【文徒】2018年(平成30)10月12日(第6巻191号・通巻1365号)

Index------------------------------------------------------
1)【記事】ブロッキング推進の根拠を揺るがす? 国内外での動き
2)【本日の一行情報】
3)【人事】集英社 10月9日付組織変更と人事異動
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1)【記事】ブロッキング推進の根拠を揺るがす? 国内外での動き(岩本太郎)

海賊版サイト対策としてのブロッキングの法制化をめぐる政府・知的財産戦略本部における議論は、周知のように推進派と反対派の意見が激しくぶつかり合っていた。とりあえず賛否両論を併記した「中間まとめ」の最終案が作成された。来週の検討会議で修正される可能性があるとはいえ、どうやらブロッキング導入の可能性を残すらしい。朝日新聞デジタルは11日付で「海賊版サイト対策、接続遮断の可能性残す 中間まとめ案」を掲載している。
https://digital.asahi.com/articles/ASLBB5PYNLBBUTIL033.html?rm=310
そうしたなか、9日に気になる動きが出た。東京地裁が、米カリフォルニア州の「クラウドフレア」に対して、ある日本語での投稿記事に関してキャッシュファイルの削除と発信者情報開示を命じる仮処分を決定したのだ。同社は海賊版サイトや掲示板サイトにCDNコンテンツ配信ネットワーク)サービスを提供している。申し立てを担当した弁護士の山岡裕明は「海賊版サイトに対する突破口につながる」と同日付の『弁護士ドットコムNEWS』でコメントしている。
https://www.bengo4.com/internet/n_8660/
今回は著作権ではなく、肖像権など人格権侵害に関する係争だが、見逃せないのが、クラウドフレアはあの「漫画村」も使っていたことである。今後もし著作権侵害でも同様の申し立てが認められればブロッキング推進派の論拠(海賊版サイト撲滅の実効的な手段が他に存在しない)が崩れることになる。
事実、この8月初めにはインターネット上の権利侵害情報の削除などを数多く手がけてきた弁護士らが「ブロッキングではなくCDN事業者からの配信を止めることが、現実的・実効的な海賊版サイト対策」だとする意見書を提出していた。
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/kensho_hyoka_kikaku/2018/kaizoku/benkyoukai/siryou10_3.pdf
だが、読売新聞編集委員の若江雅子が東京地裁仮処分の翌10日の同紙記事「揺らぐ『ブロッキング必須論』…注目の仮処分決定」に書いているところによると、そうしたやり方に対して出版業界側は「海外事業者に法的措置をとるとなると、費用が高額になるうえ手間もかかるので現実的ではない」などと及び腰だったようだ。同記事には弁護士の神田知宏による次のようなコメントもある。
《海外CDN事業者相手の訴訟でも、日本に管轄裁判所が認められる可能性が高いというのは、我々、削除の実務を手がける弁護士にとっては常識。日本で裁判ができるので費用も抑えられ、手続きも簡単だ》
神田はネット上での風評被害や誹謗中傷対策に熱心に取り組み、そうした書き込みの削除の申し立てを行っては成果を上げてきた「削除」のプロとしても知られる。上記の8月の意見書に名を連ねていた1人でもある。
https://www.yomiuri.co.jp/fukayomi/ichiran/20181010-OYT8T50001.html?from=tw
こうした批判に、ブロッキング推進派の川上量生も同日「ブロッキングに関わる議論について」と題して公式ブログで反論。ただ、東京地裁による仮処分決定には「画期的」と評価しつつ、こんなふうに主張している。
海賊版サイトの撲滅へ向けて非常にいいニュースなのですが、なぜか、ブロッキングの法制化を支持している私への攻撃材料としてこのニュースを使うひとがネットに現れています》
《実際の問題として、今回の海賊版サイトのサイトブロッキング前があがった3サイトのうち、漫画村とAnitubeはクラウドフレアを使っていますが、miomioは使っていません。
ですので、今回、報道された件で、ブロッキングが必要でなくなったとはまったくいえません》
http://ch.nicovideo.jp/kawango/blomaga/ar1682396
川上が「私への攻撃」というのは山本一郎のことだ。山本は9日の15時過ぎ、川上の過去のTwitter投稿などを挙げながら「カドカワ川上量生氏、クラウドレア社は法的措置では対応できないという見解を示す」と題して寄稿。
https://news.yahoo.co.jp/byline/yamamotoichiro/20181009-00099878/
さらに仮処分決定が出たのを受け、同日18時過ぎには上記の『弁護士ドットコムNEWS』のレポートを引き合いにしながらこんなツイートも。
川上量生さーーん! クラウドレア社は発信者情報開示命令が出ないって言ってたカドカワ代表取締役川上量生さーーーん!》
https://twitter.com/kirik_game/status/1049585663807389697
川上も応戦。
《バカじゃねーの?そんなこと言ってねーよ》
https://twitter.com/nkawa2525/status/1049658628695879681
そこで上記のようなブログでの反論に至ったわけだ。
それはともかく、ブロッキング推進論に疑問を投げかけるようなニュースが10日にはもう一つ報じられた。弁護士の山口貴士が米国クラウドフレアを相手に起こしていた民事訴訟の過程で、「漫画村」の運営者とみられる人物を特定したと『BuzzFeedNEWS』が報じたのだ。東京都内のマンションを住所とする男性らしい。
山口は児童ポルノやマンガ表現にも規制反対の立場から取り組んでおり、カリフォルニア州での弁護士資格も持っている。今回はマンガ家らとも連携のうえ米国での裁判の代理人を務めた。上記の「割り出し」には山本一郎の協力も仰いだそうだ。
大阪弁護士会壇俊光弁護士、作家で投資家の山本一郎氏からの情報提供には感謝しています》
https://www.buzzfeed.com/jp/takumiharimaya/manga-mura
これらを受けて山本はさらにブログでこう主張している。
《川上さんが「ブロッキングしかない」「緊急避難である」と言っているのは、ひとえに出版物の権利を持っていない出版業界だからそう言わざるを得ないだけであって、本来の権利者である漫画家がきちんと弁護士を雇い申し立てをすればすべてのケースで海賊版イトの運営管理者は特定できると言えます》
https://lineblog.me/yamamotoichiro/archives/13202045.html
楠正憲も一連の議論の推移を見ながら、例えばこんなツイートをしている。
《川上さんは角川のポジショントークで法律の専門家でもないから仕方ないとして、知財本部事務局は役所なんだから、官邸の顔色を伺う前に顔を洗って事実を丁寧に拾い上げることからやらないとダメ》
https://twitter.com/masanork/status/1049980837561692160
《果たしてCloudflareが判決を無視する無法者なのか、ちゃんと数字に基づいて判断する必要がある。通知だけでなく裁判で訴えること、法的な権利を持たない出版社ではなく権利者を糾合することが大事 》
https://twitter.com/masanork/status/1050137777285656579
楠は知財本部の「中間まとめ」や東京地裁での仮処分が出る前の7日にもブログで「海賊版サイトを叩き潰すために政府がやるべきこと」と題し以下のような指摘を行っていた。
《漫画において権利者とは、一義的には出版社ではなく漫画家である。権利者たる漫画家のいない場で緊急対策が議論され、それ以前に当事者である漫画家の意見が一致を見ていない段階で、どうしてブロッキングが検討の俎上に載ったのか謎でしかないのだが、ドメスティックな出版社以上に、個々の著者や漫画家は、海外のサービスを隠れ蓑にしたサイトに対して残念ながら無力であってもおかしくない》
任天堂は自ら権利者として世界で訴訟を起こせるけれども、個々の漫画家が海賊版サイトの配信元を特定し、プロバイダー責任制限法に基づいて発信者情報開示を行って、権利侵害者に対して著作権法に基づく差し止め請求を行うのは大変だし、米国にDMCA通知を送ったり、米国で訴訟を起こしたりというのはハードルが高い。消費者問題と同様に業界団体なりが本来の権利者に代わって集団訴訟を提起する仕組みはつくれないだろうか?》 
https://masanork.hateblo.jp/entry/2018/10/07/134914

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2)【本日の一行情報】(岩本太郎)

竹書房執行役員の竹村響が『BuzzFeedNEWS』の取材に応じ、海賊版サイト問題についての同社のスタンスを表明。《上代ベースで数億円》ではないかという被害を受けていたのが「漫画村」消滅以降は回復したそうで「漫画村がもう1年続いていれば会社は潰れていた」とも。
《テクノロジー論を我々が語るべきではないし、ブロッキングが正しい手段かはなんとも言えない。しかし、なんからかの対策を打ってほしいところで、実行に向かって動いていたのは有難いと思っています》
《(知財本部の検討会議に対する疑問として)構成員の中に小売の当事者がいないことです。本の版元はいたけど、電子書籍サービスを運用する人が参加していない。テクノロジーに関しては出版社より長けているのではないでしょうか》
https://www.buzzfeed.com/jp/takumiharimaya/takeshobo-blocking
これに対し、フリーライターの鷹野凌(日本独立作家連盟理事長)が突っ込みのツイート。
《えーっと、カドカワ株式会社代表取締役社長が参加していて、グループ傘下にはブックウォーカーがあって、竹書房の本も販売しているのですが》
https://twitter.com/ryou_takano/status/1049602462208876544
竹村も即座に以下の返答。
《確かにそうですね。ただ誰も電子書店の被害に触れないのでその違和感を伝えたかったのです。…あと川上さんはほら、NTTぷららの電書サービスについてNTT東日本の社長が代表して喋っていても「遠!」みたいなノリの感じが。でも僕の先入観もありますね。すみません。》
https://twitter.com/pinkkacho/status/1049610440651739136

◎『ガベージニュース』(管理人・執筆者は『Yahoo!ニュース』の解説記事筆者でもある不破雷蔵)が日販の「出版物販売額の実態」最新版(2018年版)を基に、2006年から昨年までの出版物「分類別」売上推移をグラフ化のうえ掲載している。それによるとシェアをずっと増やしてきたのが「コミック」「庫」「児童書」で、減らしてきたのが「雑誌」「新書」「芸」。特に「芸」は2006年比で4割近くにまで減少しているとか。他方で「児童書」は売上シェアは大きくないものの、金額において同期間で唯一プラスの値を示した分野になっている。
http://www.garbagenews.net/archives/2101334.html

◎神奈川県三浦市で編集者のミネシンゴとデザイナーの三根かよこが夫婦で営む2人出版社「アタシ社」が、約2000冊の蔵書を収めて昨年12月にオープンした同市内の蔵書室「本と屯」に、世界化社の『Begin』が運営するウェブサイト『レアニッポン』が取材。元は船具店だったという築90年の建物で、図書館のような形で一般開放されており、近所の子どもたちが下校時に立ち寄っては本を読んでいったりするなど、地域住民の休憩場所にもなっているらしい。
https://www.rarenippon.jp/2018/10/08/4847/
http://www.atashisya.com/
アタシ社発行の“社会芸誌”『たたみかた』は現在2号まで発売中だ。7月に出た第2号の特集は「男らしさ 女らしさ」。
https://twitter.com/tatamikata

東海テレビが「開局60周年記念」と銘打って9月2日に放送した特別番組「さよならテレビ」について、元日本テレビNNNドキュメント」ディレクター(現在は上智大学教授)の水島宏明が論評。同局放送エリアである東海地方(愛知・岐阜・三重)でしか見られなかった番組だが、「働き方改革」が叫ばれる昨今でも自局の内部で正社員と非正規社員との格差などの実態があり、報道現場でもそこからスタッフ間で悲喜こもごものやり取りが展開される様子を克明に描いた一編だったらしい。
https://news.yahoo.co.jp/byline/mizushimahiroaki/20181009-00099764/
http://tokai-tv.com/sayonara/
願わくば他の地域での放送も望みたい。あるいは『ヤクザと憲法のようにドキュメンタリー映画化のうえ公開してもらえるとありがたいのだが。

福山雅治が東京・渋谷のコミュニティFM局「渋谷のラジオ」でパーソナリティを務めている番組『福山雅治荘口彰久の地底人ラジオ』が、去る6日より北海道のHBCラジオでも放送されるようになった。「渋谷のラジオ博報堂出身のクリエイティブディレクター・箭内道彦代表理事を務めるNPO法人CQ」が運営。HBC北海道放送はテレビ・ラジオ(AM)を兼営する地上波民放ローカル局TBS系)だ。
https://www.oricon.co.jp/news/2120972/full/
https://shiburadi.com/
ラジオの世界では既にコミュニティFMが、テレビも擁する地上波局に番組を供給するという“逆転現象”が生じている。

テレビ朝日は11月1日付で社内に新組織「インターネット・オブ・テレビジョンセンター」(IoTvセンター)を設立すると発表。インターネットに関する重要課題に対応するための経営直轄組織で、担当役員は同社代表取締役会長兼CEOの早河洋と報道局担当取締役の篠塚浩が務めるという。
http://company.tv-asahi.co.jp/contents/press/0346/data/181005-IoTvCenter.pdf

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3)【人事】集英社 10月9日付組織変更と人事異動

〈組織変更〉
第1編集部「新アプリ準備室」を「マンガMee編集」と改称する

〈昇任〉

小池 正夫
新:第1編集部部次長(兼)1編デジタル・コミック企画編集長
旧:学芸編集部企画出版編集長

藤澤 
新:第1編集部ココハナ編集長
旧:第1編集部ココハナ副編集長

藤川 雅章
新:デジタル事業部デジタル事業第1課課長代理
旧:第1編集部ユー副編集長

山内 智
新:第1編集部りぼん副編集長
旧:第1編集部ユー編集主任

齊藤 優
新:第3編集部キャラクタービジネス室副室長
旧:第3編集部少年ジャンプ編集主任(兼)キャラクタービジネス室委員

鳥山 浩
新:ジャンプ・ノベル編集部ダッシュエックス庫副編集長
旧:ジャンプ・ノベル編集部ダッシュエックス庫編集主任

〈所属変更〉

伊東 健介
新:出向・一ツ橋企画(部長待遇)
旧:マルチコンテンツ販売部部長

今井 孝昭
新:第1編集部部長代理(兼)第1編集部マンガMee編集長
旧:第1編集部部長代理(兼)ココハナ編集長(兼)新アプリ準備室室長

小畑 智絵
新:厚生部厚生課課長
旧:ライツ事業部海外事業課課長

東 志保美
新:経理部会計課課長代理
旧:経理部管理課課長代理