【文徒】2017年(平成29)10月12日(第5巻192号・通巻1121号)

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1)【記事】『小学8年生』掲載の安倍首相登場マンガで編集長が見解表明するも沈静化せず
2)【本日の一行情報】

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1)【記事】『小学8年生』掲載の安倍首相登場マンガで編集長が見解表明するも沈静化せず(岩本太郎)

9月28日発売の小学館『小学8年生』第4号に掲載された漫画をめぐり炎上騒ぎが湧き起った。藤江俊彦による「まんがで読む人物伝」という連載で、第1号のドナルド・トランプ、第2・3号のペリー提督に続いて今回は安倍晋三首相を題材として取り上げたところ、作中で安倍首相が前回2007年に辞任した際の描写として「かいよう性大腸炎という難病」で「じつはおなかがイタくて…」辞めたといった話の展開に加え、おそらくはその漫画独特の描写や絵柄、さらには総選挙が被ってきたという時節柄のこともあってネット民を刺激する材料になったらしい。
https://togetter.com/li/1159780
http://erakokyu.blog.jp/archives/payo-171009.html
http://mona-news.com/archives/73019870.html
https://news.biglobe.ne.jp/trend/1010/blnews_171010_2056224497.html
炎上状態となったのは9日あたりからのようだ。3連休明けの10日までには小学館や『小学8年生』にも抗議が殺到したらしく、同日の昼過ぎには編集長の齋藤慎が同誌の公式アカウントにて以下の編集部見解を述べることとなった。
《『小学8年生』第4号のまんがについてたくさんのご意見をいただいております。
第4号は、9月14日に編集作業を終えました。解散の報道がなされ始めたのが9月18日ごろからです。まんがに関しては、今回の衆議院議員選挙とは何ら関係がありません》
《また、難病に苦しまれている方を揶揄するような表現は一切していません。2007年当時、安倍首相が総辞職した一因に、ご自分の病気があったことを告白したことを、あくまで事実として紹介したものです。
ご了承賜りますようお願い申し上げます》
https://twitter.com/sho8_shogakukan/status/917595765303787520
https://twitter.com/sho8_shogakukan/status/917596084930670592
もっとも、これでも炎上は鎮火しなかった。「開き直りだ」「やはり安倍首相を不当に揶揄するものだ」といった声が続出。また「学年誌」ということから「親として子供に見せられない」といったもののほかに、自身もかいよう性大腸炎を患っているという立場からの批判も多々上がっている。
石橋貴明のホモネタがアウトで、小学8年生の難病ディスがOKという根拠を説明して欲しい。両者とも当事者が不快に思うのではないか?》
https://twitter.com/yzfr1le/status/917974214874976257
石橋貴明のホモネタ」とは10/02付本誌でも報じた「保毛尾田保毛男」の件でフジが謝罪したことである。
《編集部は悪手に悪手を重ねていますねぇ。「脚色を施した」と作品内で断っているのに「事実」と強弁。潰瘍性大腸炎を仮病とも取れる描写。反差別界隈はもちろんそれを批判せず。》
https://twitter.com/laboratorymembe/status/917706225415892997
《編集長さん
私は潰瘍性大腸炎の患者です。
この雑誌の表現に気分を害しました。
明らかにUC患者を揶揄する表現です。
販売した小学8年生、全て自主回収してください。
回収の理由は「対象読者に対して誰が執筆した何の記事の何ページ目の何コマ目に不適切な表現があった」と明示してください》
https://twitter.com/tomoki536/status/917758650948632577
他方で、見かねたのか『小学8年生』を擁護する声も、いわゆるリベラル界隈から上がっている。
羽田空港着いてTLで評判の『小学8年生』購入。「まんがで読む人物伝」、「子どもたちが興味を持ち、楽しく読み進められるように、事実に基づいて、まんが的きゃく色を加えて構成しています。」とのただし書きや参考文献一覧もついてて教育的配慮がなされてた。ちなみに次回は「ベートーベン」。》 (香山リカ
https://twitter.com/rkayama/status/917314172831928321
《小学8年生のはただの漫画。破廉恥でもない。正しい風刺。そんなこと言い始めたら、日本の労働者を地獄に落とした小泉純一郎を格好良く扱っている漫画がそれ故に批判された試しはない。読みたい人が読めば良いからだ。》(弁護士で自由法曹団常任幹事なども務める渡辺輝人)
https://twitter.com/nabeteru1Q78/status/917320947375366144
オタク・マンガライターで「と学会」会員でもある新田五郎は、やや醒めた視座からこうつぶやく。
《やっぱり小学8年生の件は、「政治風刺マンガ」が大きく後退してしまったことと関係はあると思う。「政治風刺マンガ」を知らない世代が人の親かと思うと、自分もトシを取ったなあと思う。》
https://twitter.com/nittag/status/917894067039567872
安倍首相本人や官邸側がこの件について何か反応を示したという話は、本稿執筆時点では特に上がっていないようだ。ただし、安倍自身が2007年の辞任の際のこともあってか、自身の体調に関わる週刊誌などの報道に対してはこれまでかなり過敏に反応してきている。2015年には「会食中にトイレで吐血した」などと報じた『週刊文春』、「日韓首脳会談の最中にろれつが回らなかった」などと報じた『週刊現代』に対して相次いで「事実無根だ」「全くの虚偽だ」などとして、法的措置もちらつかせた抗議に及んだことが記憶に新しい。
https://www.nikkei.com/article/DGXLASFS20H4C_Q5A820C1PP8000/
http://www.sankei.com/politics/news/151109/plt1511090016-n1.html
https://www.j-cast.com/2015/08/21243283.html?p=all
「何を笑うかによって、その人柄がわかる」(マルセル・パニョル)を思い出す。

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2)【本日の一行情報】(岩本太郎)

◎マンガ研究者の中野晴行が、『マガジン航』で連載中の「ネオ・マンガ産業論」の第5回で「デジタルで変わるマンガ家の仕事」に言及。1990年代半ば以降におけるPCの高性能化とネット環境の向上はマンガの制作過程にもデジタル技術導入による一大変革を引き起こしたが、それが今やマンガ家のライフスタイルまでをも変えつつあると中野は指摘する。
《かつて、プロのマンガ家になるためには上京するのが当たり前だった。新人がデビューして少し描けるようになると、編集部が上京を勧めたのだ。前回にも書いたように、アパートを探しアシスタントを揃えるところまで、編集部や担当編集が世話をすることも多かった。(略)ところが、今世紀になってからはIのように地元に戻ったり、そもそも地元から動かない、というマンガ家が増えている。中には「東京にいると編集者がうるさいので」と地方に引っ越すマンガ家もいるほどだ。》
《デジタル化の波は、マンガ家にとって作品を発表する場が増えるというメリットも生み出している。紙の発表媒体は、老舗雑誌の休刊などで年々数を減らしているが、それ以上に電子マガジンや電子コミックアプリ、マンガ配信のポータルサイトが増えているからだ。大手の出版社も、雑誌の休刊で単行本化するコンテンツが減ったのを埋めるために無料で読めるウェブマガジンに力を入れている。「紙だけだった時代よりも、作品を描く場所は増えています。デビューを目指す人たちにとってもチャンスは大きくなった」と語る関係者は多い》
https://magazine-k.jp/?p=22920

◎仏壇仏具業界関連書籍の出版社として1984年に創業した鎌倉新書は、今やネットビジネスにおいて急成長中。2014年にはヤフーと提携のうえ終活ポータルサイトYahoo!エンディング」の共同運営も開始。2015年には東証マザーズに上場し、後に1部昇格も果たした。
創業者の父から経営を受け継ぎつつネット事業拡大に努めた清水祐孝に代わり、この9月に外部から新たに社長に招聘された相木孝仁が『東洋経済オンライン』のインタビューに登場。先にADKへのTOB買収の件で注目を集めたベインなどを経て楽天に入り、フュージョン・コミュニケーションズ(現・楽天コミュニケーションズ)やKoboなどに関わってきた人物だ。
http://toyokeizai.net/articles/-/191938

ストリート・ギャングの抗争を軸に、1990年代における若者たちの路上文化を描き出して人気を博したマンガ『TOKYO TRIBE』を、作者の井上三太自身が豪華新装版として復刊した。しかしリアル書店で全国流通させるのが難しいため、クラウドファンディング「Campfire」を使って読者パトロンを募集している。
https://camp-fire.jp/projects/view/45259?utm_source=cf_widget&utm_medium=widget&utm_campaign=widget
http://kai-you.net/article/46289

◎昨年11月に下北沢の「本屋B&B」で行われたトークイベント「校正・校閲というお仕事」の内容を『DOTPLACE』が紹介。ちょうど去年の今頃に石原さとみ主演のドラマ『地味にスゴイ! 校閲ガール・河野悦子』(日本テレビ)が話題を呼んでいた中、現役校正者4人(大西寿男・牟田都子・奥田泰正・寺田恵理)を招いて行われたものだ。
http://dotplace.jp/archives/28845
1年近くを経てのレポートだが、こうしたテーマだと話が古くならず、なおかつ誤字誤記常習者としては耳が痛くなる内容ではある。

◎『ワセダクロニクル』と岩波書店『世界』とのコラボによる連続シンポジウム「ジャーナリズム考」の第1回「日本の報道は何を伝えていないか――ジャーナリストが殺される国からの報告」が15日に早稲田大学「稲門祭」(ホームカミングデーと同日開催)で開かれる(会場は同大学14号館102教室)。なおも参加申し込みを受付中だ。
https://form.os7.biz/f/c0562734/
https://twitter.com/WasedaChronicle/status/917951413958963201

◎「紙か電子か(さらにはVRか)」といったメディアの違いを問わず現在の「本」をテーマとしたブックフェア「TRANS BOOKS(トランスブックス)」が11月4・5日の2日間、神田神保町コワーキングスペース「TAM COWORKING TOKYO」にて開催される。タイトルの「TRANS」は「越えて」「横切って」、つまり「本ならば電子でも非電子でも扱う」ブックフェアだということらしい。参加作家は菅俊一、田中良治、谷口暁彦、谷口千絵、松本弦人、やんツー、ほか。トークショーも計画されているという。
https://twitter.com/transbookstrans
http://transbooks.center/
http://kai-you.net/article/46280

◎五輪エンブレム騒動で袋叩きにあった佐野研二郎の近況。広告の世界にすっかり復帰し、NHKでも仕事をしたりするなど元気でやっていると『デイリー新潮』は伝えている。
https://www.dailyshincho.jp/article/2017/10100600/

集英社の「HAPPY PLUS(ハピプラ)」は9月期のPV数が約1億2,409万、対前年比で244%となった。UU数は928万(同152%)、会員数も72万人(前年比115%)となおも急上昇中だ。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000053.000011454.html

早川書房ノーベル文学賞を受賞したカズオ・イシグロの書籍全8作品を重版(51万部)すると発表した。6日に増刷した22万5000部を含め、受賞発表後の重版は計73万部になるそうだ。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO22092740Q7A011C1TJ1000/

博報堂・大広・読売広告社の9月度売上高。対前年同月比では大広が雑誌で約30%増とテレビで約10%増、読広が新聞で約11%増となっている他の媒体別はほぼ横ばいか減少。大広は「アウトドアメディア」が約64%増、読広は「その他」が約149%増となっているのが目立つ。
http://v4.eir-parts.net/v4Contents/View.aspx?cat=tdnet&sid=1519015

◎アマゾンが銀座7丁目のカーギャラリー「G735」で「Amazon Bar」を期間限定で20〜29日にオープンする。
https://www.amazon.co.jp/b?node=5367839051
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1710/10/news065.html