【文徒】2018年(平成30)3月1日(第6巻38号・通巻1212号)

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1)【記事】樋田毅「記者襲撃 赤報隊事件30年目の真実」が興味深い
2)【本日の一行情報】
3)【深夜の誌人語録】

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1)【記事】樋田毅「記者襲撃 赤報隊事件30年目の真実」が興味深い

NHKスペシャル赤報隊事件」で草磲剛が演じた樋田毅が岩波書店から上梓した渾身の書下ろし「記者襲撃 赤報隊事件30年目の真実」は樋田が昨年12月まで籍を置いた朝日新聞社をタブーにしていない。例えば第5章「ある新興宗教の影」において、「内通」と「手打ち」があったことが仄めかされている。
「内通」は朝日新聞の、もともとは「α教会」取材の中心となってきた「N編集委員」に「α教会」から5万円とか10万円の現金が渡り、「α教会」に金銭で籠絡されていた可能性だ。ちなみに「α教会」=「ある新興宗教」が統一教会であることは読者であれば容易に察しがつく。同様に「α連合」は勝共連合であり、「α日報」は世界日報である。
圧巻なのは「手打ち」についての言及だ。「どうしても書かなければならないこと」とされた次のようなくだりである。
「社会部長は『すべて話すから、ここだけの話にしてほしい』と言って、最近、広報担当の役員と東京本社編集局の局次長の二人がα日報の香山社長、編集局長、論説委員長らと会食したことを認めた。α日報側からの申し入れを、朝日新聞側のベテランのU編集委員らが仲介したという。その返礼として五月の連休明けに、今度は朝日新聞の招待で、宴席が持たれたという」
こうした交流が功を奏したのかどうかは不明だが「α日報」の一面で連載されていた「最新朝日新聞事情」の連載は109回をもって終了し、その後に掲載された「連載を終えて」では朝日新聞社の広報担当役員を「極めて好意的に紹介している」し、不思議なことに朝日新聞社赤報隊の攻撃対象から外れた。むろん「真相を知るのは『赤報隊』のみである」。
本書の掉尾を飾るのは戦前派右翼の畑時夫の次のような発言である。
「私は朝日新聞を信頼しているんです。戦前、平時は左翼を装っていたが、いざ国家の危急時には本来の姿を取り戻して愛国派の新聞になってくれた。今は平和の時代。仮の姿なんだから、好きにやっていただいて構いませんよ」
「保守と立憲」(スタンド・ブックス)を上梓したばかりの中島岳志も「記者襲撃―赤報隊事件30年目の真実」を読んだようだ。中島は次のようにツイートしている。
「樋田毅さんの新刊『記者襲撃―赤報隊事件30年目の真実』を読んでいる。これはすごい本だ。赤報隊事件の犯人を徹底的に追っているが、その追跡が期せずして非常に重要な戦後の思想史を描くことになっている。重要な登場人物は太田竜、そして田中正明。すごい線をついている」
https://twitter.com/nakajima1975/status/967415477025759234
http://stand-books.com/
田中正明太田竜の名前が出て来るのは第3章「新右翼とその周辺」だ。ここで加川正樹という仮名で登場する人物は、有田芳生が次のように呟いている通り瀬戸弘幸だろう。
「樋田毅『記者襲撃 赤報隊事件30年目の真実』を読んでいる。いまも朝日新聞社前で赤報隊を『義挙』だと叫ぶ在特会系集団がいる。赤報隊事件当時、瀬戸弘幸日本第一党』最高顧問も捜査線上にあったことが『元ネオナチの右翼活動家』として匿名で書かれている。事件はいまに連なっているのだ」
https://twitter.com/aritayoshifu/status/968116658823819264
ちなみに瀬戸は行政通信社の月刊誌「政財界ジャーナル」の編集長をつとめていたこともあるし、かつて朝倉喬司が「別冊宝島56 ヤクザという生き方―都市の底に棲む男たちの物語!」で瀬戸をインタビューしている。
この瀬戸が樋田に取材された際に浮かびあがって来たのが、これまた仮名で記述されている矢部隆なのだが、矢部が谷口巌であるとすれば、南京大虐殺はなかったと主張する田中正明アイヌ革命を唱えた太田竜が繋がるのである。谷口は1983年に「アイヌ革命と太田竜」を出し、翌年に「南京大虐殺の研究」を出している。「反日」という言葉はもともと左翼の影響を受けたものなのだろう。
「記者襲撃 赤報隊事件30年目の真実」は薄いし、サッと読めるのだが、いろいろと考えさせられる一冊である。
ときわ書房志津ステーションビル店のツイートも紹介しておこう。
「この事件の特異性と影響を風化させてはならない。既に時効となりながら今でも真相を追い求める元記者の辿り着いた真実とは。30年という時間の重さは、その間に愕然とするほど様変わりしてしまった社会の重苦しさを照らし出す。
樋田毅『記者襲撃 赤報隊事件30年目の真実』岩波書店
https://twitter.com/tokiwashizu/status/967354214140715009

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2)【本日の一行情報】

◎累計14万部も売れているのか。「日経ビジネス」副編集長である鈴木信行の「宝くじで1億円当たった人の末路」。「日経ビジネスオンライン」の連載をベースにしながらも、大胆な構成変更と大幅な書き下ろしで、連載とは全く似て非なるものに仕立て上げているそうだ。日本テレビで「〇〇な人の末路」として深夜ドラマ化され、4月23日(月)から放映がスタートする。主演はKis-My-Ft2の4人。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/220734/022700017/
http://business.nikkeibp.co.jp/special/matsuro/
http://www.ntv.co.jp/matsuro/
「末路本」って自称しているんだね。ドラマ化によって化けるかもしれない。というか、ビジネス書嫌いなオレが買っちゃった。

時事通信社金子兜太の死去に関して誤報した記者を出勤停止14日とする懲戒処分を決めた。
「記者は19日、金子氏に近い情報提供者からの情報を基に速報と一報を出稿したが、近親者への確認取材を怠った。近親者の指摘で誤報が発覚した。金子氏は20日に死去した」
https://www.jiji.com/jc/article?k=2018022700711&g=soc

◎「ディエンビエンフー TRUE END」の西島大介映画作家アレハンドロ・ホドロフスキーの名前を口にしている!「エル・トポ」のホドロフスキーだ。
https://news.nifty.com/article/item/wh/12116-20180226_023264/
ホドロフスキーは原作者としてメビウス(=ジャン・ジロー)と組んでフレンチコミック(=バンド・テシネ)の金字塔「アンカル」を発表している。これ小学館集英社プロダクションから刊行されているんですよ!
http://bookstest.shopro.co.jp/comic/overseas/lincal.php
西島の次の発言は映画ではなく「アンカル」を念頭に置いてのものかもしれない。
アレハンドロ・ホドロフスキーのように途方もない作品を夢想して、現実にはそれが収まらなかったっていうのとは違って、僕はいつも出版社の元、担当さんと打ち合わせをして、ある程度の制約の中で漫画を描いています」
メビウス大友克洋宮崎駿にも影響を与えている。
http://books.shopro.co.jp/bdfile/2013/03/post-34.html
https://moebius.exblog.jp/1569749/

KADOKAWAは、アスキー・メディアワークス事業局のアスキー事業を4月1日に角川アスキー総合研究所に事業移管することになった。移管される主な事業は次の通りだ。
・IT関連メディア事業:「週刊アスキー」「ASCII.jp」「ASCII倶楽部」「MITテクノロジーレビュー」
・EC事業「アスキーストア」
マーケティングソリューション事業(冊子・映像制作、イベント・セミナーなど)
・年賀状素材集など出版事業
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000004239.000007006.html

角川ゲームスが次のようにツイートしている。
「先日より凍結されておりました3アカウントについて、先程Twitter社より連絡があり、Twitterルールに違反していないことが確認され、凍結が解除されました。今後は従来の下記アカウントを使用し、本アカウントは適時閉鎖いたします。
@Kadokawa_Games
@yasudaD5
@DemonGaze2」
https://twitter.com/KADOKAWAGAMES10/status/968044798991978497

ブルームバーグが「テレビが育てた香取慎吾のインスタ人気、ネット広告への移行象徴」を掲載している。
「同氏の小さな一歩は、オールドメディアからニューメディアへの転換で他の先進国に大幅な遅れを取っている日本の広告業界の大きな変化を象徴している。現在ソロのタレントで、ビールや自動車などさまざまなテレビ広告に出演してきた香取氏は、今やインスタグラムだけで約140万人のフォロワーを持つ」
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2018-02-26/P42QQN6K50XT01

西日本新聞は、米国発のSNS「Steemit」(スティーミット)」に27日から参加した。
「スティーミットは2016年にサービスを開始。良質な記事と評価した利用者の数などに応じて、仮想通貨に換金可能なポイント『トークン』が投稿者らに与えられる仕組み。同方式のSNSへの参加は日本の新聞社で初めてとみられる」
https://www.nishinippon.co.jp/nnp/anatoku/article/397330/

ちくま文庫「思考の整理学」(外山滋比古)が2017年東大生協文庫売上1位となった。2年連読の1位である。ちなみに2008年に初めて1位となってから、この10年間で7度目も1位となっている。ちくま文庫「思考の整理学」は32年間で115刷、累計発行部数は225万部を突破。
https://www.atpress.ne.jp/news/150192
2007年にさわや書店の松本大介が記した「もっと若いときに読んでいれば…」という書店店頭のポップをきっかけミリオンセラーに至る階段を駆け上った。この松本が岩本太郎の「炎上!100円ライター始末記」を絶賛してくれている。
https://books.rakuten.co.jp/rb/15316066/

◎「ダイヤモンドオンライン」が山田英夫早稲田大学ビジネススクール教授)による「AbemaTVが営業赤字200億円でもインターネットテレビの雄を狙う理由」を掲載している。
「大手企業では、地上波の視聴率が落ちてきたことから、ブランドイメージ向上の目的でネット広告を使用するケースが増えてきたが、ネットは千差万別であり、アダルトサイトなどブランドイメージを損なうようなサイトに広告を掲出してしまうリスクは大きい。
そのような中、『出し先がコントロールできるAbemaTVであれば安心』と考えて広告を出してくるクライアントもある。そうしたスポンサーにとっては、AbemaTVは、『テレビを見なくなった人向けの新しい広告媒体』だ。すなわちAbemaTVは、新しい媒体であると同時に、レガシーのクライアントを安心させる媒体という側面も持っているのである」
http://diamond.jp/articles/-/161523

◎「三省堂国語辞典 第七版 阪神タイガース仕様」の発売前重版が決まった。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000044.000014647.html

主婦の友社は2010年に発売し、翻訳絵本の海外生産の制約上、「品切れ重版未定」の状態がつづいていた絵本「たくさんのドア」を復刊したが、売行き好調なことから、発売から1週間で重版が決定し、2月27日に2刷出来となった。卒業・入学シーズンにぴったりの絵本である。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000792.000002372.html

◎C Channelは、ママ向け動画メディア「mama+」(ママタス)を4月上旬より本格始動する。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000076.000025680.html

エイ出版社のメンズファッション誌「セカンド」(2nd)は、3月16日発売の5月号をもって休刊。今後はデジタルマガジンとして継続。
https://www.wwdjapan.com/571725

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3)【深夜の誌人語録】

狭くとも深ければ広さに対抗できるし、浅くとも広ければ深さに対抗できる。