【文徒】2018年(平成30)7月3日(第6巻122号・通巻1296号)

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1)【記事】「紙」を離れた漫画、漫画家、そして編集者たちがウェブで目指すものは?
2)【本日の一行情報】
3)【人事】主婦の友社 6月26日付役員人事
4)【人事】KADOKAWA 7月1日付人事異動

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1)【記事】「紙」を離れた漫画、漫画家、そして編集者たちがウェブで目指すものは?(岩本太郎)

相変わらずコミック誌の休刊が続く。昨日も報じた通り、30日には幻冬舎コミックスの『月刊バーズ』が同日発売の8月号をもって休刊することを誌面や公式サイトを通じて発表。連載作品は今月30日オープンの無料マンガサイト「デンシバーズ」に移行するという。
https://mainichi.jp/articles/20180629/dyo/00m/200/044000c
「デンシバーズ」移行作品のリストは以下の公式サイトに掲載されている。移行作品以外でも、例えば「Under the Rose 〜春の賛歌〜」(船戸明里)は各電子書店で9月10日より配信開始。「バリエ ガーデン」(木々)は無料のコミックサイト「ルチルSWEET」で8月22日から……という具合に、愛読作品の行方に気を揉むだろう読者向けの告知もきちんと行われている。基本的にどの作品も移行先は全てウェブ媒体になるようだ。
http://www.gentosha-comics.net/birz/
ちなみに、上の毎日の記事ではさらりと《同誌は、1986年11月に「コミックバーガー」として創刊し》と書かれているように、『月刊バーズ』は源流をたどれば今はなきスコラが発行していた『コミックバーガー』だった。
『ねとらぼ』はこのあたりの変遷の歴史をもう少し詳しく報じている。
《『月刊バーズ』は、2度の会社移籍と誌名変更を経て続いてきた異色の漫画誌だった。1986年に『コミックバーガー』としてスコラと講談社から創刊。1988年からはスコラのみが発行元となり、1996年4月号で一度休刊したが、同年7月号から『コミックバーズ』へと名を変え新創刊した。1999年にスコラが経営破綻したが、漫画編集部がソニー・マガジンズへ移籍することで続刊。2001年にはソニー・マガジンズがコミック関連からの撤退を決定し、今度は編集部が幻冬舎の子会社・幻冬舎コミックスへと移ることで発行を継続。2015年に『月刊バーズ』として新装刊して現在に至る》
http://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1805/30/news089.html
確かに連載中の作品ならともかく、コミック誌自体がいくつもの版元を渡り歩くケースというのは出版業界でも過去にそれほど多かったわけではない。もっとも、これまでは休刊した後に雑誌や作品が移るのは、やはり他の紙の版元だったわけで、それがウェブに変わった今回のケースはやはり紙媒体のコミック誌が一つの曲がり角に来たことを象徴しているとも言えるだろう。
『日刊サイゾー』では是枝了以がこうした状況について《相次ぐ休刊で“マンガ雑誌の未来”は?》と、書店員や編集者による以下のような悲観的なコメントをまじえながら論じている。
《雑誌を発行している出版社が無料のウェブコミックを多数発行したりするのですから、読者がそっちに流れるのは当然でしょう。まだ安定しているとはいえ、無料が当たり前になっていけば、いずれコミックの売り上げも下がっていくことになるでしょう。自分で自分の首を絞めていますよ》(都内の書店員)
《ここ数日、『週刊少年ジャンプ』(集英社)に連載されている『ジガ-ZIGA-』に登場する“命令者ちゃん”が、ネット上で妙な話題になっていますけど……わざわざ本誌を買ってアンケートハガキを送ってくれるような人は限られているでしょう。カネを使わずに楽しむ文化が普及している今、もうマンガ文化そのものが衰退期に入っているといえるでしょう》(編集者)
http://www.cyzo.com/2018/07/post_167816_entry.html
とはいえ、雑誌や連載作品に限らず、そこで働いていたマンガ編集者も紙のくびきを離れ、ウェブ媒体へとポジティブに活躍舞台を移す時代でもある。かつて小学館で『週刊少年サンデー』『ビッグコミック』などの編集を担当し、今年5月に『comico』の編集長へと転じた武者正昭が『ORICON NEWS』のインタビューに応えて語った《「紙からデジタル」移行の魅力》は前向きなトーンに溢れている。
《紙の出版社には温度差があって、『紙の方がいい』とこだわっている人がたくさんいる。ただ、『デジタル』の波が現実問題として押し寄せてきていて、今の漫画業界は激しく動いている。電子書籍はほかにもありますが、漫画のアプリの広がり方はすごかった。変化して大きくなっていく業界にとても関心があったので転職を決意しました》
《昔の映画から白黒テレビの時代へ覇権が移った転換期に似ているなと。映画は大画面でテレビはそれよりコンパクト。昔の映画俳優さんはテレビの小さい箱に抵抗があったと聞いている。『本来の自分たちは大きなスクリーンで活躍するもの。小さい画面なんて…』みたいな。ですが、視聴者がどんどんテレビへ移動して、映画俳優たちもこれを無視できなくなった。それでも、映画は無くならず、約50年経った今も映画とテレビは共存している》
《デジタルコミックの世界は、ある一定の段階にきている。中国・韓国などの動きを考えると次なる爆発を予感していて、モノクロ画面中心の世界にいた自分としては、『comico』のフルカラー画面の世界は敷居が高く感じていましたが、この縦カラーの流れは先導役、主役になるべきだと思う》
https://www.oricon.co.jp/news/2114324/full/?utm_source=Twitter
武者はさらに《今は、色んな目線や表現が求められる複雑な時代なため、1人の編集者では対応しきれない》《作家のマネジメント、プロデュース、カウンセリングなどさまざまな役割を今の編集者はしていますが、今後は、企画性を重んじたプロデューサー的な役割が求められると思う》と述べている。確かにこうした展開は、従来の紙の出版社の舞台にした編集者?漫画家との二者間に完結しがちな在り方よりは、他と融通無碍に組めるウェブメディアのほうが柔軟にこなせる部分はあるだろう。マンガ家や作品のみならず雑誌や編集者もウェブの大海へと解放されていく時代なのだ。

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2)【本日の一行情報】(岩本太郎)

◎上に登場する武者正昭も小学館時代に『海猿』で一緒に仕事をしたという佐藤秀峰が、「漫画村の閉鎖によって漫画の売り上げは回復したのか?」で、この間にウェブ上にあげられたいくつかの論考も引用しつつ、結論としては冒頭で《漫画村の影響を現時点で判断することはできません》。
https://note.mu/shuho_sato/n/nb1d653c91cfe

海賊版対策は「接続遮断」が「唯一の手」だとする川上量生朝日新聞のインタビューに応じ、改めて持論を展開。
漫画村による被害は「運営者が金銭賠償できるような規模の損害ではない。反対派の主張はお花畑の世界だと言わざるを得ない」
出版社の垣根を越えて使い勝手の良い電子版のサービスを提供できない出版界の努力不足を指摘する声もあるが、これについても「各社を越えた便利なサイトを作れというのは、『クリエーターや出版社に売り先を選ぶ権利を認めるな』という主張だ。自由主義経済の原則に反している。各出版社がどうもうけていくかは、それぞれの戦略で決める権利がある」と反論する》
https://www.asahi.com/articles/DA3S13565103.html

◎なおも『けものフレンズ』騒動の余震が続いているらしい。
先月20日に開催されたカドカワ株主総会でもたつき監督の解任理由を問う質問が出たという。井上伸一郎は《KADOKAWAは13社の出資会社の1つであり、各社の統一した意見として解任に至った》、川上量生は《ドワンゴ側はある種、事故に巻き込まれた形》などと説明したそうだ。
http://otapol.jp/2018/07/post-13020.html

◎物議を呼んだサッカーW杯「日本vs.ポーランド戦」の裏側で、日本のマスメディアがポーランド政府観光局日本支局への取材で顰蹙を買ったらしい。同支局がTwitterの公式アカウントで28日午後に状況を明かしていた。
FIFAの件でTVからたくさん電話が来ます。ただ、今日の試合の関連番組制作で、リサーチのできるポーランド語人材が見つからないため丸投げの印象が非常に強く遺憾です。だれでもネットで調べられる事柄ぐらいは「なる早で全部お願い」ではなく、ご自身でもお調べになられてはいかがでしょうか?》
https://twitter.com/PolandTravel_jp/status/1012172455148810241
《それからもう一つ。#FIFA2018 の件で当局に電話をかけてこられる番組制作会社の皆さんは、ほとんどが電話番号非表示でかけて来られますが、これはいかがなものでしょう?》
https://twitter.com/PolandTravel_jp/status/1012174962658967552
https://rocketnews24.com/2018/06/28/1083672/

◎昨日も紹介した民放キー局での長時間労働・違法残業問題に関連して、NPO法人POSSE代表の今野晴貴が、局の下で働く制作会社における長時間労働問題に言及。テレビ局での「働き方改革」が、下請け状態を強いられている番組制作会社スタッフの長時間労働をむしろ進めているという皮肉な現状を指摘している。
《なぜ大手メディアの「働き方改革」が下請け制作会社の長時間労働化を進める結果となってしまうのだろうか。上記の制作会社のBさんによれば、これまでテレビ局ではゴールデンウィークにも会議を開催していたのだが、現在ではテレビ局の正社員が休日や有給休暇をしっかり取得する「働き方改革」が進められているのだという。
彼らが休暇を取るために、この局ではゴールデンウィーク中の会議が禁止された。そこまでは良い。ところが、その割りを食ったのが下請けの制作会社だ。大型連休前に会議を終わらせる必要があるからと、番組の納品の期日が前倒しになり、これまで以上に制作期間がタイトになってしまい、以前を上回る長時間労働に陥ってしまったのだという》
https://news.yahoo.co.jp/byline/konnoharuki/20180629-00087439/

山梨県内で毎週金曜日に新聞を発行している山梨新報社(本社・甲府市)に勤務する34歳の男性記者が、甲府市内で起こった強盗致死事件を報じるに際し、地元の県紙である「山梨日日新聞」が掲載した同事件容疑者の顔写真を盗用したのではないかとの疑惑が山日からの指摘で浮上。山梨新報は社内調査のうえ盗用を認め、山日に謝罪するとともに当の男性記者を編集部内の内勤部署に異動させたことを26日に発表した。ただし記者は盗用の疑いを全面的に否定しているという。
https://www.sankei.com/affairs/news/180626/afr1806260017-n1.html
山日は傘下に山梨放送YBS)や山梨文化会館などを有する山日YBSグループのトップ企業。一方の山梨新報社はTBS系のUTYテレビ山梨グループの企業であり、各全国紙の販売所に委託する形で週1回の新聞を発行している。なお、山日新聞も2007年に社説を他の地方紙から盗用していたことが発覚し、全国紙など各メディアで大きく報じられた「前科」がある。
https://www.j-cast.com/2007/02/07005383.html
https://www.j-cast.com/2007/02/21005666.html

東京新聞編集委員吉岡逸夫が今年2月に膵臓がんで亡くなっていた。享年66。高卒後に写真専門学校を経て青年海外協力隊員となり、エチオピアへ。帰国後はCM制作会社や旅行専門誌などに務めながらドキュメンタリー制作を志すも適わず中日新聞社にカメラマンとして入社し、湾岸戦争自衛隊カンボジア派遣などの取材をこなすうちに社会部記者に転じたという異色の経歴の持つ名物記者として知られた。自衛隊ルワンダ難民救援派遣での取材体験を踏まえて執筆した『漂泊のルワンダ』で開高健賞奨励賞を受賞するなど著作も多いほか、ドキュメンタリー映画『笑うイラク魂』『戦場の夏休み』『人質』なども手掛けた。
https://toyokeizai.net/articles/-/225741
http://www.jinzai-bank.net/edit/info.cfm/tm/017/

◎フジテレビ系『ザ・ノンフィクション』で昨年10月に放送され、ドキュメンタリー番組としては異例の高視聴率を上げたことでも話題となった『人殺しの息子と呼ばれて』が、同番組のチーフプロデューサーで作中でのインタビュー役も務めた張江泰之により書籍化され、今月20日KADOKAWAより発売されることになった。25日には紀伊国屋書店新宿本店で張江を招いてトークイベントも行われるそうだ。
https://www.kadokawa.co.jp/topics/2124
https://www.kadokawa.co.jp/product/321712000258/

地下鉄サリン事件(1995年3月20日)などに関与した死刑囚への刑の執行が近いのではないかとの観測から久々に注目を集めているオウム問題だが、94年の松本サリン事件から24年にあたる6月27日についてフォローしたメディアは少なかった。地元の信濃毎日新聞は地元住民などの思いを伝えるレポートを掲載。事件で被害を受けて第一通報者となりながら当初は「犯人視」報道にさらされた河野義行は現在では愛知県に移住。中京テレビのインタビューに応えていた。
http://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20180628/KT180627FTI090020000.php
http://www2.ctv.co.jp/news/2018/06/28/12905/

芥川賞候補となった北条裕子の小説『美しい顔』が『群像』掲載時に参考文献を示さなかった問題で、北条が参照したという『3.11 慟哭の記録』(金菱潔・編/東北学院大学震災の記録プロジェクト)の新曜社は、2日に「想像力だけでリアリティーに迫れるのか、被災当事者はどう受け止めるのか、など開かれた議論が求められる」とのコメントを発表した。
https://this.kiji.is/386372669249537121

◎昨日の文徒で掲載した「【記事】群像新人賞受賞作にして芥川賞候補の北条裕子『美しい顔』がお詫びを発表の『何故?』」で誤植をしでかしてしまった。作品名を誤記してしまったのである。昨日の記事には「1979年に中沢けいの『海を感じる時』と同時受賞を果たした小幡亮介の『永遠の一日』に開高健の『夏の闇』と類似した表現があり、盗作問題が起きたことがある」とあるのだが、これは「永遠の一日」ではなく、「永遠に一日」が正しい。実は私(今井)は、この小説を当時の「群像」で読んでいる。しかも、私の好みからいえば中沢けいの「海を感じる時」よりも「永遠に一日」に軍配をあげていた読者であったから、「永遠に一日」の盗作問題はショックであった。
私が「群像」を評価しているのは、デビュー作で盗作問題を引き起こしてしまった小幡亮介を作家として見捨てなかったことである。三田誠広が「新しい書き手はどこにいるか」(河出書房新社)で取り上げているように「『群像』編集部が誠意をもってあなたをフォローし、あなたもおそらく死にもの狂いで頑張ったのだろう。『群像』の巻頭に、二年ぶりであなたの作品が載った」のである。作品のタイトルは「欲望」。三田が、ではこの「欲望」にどのような評価を下したのかといえば、こうだ。
「それにしても、うますぎると、と私は思う。そして、うますぎる、とひとに感じさせるのは、結局は、表現がうまくいっていないのではないか、という気がする。だが、怖ろしいほど才能のある人だ。次作を、期待する」
しかし、この「怖ろしいほどの才能」は同時代の文学から結局、抹殺されてしまう。アマゾンの検索に「小幡亮介」の名前を入れて見ても、一冊の書物も出て来ない。
私は休日中に北条裕子の「美しい顔」を読んだ。第一印象は「うますぎる」であった。「うますぎる、とひとに感じさせるのは、結局は、表現がうまくいっていないのではないか」どうか私にはわからない。しかし、北条が怖ろしいほどの才能の持ち主で、『群像』編集部が誠意をもって北条をフォローし、北条が死にもの狂いで頑張ったとして、「怖ろしいほどの才能」が文学に居場所を確保することは決して容易いことではないのである。(この項のみ、今井照容
https://goo.gl/PbMxRJ

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3)【人事】主婦の友社 6月26日付役員人事

同日に開催された第35回定時株主総会にて以下の取締役が選任され、引き続き開催された取締役会において代表取締役が就任した。(矢崎謙三の崎の右上は「立」)

取締役会長(非常勤)小林 圭太
代表取締役社長   矢崎 謙三
(社業全般・関連会社・労務・販売マーケティング本部長〔委嘱〕)
取締役 松本 和之
(メディア事業本部長〔委嘱〕)
取締役 前田 起也
(コンテンツ事業本部長〔委嘱〕)
取締役 小木 浩
(経営企画室長・管理本部長〔委嘱〕)
取締役 久保 朗[新任]
経理本部長〔委嘱〕) 
取締役(非常勤)内沢 信介
取締役(非常勤)吉田 孝浩
監査役 森田 稔

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4)【人事】KADOKAWA 7月1日付人事異動

加藤 玲奈
新:ビジネス・生活文化局 生活情報ブランド部 東京ウォーカー編集課 課長兼 編集長
旧:ビジネス・生活文化局 生活情報ブランド部 レタスクラブ編集課 デスク

嶋村 光世
新:ビジネス・生活文化局 地域情報部 東海エリア課 副編集長
旧:ビジネス・生活文化局 ウォーカー事業推進部 東京エリア課 担当課長 兼編集長

町田 拓郎
新:ビジネス・生活文化局 地域情報部 九州エリア課 課長 兼 編集長
旧:ビジネス・生活文化局 ウォーカー事業推進部 東海エリア課

飯尾 賢
新:ビジネス・生活文化局 ブッキング部 課長
旧:ビジネス・生活文化局 ウォーカー事業推進部 九州エリア課 担当課長 兼 編集長

盛田 勉
新:OEM統括部 部長
旧:ビジネス・生活文化局 局次長 兼 ウォーカー事業推進部 部長