【文徒】2018年(平成30)8月21日(第6巻156号・通巻1330号)

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1)【記事】海賊版サイトはアプリの普及により駆逐される?
2)【本日の一行情報】

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1)【記事】海賊版サイトはアプリの普及により駆逐される?(岩本太郎)

『Business Journal』が14日付で「海賊版サイトは放っておいても消滅する」とする論考を掲載していた。博報堂出身の中川淳一郎の以下のようなコメントを交えながら展開している。
《10年ほど前まで、ネット広告は『閲覧数やCTR(クリック率)の数字がわかるから公明正大』と評価されていました。当時はまだ、テレビ・新聞・雑誌といった既存メディアが出稿先のメインで、新興メディアのネットは広告効果がわかりやすいという点を売りにしていました。しかし、『漫画村』で横行していたアドフラウドのような手法が蔓延すると、その評価が地に堕ちてしまいかねない(略)出稿がなくなることで『漫画村』のような海賊版サイトは兵糧攻めに遭うようなかたちになり、いずれ消えていくでしょう。結果的に自滅することになるのでは……》
アドフラウドとは《「漫画村」の閲覧者にわからないかたちで同時に別サイトが立ち上がり、そのなかに“裏広告”として掲載されていたという手法だ。広告は「閲覧された」とカウントされるが実際は誰も見ていない》といった詐欺的広告だ。
https://biz-journal.jp/2018/08/post_24424.html
『Business Journal』は続いて18日にも「ネット広告の闇…アプリに蔓延するアドフラウド(広告詐欺)の実態」とのレポートを掲載している。広告の効果測定や不正防止を目的とするプラットフォーム「adjust」で日本チームカントリーマネージャーを務める佐々直紀はインタビューに応じ、「漫画村」が結局アプリに行けなかった理由もそこにあったと指摘する。
《「漫画村」の問題は「ウェブサイト」だから起きたことであり、「アプリ」では比較的難しいと思います。アプリの場合は「Google Play」や「App Store」の審査があるので、「漫画村」のように道義的に問題のあるアプリは審査の段階ではじかれてしまいます。(略)裏を返せば「広告を利用して不正を働き、儲けようとする人や組織が活動する場所も、ウェブからアプリに移りつつある」とも言えるということです》
https://biz-journal.jp/2018/08/post_24471.html
アクセス数の大きな媒体に出稿してたくさんクリックしてもらうという従来の手法に代わって深刻化しているのがアドフラウドだ、と佐々は指摘している。
ただ、いずれにせよこれまでのような海賊版を舞台にした無法地帯的な状況はアプリの登場によりある程度は「浄化」されるとの見たてのようだ。もっとも、アプリ以外の「合法的な」無料サイトは今後もすみ分けする形で残るのだろう。以前も紹介した「漫画ビレッジ」はフリーランスプログラマーたちが独自に開発したシステムで、出版社が公式に提供しているマンガサービスにリンクするという、至ってシンプルなサービスだ。
https://www.manga-village.com/
https://mag.app-liv.jp/archive/118257
往年の一般読者が独自に立ち読みしたりマンガ本を仲間で貸し借りしていたような感覚のこうしたサービスと、大手が資本投下のうえ開発したアプリを活用した広告モデルのサービス。「LINEマンガ」や「マンガワン」などのアプリの存在がますます大きくなり、広告による収益を作家に分配するような仕組みも拡充されてきた中で、こうした二つの方向への筋道が何となく見えてきているのかもしれない。

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2)【本日の一行情報】(岩本太郎)

◎『マガジン航』で今月6日に仲俣暁生が載せた論考『出版業界は沈みゆく泥舟なのか』に呼応し、TAC出版の湯浅創が「出版流通はなんでもありの変革期を迎えた」と応答の寄稿。創作物を伝える媒体である本の流通経路がなくなるのは困ると述べた仲俣に対しだ《だが、もしかするともはや要らないのかもしれない》と挑発的に前置きしつつ、「委託制度の廃止」の可能性にまで言及している。
https://magazine-k.jp/2018/08/20/revolution-in-book-distribustion/

講談社は金融・経済サイト『マネー現代』を20日に公開した。編集長は同社の週刊誌・書籍分野で金融・経済情報に携わってきた代泰征(だい・やすゆき)が担当。人気ファイナンシャルプランナー陣による連載のほか、大物投資家への独占インタビューなどを今後公開していく予定とのこと。
https://gendai.ismedia.jp/money
http://www.kodansha.co.jp/upload/pr.kodansha.co.jp/files/pdf/2018/20180820_moneygendai.pdf

講談社は10月5日に新しい小説レーベル「レジェンドノベルス」を創刊する。「小説家になろう」などの投稿サイトに投稿されたファンタジー小説の専門レーベルで、今後は毎月5日に4冊ずつ刊行する予定。
http://legendnovels.jp/
http://www.kodansha.co.jp/upload/pr.kodansha.co.jp/files/pdf/2018/20180820_legendnovels.pdf

◎2010年に開設され、地震などの自然災害発生時に逸早く関連情報をまとめてツイートしていることから現在までに50万人近くものフォロワーがついているTwitter上の個人アカウント「特務機関NERV」を運営する石森大貴が『AERA.dot』のインタビューに登場。石森は都内でITセキュリティの会社を経営する28歳の男性で、開設翌年に発生した東日本大震災によりフォロワー数が数万人規模で伸びたが、宮城県石巻市の実家は津波で全壊、親戚や友人を亡くしたという。
https://twitter.com/un_nerv
https://dot.asahi.com/aera/2018080800079.html

◎その「特務機関NERV」でも時には誤った情報を拡散してしまうことがある。さる19日には「房総半島南方沖を震源とする最大震度4の地震が発生した」旨をツイートしたが、これは気象庁の発表に基づく誤報だった。同庁によると、南太平洋のフィジー諸島沖で起きたマグニチュード8.2の地震が伝わってきた影響で緊急地震速報が出たらしい。
https://www.buzzfeed.com/jp/kotahatachi/m82-fiji?utm_source=dynamic&utm_campaign=bfsharetwitter

◎「港区で一番小さい出版社」を標榜するビーナイスの杉田龍彦が渋谷区円山町のギャラリー「irodoriya.(いろどりやま)」で26日まで「ちいさな出版社のちいさな本屋さん」展を開催中。同社刊行物のほか、コラボしたミニチュア絵本制作キットやオリジナルグッズ、同社も会員の「本づくり協会」の会報誌『BOOK ARTS AND CRAFTS』などの販売も行っている。
https://twitter.com/beniceinc
https://www.shibukei.com/headline/13379/

◎JR渋谷駅の構内にある書店「BOOK EXPRESS渋谷」が今日21日で閉店。同店は埼京線の連絡通路内に位置し、埼京線ホームの移設工事に伴い閉店されることになったが、これで渋谷駅からまた書店が消える。
https://www.shibukei.com/headline/13375/

電通はイージスを通じ、オーストラリアの大手マーケティングテクノロジー会社「Amicus Digital Ventures Pty Ltd」(アミクスデジタル社)の株式100%を取得。アメリカに本社を置くイージス傘下のデータマーケティング会社「Merkle」(マークル)の事業拡大を目的としたもので、同社はイージス傘下入りと同時に社名を「Amicus Digital, a Merkle Company」に改称する。
http://www.dentsu.co.jp/news/release/2018/0820-009591.html

◎「日本初の古書検索サイト」とされる「スーパー源氏」を運営元である会社「紫式部」代表の河野真が『ITMediaビジネスONLINE #SHIFT』のインタビューに登場。電機機器メーカーのリコーの社員だった1996年に40歳で「スーパー源氏」を立ち上げ、4年後に独立。「Amazonとは違う世界を」求めて現在も展開中だ。
https://www.supergenji.jp/
http://www.itmedia.co.jp/business/articles/1808/20/news019.html

◎KKベストセラーズからの『自選作品集』の刊行が途中で中止となった柳美里だが、今年4月に移住先の福島県南相馬市に開店した書店「フルハウス」は「第二幕」に入るとか。店の改装工事開始を前に、さる11日には同店で仙台市在住の佐伯一麦と対談。4月以来続けてきたトークイベントの開催に一区切りをつけた。9月に柳の劇団「青春五月党」の復活公演を行った後に改装工事に入り、書店は11月中旬まで休業するという。
https://twitter.com/odaka_fullhouse
https://www.kahoku.co.jp/tohokunews/201808/20180816_63033.html

◎ブックリスタは投稿プラットフォームの「シミルボン」において、桜庭一樹作品の「二次創作」を募集する「『桜庭一樹で創る』第7回シミルボンコラム大賞」を開催する。審査には翻訳家の金原瑞人、そして桜庭一樹本人もあたるとのこと。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000297.000006388.html

高知県立大学が新図書館への移転に伴い、旧図書館にあった約3万8000冊の図書や雑誌を焼却処分にしていたことが問題視されたことについて、同大学学長の野嶋佐由美が18日に公式サイトで《除却に際しての配慮が十分でなく、多数の図書を焼却するに至ったことについて、お詫びいたします》と謝罪。
http://www.u-kochi.ac.jp/soshiki/7/oshirase.html
https://mainichi.jp/articles/20180819/ddl/k39/100/319000c
https://www.buzzfeed.com/jp/kotahatachi/u-kochi?utm_source=dynamic&utm_campaign=bfsharetwitter

日本電子出版協会(JEPA)は9月26日にセミナー「hon.jpからHON.jp、営利企業から非営利メディアへ」を開催する。講師はhon.jp DayWatch編集長でNPO日本独立作家同盟の鷹野凌。代表・塩崎泰三の急逝によって事業を終了したhon.jpよりニュースブログ事業を継承し、この10月1日から「HON.jp News Blog」と名前を改め正式に稼働を開始する。
http://www.jepa.or.jp/seminar/20180926/
https://kokucheese.com/event/index/532642/