【文徒】2018年(平成30)10月10日(第6巻189号・通巻1363号)

Index------------------------------------------------------
1)【記事】小川榮太郎とは何者なのか?
2)【本日の一行情報】
3)【深夜の誌人語録】
----------------------------------------2018.10.10 Shuppanjin

1)【記事】小川榮太郎とは何者なのか?

「週刊」とか「芸術」とか「小説」といった余分な二字をつけることなく、ただ「新潮」とあることからすれば、新潮社にとって社名誌は芸誌の「新潮」であろう。創刊は1904年だから、100年以上の歴史を積み上げている。芸出版社としての新潮社を支えて来た雑誌である。そんな「新潮」11月号を私は久しぶりに買った。30歳くらいまでは毎号欠かさず買っていた雑誌のひとつだが、このところ「新潮」のみならず芸誌には、すっかりとご無沙汰をしてしまっている。
「新潮」11月号を買ったのは新潮新人賞が発表され、受賞作の三国美千子「いかれころ」が掲載されているからではない。高橋源一郎ツイッターで「新潮45」問題について「『藝評論家』小川榮太郎氏の全著作を読んでおれは泣いた」なる評論を緊急寄稿することを呟いていたからだ。私は発売日に書店に走り、この章を一気に読んだ。
一言で表現するならば、これは高橋版「政治と学」であり、高橋学の敗北に泣いているのだなと私は思った。
「『他者感覺の鈍痲』がダメって書いてんのに、「他者感覚」が完全に鈍痲した章を書いている…って、まるで二重人格ではないか。その通り。おれは、小川さんの全著作を読み、ここに、ふたつの人格があるように思った。ひとりは、学を深く愛好し『他者性への畏れや慮りを忘れ』ない『小川榮太郎・A』だ。そして、もうひとりは、『新潮45』のような章を平気で買いてしまう、『無神經』で『傍若無人な』『小川榮太郎・B』だ」
私からすれば「小川榮太郎・A」が学的人間であり、「小川榮太郎・B」が政治的人間ということになるのだが、「小川榮太郎A」としての仕事である「小林秀雄の後の二十一章」なる芸評論集は、「小川榮太郎・B」の仕事として書かれたデビュー作「約束の日 安倍晋三試論」なる政治評論が安倍晋三首相の関係する団体が4000部も買い切りするなどして成功した(版元たる幻冬舎に利益をもたらした)「ご褒美」として世に出ることになったのである。小川の二重人格は政治が勝利することによって(即ち学が政治に敗北することによって)世の中に知られるようになったというわけである。
しかし、学が敗北しようがどうしようが小川が「新潮45」に発表した「政治は『生きづらさ』という主観を救えない」なる評論が決して商品として流通することが許されるような類の章でないことは間違いあるまい。この差別的表現を前にして泣いているだけでは済まされまい。
そういう意味で圧巻だったのは「新潮」編集長の矢野優による編集後記であった。矢野は小川の評論が差別的表現であったことを認め自己批判するとともに差別的表現に傷ついた当事者たちにお詫びする。そのうえで芸と差別の関係にも言及しているのだ。恐らく、この編集後記は学史に残ることになるだろう。「新潮」に編集後記が掲載されるのは創刊114年の歴史において初めてのことではあるまいか。斎藤十一でさえ編集後記を書いてはいないはずだ。
「『新潮45』2018年10月号の特別企画『そんなにおかしいか『杉田水脈』論』について、小誌の寄稿者や読者から多数の批判が寄せられました。
同企画に掲載された『政治は『生きづらさ』という主観を救えない』において、筆者の芸評論家・小川榮太郎氏は『LGBT』と『痴漢症候群の男』を対比し、後者の『困苦こそ極めて根深かろう』と述べました。
これは,言論の自由や意見の多様性に鑑みても、人間にとって変えられない属性に対する蔑視に満ち、認識不足としか言いようのない差別的表現だと小誌は考えます。
このような表現を掲載したのは『新潮 45』ですが、問題は小誌にとっても他人事ではありません。だからこそ多くの小誌寄稿者は、部外者でなく、当事者として、怒りや危機感の声をあげたのです。
学者が自身の表現空間である『新潮』や新潮社を批判すること、それは、自らにも批判の矢を向けることです。
小誌は、そんな寄稿者たちのかたわらで、自らを批判します。そして、差別的表現に傷つかれた方々に、お詫びを申し上げます。
          ※
想像力と差別は根底でつながっており、想像力が生み出す芸には差別や反差別の芽が常に存在しています。
そして、すぐれた芸作品は、人間の想像力を鍛え、差別される者の精神、差別してしまう者の精神を理解することにつながります。
新潮45』は休刊となりました、しかし、芸と差別の問題について、小誌は考えていきたいと思います」
毎日新聞は「同じ出版社内の媒体が別媒体の内容を公に批判するのは異例」だと書いているが、たとえそれが異例であったも矢野の編集後記は腑に落ちた。
そうなのだ、矢野が書くように「芸には差別や反差別の芽が常に存在」しているのだ。加えて言うのであれば、学にとって政治などないのである。とするのであれば、小川榮太郎を捉えるには「小川榮太郎・A」と「小川榮太郎・B」の二重人格として理解してはならないのかもしれない。やはり小川榮太郎は小川榮太郎なのである。
これは全く偶然のことなのだが、「新潮新人賞」を獲得した三国美千子の「いかれころ」は「差別」に向きあった作品なのである。選評において中村則が「日本の差別の特殊性の問題の根っこを、この著者は小説としてこのような形で表現できる貴重な存在だと思った」と書いた「いかれころ」で三国は次のように書いている。
「差別という言葉をその頃の大人たちは用心深く隠していた。それが大っぴらに使われるのを聞いたのは、中学校の道徳の授業だった。『差別』してはいけないものとして締め切った体育館で、牛の背割りの映像が映し出された。真っ二つの背骨と作業する人は養子やセイシン、恋愛結婚という言葉につきまとう影とすぐには交わらなかった。
うす黒いものはどこにでも、家庭の中にも職場の中にも靴の底の砂みたいにまんべんなく入り込んでいた。もっと後になって、高校生の頃、近鉄電車の車内で白髪の老婆が誰彼に向って『この辺りに部落ありまっしゃろ』と好奇と蔑みに目を輝かせて言ったのを見た時、私はさっと目を伏せた。それは明らかに差別だったし、予想に反して自分にもなじみの感覚として体の中にあった」
小川榮太郎の差別的表現は近鉄電車の車内で好奇と蔑みに目を輝かせて白髪の老婆が言った「この辺りに部落ありまっしゃろ」と同じ位相にあるのだ。そして、小川の差別的表現もまた靴の底の砂みたいにまんべんなく入り込んでいく類の、極めてタチの悪いシロモノなのである。更にいえば、小川の評論に異を唱える私たちにとっても、小川の便所の落書は自分にもなじみの感覚として予想に反して体の中にあるものなのである。だからこそ、私は、小川榮太郎の繰り出す差別的な言説を許すことは決してできないのだ。
https://www.shinchosha.co.jp/shincho/
https://www.shinchosha.co.jp/shincho/tachiyomi/20181006_2.html
https://mainichi.jp/articles/20181009/k00/00e/040/161000c
學界」11月号で武田砂鉄が自らの連載「時事殺し」で、小川榮太郎の「政治は『生きづらさ』という主観を救えない」を取り上げているが、その中で武田は次のように書いている。全く同感である。
「人間の痛みを知らない人、知ろうともしない人、どこかで痛む人が生じるかもしれないと想像できない人は、公の場で章を書くべきではない」
http://www.bunshun.co.jp/mag/bungakukai/
小川榮太郎フェイスブックで「新潮45の自作自解の作品化150枚」を予告している。
https://www.facebook.com/eitaro.ogawa/posts/2075941662498644
この政治イベント「J-CPAC2018」のエグゼクティブプロデューサーも小川榮太郎だという。
https://www.facebook.com/eitaro.ogawa/posts/2076149672477843
もともとは、これが小川榮太郎の商売ネタであった。小御岳酵素1000ミリリットル入)6,480 円也。
http://hikarulandpark.jp/shopdetail/000000001280/
切通理作がこんなツイートをしている。
小川榮太郎ってじいさんなんだろなと思ってたら僕より三つも年下。學界『新人小説月評』を僕がやってた時、隣のページで書いていたという噂を聞いたので、書棚を探してみたら、本当だった。そういえば『さふいふ』言葉で綴っていた人が隣に居たなという薄っすらとした記憶があったが、彼だったのか」
https://twitter.com/risaku/status/1049375266739347456

------------------------------------------------------

2)【本日の一行情報】

YouTubeチャンネル「バイリンガール英会話」初の英会話ブックである実業之日本社「HELP me TRAVEL 旅が100倍楽しくなる英会話」(吉田ちか)の発売を記念したイベントが10月20日(土)に多摩永山情報教育センターで開催される。
http://www.j-n.co.jp/columns/?article_id=491

福島テレビ東京支社業務部長の中村貴典容疑者が17歳の少女に4万円を渡してわいせつな行為をしたとして、児童買春・ポルノ禁止法違反(児童買春)の疑いで逮捕された。
「綾瀬署によると、中村容疑者は昨年末、東京・秋葉原のメイド喫茶で、店員だった少女と知り合った。その後、会員制交流サイト(SNS)を通じて連絡を取り合うようになったという」(産経)
https://www.sankei.com/affairs/news/181004/afr1810040037-n1.html

◎生放送で芸能人とリアルタイムコミュニケーションがとれるネットサービス「マシェバラ」は、徳間書店とのコラボ企画「アサ芸シークレット『勝ち抜けバトルロワイヤル』 第4弾」を開始した。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000197.000020395.html

伊勢丹相模原店と伊勢丹府中店は来年9月30日をもって閉店する。また新潟三越も2020年3月22日をもって閉店するという。「ダイヤモンドオンライン」の「三越伊勢丹、3店閉鎖決定で囁かれる『次の閉鎖店候補』」は、こう書いている。
「そもそも、石塚特別顧問や杉江社長の頭の中には、『儲かっている都内の旗艦店3店、つまり伊勢丹新宿店、日本橋三越本店、銀座三越だけにしたいと考えているのではないか』との見方がもっぱらだ。株式市場関係者も、『経営効率の観点から旗艦3店にすべき。そうすれば最強の百貨店ができる』との声は根強い」
https://diamond.jp/articles/-/181456

◎雑誌にとって最大の武器は付録である。どんなデジタルメディアも雑誌の「現物支給」を真似することはできない。
https://woman.infoseek.co.jp/news/neta/michill_15027/

◎ルミネ史上初めてとなるライブコマースをルミネエスト新宿で実施。最旬コーディネートを発信し続け、トレンドを牽引するルミネエスト新宿の人気 12ショップを舞台に、講談社の女性ファッション誌「ViVi」で活躍するモデルが、最旬トレンドをおさえた「大人っぽコーデ」を「Instagram ルミネエスト新宿公式アカウント」でライブ発信する。ライブ配信されたアイテムは、ルミネのネット通販「アイルミネ」から購入が可能とる。
http://www.lumine.ne.jp/newsrelease/pdf/release_181005.pdf

電子書籍販売サイト「eBookJapan」が全面リニューアル。販売ページを全面的に一新するほか、Yahoo! JAPAN ID の全面導入、T ポイントの採用、URL の変更(ヤフードメインに変更)などを行った。
http://contents.xj-storage.jp/xcontents/36580/2fc8db5a/495f/4f25/bffc/3a4081697133/140120181001413270.pdf

祥伝社は子育てライフスタイル誌「ニナーズ」(nina’s)を12月7日発売の1月号をもって休刊。今後はウェブ媒体「ニナーズ ウェブ」を主軸に据える。
https://www.wwdjapan.com/715864

トーハンは、Cafe nota nova 伊勢治書店ダイナシティ店、Cafe nota nova KaBoS宮前平店、書林カフェ 北国書林アルプラザ金沢店、Cafe nota nova ブックファースト中野店、カフェベーカリー ナギー らくだ書店東郷店において、白泉社の協力を得て、絵本「ノラネコぐんだん」コラボカフェ「NORANEKO KISSA」を開催する。
http://www.tohan.jp/news/20181004_1279.html

◎「爆笑問題」の太田光日大芸術学部裏口入学したとの「週刊新潮」による虚偽の記事で名誉を傷つけられたとして発行元の新潮社に損害賠償などを求めて東京地裁に提訴した。
https://www.asahi.com/articles/ASLB63FDCLB6UZVL001.html

青土社から、やけのはらの「化水流探訪記」が10月23日に刊行される。これは買わなければなるまい。
http://www.seidosha.co.jp/book/index.php?id=3224
マガジンハウスの「ポパイ」の連載が一冊にまとまったものである
https://natalie.mu/music/news/302680

劇団☆新感線エグゼクティブプロデューサーの細川展裕の自叙伝「演劇プロデューサーという仕事」が小学館から刊行されるのを記念して、細川と鴻上尚史古田新太の3人によるトークイベントが11月11日(日)に紀伊國屋サザンシアターで開催される。
https://www.shogakukan.co.jp/books/09389780
http://entre-news.jp/2018/10/54740.html

主婦の友社から市瀬悦子の「『だけ』レシピ」が刊行された。必要な材料は調味料を含めても6つ「だけ」であることから、このタイトルとなったわけである。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000838.000002372.html
「『だけ』レシピ」という言い方が良い。

◎昨年までは「電撃庫 秋の祭典」という名前だったが、KADOKAWAは今年から「秋の電撃祭」と名称変更し、ゲームの電撃&電撃コミックスも参戦して10月7日(日)に東京・秋葉原ベルサール秋葉原で開催された。
https://hobby.dengeki.com/news/643310/

◎世界化社は10月1日付で「家庭画報」の秋山和輝編集長が退任し、後任に千葉由紀子編集長代行が就任した。秋山前編集長は新設部署であるビジネス戦略部長の他、世界化社の広告マネジメント室を担当する。
https://www.wwdjapan.com/716094

◎3ミニッツが運営するファッション動画マガジン「MINE」(マイン)」は、東京のラジオ放送局J-WAVE(81.3FM)にて毎週土曜日に放送中の番組「SATURDAY NIGHT VIBES」と、2018年10月6日(土)~12月29日(土)の期間限定でコラボしている。今回の企画は、三井不動産商業マネジメントが運営するダイバーシティ東京 プラザの協力のもと実現した。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000099.000011770.html

◎「最近書店閉店事情」でも触れたけれど、この「しまじろう」を生みだした編集者が渋谷のバー「88」のママなんだよね。
https://www.asahi.com/articles/ASLB442NNLB4UCVL00J.html

-----------------------------------------------------

3)【深夜の誌人語録】

同じ失敗は繰り返さないためにも失敗を忘れないことである。