト「ベルメゾン」とコラボ。『ときめきトゥナイト』の池野恋、『お父さんは心配症』の岡田あ〜みん、『銀曜日のおとぎばなし』の萩岩睦美、『粉雪ポルカ』の陸奥A子という、70〜80年代に活躍した漫画家4人の作品を起用したグッズ(雑貨や文具)が10日から発売されている。
https://www.lmaga.jp/news/2018/08/46422/

◎「日本最南端」とされる出版社は沖縄県石垣島にある「南山舎」。代表の上江洲(うえず)儀正は早稲田大第二文学部に入学後、大宅壮一文庫に11年間勤務の後で帰郷し、1987年に南山舎を設立。2011年に菊池寛賞を受賞した『竹富方言辞典』などの書籍のほか、生活情報誌『月刊やいま』も既に26年に渡って発行し続けている。
https://www.nishinippon.co.jp/feature/i_live_here/article/440121/

紀伊半島の漁村で「九鬼水軍」でも有名な三重県尾鷲市九鬼町に空き家を活用した古書店「トンガ坂文庫」がオープン。東京と長野から移住してきた32歳の男女2人が、コンビニすらない町の活性化を図ろうと、築80年以上の木造平屋を改造して開店。児童書や推理小説、詩集など約二千冊の古書を置いているそうだ。
https://twitter.com/tongazaka
http://www.chunichi.co.jp/article/mie/20180810/CK2018081002000019.html

◎閉店が続くなど苦境が伝えられるブックオフが「夏のウルトラセール」と題し、全品20%オフの割引販売を10日から12・13日まで、全国の274店舗で行った。
https://www.bookoff.co.jp/event/lp/ultra201808.html
https://www.huffingtonpost.jp/2018/08/10/bookoff-ultra-sale-2018_a_23500288/

◎千葉県の独立民放テレビ局(非・在京キー局系列)の千葉テレビは、中小企業や若手経営者を対象にしたマッチングサービスを手掛けるアンドビズ(都内千代田区)と「地域創生プロジェクト」に関する業務提携を結んだ。地域社会にあって後継者不足に悩む企業の事業承継支援を共同で行っていくとのこと。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000005.000034376.html
地方局、とりわけ全国ネットワークに属さない独立局は「地域密着」が今後ますます経営上の大きな柱になる。

◎私(岩本)も2004年の第1回から毎回参加している「市民メディア全国交流集会」の第16回目が「メディフェス@よなご」と題して9月28・29日の2日間、鳥取県米子市で開催される。同市での開催は14年ぶり2回目で、前回と同じくホスト役を務める地元のケーブルテレビ局「中海テレビ放送」は80年代から地域住民が制作した番組を放送するパブリック・アクセス・チャンネルを運営してきたことで知られる。
http://gozura101.chukai.ne.jp/p/page/chukai/news/23/

◎昨日紹介した「note」での連載『その出版社、凶暴につき 情報センター出版局クロニクル』の筆者「古き良き時代のノンフィクション書籍編集者」は、やはり同出版局の編集者だった田代靖久だった。一昨日段階でコメントを求めて一緒に載せようとして間に合わなかったのだが、昨日の昼になって《午前中くらいのnoteのアクセス数がふだんより劇的に増えてました。なにごとかと思ったんですが、文徒のおかげだったんですね》とのお礼のメッセージを岩本あてにいただいた。連載を始めたきっかけについては《連載でも触れた、「出版状況クロニクル」の小田光雄氏の文章がほぼ直接の引き金でしたが、岩本さんのご著作を読んだこともひとつの刺激になったことは間違いありません。出版業界が上り坂だった、あの時代の「熱」を伝えたいなと》とも。こちらこそありがとうございます。
同シリーズは昨日、「あの夏、人生で一番暑かった日々」と題した連載第7回目がアップされた。
https://note.mu/eden_rrr/n/n159f6f6460fa
なお、田代が情報センター出版局時代の2007年に手掛け、ノンフィクション賞3冠(大宅壮一ノンフィクション賞講談社ノンフィクション賞黒田清JCJ新人賞)に輝いた城戸久枝の『あの戦争から遠く離れて―私につながる歴史をたどる旅―』はこの8月から版元を文春文庫から新潮文庫に移して新たに刊行された。
http://www.shinchosha.co.jp/book/121052/
https://twitter.com/EDEN_RRR
「エデンRRR」のツイートを読んでいると分かるが田代靖久は相当の映画通であることが理解できる。確かにドヌーブは「顔」の女優である。ブニュエルの「昼顔」もそうだし、アルドルッチの「ハッスル」でもそうだった。リンクレイターの「30年後の同窓会」はアシュビーの「さらば冬のかもめ」の続編なのよ。「note」の連載では「3−4×10月」をイジって欲しいな。