【文徒】2018年(平成30)9月13日(第6巻173号・通巻1347号)

Index------------------------------------------------------
1)【記事】「歪んだ波紋」(講談社)はギョーカイ人必読のエンタメ小説である
2)【本日の一行情報】
3)【深夜の誌人語録】
----------------------------------------2018.9.13 Shuppanjin

1)【記事】「歪んだ波紋」(講談社)はギョーカイ人必読のエンタメ小説である

短編集だが塩田武士の「歪んだ波紋」(講談社)の評判が良い。「誤報」をテーマにしている。塩田は神戸新聞の社会部記者出身だが、その経験が生かされている。同じ記者の経験を生かすにしても長編「罪の声」がグリコ・森永事件を素材に「大胆」に描いたのだとするならば、「歪んだ波紋」は社会部記者しか持ち合わせないであろう人間の微妙な機微に触れる「繊細」さを武器にしているように思われる。私も昨日から「記者は現場やで」というフレーズが頭から離れない。
塩田も「AERA」9月10日号で次のように発言している。
「政治部や経済部というのはシステム、社会部はじかに人間が入る。特に関西のジャーナリズムは社会部で勝負するしかない。そういう意味では社会部の世界は大衆小説と親和性がある。僕らより上の世代は取材対象との距離がもっと近かったし、濃密な取材ができた。そんな気骨ある人たちも小説に投入しています」
https://dot.asahi.com/aera/2018090700057.html?page=1
「小説丸」(小学館)では、こんなことを語っている。
「部屋に朝刊が届いたので読んでいたら、囲み記事があったんです。市役所の臨時職員がゲームの世界大会で優勝したという記事は間違いでした、という内容でした。なんだと思ってよく読んだら、記者クラブで会見が開かれ"この人優勝しました"という話になって、記者たちは記事を書いた。でもその人がフェイスブックに載せていた世界大会の際に行ったレストランなどの写真が他から転載されたものだという指摘があって、嘘が分かったんですね。そこで聞いたことを信じて記事を書いてしまう記者クラブという古い制度と、SNSで一人の嘘が暴かれるという今日的な出来事と、その新旧の対比がすごく面白いと感じました。僕も記者時代に市役所詰めの時期がありましたが、その場にいたら間違いなくその誤報を書いていたと思う。この嘘をついた人はこの後どうなるんやろうと考えた時誤報の先に真実が現れるんじゃないかという仮定ができていきました」
https://shosetsu-maru.com/interviews/120
「歪んだ波紋」は「ダ・ヴィンチ」10月号の「今月のプラチナ本」に選ばれている。
https://twitter.com/kodansha_piece/status/1037556076499984385
西岡研介が絶賛している。西岡も神戸新聞OBである。
「5つの物語から編まれているのだが、それらが相互に絡み合い、『歪んだ波紋』を作りあげていくという……
しかし、この世界の片隅で禄を食んでる者にとって、これほど『こわい小説』もない」
「新聞、テレビ、出版、ネット……特にメディアに携わる人は、その媒体や職種を問わず是非、読まれといたほうがいいと思います」
「媒体の新旧を問わず、メディアに絡みつき、陥れようとする悪意や作為、虚偽や欺罔……こういうものに立ち向かうには結局、こうするしかないねんで……と教えてくれる『メディア超近未来小説』ですわ」
https://twitter.com/biriksk/status/1039796240626536448
https://twitter.com/biriksk/status/1039796675596840960
https://twitter.com/biriksk/status/1039796878227853312
塩田武士の庫「雪の香り」が第6回京都本大賞にノミネートされたそうだ。
https://twitter.com/bunshunbunko/status/1039471914605993985
出版関係者にとって身につまされるのが「騙し絵の牙」(KADOKAWA)だ。テレビプロデューサーの(競馬ファンには知られている)高橋洋介がこんなツイートをしている。
「塩田武士『騙し絵の牙』。出版不況のなか自身が編集長を務める雑誌を守ろうとする男。騙し絵じゃなくても誰もが100%良い人でもなければ悪い人でもなく、すべてをふたつに分けられないからこその面白さと苦しさがある。主人公が年齢的に近いこともあって全く他人事でもない感じがまた辛い。でも痛快」
https://twitter.com/ringlinks/status/1036959241817350144

------------------------------------------------------

2)【本日の一行情報】

講談社「NOVEL DAYS」で「NOVEL DAYSリデビュー小説賞」を開催する。リデビューに注目だ。プロとしてデビューした経験を持つ作家に限定しての小説賞なのである。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001860.000001719.html
「NOVEL DAYS」って和訳すれば「小説現代」でしょ。その昔「DAYS JAPAN」を創刊した際に「DAYS」とは「現代」だと説明を受けたことがある。

◎「ITmedia NEWS」の「『ブロッキングは不安』 赤松健さん、海賊版サイト対策への本音 実験の成果は」は良記事だ。
漫画村がアクセスできなくなった後も、いまだにこうした海賊版サイトは存在し続けている。赤松さんは、海賊版サイト対策として以前から各社の漫画を1つのサイトで読める『出版社横断プラットフォーム』を作ることを提案している。
赤松さんは『横断プラットフォームを作るなら、大手出版社は全て参加しないと意味がない』と話す。だが、現状横断は不可能という
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1809/12/news044.html

◎パイオニアの経営危機は深刻だ。「日経ビジネスONLINE」が「スクープ パイオニア、9月危機ひとまず回避 香港ファンドから資金調達」を掲載している。
https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/110879/091100861/

黒沢清らしい言い回しだけれど、当たっているよね。
「…アルドリッチは、誰もが古色蒼然に違いないと思っていた本気の男同士の闘いを目の覚めるような形で描いていて僕はびっくりした。しかも、男たちの闘いはくだらなく、勝っても負けてもどうでもいい。その無目的で無意味なところが1970年代だった。ばかげたことを目の覚めるような痛快さでアルドリッチは描いていた」
https://eiga.com/news/20180910/18/
アルドリッチは「アパッチ」で赤狩りの標的になる。何しろアルドリッチはチャップリンエイブラハム・ポロンスキーの助監督だったからね。ポロンスキーを銀幕にカンバックさせるのはロバート・レッドフォード。そう「夕日に向かって走れ」だ。転向するのみならず、同志を売ったエリア・カザンのアカデミー名誉賞受賞に反対して抗議デモを行ったのはポロンスキーであった。

◎学研プラスは、永井豪の画業50周年を記念して「デビルマン×T.A.S コラボレーション革扇子」を既に9月7日(金)に発売し、「デビルマン×LOCMAN コラボレーションウォッチ」「キューティーハニー×LOCMAN コラボレーションウォッチ」も9月27日(木)に発売することになった。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001813.000002535.html

◎これがフェイスブックの本社ビルなのか!木に埋まっている!設計はフランク・ゲーリー。ロスのウォルトディズニー・コンサートホールやスペインのビルバオグッゲンハイム美術館が代表作だ。神戸の巨大オブジェ「フィッシュ・ダンス」もフランク・ゲーリーだ。
https://www.gizmodo.jp/2018/09/frank-gary-facebook-newoffice.html
https://casabrutus.com/architecture/12409

ドワンゴは、「Yahoo!ニュース」の協力のもと、9月16日(日)21時00分より、2018年自由民主党総裁選挙に向けた「自民党総裁選 候補者ネット討論会」を開催する。この模様は、ドワンゴが運営する「ニコニコ生放送」および「Yahoo!ニュース」内で、生中継される。
http://news.livedoor.com/article/detail/15289251/
ネット民は安倍晋三派が圧倒的に多いんだろうな。司会は夏野剛これが今のニッポンなんだろうな。

◎「週刊ポスト」9月21・28日号で呉智英中川淳一郎が対談している。呉は、こんな風に語っている。
「昔は、若い頃は左翼で右翼に転向した人とか、その逆の人もいて、そういう人材は両方に目配りが利いていたんだけど、今は産経の記者は右翼一直線、朝日の記者は左翼一直線で来た人ばかり。読者はますますそうだろうね」
https://www.news-postseven.com/archives/20180911_758143.html
そう昔々、産経には副社長までのぼりつめた名雪雅夫のような人材がいたんだよな。

西島大介の「ディエンビエンフー TRUE END」の最終第3巻が発売となった。
https://natalie.mu/comic/news/299183
ブックファースト新宿店Cゾーンで9月17日(月・祝)午後2時より、西島のサイン会と西島を担当した、小学館から安島由紀・湯浅生史、グラフィック社から坂本章、双子のライオン堂から竹田信弥、双葉社から南部恵理香という5名の歴代編集者によるトークショーが開催される。
http://webaction.jp/action_blog/archives/3514

小学館の月刊マンガ誌「ゲッサン」(小学館)で連載されている中道裕大のマンガ「放課後さいころ倶楽部」がテレビアニメ化されることになった。
http://mainichi.jp/articles/20180911/dyo/00m/200/015000c

◎「しんぶん赤旗電子版」が「電通が異例の低額落札 集客企画業務」を掲載した。
「都が委員会に提出した入札経過調書によると、8月29日に行われた同業務の入札では電通を含め3社が応札。他の2社の入札額が699万円と2000万円だったのに対し、電通の落札額は70万円でした」
https://www.jcp.or.jp/akahata/aik18/2018-09-12/2018091204_06_1.html

◎「NEWSポストセブン」が9月11日付で「朝日新聞編集幹部自主退社の記事、なぜ台風の日に掲載されたか」を掲載した。「週刊ポストが取材したところ、『編集局幹部』は、大阪本社の要職に就いていたA氏」であり、政治部出身で、いずれ政治部長になってもおかしくはないと言われていた優秀な人材であったそうだ。
https://www.news-postseven.com/archives/20180911_758122.html?PAGE=1#container

-----------------------------------------------------

3)【深夜の誌人語録】

肩の力は抜いても手を抜くな。