【文徒】2018年(平成30)5月29日(第6巻97号・通巻1271号)

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1)【記事】沖縄防衛局職員の“軍用地投資”本を版元「すばる舎」は刊行続行宣言
2)【本日の一行情報】

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1)【記事】沖縄防衛局職員の“軍用地投資”本を版元「すばる舎」は刊行続行宣言(岩本太郎)

防衛省沖縄防衛局に勤務する40代の男性職員だという匿名の人物(ペンネームは「里中一人」)が去る4月下旬、『お金持ちはこっそり始めている 本当は教えたくない!「軍用地投資」入門』という単行本を上梓した。版元はビジネス書や語学書などで知られる「すばる舎」(東京・豊島区)。同社の公式サイトでは本の内容が以下のように紹介されている。
《富裕層に秘かに人気の軍用地投資のノウハウを、初公開!
業者の倒産も、ビジネスモデルの心配も、家賃不払いや不動産価格下落の心配もぜ?んぶ皆無!
安定的で長期的な収益が見込める掟破りの不動産投資……それが軍用地投資です。<信用最強の国>を相手とした借地権付きで、換金性が高く、固定資産税は低い。そしてもちろん、沖縄県外からも投資可能!
本当は誰にも教えたくない超安定型の不動産投資のノウハウを、軍用地投資の専門家が細かく解説。投資家待望の1冊です!!》
http://www.subarusya.jp/book/b355665.html
この本について25日付で各紙が報じたところから騒ぎが持ち上がった。著者の里中一人がおそらく職務上知りえた、それも在沖縄米軍基地内の土地に関する情報をもとに、勤務先の防衛省に無断で本に書いたとなれば当然ながら問題になろう。真っ先に報じた毎日新聞は次のように報じている。
《職員はこの著書でペンネームを使った上で自ら沖縄防衛局職員だと明かしたが、職務に関する書籍の出版時に必要な防衛省への届け出をしていなかった。インターネット上で販売に気づいた同省が調査して発覚した。
職員は著書で「現在の職務は直接軍用地に関するものではなく、国家公務員倫理法に抵触しない範囲で執筆」としていたが、軍用地管理を担当した経験があり、同省は届け出が必要なケースだったと判断した。職員は出版社を通じて「現時点では取材を一切受けられない」と回答した》
https://mainichi.jp/articles/20180525/k00/00m/040/205000c
里中一人は沖縄県出身で、2007年に嘉手納基地内の土地を購入のうえ《年60万円前後の収入を得るなど、複数の軍用地を所有していた》が、同省の職員による《軍用地の購入自体は違法ではなく、相続などで所有している職員も複数いる》という。ただ一方で里中は自ら開設したブログで《軍用地売却時の節税対策なども指南》していたらしい。ちなみに当該と思しきブログは今年2月19日付の「軍用地を買って得する人 損する人⑤」というエントリを最後に更新が止まり、表題も今では「ブログ中止のお知らせ 訳あって」となっている。
https://ameblo.jp/uumakuu99/
Amebaブログには里中のプロフィールとして以下のように紹介されている。《将来に漠然としたお金の不安をもつ家族に笑顔を取り戻す軍用地投資の専門家》《取材実績 フジサンケイグループ 扶桑社 週刊SPA!》《1973年、沖縄県生まれ。3人兄弟の長男。少年時代は割と要領がいいタイプでお調子者。失敗も多々あり。3人兄弟は厳格な父の剣道の指導の下で稽古に励み親子の絆を確かめた》とか。
https://profile.ameba.jp/ameba/uumakuu99
朝日新聞によると小野寺五典防衛相は25日の閣議後会見で「規律違反の有無を含め詳細について調査中。判明した事実に基づいて厳正に対処したい」と述べたそうだ。
https://www.asahi.com/articles/ASL5T3CP5L5TTPOB002.html
騒動になったことを受けて版元のすばる舎は25日、代表取締役社長・徳留慶太郎の名前で「2018/5/25付けの毎日新聞等の記事について」と題した声明を公式サイト上にアップした。
《当該書籍に関してですが、軍用地への投資市場が存在し、投資活動が行われている現状がある以上、出版社としてその存在や投資の基礎的ノウハウを世に問うことには一定の意義があると考え、今回の出版に至っております。
編集の際には、書籍の内容が原則として公開情報であり、著者が職業上知り得た秘密 などが含まれていないこと、なども厳に確認しております。
結果として、著者が懲戒処分を近く受けるとされる事態へとつながった点は誠に遺憾ではありますが、弊社としては当該書籍の内容に重大な瑕疵はないものと判断しております。
一部報道で当該書籍の回収等についての言及がありますが、出版元として当該書籍の回収、出荷停止などは現段階では考えておりませんので、誤解のないようお願い申し上げます》
https://twitter.com/subarusya/status/999880341677527046
http://www.subarusya.jp/files/media/20180525.pdf
ちなみにアマゾンの売れ筋ランキングでは昨28日17時の段階で同書がトータルで50位、「投資・金融・会社経営の不動産投資」「産業研究の不動産投資」の両部門で共に1位になっていた。カスタマーレビューにはいずれも5つ星で3つのレビューが立っていた。
《軍用地の地域選定や契約時の注意事項等、購入までの一連の流れを理解することができました。
沖縄旅行大好きな私は「旅費交通費」に関する記事がとっても魅力的です》
《元アマゾンの土井英司さんのメルマガに発売前から推奨されていた本ということで、購入して読みました。
具体的な購入法も記載されており、軍用地が欲しくなりました。
確かに、お金持ちの資産運用に合っていると思います》
《まさに軍用地投資の教科書といえる本だと思います。資産運用先が無くて困っている方や、相続でお悩みの方には、おすすめしたい1冊です》
https://www.amazon.co.jp/dp/4799107127/ref=cm_sw_r_tw_dp_U_x_2z7cBb22VAN8C

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2)【本日の一行情報】(岩本太郎)

◎コルク代表の佐渡島庸平は相変わらずあちこちから引っ張りだこだ。明日30日にはオンラインサロン「ネットマンガラボ」(マンガ新聞運営)主催によるメディアドゥホールでのトークイベントで元小学館IKKI』編集長だった江上英樹と共演。翌31日にはネット放送「PLANETチャンネル」の番組『HANGOUT PLUS』で宇野常寛との生放送対談に臨むそうだ。
http://www.manga-news.jp/news/2202257
https://twitter.com/PLANETS_9/status/1000640245958881286
ちなみに我々も昨日コルク事務所まで佐渡島に会いに行って話を聞いてきた。“古巣”の話など、ここには書けないようなものも含めていろいろ伺った。

◎元日経新聞記者の永野健二が新潮社より『経営者:日本経済生き残りをかけた闘い』を25日に上梓。同書に収録した孫正義とのエピソードを同日付『東洋経済オンライン』で公開している。永野が『日経ビジネス』編集長だった1996年、当時「日経ビジネスソフトバンクのことを取り上げないのは政治的な意図によるものだ」「M&Aで日経BPの経営権を取ってやる」などと語っていた孫との間で密かに会合を持っていたのだそうだ。
https://toyokeizai.net/articles/-/222035

海賊版サイト&ブロッキング問題における精力的な報道で一躍注目を集めたネットメディア『ねとらぼ』の評価がネット民の間でも高まっているらしい。ただ、《ネットメディアのジャーナリスト賞がもしあったら、漫画村の件に勧してねとらぼは受賞に値する働きをしたと思う》との賞賛が上がる一方《新聞協会賞や日本記者クラブ賞を受賞することは決してないんだよね》との同情的な声も。
http://www.standby-media.jp/case-file/173393

◎仮想通貨関連情報を扱うネットメディア『Crypto Times』が“世界初の仮想通貨漫画雑誌”を謳う『週刊少年クリプト』を25日に創刊した。定価は500円で「note」より購入できる。
https://crypto-times.jp/weekly-crypto/
https://note.mu/weeklycrypto/m/mfbb3fbf365d6?modal=support

カドカワ元社長でメディアワークスエンターブレインの会長なども務めた佐藤辰男が、コーエーテクモホールディングス社外取締役候補に選任されることになった。6月20日に行われる同社の定例株主総会で正式決定され、同時にカドカワの取締役相談役からは退任する予定とのこと。
http://www.4gamer.net/games/999/G999905/20180523108/

◎トランスワールドジャパン発行のメンズ雑誌『warp MAGAZINE JAPAN』が6月23日発行の8・9月合併号で休刊。デジタル版『warpweb』は以後も存続する。
http://fashionmarketingjournal.com/2018/05/warpmagazinejapan.html
https://www.transworldjapan.co.jp/magazines/warp/
https://www.warpweb.jp/

◎昨日も紹介した白泉社別冊花とゆめ』の休刊をめぐっては、各連載作品の今後の処遇が案じられたり、あるいは休刊するのが本体の『花とゆめ』と取り違える向きも出るなど、読者や関係者の間で混乱も生じたらしい。特に1976年以来40年以上に渡り連載が続く「ガラスの仮面」については連載開始当初には小学生だった中高年読者からの反響も大きかったらしく、作者の宮内すずえも
《休刊のお知らせに驚かれた方々。本当に申し訳ありません。雑誌連載の方向性が決まれば、またお知らせします》《『ガラスの仮面』は、必ず最終巻まで描き続けます》とTwitterで報告。
https://www.huffingtonpost.jp/2018/05/27/glass-kamen-continue_a_23444430/
https://twitter.com/miuchibell/status/1000231224458145792
http://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1805/26/news023.html
https://www.nikkansports.com/entertainment/news/201805270000011.html

◎『イブニング』で小林まことが連載中の「女子柔道部物語」コミックス第4巻が23日に発売。同作の累計部数50万部突破を記念して、講談社コミック販売部のイブニング担当・牧村太郎が自ら踊る「宣伝ラップ動画」が公開された。
https://www.youtube.com/watch?v=wcBZCV6Rnos&feature=youtu.be
https://www.jiji.com/jc/article?k=000001722.000001719&g=prt

河北新報のコラム「週刊せんだい」の5月のテーマは仙台市内の書店事情。10日付の第1回では苦闘する仙台駅前各書店での取り組みを作家・伊坂幸太郎の談話入りで紹介。第2回(17日付)は市内の複合型書店の集客戦略、第3回(24日付)では往時の隆盛が今や見る影もなく衰退した古書店街の実態をレポート。
https://www.kahoku.co.jp/tohokunews/201805/20180510_13052.html
https://www.kahoku.co.jp/tohokunews/201805/20180517_15042.html
https://sp.kahoku.co.jp/tohokunews/201805/20180524_13042.html
河北新報は19〜21日にも、福島県南相馬市で4月に書店「フルハウス」を開業した柳美里に思いを尋ねる「柳美里流書店術」を3日連続で掲載した。
https://www.kahoku.co.jp/tohokunews/201805/20180521_63047.html
https://www.kahoku.co.jp/tohokunews/201805/20180521_63048.html
https://www.kahoku.co.jp/tohokunews/201805/20180521_63046.html

◎今年3月に発覚した、日本年金機構からの個人情報約500万人分の中国への流出問題について、『週刊文春』5月31日号が流出元の情報処理会社「SAY企画」の内情をレポート。内部告発によって問題が表面化、社内が大混乱をきたした末、同社社長の切田精一は社員に招集をかけ突然「倒産」を宣言したそうだ。
http://bunshun.jp/articles/-/7498
切田はもともと印刷大手の廣済堂の幹部だった。廣済堂特許庁など官公庁からの巨額の受注をバックに印刷技術のデジタル化を進めていた時代にマルチメディア部門の中心人物として活躍。後に退社して「SAY企画」を設立していたそうだ。

◎『黙殺 報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い』(集英社刊)で昨年開高健ノンフィクション賞を受賞した畠山理仁が、ネットメディア『DANRO』編集長の亀松太郎によるインタビューに応えてフリーランスライターの働き方や懐事情を吐露。開高健賞の賞金300万円は大半が借金返済に消えたとか。
《僕はいま45歳で、大学2年の5月、20歳のときに編集プロダクションでライターの仕事を始めたんですが、当時は同世代の人がわりといました。でも、いまは20代で、雑誌の仕事をしているフリーのライターって本当に少ない。(略)。僕の先輩で力がある人でも、家業を継ぐために途中で田舎に帰ったという人はいますね》
《最初は編プロにいたんですが、雇用契約を結んでいたわけではないです。最初の給料は月額3万円で、保険もなかった。(略)5年間いたんですけど、手伝える友達を呼んでくるごとに給料があがるシステムだった。一人呼ぶと5万円、もう一人呼ぶと7万5000円になって、さらに一人呼ぶと10万円。編プロには5年いましたが、最終的に月給が15万円になりました》
https://www.danro.bar/article/11516700

◎『Z TOKYO』のインタビュー連載「ライターズ(Writers)『書く』ことを職業にした人々」、第2回のゲストは鉄道ジャーナリストでTBS系『ひるおび!』のコメンテーターとしても活躍する梅原淳。もともとは老舗雑誌『鉄道ファン』の編集者。一般にあまり知られない鉄道雑誌の舞台裏について、例えばこんな逸話を披露。鉄道に興味がないメディア業界関係者にもなかなか読ませる。
《「鉄道雑誌全般に言えることでもあるんですが、実売率がすごく高いんです。だから一般の雑誌社の人に言うと驚くというか信じてもらえないんですが、『鉄道ファン』の場合、返本率が15%になると『売上げが悪い』と会議になるんです。つまり10%切るのが当たり前という」》
《一般的な雑誌の場合、返本率30%で上々の売上げ。15%を切ると部数を増やすだろう。雑誌には執筆者や関係者に配る見本やバックナンバー用のストックがあるから、10%を切るということは毎号ほぼ完売状態と言っていいだろう。(略)しかも梅原氏在籍中は編集部全員で6名。広告営業を兼ねた編集者を入れても計8名。それで20万部以上の雑誌を作っていたわけだから、とてつもないコストパフォーマンスである》
https://ztokyo.net/articles/umeharajun_02/