【文徒】2018年(平成30)11月6日(第6巻208号・通巻1382号)


Index------------------------------------------------------
1)【記事】城山三郎賞安田峰俊と戦争報道の安田純平
2)【本日の一行情報】
3)【深夜の誌人語録】
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1)【記事】城山三郎賞安田峰俊と戦争報道の安田純平

城山三郎賞安田峰俊の「八九六四 『天安門事件』は再び起きるか」(KADOKAWA)に決まった
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000005166.000007006.html
安田峰俊は「春オンライン」のレギュラー執筆者である。「キズナアイ炎上問題 『萌えキャラだらけ国家』台湾のユルさに学びたい」や「元『中国慰安婦』の“ウソ”と真実。遺族の証言はどこまで信じられるか?」は安田の仕事である。
http://bunshun.jp/articles/-/9502
「元『中国人慰安婦』の“ウソ”と真実。遺族の証言はどこまで信じられるか?」は小学館新書「さいはての中国」第7章に登場する、南京の中国人元慰安婦遺族への取材部分を改稿したものだ。
http://bunshun.jp/articles/-/9338
https://www.shogakukan.co.jp/books/09825335
安田の中国ものは徹底した実証主義が魅力である。確かに香港在住ふるまいよしこによれば「八九六四 『天安門事件』は再び起きるか」は「香港の一九八九年天安門事件に関する記述は事実と相反している」ようだが、「今回の受賞の理由及びこの本の面白さは、日本の中国ウォッチャーや学術研究者が『聖域』にしてしまいやすい、1989年の天安門事件に対する生々しい『今の声』をまとめたことにある」と評価している。
https://note.mu/wanzee/n/n2c6f540d9de8
そんな安田が「現代ビジネス」に「安田純平氏へのバッシング、いちジャーナリストとして思うこと 過去の仕事を調べてみた」を発表している。
「なお私の経験上、中国の新疆ウイグル自治区チベット人の居住地域に行くと中国政府に心の底から憤りを覚えるようになる。これと同様に、中東にディープに入り込んだ人が、現在の混乱の原因を作ったアメリカや19世紀以来の欧米中心主義に反感を覚えることも、人間の心の働きとして妥当なものであろうかと思う」
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/58267
「現代ビジネス」に掲載された高橋洋一の「安田純平氏への『自己責任論』にも『使命論』にも覚えてしまう違和感」は、暗に安田純平の準備不足を仄めかし批判しているし、「『安田純平型ジャーナリストへの正しい政府対応」を「アゴラ」に発表した渡瀬裕哉は安田純平がジャーナリストとして能力不足であったと書きたくて仕方がないようである。
しかし、一般論としては理解できないでもないが、安田純平に対しては「机上の空論」を弄んでいるとしか思えない「口調」であることは間違いない。所詮、観念論にしか過ぎないのだ。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/58198
http://agora-web.jp/archives/2035399.html
その点、安田峰俊の徹底的な実証主義による安田純平評価のほうが信頼できるのではないだろうか。実証的と言うのであれば、プチ鹿島の「14年前、誰が『自己責任論』を言い始めたのか? 『イラク3邦人人質』記事を読み直す」も秀逸であった。
2004年、日本人3人がイラクで拘束された際に「自己責任論」を最初に言い出したのは当時環境相だった小池百合子だった。安倍晋三首相は自民党幹事長として「山の遭難では救助費用は遭難者・家族に請求することもあるとの意見もあった」と今回の自己責任論にもつながる発言をしていたことがわかる。与党政治家は小泉首相をはじめ自己責任論に雪崩をうつが、そうしたなかにあって、イラクで戦争を始めた当事者であるアメリカのパウエル米国務長官が言い放ったのだ。
「誰も危険を冒さなければ私たちは前進しない」
「より良い目的のため、みずから危険を冒した日本人たちがいたことを私はうれしく思う」「私たちは『あなたは危険を冒した、あなたのせいだ』とは言えない。彼らを安全に取り戻すためにできる、あらゆることをする義務がある」
プチ鹿島は自らの見解もこんな風に書いている。
「ちなみに私は、安田さんにもし『自己責任』があるなら、この3年間に見た現地の状況や体験を余すところなく報告する責任だと考える。それは私たちの利益になるからだ」
http://bunshun.jp/articles/-/9514
オレ、小林よしのりと同じ考え方だ。
「国民が知りたいことを伝えるのがジャーナリズムではない。それは商業主義だ。
国民が知らないことを伝えるのがジャーナリストの使命であって、商業主義とは相容れない」
https://blogos.com/article/335759/
商業主義とは、こういうことである。
福島第一原発事故のとき、真っ先に福島から逃げ出したのは大手メディアの人間たちだった」(元木昌彦
https://www.j-cast.com/tv/2018/11/01342704.html
週刊実話」がハッキリ、キッパリと書いている。
「つまり、日本の大手メディアはリスクを負わずに、安田氏のようフリーランスジャーナリストが取ってきた情報をしたり顔で伝えているだけなのだ。
これこそが戦争報道にまつわる日本メディア最大の不都合な真実のである」
https://npn.co.jp/article/detail/62052458/
https://npn.co.jp/article/detail/24699288/
最後に。自己責任論とアナキズムが実は親和性が高いことも指摘しておきたい。

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2)【本日の一行情報】

◎「日経トレンディ」(日経BP社)が選ぶ「2018年 今年の顔」に「乃木坂46」の白石麻衣、俳優の田中圭が選ばれた
https://mantan-web.jp/article/20181101dog00m200035000c.html

◎広報マンにとってウォーター・リップマンの「世論」(岩波)は必読書であると言って良い。まさか、これを読まずに広報の名刺を使っているとしたら…広報の仕事を舐めているとしか思えない。せめて下巻の第五部13章から15章までは読んでおいて欲しい。共通意志の形成ということが論じられている。
https://www.iwanami.co.jp/book/b248692.html

◎小田原みづえが「大正ロマンチカ」の第19巻(宙出版)、「シュルスの魔女」第2巻(日本芸社)、「花はどっちだ?」第1巻双葉社)を11月1日に同時発売。宙出版、日本芸社、双葉社の3社が出版社を横断してプレゼントキャンペーンを実施している
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000113.000014531.html

リイド社が運営するwebマガジン「トーチweb」(http://to-ti.in/)において、11月1日(木曜日)にwebギャラリー「ギャラリートーチ」を開設、併せて「トーチのストア・略してトースト」をオープンした。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000040.000035072.html

◎「ハーパーズ バザー」(Harpers’ BAZAAR)のグローバル・ファッション・ディレクター、カリーヌ・ロワトフェルドが2012年に創刊した「CR ファッションブック」の初の国外版となる日本版(ハースト婦人画報社)が創刊され、カリーヌ・ロワトフェルドが来日した。
https://www.wwdjapan.com/731893
https://www.hearst.co.jp/brands/crfashion

◎動画プラットフォームを中心にインフルエンサーマーケティングを展開するVAZが運営する美容系ガールズYouTubeチャンネル「MelTV」は、中学生を対象とする新潮社のティーン向け女性誌nicola」と初めてコラボし、「nicola」による次世代エースモデル選抜プロジェクト「Top of nicola MODEL」の審査の模様を、11月1日(木)より約半年間にわたり独占配信する。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000092.000015757.html

岩崎書店は、全米でベストセラーとなった絵本「にじいろのしあわせ ~マーロン・ブンドのあるいちにち~」(マーロン・ブンドとジル・トウィス・作/EGケラー・絵/服部理佳・訳)を、12月8日に発売する。「マーロン・ブンド」とは、敬虔な福音派信者であり、リベラルな民主主義者から批判されているアメリカ副大統領のマイク・ペンス一家が飼っている雄ウサギに他ならない。
実はペンスの娘が章を書き、妻がイラストを描き、ウサギの視点から副大統領の日常を描いた絵本「副大統領と暮らすマーロン・ブンドのある一日」が出版され話題になったが、これに対抗する絵本がこの「にじいろのしあわせ ~マーロン・ブンドのあるいちにち~」なのである。そうペンス副大統領と、トランプ政権のLGBT政策を鋭く風刺した「パロディ」絵本に他ならないのである。
実は「副大統領と暮らすマーロン・ブンドのある一日」の企画を知った政治風刺で知られるコメディアンのジョン・オリバーが、ペンス家の絵本に対抗するパロディ版を作ることを思いつき、彼が毎週出演するHBO局の人気番組「Last Week Tonight」のスタッフと共同でプロジェクトを立ち上げ、ペンス家の絵本発売の前日に、Amazonと出版元のクロニクルブックスのウェブサイトで発売すると発表した。
オリバーは、発売後すぐに、全米放送の人気番組「Late Night with Seth Meyes」に出演し、「まだ発売2日なのに、18万部販売した。現在品切れとなっているが、すぐに増刷する」と売行好調をアピールするとともに「この利益を、エイズ対策活動、LGBTが原因で自殺を図る若者をサポートする団体等に100%寄付する!」と説明して番組収録会場を沸かし、全米の注目を集めることになったのだ。
http://www.iwasakishoten.co.jp/book/b378946.html
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000030.000035751.html

◎第72回毎日出版化賞が決まった。
学・芸術部門>奥泉光「雪の階」(中央公論新社
<人・社会部門>佐藤卓己ファシスト的公共性-総力戦体制のメディア学」(岩波書店
<自然科学部門>松田洋一「性の進化史-いまヒトの染色体で何が起きているのか」(新潮社)
<企画部門>内田泉之助他編「新釈漢大系 全120巻別巻1」完結(明治書院
<特別賞>松村圭一郎「うしろめたさの人類学」(ミシマ社)
https://mainichi.jp/articles/20181103/ddm/001/040/149000c
http://www.chuko.co.jp/tanko/2018/02/005046.html
https://www.iwanami.co.jp/book/b355573.html
https://www.shinchosha.co.jp/book/603827/
http://www.meijishoin.co.jp/news/n3343.html
https://www.mishimaga.com/books/tokushu/000612.html

朝日新聞の11月2日付「ゾゾスーツどうなる? 前沢社長、突然の配布縮小方針」は、こう書いている。
「衣料品通販サイト『ゾゾタウン』を運営するZOZO(ゾゾ)が手がけるプライベートブランド(PB)の『ゾゾスーツ』が、岐路に立っている。採寸専用の無料スーツで、これを着て注すればぴったりの一着が届くサービスとして話題を集め、ブランドを象徴する商品だったが、前沢友作社長が先月末、無料スーツの配布を縮小する方針を突然発表した」
https://www.asahi.com/articles/ASLC24R1WLC2ULFA00M.html

小学館の「うる星やつら」「からかい上手の高木さん」「ハヤテのごとく!」「ツルモク独身寮」「アフロ田中」という歴代人気ラブコメ漫画5作品が、クボタとコラボして、日本の農家を応援するプロジェクト「クボタ LOVE 米プロジェクト」を展開することになった。人気ロックバンド・キュウソネコカミの書き下ろし楽曲「米米米米」(べいまいべいべー)ともコラボし、制作された特別映像がYouTubeに公開された。
https://www.kubota.co.jp/0000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000/
https://www.youtube.com/watch?v=XSK54BuFE4s
https://www.youtube.com/watch?v=uFRn4nJF0WM
https://www.oricon.co.jp/news/2122702/full/

◎「講談社学術庫大字版オンデマンド(POD)」サービスがスタートした。講談社学術庫のうち500点について版面を127%拡大して提供する。注すると5日以内に届く。一般書店での取り扱いはない。専用webサイトでのみの販売となる。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/58285
https://kodansha.bookstores.jp/

KADOKAWAはB6判単行本のWEBエンタメノベル「電撃の新芸」を2019年1月に創刊する。
http://dengekionline.com/elem/000/001/826/1826927/

◎「東洋経済ONLINE」が武田徹の「書店は多様化をめざせば、まだ生き残れる DNPKADOKAWA・CCCに見る新勢力の台頭」を掲載している。武田の言う多様化とは、「資本の論理」が実現するものであって、生業としての書店は結局、潰れるしかないという「ディストピア」ではないのか。「従来、日本の出版関連業は、出版社は編集だけを行い、取次が流通させ、書店が販売をする、という分業体制が基本だった」というような認識も短絡的ではないのか。出版社には販売部門もあるわけだしね。
https://toyokeizai.net/articles/-/246698

◎「終末のハーレム」は、集英社のアプリ「少年ジャンプ+」にて連載中の近未来エロティックサスペンスであり、累計発行部数300万部を突破している。11月2日(金)には最新7巻と、別世界を描き「ウルトラジャンプ」で連載中の「終末のハーレム ファンタジア」1巻が同時発売となったが、合同会社DMM.comのアニメーションレーベル「DMM pictures」が「終末のハーレムVR」の製作を決定した。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000003192.000002581.html

江波杏子が亡くなった。「女賭博師」シリーズで大映を支えた。私にとっては「津軽じょんがら節」が忘れられないよなあ。
https://www.nikkansports.com/entertainment/news/201811030000083.html?Page=1
これは渡部幻のツイート。
「『津軽じょんがら節』の江波杏子の佇まいは、津軽の海の波と同等かそれ以上に鮮烈だった。それは少年の頃、偶然に隣り合いこっそりと見上げた女性の横顔に、まだ知らぬ人生の影を垣間見たのにも似ていて、キネ旬の70年代日本映画ベストテンに投票したが、他に誰も入れなかったことを僕は意外に感じた」
https://twitter.com/geeen80/status/1058882038336376832
どうでも良いハナシだが、江波杏子の曽祖父で、植木職人の柴田平五郎が新撰組沖田総司の最後を看取ったんだよね。

◎ラグジュアリー層の女性と男性に向けてファッション、ビューティ、ライフスタイル情報を配信する小学館運営のWebサイト「Precious.jp」は10月期には、798万PVを達成し、800万PVが目前となった。また、376万UUを記録したし、LINE公式アカウントも55万フォロワー突破した。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000162.000013640.html

◎産経ニュースが「仏で加速する日本漫画人気 過去最多規模、漫画専門店も」を掲載している。
「フランスでの日本漫画市場は好調だ。仏メディアによると、昨年は仏国内で1500万部の日本漫画が販売され、3年間で10%近い伸びを見せた。仏AFP通信は『フランスは日本に次ぐ漫画大国』と表現する」
https://www.sankei.com/world/news/181104/wor1811040005-n1.html
ゴダールの「気狂いピエロ」でジャン・ポール・ベルモンドが手にする書物の一冊がマンガ「LA BANDE DES PIEDS NICKELES」であった。

◎「日刊サイゾー」が「コンビニから消えていく雑誌コーナー 雑誌が消えて、頼みの綱は“売れ筋の本”だけに」を掲載している
「このような状況で、コンビニと出版業界は縁が切れてしまうのかといえば、そんなことはない。雑誌ではなく、売れ筋の庫本やビジネス書を中心とした書店併設型のコンビニをローソンが、新たに展開しているのだ。さらにローソンでは、2018年度中にも書籍専用棚を設置した店舗を4,000店舗に増加予定。街から、小さな書店は減少しているものの、売れ筋の本に限れば十分に売上が見込めるようだ」
http://www.cyzo.com/2018/11/post_180704_entry.html
街の書店にとって地獄は止まらないどころか、ますます拍車がかかろう。

村上春樹が直筆原稿や世界で翻訳・出版された自身の著作、蔵書、レコードのコレクションなどの資料を、母校の早稲田大に寄贈する。
「村上さんによると、国内で記者会見するのはデビュー作『風の歌を聴け』が81年に映画化された時以来で37年ぶり。海外では06年のカフカ賞チェコ)受賞の際に会見した例がある」(毎日新聞)
https://mainichi.jp/articles/20181104/k00/00e/040/201000c?fm=mnm

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3)【深夜の誌人語録】

上昇志向が堕落を生む。