【文徒】2018年(平成30)3月2日(第6巻39号・通巻1213号)

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1)【記事】大手書店チェーン3社が『コロコロコミック』3月号の発売中止を決定
2)【本日の一行情報】

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1)【記事】大手書店チェーン3社が『コロコロコミック』3月号の発売中止を決定(岩本太郎)

小学館コロコロコミック』3月号に掲載されたマンガ「やりすぎ!!! イタズラくん」(吉野あすみ)中のチンギス・ハーンに関する表現をめぐる問題は、とうとう大手書店で同誌の発売が中止される動きが出るまでに拡大した。
28日付『J-CASTニュース』の取材に対し、紀伊國屋書店くまざわ書店(本社八王子市)、未来屋書店(同千葉市)の3社が「全店で販売を停止している」と回答。その理由として《不適切な表現が掲載されていたため》(紀伊國屋書店)、《複数のお客様から掲載内容に関する問い合わせがあった》(未来屋書店)、《他店の動向も踏まえ、27日から全店で販売を中止している》(くまざわ書店)との回答が各社の担当者からあったという。
一方でTSUTAYAは28日昼時点で《会社として対応を取っている訳ではないが、「個々の店舗の判断で、すでに撤去を決めたところはある」》、有隣堂は《現時点では特に対応は取っていません。取次、出版社側から何かアクションがあれば対応する予定です》との回答があったことも報じつつ、小学館広報室の担当者が28日昼、《現在、対応を協議中です》とだけコメントがあったことを紹介した。
https://www.j-cast.com/2018/02/28322354.html
少し遅れて『ITMediaビジネスONLiNE』も28日付で、 三省堂書店からは《取り扱いについての検討はしているが決定していることはない》、丸善ジュンク堂書店から《『コロコロコミック』に限らず、原則出版社からの中止要請がない限り販売を続ける方針》との回答があったと報じた。また、上記にある未来屋書店からは《お客さまから親会社のイオンに申し入れがあったこと、また小学館が抗議に対して謝罪したことから、販売中止を24日ごろに決定した》との回答があったそうだ。
http://www.itmedia.co.jp/business/articles/1802/28/news107.html
そんな中で『Gambling Journal』は《「コロコロコミック」休刊現実味か......「海外偉人侮辱」で国際問題寸前》と報じている。昨年末の『ダウンタウンガキの使いやあらへんでSP』での黒塗りメイクの一件が海外メディアでも報じられた等を交えつつ、「記者」なる人物(どこの誰だかもわからない)に次のように言わせている。
《一部では『とりあえず休刊でいい』という声もあります。最近は部数も『妖怪ウォッチ』の勢いがなくなり下降気味で、100万部を大きく割ってしまっています。今回の問題も"焦り"からきたものなのかどうなのか》
http://biz-journal.jp/gj/2018/02/post_5937.html
小林健治(にんげん出版代表)は「連載差別表現」の28日付(第200回)でこの問題を取り上げ、これまでの小学館の対応を以下のようにかなり手厳しく批判している。
《今回の事件では、小学館側の対応の稚拙さがめだつ。
著者が「落書き」したことが問題なのではない。第一義的責任は、その「落書き」が他民族を冒涜する内容を含み、社会的(国際的)批判をまぬがれないことを予期できずに出版した編集部と編集総務の差別・人権問題に対する認識の低さにある。
問われているのは、出版元・小学館の社会的責任である。
2016年に初版3万部で全国紙に全5段のカラー広告を載せ、即1万部の重版という鳴り物入りで刊行した『ダーリンは70歳・高須帝国の逆襲』を1週間もしないうちに絶版・回収したという事件があった。(*ウェブ連載差別表現 第184回参照)
そのときの対応との違いに驚くが、今回の侮辱表現の悪質さは、国際的広がりをもつ重大事件だ。
(ちなみに『ダーリンは70歳』の時、なぜ絶版・回収したかの説明を小学館は一切おこなわなかった。)
今回の「落書き」事件、もしこれが今上陛下をはじめ、歴代の天皇の肖像に対して、同様の落書きをおこなったとしたら、どういう事態が出来(しゅったい)するのかぐらいは、小学館の編集総務でも理解できるだろう。
くり返すが、問われているのは小学館の社会的責任であり、早急に回収処置をとり、新聞に謝罪広告を載せ、その上で、駐日モンゴル大使館およびモンゴル人の抗議団体と、真摯な話し合いの場をもうけ、謝罪とともに、モンゴル文化に対する認識を深める企画を率先しておこない、犯したあやまちを償うべきであろう。》
http://rensai.ningenshuppan.com/?eid=218
もとよりこれは相手をモンゴル国モンゴル国民だけに限定した話ではないだろう。中国北部の内モンゴル自治区では昨年末、《ユルト(遊牧民のテント式住居)の中でチンギスハンの肖像画を踏みつけ、その動画をオンライン上に投稿した》という中国人の男が《「民族憎悪と差別を扇動した罪」で有罪判決を受け、法廷で「一般市民の感情を傷つけた」として謝罪した。》とAFPが公安当局の発表をもとに報じていた。
http://www.afpbb.com/articles/-/3155591
小林健治は上の記事で《今回の事件で、作者の吉野あすみ氏がモンゴル及びチンギス・ハーンを侮辱する意思をもって落書きしたとは思わない。しかし、侮辱表現か否かは、作者の主観的意図とは関係ない》と述べているが、とはいえここは版元だけではなく、やはり作者の見解も問われるべきだろう。
しかし吉野はこの件で炎上状態に至るや、すぐに自身のTwitterアカウントを非公開とし、これまで謝罪も含めた対外向けの意見表明は全く行っていない。28日付『Buzz Plus News』は《小学館は誠意をもって謝罪しているように思えるが》と一部評価する一方、同日付の別稿ではこうした吉野の姿勢をネット業界関係者の意見も交えながら厳しく批判している。
http://buzz-plus.com/article/2018/02/28/korokoro-genghis-khan-sorry/
http://buzz-plus.com/article/2018/02/28/korokoro-genghis-khan-mangaka/

                                                                                                          • -

2)【本日の一行情報】(岩本太郎)

昭和天皇を模したと思われる人物を主人公にした『ハレンチ君主 いんびな休日』の劇場公開が先月半ばにドタキャンになった一件を『週刊新潮』が1日発売号(3月8日号)で《「昭和天皇」のピンク映画》などの見出しで報道。
www.shinchosha.co.jp/shukanshincho/
大手各紙1日付朝刊の同号発売広告は、朝日・毎日・読売・日経が見出しの「昭和天皇」と人物写真の部分を黒く塗り潰したが、産経と東京はそのまま掲載。ネット上ではユーザーたちがそれぞれに報告。
http://hagex.hatenadiary.jp/entry/2018/03/01/111947
https://twitter.com/calpistime/status/968987732763598848
https://twitter.com/gabriyoll/status/968981734451589120
https://twitter.com/genpatunerima/status/969031121076809728
https://twitter.com/tyawan/status/968986580936400896
https://twitter.com/iwamototaro/status/969062080471957505
『ハレンチ君主 いんびな休日』のウェブサイトは既に閉鎖されているが、誰かがウェブ上に掲載したキャッシュデータにスタッフリストやあらすじが紹介されている。『週刊新潮』同号の記事によると映画のチラシには〈右の方も、左の方も心してみよ!〉〈表現の自由はエロとスキャンダルから!〉といった文句が踊っていたそうだ。
https://archive.is/cQqtj

◎東京MXが、昨年1月の沖縄米軍基地反対運動をめぐる報道で物議を醸した『ニュース女子』(DHCテレビジョン制作)の放送を今春限りでやめることを決めたと朝日新聞が1日付で関係者への取材をもとに報道。
https://www.asahi.com/articles/ASL2X7DHML2XUTIL058.html
MXも同日、公式サイトで《番組「ニュース女子」について》と題して放送終了を公表。
《当社では、番組「ニュース女子」につきましては、より放送責任を明確にする立場から、当番組の制作主体を当方に移したいとの意向をスポンサーに申し入れてきました。しかしながら、最終的に両社間の協議が不調に終わったため、当社での放送を3月末を以て終了いたします。
http://s.mxtv.jp/
http://s.mxtv.jp/company/press/pdf/press2017_1010001.pdf
この問題に関して1月27日に文京区内で行われた「沖縄への偏見をあおる放送をゆるさない市民有志」主催の集会で、パネリストの1人として登壇した元MX社員の白石草(NPOインターネット放送局OurPlanet-TV代表)は「MXの3月編成はギリギリで決まる。今から何とか(放送中止を)働きかければ」と述べていたが、結果的にその期待通りになったわけだ。
https://ryukyushimpo.jp/news/entry-654670.html
ネット上では既に数日前から反ヘイト運動に関わる「C.R.A.C」などが番組打ち切りの公式発表が近いと伝えていた。
https://twitter.com/cracjp/status/967992428358598657

◎『サイゾーpremium』が特集「週刊誌記者のリアルな声を直撃」を28日付で掲載。出版界の苦境や最近の「小室バッシング」などの逆風下でも取材に奔走する記者たちの日常に迫っている。
http://www.premiumcyzo.com/modules/member/2018/02/post_8255/
http://www.premiumcyzo.com/modules/member/2018/02/post_8256/

ドワンゴは28日から「ニコニコ動画」を会員登録やログイン抜きで動画再生できるように変更。
一方で、同日からのサービス開始を予定していた新サービス「nicocas」と新バージョン「niconico(く)」については「niconico全体の機能改善を最優先するため」として、サービス開始時期を延期すると発表した。
https://japan.cnet.com/article/35115391/
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1802/28/news101.html

電通ブロックチェーン技術のビジネス活用に向けた社内横断組織「電通ブロックチェーンコミュニティー」(DBCC)を1日付で発足させた。
http://www.dentsu.co.jp/news/release/2018/0228-009477.html
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1802/28/news119.html

◎『Campaign』は論考「ブロックチェーンは、広告業界の終末をもたらすのか」を2回に分けて掲載。
http://goo.gl/7P2zyw

一迅社は20代〜40代の働く女性をターゲットとした新しい文庫レーベル「メゾン文庫」を6月9日に創刊する。
http://ichijinsha.co.jp/special/maison/maison-pre/
https://twitter.com/maisonbunko
https://ddnavi.com/news/439240/a/

◎先の産経新聞誤報問題に関して、同じグループの『フジサンケイビジネスアイ』が2月28日付で「メディアは『誤報謝罪』をためらうな 大手マスコミがここまで『謝りベタ』な理由」と題した論考を掲載。見れば筆者は中川淳一郎だった。なかなかいいことを書いている。
産経新聞は「事故にあわれた関係者、琉球新報沖縄タイムス、読者のみなさまに深くおわびします」と全面的に誤報を認め謝罪をした。名指しされた沖縄2紙も謝罪を受け入れる声明を発表している。そもそも「報道しない自由」やら「琉球新報沖縄タイムスは反米軍(と一緒くたにする)」という論説はネットにおけるリベラル派攻撃の定型句であり、この言葉を使った時点で恥ずかしい》
《メディアの人間、それも影響力の大きいメディアであればあるほど横柄になりがちである。その根底にあるのが「表現の自由がある」思想と、「自分たちマスコミは正義のヒーローである」という驕りである。
この2つについて、メディアにかかわる私は排除することを心掛けている。しょせん、メディアの仕事なんて「何かを成し遂げた人に寄生している」だったり「一般市民を代弁しているかのような正当性を振りかざし、実際は自己中心的な論説をまき散らかしている」こともあるからだ》
《人間は間違えることもある。その時に頑なに自己防衛を図ったり「伝統ある我が新聞がここで謝ってしまっては先輩方に申し訳ない」やら「ここで謝罪したら我が社の信頼性がガラガラと瓦解してしまう」と考えるのは無駄だ。今の時代、そこまで人々はメディアのことを信用していない。そもそも信頼感などネット時代の到来によりとうに失われているので、我々メディア人はより正確な情報を出すことを心掛け、再発防止に取り組むことは大前提としつつも、逆説的ではあるが「謝ることを躊躇しない」姿勢を持つべきだろう。》
https://www.sankeibiz.jp/compliance/news/180228/cpd1802280700001-n1.htm

◎医療書籍専門出版社のCBRが、医学専門の直営電子書店サイト「医学書専門電子書店 CBR Digital」を2月27日にオープン。
https://contendo.jp/store/cbr
https://ict-enews.net/2018/02/28i-press-jpn/

◎『乗りものニュース』が東京メトロ東西線の深川検車区にある車体洗浄施設を取材したルポによると、最近では洗車作業の際に車内に発見されるゴミの中で、やはりというか新聞や雑誌が激減しているそうだ。以前は盗まれて中身が抜かれた財布が座席の隙間に押し込められていたことが多かったのが、これも減ったとのこと。これもおサイフケータイなどの普及で現金を持ち歩かない人が増えているからだろうか。
https://trafficnews.jp/post/79813

◎故・草森紳一の未発表だった自筆原稿が昨年6月に発見され、千代田区猿楽町の出版社「未知谷」より2月10日に発売された。草森が帯広柏葉高で同級生だった詩人の嵩文彦の作品について評論したもので、パートナーだった東海晴美が草森の遺品を整理していた際に130枚に及ぶ未発表原稿を発見。一部は再々校まで進んでいたが何らかの理由で出版されなかったらしい。今回は草森と嵩の共著として単行本化された。
http://www.michitani.com/books/ISBN978-4-89642-542-0.html
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/167427

◎マンガ家の「一二三」が作成のうえネット上で公開した「本の予約・取り寄せ用フォーマット」が、現在マンガ家たちの間で広まっているという。書店に本がない場合、著者が自作のタイトルやISBNコードを書き込んで配布すれば、読者は店頭でスマホなどを用いて画像を示しながら注文ができるというもの。書誌情報を入力するだけでフォーマットを生成できる「書籍予約・取寄せフォーマット用生成ツール」も有志により公開されている。『日刊サイゾー』で昼間たかしがレポート。
https://twitter.com/hifumix_0123/status/951017302497009669
http://monokakitools.net/bookinfo/
http://www.cyzo.com/2018/02/post_152766_entry.html