【文徒】2018年(平成30)10月19日(第6巻196号・通巻1370号)

Index------------------------------------------------------
1)【記事】パラ選手「障がいは言い訳」ポスター撤去をめぐるネット上の議論
2)【本日の一行情報】
----------------------------------------2018.10.19 Shuppanjin

1)【記事】パラ選手「障がいは言い訳」ポスター撤去をめぐるネット上の議論(岩本太郎)

2020年の東京パラリンピックに向けた都のパラスポーツ応援プロジェクト「TEAM BEYOND」が今月初旬より東京駅に掲出したイベントポスターの1枚が、そこに記されたコピーをめぐって炎上した。
全部で23人のパラスポーツ選手を、それぞれの「競技に向き合う気持ち」を添えて紹介したものだが、パラバドミントンの杉野明子選手が登場したポスターの「障がいは言い訳にすぎない。負けたら、自分が弱いだけ」というコピーに批判が集中。ポスターは15日には撤去され「TEAM BEYOND」の公式サイトに、その理由とおわびが掲載された。
《この言葉は、杉野選手御自身が競技に向き合う姿勢を表したものであり、決して他の方に向けられたものではありませんが、東京都のデザイン及び掲示方法が不適切であったため、不快な思いをされる方が生じる事態となりました》
https://www.para-sports.tokyo/
https://www.para-sports.tokyo/wp-content/uploads/2018/10/181016_team_beyond.pdf
毎日新聞の取材に対し、萱場明子・都パラリンピック部長は「デザインが不適切で、あらぬ誤解を招いてしまった」と釈明したそうだ。コピーそのものには問題はない、ということであろうか。なお、都の担当部局に16日までに寄せられた批判の電話は12件だったとのこと。
https://mainichi.jp/articles/20181017/k00/00m/040/093000c
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20181016/k10011673781000.html
https://www.asahi.com/articles/DA3S13726640.html
当該のポスターは8日から掲出され、ネット上では12日頃から東京駅でこれを見かけたユーザーの目撃情報が上がっていた。「2007年から障害者雇用で働いています」というユーザーは同日夕刻にポスターの写真を添えて、こう呟いた。
《つまり東京都庁障害者雇用されると、障害を理由にできないことがあっても、「言い訳だ!」と上司に詰められるわけですね》
https://twitter.com/YANA1945/status/1050676132524175367
衆議院議員三宅雪子は15日の朝には現場を訪ねて以下の報告
《階段にありました。5番線中央》
https://twitter.com/miyake_yukiko35/status/1051625694411677696
《東京駅に中央は「パラリンピックポスター」一色です。広告量が気になります。発注元は東京都だと思いますが確認しています》
https://twitter.com/miyake_yukiko35/status/1052069420527304704
小田嶋隆も同日夜には反応。
《活躍する障害者を持ち上げるのは大いに結構だと思う。でも、一握りの例外的な成功者をこういう形で利用(←「ハンディキャッパーも自己責任で頑張れ」的な突き放し言説を補強するサンプルとして)するのはどうなんだ?》
《考えられるのは、「キャッチコピーの発案者がアンタッチャブルな人間だったから」ということだ。仮にあのコピーが競技団体なり自治体なり五輪関連組織なりのトップが推している案だったのだとすると、現場の人間の立場ではダメ出しができない。まあ、憶測だけどさ。》
https://twitter.com/tako_ashi/status/1051849243286093824
https://twitter.com/tako_ashi/status/1052102305670033408
ポスターに使われた杉野明子のコメントは、Yahoo!が東京五輪とパラリンピックに関連して開設しているサイト『みんなの2020』に全が掲載されている。杉野はYahoo!の所属選手だという。
《それまで健常の大会に出ているときは、障がいがあってもできるんだという気持ちもあれば、負けたら"障がいがあるから仕方ない"と言い訳している自分がありました。でもパラバドでは言い訳ができないんです。シンプルに勝ち負け。負けたら自分が弱いだけ》
https://minnano2020.yahoo.co.jp/sportsnavi/24.html
撤去の報道を挟んで盛田隆二も言及。
《「同じ条件なら言い訳にできない」→「障がいは言い訳にすぎない」
なぜこんな悪質な言い替えをしたのか?》
https://twitter.com/product1954/status/1052107196169736192
《「障がいが同じ条件の相手なら、負けても言い訳できない」を「障がいは言い訳にすぎない」と書き換えたコピーライターは都のチェック機能が不全になるほど大物なんだろうか》
https://twitter.com/product1954/status/1052137311834497025
三宅雪子は担当広告会社の名前も挙げつつ続報していた。
《問題になっているパラリンピックのポスターは「東京都」の発注博報堂でした。都議は蚊帳の外。東京駅に行きましたが、パラのポスターだらけ。驚きます。いくら広告量を払ったんしょうか?(人を介して訊いています)》
https://twitter.com/miyake_yukiko35/status/1052067050854567936
江川紹子も都の他に担当広告会社にも批判の矛先を向けていた。
《公共空間にこの言葉だけを切り取って貼り出せば、人々の心にどういう感情を惹起せしめるかに思いが至らない、東京都と関与した広告会社担当者の想像力の貧困さに驚く》
https://twitter.com/amneris84/status/1052370772457480193
一方で撤去への疑問、あるいは都が発表した釈明への疑問の声も上がった。
《これ、批判側は撤去を求めてたんでしたっけ?パラに光が当たること自体はいいことだと思うので、アンタッチャブル化したら何とも残念、、、》
https://twitter.com/rippy08/status/1052780439939608576
《選手の元の発言を書き換えてマッチョイズムで他の障碍者にプレッシャーを与える言にしたことが問題、なのにそのあたりの記述なし。障碍者が「言い訳」という言葉に苦しめられていることも知って欲しい》
https://twitter.com/tundratiger/status/1052746848459358213
はてな匿名ダイアリー」では「パラバトミントンに20年以上関わっている」というブログ主が、上記の盛田らのツイートも挙げながら《この(撤去の)ニュースには強烈な違和感しか感じなかった。なぜ批判されたのかすらわからない》と異議を唱えた。
《どれだけ批判があったか知りませんが、制作者と本人の思いがあって作ったポスターをそんな簡単に引っ込める東京都もどうかしています。
しかも撤去したのは杉野選手のポスターだけ。これでは杉野選手が悪者になってしまいます。
制作の意図が伝わるようなポスターにできなかったことはたしかに問題がありますが、だからと言って一部の中途半端に意識高い系の言葉狩りをキッカケに撤去するのは本末転倒です。》
https://anond.hatelabo.jp/20181017211625
パラスポーツを題材にした広告表現をめぐっては、21年前の長野パラリンピックの際にコピーライターの仲畑貴志による「両手があっても、人間です。両手がなくても、人間です。」というコピーを配したポスターが一旦掲出された後に批判を受けて撤去されてしまったことがあった。
http://www.tsukuru.co.jp/gekkan/1997/
http://iss.ndl.go.jp/sp/show/R000000004-I4337170-00/
当時、パラリンピック選手の姿を撮り続けてきたフォトジャーナリストの清水一二に上記の長野のポスターについての見解を尋ねたところ「『両手がなくても超人』というべきだ。実際に彼らを撮ってると『すげえっ』と思うことばっかりですからね。あんなことは自分には絶対できない」との答えが返ってきたのを思い出す。
今回の件についてもパラスポーツについての広告表現の脈が昔から全然変わっていないと批判した、以下のようなツイートがあった
《なんで筋肉の躍動やスポーツそれ自体の美しさを称えるコピーが出てこないわけ。(30年前の玉木正之の主張。正しい)》
https://twitter.com/nekohanahime/status/1052327580714512385
パラスポーツを語るうえで、まず「障がい」から語らなければと考える側も、そこに問題が指摘された途端に表現自体を引っ込めれば良しとする側も、その競技者に対する冒涜を働いている点においては同罪であろう。

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2)【本日の一行情報】(岩本太郎)

◎光社『bis』編集長の中郡暖菜が「任期満了」に伴って退任するそうだ。後任は、8月に取締役昇格のうえ担当役員となっていた大給近憲が兼任。12月1日発売の1月号から新体制での発行になるという。
https://www.wwdjapan.com/723311

◎来年3月で休刊することを発表した『出版ニュース』について、ライターの昼間たかしが『日刊サイゾー』で同誌の歴史を振り返りつつ、発表の直後に編集長の清田義昭に電話を掛けて直接話した際のコメントも織り交ぜながら報じている。
http://www.cyzo.com/2018/10/post_178860_entry.html

岩手県盛岡市の「さわや書店フェザン店」が、話題を呼んだ「庫X」に続いて実施した店頭企画「帯1グランプリ」も好評のようだ。本の表紙を黒いカバーで隠し、帯だけが見える状態で販売するというもので、客にとってはそこに書かれたコピーや推薦だけが頼り。それでも9月8日のスタート以来半月で約200冊が売れたとか。地元の岩手めんこいテレビ(フジテレビ系)や毎日新聞が店頭の様子を含めてレポートしている。
https://www.fnn.jp/posts/00067468MIT
https://mainichi.jp/articles/20181017/dde/001/040/060000c

幻冬舎の箕輪厚介が日本テレビ系の情報番組「スッキリ」に出演し、軽減税率の対象品目に新聞が含まれることについて《紙の新聞なんて僕らの世代は誰も読まないですし、そんな取ってないですよ》などと発言。出演場面の映像をtwitterで引用しつつ、さらに《僕は新聞よりお酒が必需品です。》とツイート。
https://twitter.com/minowanowa/status/1052019890519822336
https://www.j-cast.com/tv/2018/10/17341344.html 
箕輪が出版物への軽減税率適用についてどんな見解を持っているかは不明。でも、まあ「酒のほうが必需品」と内心思っている記者や編集者は多いことだろう。

◎稀見理都の『エロマンガ表現史』(稀見理都)が今年3月に北海青少年健全育成条例の規定により「有害図書類」に指定された件について、版元の太田出版が改めて声明を17日に発表。同時期に黒沢哲哉の『全国版あの日のエロ本自販機探訪記』双葉社刊)が滋賀県で有害指定された件にも触れつつ《この2冊がそれぞれ同時期に異なる地方自治体から「有害指定」されたことは、個々の書物が持つテーマや脈を無視した短絡的な判断がなされ、かつそのような傾向が加速しつつあることの顕れではないかという危惧を覚えます》などと訴えている。
http://www.ohtabooks.com/press/2018/10/17110000.html

◎マガジンハウスから8月9日に発売された『自衛隊防災BOOK』が売れているらしい。自衛隊YouTubeで公開している「LIFEHACK CHANNEL」に掲載された内容をベースにしたものだが、9月22日に放送された日本テレビ系の番組「世界一受けたい授業 今日から変われる2時間SP」で特集されたことがきっかけとなり、10月8日付のオリコン週間BOOKランキングで6位に。同書に関わった防衛省陸上幕僚監部の林田賢明3等陸佐に『ORICON NEWS』が取材している。
https://www.oricon.co.jp/special/51948/

◎これも自衛隊をめぐる出版の話題。月刊『丸』編集者で、全国各地の自衛隊基地・駐屯地を回って隊員食堂を取材してきたという岩本孝太郎(本稿の筆者=私とは無関係)が「陸・海・空それぞれの絶品メシ」をネットメディア『メシ通』のインタビューに応えて紹介している。
https://www.hotpepper.jp/mesitsu/entry/nananatsubaki/18-00262 
既報の通り『丸』は昨年11月に産経新聞社系列の潮書房光人新社へと版元が移行している。もともと1948年に聯合プレス社から創刊された当時の『丸』がどんな雑誌だったかについては、今年1月に亡くなった井家上隆幸が出版人刊行『知られざる出版「裏面史元木昌彦インタビューズ』の中で語ってくれているので参照されたい。
https://www.amazon.co.jp/dp/4908927006/ref=cm_sw_r_tw_dp_U_x_D6eYBbST60SHT 

日本経済新聞出版社から6月に『ソーシャルメディア四半世紀:情報資本主義に飲み込まれる時間とコンテンツ』を上梓した佐々木裕一(東京経済大学コミュニケーション学部教授)が『DIGIDAY』に「SNS史をまとめたら、『スロー』なネットの必要性を知った:夢に見たウェブの進化の果て」と題して寄稿。2000年以降のウェブ、特にSNSが台頭してきた2005年以降に顕在化した様々な問題(フェイクニュースやアドフラウドなど)にも言及しながら、これまでの「進化」のプロセスを上手くまとめている。
《学生に「人はなぜオープンウェブにコンテンツを公開するのかな?」と尋ねると、2010年ごろまでは「他の誰かのためになるから」といった答えが多かったのですが、10年代半ば以降は「広告などで儲けたいからでしょ」という答えが多くなっていきました。2016年に少なからずの“キューレションサイト”が閉鎖された事件でも、安い経済的見返りで投稿者がいいかげんなコンテンツを作っていたことは周知のとおりです》
https://digiday.jp/platforms/social-media-quarter-century/

◎そのアドフラウドの実態についてNHKクローズアップ現代+』が先月報道したのに続いて「NHK NEWS WEB」でもテキストで長尺レポート。その温床となる「まとめサイト」の運営者を探し当てて各地まで直撃取材に赴いている。多くの運営者はウェブの技術にはさほど詳しくない人物であったりする様子なども描かれている。
https://www3.nhk.or.jp/news/web_tokushu/2018_1012_2.html

GMOインターネットフリーランス向のけ金融支援サービス「FREENANCE」を16日に開始した。《個人が仕事の発注元企業に送った請求書情報をGMOに送ると、発注元からの入金を待たずに最大300万円までの売上債権を即日入金》してくれるのだそうだ。《無料の損害賠償保険や、報酬の即日払いといったサービス》もできるとのことだ。どこまで頼りになるのかはわからないが、本当だったら私のようなフリーランスには朗報だ
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO36492940V11C18A0916M00/
http://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1810/17/news141.html