【文徒】2018年(平成30)9月12日(第6巻172号・通巻1346号)

Index------------------------------------------------------
1)【記事】読書の秋は「重厚長大」に挑戦しよう
2)【本日の一行情報】
3)【深夜の誌人語録】
----------------------------------------2018.9.12 Shuppanjin

1)【記事】読書の秋は「重厚長大」に挑戦しよう

読書の秋だからというわけでもないのだが、一時流行した言葉を使えば見るからに「重厚長大」な書物が私は好きである。棚に刺されていても、運よく平積みされても、ともかく、その態度のでかさに惹かれてしまうのだ。
三浦雅士の「孤独の発明 または言語の政治学」(講談社)は、仲俣暁生フェイスブック「読了。とてもいい本だった。「友よ!」というたった一言をいうかわりに人はこれだけの言葉を必要とするのか」と褒めていたこともあって迷わず買った。講談社のこの手の分厚い本は安藤礼二の「折口信夫」にしても、長谷川宏の「日本精神史」上下にしてもハズレがないことも迷わなかった理由である。
http://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000190609
http://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000188949
http://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000189203
http://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000189204
松山巖の「本を読む。」(西田書店)は総870頁を超えるが、東京堂書店で発見した際に、その重さにめげずに手に取ったところ、冒頭に置かれていたのが、小関智弘の「町工場の磁界」(現代書館)であったこともあって買う決心をした次第である。松山渡辺京二の「逝きし世の面影」(葦書房)の書評をこう書き出している。
「大げさでなく、ページをめくるたびに眼は覚め、視界は拡がる、そんな思いを久々に味わった」
現在、私は一日に何回かは、この大著を開き楽しんでいる。
http://nishida-shoten.co.jp/portfolio_page/honwoyomu/
四方田犬彦の「親鸞への接近」(工作舎)も500頁を超える大著だが、四方田が取り上げるのは親鸞論が絶筆となった三木清であり、伝記映画「白い道」を製作し、自ら監督までつとめた三國連太郎であり、「最後の親鸞」の吉本隆明であるのだが、ウルトラナショナリズムの側も親鸞にとりつかれていたことも忘れてはなるまい。靖国神社遊就館に行けば、その名と彼による短歌に出会うことができる三井甲之が「親鸞研究」を刊行したのが1943年である。三井の盟友である蓑田胸喜もまた熱烈なる親鸞主義者であった。「右」の親鸞については中島岳志が「親鸞と日本主義」でアプローチしているが、中島は吉本隆明を欠如していることもあって、私は「親鸞と日本主義」に乗れなかったのである。四方田であれば、「右」の親鸞をどう捉えるのか興味深いところである。
https://www.kousakusha.co.jp/NEWS/weekly20180717.html
やはり、この秋、最大の大著となれば、この一冊に触れないわけにはいくまい。熊野純彦の「本居宣長」(作品社)である。作品社のラインナップを見ているとわかることだが、同社は大著が嫌いではない版元である。そうはいっても、箱入で総ページ数が900頁にも及び、定価が8200円+税という大著は、私が知る限り、これまで刊行していないのではないだろうか。
熊野といえば、私からすれば即座に「戦後思想の一断面 哲学者廣松渉の軌跡」(ナカニシヤ出版)を思い起こさせることになるが、熊野はレヴィナスヘーゲル、カント、マルクスメルロ・ポンティにかかわる著作や岩波新書の「西洋哲学史」二冊を刊行するなど西洋哲学を主なフィールドとしているのだと理解して来た。それだけに本居宣長を取り上げるとは意外であったが、さにあらず、実は熊野は助手論でもあった第一論の中心は徂徠論で、宣長学との関連に説き及んでいたそうである。
https://dokushojin.com/article.html?i=4180
そう簡単には読破できそうもない一冊だが、次のような一が視界に入って来ると、何としても読破しなければならない一冊だと痛感する次第である。
「相良亨(一九二一~二〇〇〇年)は、東大紛争が提起した問題と全共闘に結集した学生たちの思いを、丸山とはことなったかたちで受けとめた」
むろん、丸山は丸山眞男である。相良亨に「本居宣長」(講談社庫)があることは断るまでもなかろう。かくして熊野純彦の「本居宣長」を購入。さすがにイッキ読みはできまい。目標は年内に読み終えることだ。
http://www.sakuhinsha.com/philosophy/27051.html

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2)【本日の一行情報】

◎パリに本社を持つ世界ナンバーワンの屋外広告会社ジェーシードゥコーの日本現地法人エムシードゥコー(85%ジェーシードゥコー、15%三菱商事)は、東京における広告付きバス停上屋に関して、小田急バス株式会社と20年の契約を締結した。今回の契約締結により、エムシードゥコーは、東京における公営バス事業者及び民間バス事業者を含む12社の主要なバス事業者のすべてと、独占契約を結ぶことになる。東京において、エムシードゥコーは現在、410基の広告付きバス停上屋を管理しており、1,000基を目指して、新規設置を拡大している。
https://www.atpress.ne.jp/news/165313
エムシードゥコーの創業は2000年10月。その年の12月にはイオングループ各社と提携し、モールスケープ(大型複合商業施設広告メディアネットワーク)を開始した。2004年にはイトーヨーカ堂と提携。バス停広告事業を開始したのは岡山市が最初で2003年3月のことに過ぎない。
https://www.mcdecaux.co.jp/history

◎「若冲レッド」の万年筆が付録で950円(税込)とは安い。「サライ」(小学館)10月号は買うことにしたい。特集は「日本美術と紅葉の京都」。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000122.000013640.html
ちなみに私の帽子の基本のキはジョン・デリンジャーである。権力者や芸術家に「キ」は求めない。

集英社から配信中のデジタルコミックの無料試し読みキャンペーン、秋のデジタルマンガ祭「秋マン!! 2018」のキャンペーンに「けやき坂46」の中からマンガ好きを称する5人のメンバー(佐々木久美、高本彩花小坂菜緒、松田好花、宮田愛萌)が起用された。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001625.000013546.html
欅坂46に次いでグループ内に結成された後輩グループが「けやき坂46」なんだって。

徳間書店は、創刊40周年を迎えるアニメ雑誌のパイオニア「Animage」(アニメージュ)の電子書籍版の配信を、9月10日発売の10月号から開始した。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000155.000016935.html
風の谷のナウシカ」のアニメ化でスタジオジブリ設立のきっかけとなった。

ブックウォーカーが運営する電子雑誌読み放題サービス「マガジン☆WALKER」が「Animage」(アニメージュ)(徳間書店)の配信を開始した。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000937.000001227.html

◎デビュー作「がん消滅の罠 完全寛解の謎」は40万部を突破した。著者の岩木一麻は国立がん研究センターの放射線医学総合研究所に属していたというキャリアを持つ。現在は医療系出版社に勤務しているそうだが、第2作の「時限感染 殺戮のマトリョーシカ」が宝島社から発売された。主人公の女性刑事は患者数が少ない希少疾患「ポンペ病」の患者という設定だそうである。
https://www.yakuji.co.jp/entry67185.html

講談社から刊行されている山本直樹「レッド」シリーズが「レッド 最終章 あさま山荘の10日間」をもって完結した。「レッド」が全8巻、「レッド 最後の60日 そしてあさま山荘へ」が全4巻となる。
http://kc.kodansha.co.jp/product?item=0000312527
現在、紙版は古本でなければ全巻を揃えることはできない。電子書籍であれば大丈夫である。マンガは既に紙よりもデジタルという時代なのである。

◎宝島社の女性ファッション誌「sweet」10月号(9月12日発売)の表紙を飾ったのは16日に歌手を引退する安室奈美恵安室がファッション誌の表紙を飾るのは、これが最後。誌面でも41ページにわたり、安室を特集している。
https://mainichikirei.jp/article/20180910dog00m100000000c.html

◎宝島社の「田舎暮らしの本」10月号は「はじめる!きくち体操」が別冊付録だ。宝島社の「きくち体操」シリーズは累計96万部を突破しているそうだ。菊地和子は現在、84歳だそうだ。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000735.000005069.html
「きくち体操」が世に出たのは実は今から25年も前のこと。まだ菊地和子は59歳であった。今や「きくち体操」といえば宝島社の「専売特許」のようなものだが、1993年に刊行された「奇跡のきくち体操―こんなすごい健康法があった 脳が生き返る 心が生き返る 体が生き返る」の版元は海竜社である。

◎RIZAPは、「北斗の拳」(原作:武論尊、漫画:原哲夫)とコラボしたRIZAP監修の書籍「RIZAP×北斗の拳 史上最強の肉体改造術」(本体900円+税)を日本芸社より発売した。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000073.000030866.html

◎書店は減りつづけており、「2000年には21000軒を超えていたものが今や12000軒程」だが、思うに2028年には5000軒を切るのではないかと思い私は思っている。
http://blogos.com/article/324051/

楽天は、「Rakuten-EXPRESS」の配送エリアを千葉県市川市船橋市浦安市松戸市に拡大した。
https://corp.rakuten.co.jp/news/press/2018/0910_02.html?year=2018&month=9&category=corp

◎「現代ビジネス」の「若者が『朝日新聞ぎらい』になった謎を考える」は橘玲の聞き役を元木昌彦がつとめている。元木が古巣に復帰!と思ったが、最後まで読んでみて「エルネオス」からの転載だと判明した。いずれにせよ、私は橘の次のような発言に深く同意したい。
「マスコミだけが男女差別をしているのではなく、日本の社会全体性役割分業を当然としてきました。それを変えていこうと思ったら、リベラルを自称する人たちが実践する以外ないわけです。保守の人たちは今のままでいいと思っているわけだから。
それにもかかわらずこれまでリベラル派は、他人のことは批判するけれど自分のことには見て見ぬふりをしてきた。SNSなどで言論空間が大衆化・民主化して、リベラルのダブルスタンダードが強く批判されるようになったのだと思います」
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/57318
それまで女性誌に飛ばされていた元木昌彦を「週刊現代」「FRIDAY」を擁する第一編集局(当時)に戻したのは、当時の鈴木俊男取締役であった。鈴木、元木の二人と日刊現代の川鍋孝に宣伝局にいた杉山捷三を加えた4人による食事会が定期的に開かれていた。杉山が傘寿を迎える。9月21日(金曜日)には小宴が企画されているようだ。遠い遠い昔の話だが、「週刊現代」の編集長は杉山ではなく、杉山と同期の鈴木富夫が就任する。その頃、私の師匠に当たる朝倉喬司は「週刊現代」で記者をつとめていたというわけである。

◎「週刊実話NEWS」が9月11日付で「10代少女の誘拐容疑で逮捕されたTBS社員、上司からのメールに“パワハラ訴えるなど問題行動も」を発表した。
https://wjn.jp/article/detail/4070926/

◎「なぜ出版業界は遅れているのだと思いますか」という朝日新聞の問いに佐藤秀峰が次のように喝破する。
「ほんと『漫画村』なんですよ。ムラ社会なんです。『紙に廃れてほしくない』という願望も入っていたんじゃないですかね。出版社が自ら電子をやるっていう意識もあまりなかったのかもしれないし、紙の本を売るのが自分たちの仕事なので、誇りとかいろいろあったのかなと思う。自分たちの外にも世界があることをわかろうとしなかった」
https://www.asahi.com/articles/ASL8H7KNKL8HUCVL01J.html
ムラ社会にとって「忖度」は欠かせない作法である。

◎世界化社の「MEN'S EX」と日本経済新聞社デジタル事業 広告・IDユニット「NIKKEI STYLE Men's Fashion」は共同で、「ビジネスや自分のフィールドで情熱を持ってチャレンジし、時代を変えていく才能や志を持つ人」を表彰するアワード「SUITS OF THE YEAR 2018」を新設する。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000491.000009728.html

◎「本屋大賞」と「Yahoo!ニュース」がタッグを組んで今年から新設された新たな賞「Yahoo!ニュース|本屋大賞 ノンフィクション本大賞」のノミネート10作品が発表された。
一発屋芸人列伝」 山田ルイ53世(新潮社) 
「軌道 福知山線脱線事故 JR西日本を変えた闘い」松本創東洋経済新報社) 
「極夜行」角幡唯介藝春秋) 
「告白 あるPKO隊員の死・23年目の真実」旗手啓介(講談社) 
日航123便墜落の新事実 目撃証言から真相に迫る」青山透子(河出書房新社) 
「ノモレ 」国分拓(新潮社) 
「Black Box ブラックボックス」伊藤詩織(藝春秋) 
「モンテレッジォ小さな村の旅する本屋の物語」内田洋子(方丈社) 
ユニクロ潜入一年」横田増生藝春秋) 
「43回の殺意 川崎中1男子生殺害事件の深層」石井光太双葉社
https://news.yahoo.co.jp/promo/newshack/award/2018/books/
藝春秋から3冊もノミネートされている。次いで新潮社が2冊か

◎コルクの佐渡島庸平をして「僕が『ちょっと敵わないな』そんな気持ちを抱かされる編集者だ」と言わしめているのが、小学館の少女マンガ誌「Cheese!」の畑中雅美編集長だ。畑中は青木琴美の「僕は妹に恋をする」「僕の初恋をキミに捧ぐ」「カノジョは嘘を愛しすぎてる」の編集を担当したことで知られている。畑中は「CAREER HACK」で次のように語っている。
「漫画編集者の仕事には、3つの段階があるんだなと。1段階目が、目利きであること。その作品が売れる/売れない、おもしろい/おもしろくない、読者アンケートで1位なのか/2位以降なのかがわかること」
「2段階目は、どこのせいで面白くなくなってしまっているのか判断できること」
「3段階目が、『こう修正したらいいんじゃないですか』と具体的に修正方法を提案できること」
http://careerhack.en-japan.com/report/detail/1007
現実逃避型の物語こそがエンターテイメントだと思っているという指摘も頷ける。しかし、物語がすべてエンターテイメントで埋め尽くされている世界など私は御免蒙りたい。

ぺんてるのカスタマイズボールペン i+(アイプラス)の新定番モデル「アイプラス simple code(シンプルコーデ)」と学研プラスのファッションメディア「mer」(メル)とのコラボが実現したという。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001820.000002535.html
学研は「mer」をファッション誌とは呼ばずにファッションメディアと呼んでいるのは、「mer」は紙にとどまらないメディアだという認識があってのことだろう。

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3)【深夜の誌人語録】

機会は無限に存在し、誰でも挑戦できるのだ。