【文徒】2018年(平成30)6月29日(第6巻120号・通巻1294号)

Index------------------------------------------------------
1)【記事】「PRESIDENT Online」がスクープした渡部直己セクハラ事件
2)【本日の一行情報】
3)【深夜の誌人語録】

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1)【記事】「PRESIDENT Online」がスクープした渡部直己セクハラ事件

早稲田大大学院の文学学術院現代文芸コースに在籍していた女性が渡部直己教授からセクハラを受けたとして、大学に被害を申し立てていた。渡部は辞表を提出した。
「昨年4月、渡部教授は『お前の作品を見てやる』と女性を研究室に呼び出して食事に誘い、飲食店で『俺の女にしてやる』と言ったという。
女性は同じコースの別の教授に相談したが、教授は『公になるとコースが潰されるかもしれない』『そんなの大したことない』と発言した上、女性に隙があったなどと指摘したという」(毎日新聞)
https://mainichi.jp/articles/20180626/k00/00m/040/088000c
「渡部氏は朝日新聞の取材に『教育熱と恋愛感情をときどき間違えてしまう。相手の気持ちを考えられなかったことは、教育者として万死に値する。本当に申し訳ない』と話した」(朝日新聞)
https://www.asahi.com/articles/ASL6W0DY3L6VUTIL078.html
早稲田大学は「本学教授によるハラスメント行為に関する報道について」を6月26日付で発表した。
「本学教授によるハラスメントに関する報道がされておりますが、本日、当該教授から「退職願」を大学あてに送付した旨の連絡がありました。
しかしながら、本学といたしましては、すでに調査委員会を設置しており、引き続き事実確認を進め、厳正かつできるだけ速やかに対処する所存です。関係者にご迷惑、ご心配をおかけしている点につきまして深くお詫び申し上げます」
https://www.waseda.jp/top/information/59920
渡部が「おれの女になれ」と発言したのは高田馬場の飲食店「カフェ コットンクラブ」だったようだ。もともとは「PRESIDENT Online」のスクープである。6月20日に「早大名物教授『過度な求愛』セクハラ疑惑」を掲載している。ここでは真摯に渡部はインタビューに応じている。
「私はつい、その才能を感じると、目の前にいるのが学生であること忘れてしまう、ということだと思います」
http://president.jp/articles/-/25434
「PRESIDENT Online」は6月22日には「早大セクハラ疑惑『現役女性教員』の告白」を掲載している。
http://president.jp/articles/-/25472
ツイッターでも話題として取り上げられているが、渡部を弾劾するようなツイートが想像していた通り多い。
「『教育熱と恋愛感情をときどき間違えてしまう』って、いちおう教壇に立ってる人間として言えば意味不明。そんなもん、ごっちゃになるはずない」(能川元一)
https://twitter.com/nogawam/status/1011964498146521088
能川は共著に「海を渡る『慰安婦』問題」、「憎悪の広告」、「右派はなぜ家族に介入したがるのか」などがある。
「歴史の総合者として: 大西巨人未刊行批評集成」の編者の一人である橋本あゆみのツイート。
渡部直己氏の事件に関わって、「コンプライアンスもいいが「文芸」を殺すな」などという放言を見た。文学研究の末席ではありますが、弱い立場の人間を踏みにじらないとできないのが日本の「文芸」なら、消え去った方がよろしいかと思います。私は、「文芸」はそんな下らないものだとは思いませんが」
https://twitter.com/Hashimoto2018/status/1010897531088203776
筒井康隆が何者であるかを説明するまでもないけれど、筒井もこんなツイートを投稿している。
「…渡部直己がセクハラをしたとやらでツイッターでは大騒ぎ。昔は格好よくてさぞかしモてたのだろうが、今や歳をとった。まあ女性の方も文学者は虞犯者という認識がなかったのだから不用心だ」
https://twitter.com/TsutsuiYasutaka/status/1011957087113338881
これは豊崎由美のツイート。
渡部直己問題に関しては、関係の深い皆さんにとっては、声の上げようもない、というか、難しいとは思うんですが。でも、関係あるなしは別として、これをきっかけに、ずっと昔からあった文学界隈におけるパワハラ(文壇政治含む)、セクハラの問題がすべて白日のもとにさらされてしまえとは思うわけで」
https://twitter.com/toyozakishatyou/status/1011158770745929728
エスカルゴ兄弟」や「ヒッキーヒッキーシェイク」「猫ノ眼時計」の津原泰水も厳しい。
「被害女性、本当にお気の毒。目を付けられたって事は、ご容姿も然ることながら、才能にも満ちておられる筈。希望に胸膨らませ入った学校で、ご大層な肩書背負って周囲をぺこぺこさせてる奴から、情婦にならなかったら将来をぶっ潰してやる的態度をとられたら、絶対にパニックに陥り肉体にも不調が出る」
https://twitter.com/tsuharayasumi/status/1011846868018520064
これも津原のツイートだ。
「業界を浄化する気が少しでもあるんだったら、まずは教職を持つ作家・評論家の、文学賞選考(候補作選びを含む)への関与禁止だよね。傀儡審査員を立てるなどの抜け道はあるが、せめてその程度の改革にも腰を上げないんだったら、彼らの「文学」は今後ともセクハラパワハラと共に生きる気満々って事だ」
https://twitter.com/tsuharayasumi/status/1011796798476677120
「〈盗作〉の文学史」の栗原裕一郎のツイートも目にとまった。
「村はずれからおれの見るところでは、キーパーソンは、渡部直己よりも、渡部の弟子で『早稲田文学』主宰の、裏で暗躍していた『男性教員』だよ。渡部の単独事件だったらここまで文芸業界、貝になっていないだろう」
https://twitter.com/y_kurihara/status/1011282638210920449
モンタナ州立大学山口智美はアメリカの大学事情にも詳しいのだろう。
「この相談された別の男性教授が『口止め』したというのは、今のアメリカの大学ではポリシー違反扱いだな」
https://twitter.com/yamtom/status/1011959343460171778
いとうせいこうも発言。「文芸漫談―笑うブンガク入門」(集英社)は渡部との共著である。
「渡部さん、これは完全にダメだ。被害者最優先であらゆることが進むべき。組織も20世紀のままだ」
https://twitter.com/seikoito/status/1009364023912091648
これは星野智幸
「怒りしか感じない」
https://twitter.com/hoshinot/status/1009386835095650304
川上未映子がブログで「異常な常識は変えていきたい」を掲載。川上は文芸誌「早稲田文学」の外部編集委員。「早稲田文学」は2017年9月、川上の責任編集で「女性号」を刊行している。周知のように渡部直巳も「早稲田文学」の関係者である。
「渡部氏の──教える側と教えられる側との非対称性を利用したこのような行為にはいくつものハラスメントが混在しており、また大学側の対応が事実であるのなら、これらは決して許されるものではなく、大きな怒りと失望を感じています。被害を受けられた方の心身のご恢復を、心からお祈りしています。
この報道を受け、早稲田大学の公式ホームページには、調査機関を設置し、事実確認を進めるとの声明が出されました。複数人のプライバシーに関わる出来事でしょうから、調査にはそれなりの時間を要するかもしれませんが、大学は一日も早い調査結果の報告と見解を示してほしいと思っています」
http://www.mieko.jp/blog/2018/06/24/2173.html
小説家でもあり、批評家でもある倉数茂は渡部の教え子である。「note」に「渡部直己教授について」を発表している。
「現在ツイッターには、渡部直己を嘲笑し、非難する言葉が溢れている。それは致し方がないと思う。けれど、私の知っている渡部直己は、傲慢な怪物でも、鈍感な権威主義者でもない。いや、威張りんぼではあるけれど、他者の痛みにも敏感で、学生の資質に惚れ込む献身的な教育者でもあったというべきか。その教育スタイルと今回のセクハラが結びついているのが悩ましいところなのだが」
https://note.mu/kurageru/n/n1751342cfaf4
文芸批評家の山崎行太郎フェイスブックで、この問題を論じている。
渡部直己がそいう問題を、まったくおこしそうもない品行方正な奴だとは思わない。渡部直己なら、そういうこともあるかもしれないと思う。渡部直己は危険な男である。渡部直己は熱血漢である。文学や教育においても、行き過ぎもあったのであろう。
文学や文学の現場が、セクハラやパワハラと無縁だとも思わない。ドストエフスキーの『罪と罰』を見るまでもなく、もともと文学や哲学は危険なものである。常識や道徳や法律的正義を疑い、否定、批判するところに、文學や哲学の存在意義がある。ニーチェには『道徳の彼岸』という著作がある。
酒の席で『おれの女になれ』と言われたぐらいで、騒ぎ立てたり、泣き喚いて彼の元に駆けこんだりーーするような女には、文学や小説などの現場に近付かないほうがいい、と私は思う。
私は、不謹慎かもしれないが、文壇の周辺で、こういうスキャンダルが起きたことは、渡部直己には悪いが、いいことだったと思う。これで、文学の本質や実態が明らかになり、批評や文学が蘇る可能性が出て来たからだ」
https://www.facebook.com/permalink.php?story_fbid=2023355957739254&id=100001946089895
しかし、「PRESIDENT Online」は追及の手を緩めない。6月28日には「早大セクハラ疑惑"口止め教員"の怠慢授業」を発表した。
http://president.jp/articles/-/25520
渡部のデビュー作である「幻影の杼機―泉鏡花論」(国文社)を久方ぶりに読み返してみるか。昨年の「日本批評大全」(河出書房新社)は労作であった。

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2)【本日の一行情報】

◎産経の「穂村弘さん歌集『水中翼船炎上中』 懐古と驚きが照らす『今』」は良記事。産経は文学に強いんだよね。ちゃんと「電車のなかでもセックスをせよ戦争へゆくのはきっと君たちだから」も引用している。「水中翼船炎上中」の版元は講談社なんだよね。
https://www.sankei.com/life/news/180627/lif1806270023-n1.html
「シンジケート」に収められている「ハーブティーにハーブ煮えつつ春の夜の?つきはどらえもんのはじまり」とか、「ねむりながら笑うおまえの好物は天使のちんこみたいなマカロニ」を私は愛誦している。

◎3ミニッツが運営するファッション動画マガジン「MINE」(マイン)は、6月27日、ウェブサイト(PC/スマートフォン)をリニューアルし、ブランドロゴを一新した。現在、「MINE」の編集長は「GINGER」の創刊メンバーであった秦亜衣梨がつとめる。「GLAMOROUS」(講談社)や「FIGARO japon」(CCCメディアハウス)の仕事もしてきた。
副編集長はハースト婦人画報社出身の小林輝美がつとめる。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000093.000011770.html

◎エディアは、講談社との共同プロジェクトである新作位置情報恋愛シミュレーションゲーム「マップラス+カノジョ」の事前登録受付を6月27日(水)より開始した。「マップラス+カノジョ」は、エディアが持つ位置情報技術とスマートフォンゲーム開発・運営のノウハウと、講談社が持つコンテンツ制作のノウハウを融合させた位置情報恋愛シミュレーションゲームだ。
http://www.edia.co.jp/news/press/20180627-pluskanojo.html

◎お料理ブログのポータルサイト「レシピブログ」による2018年上半期のトレンド料理ワード大賞は、人気料理ブロガー・松本有美(ゆーママ)の著書「ゆーママの30分でこねずにできる魔法のパン」(扶桑社刊)で提案したパンの作り方「魔法のパン」に決まった。通常3時間ほどかかる工程を30分にまで縮めた手法である。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000133.000026633.html

東急エージェンシーは、マーケティングアプリケーションズと共同で、感情認識AI技術を使って、動画視聴時の表情からその動画によって起こる感情を分析する表情解析Web調査サービス「エモーション・キャプチャー」の販売を開始した。
http://www.tokyu-agc.co.jp/news/2018/release20180626.pdf

ますむらひろしの「アタゴオル」(KADOKAWA) はアタゴオルと呼ばれる猫と人が同等に暮らす架空世界を舞台に、猫のヒデヨシが起こす数々の騒動を描いた物語だが、「アタゴオル」シリーズのキャラクターと葛飾北斎の浮世絵が合体した「アタゴオル×北斎」作品を、北斎の浮世絵とともに紹介する『ますむらひろし北斎展 ATAGOAL×HOKUSAI』が、すみだ北斎美術館にて開催されている。
http://cinema.pia.co.jp/news/0/75776/

電通出身で、現在、ライトパブリシティで代表取締役社長をつとめる杉山恒太郎インプレスより「アイデアの発見 杉山恒太郎が目撃した、世界を変えた広告50選」を刊行した。「Agenda note」で電通のコピーライター藤本宗将と対談している。杉山の発言を紹介しておこう。こういうことを言えちゃうのが杉山さんなんだよね。
「そもそも広告の原点は個人広告だと思うんです。僕はジョン・レノンオノ・ヨーコが1969年12月に出した『WAR IS OVER!IF YOU WANT IT』のビルボード広告を見た時に得心しました」
https://agenda-note.com/brands/detail/id=292&pno=0
https://book.impress.co.jp/books/1117101105
杉山さんはロシアにサッカーを見に行っているのだろうか?

パピレスは、2018年6月26日(火)より、同社が運営する電子書籍レンタルサイト「Renta!」において、自社オリジナルレーベル「Rentaコミックス」を立ち上げた。第一弾は「Renta!タテコミ大賞」受賞の「きみにあいを!」の連載を開始した。
https://www.papy.co.jp/info/index.php?page=/release/180626.htm
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000071.000022475.html

◎「Yahoo!ニュース 個人」は植村八潮(専修大学教授)による「出版界は『軽減税率適用』のために『表現の自由』を手放すのか?」「安易な『有害図書排除』が与党に忖度した報道につながる理由」を掲載している。
「出版界がコンビニで成人雑誌の区分陳列(ゾーニング)を自主規制として始めた理由は、権力の介入を防ぐためである。つまり、自主規制は、公権力の介入から出版・表現の自由を守るための盾としてある。
軽減税率適用のために出版物の区分けすることとは、明らかに目的が違う。それは出版倫理協議会・出版ゾーニング委員会運営要領の第一に『出版の自由を守り』と書き出していることからもわかる」
https://news.yahoo.co.jp/byline/uemurayashio/20180627-00087064/
https://news.yahoo.co.jp/byline/uemurayashio/20180628-00087211/

◎これは韓国の取り組み。「東亜日報」が「金曜日は『深夜の本屋』、毎月最後の金曜日は24時間営業」を掲載している。
「『2018本の年』を迎え、韓国全土の市中書店が今月から毎月最後の金曜日の夜に『深夜の本屋の日』という行事を開催する。通常、午後9時前後で営業を終えるが、この日は夜12時過ぎまで営業し、閉店時間は自主的に決め、24時間営業するところもある」
http://japanese.donga.com/List/3/04/27/1367498/1

デジタル・アドバタイジング・コンソーシアムの DMP「AudienceOne」は、フロムスクラッチマーケティングプラットフォーム「b→dash(ビーダッシュ)」とデータ連携を開始した。
「AudienceOne」は、月間4.8億ユニークブラウザと9,000万のモバイル広告ID、1兆レコード以上の膨大データを保有し、そのデータを解析して高精度な3rdパーティデータを提供する国内最大級のデータ・マネジメント・プラットフォーム(DMP)である。
一方、「b→dash」は、マーケティングプロセス上に存在する全てのビジネスデータを、一元的に取得し、統合および活用、分析までを行うSaaSマーケティングソリューションである。
今回の連携により、「b→dash」に蓄積されたサイトの訪問履歴や購買データ、顧客データと、「AudienceOne」が独自で保有している3rdパーティデータを掛け合わせ、より明確にユーザー像を描き、可視化することができるようになる。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000120.000017676.html

◎クラシルとマガジンハウスが共同で運営する新メディア「1_weekends」はプレミアムフライデー推進協議会主催の「おつかれリセットフライデー」に参加し、資生堂《ベネフィーク リペアジーニアス》が当たるキャンペーンを開始した。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000034.000019382.html

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3)【深夜の誌人語録】

言葉は磨くことによって体温を獲得する。