【文徒】2018年(平成30)8月7日(第6巻146号・通巻1320号)

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1)【記事】読売新聞「東京医科大・女子一律減点」報道への「説明責任」を問う指摘
2)【本日の一行情報】

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1)【記事】読売新聞「東京医科大・女子一律減点」報道への「説明責任」を問う指摘(岩本太郎)

読売新聞が2日付朝刊トップで載せて大反響を呼んだ東京医科大「女子受験者を一律減点」報道について、元産経新聞記者で弁護士の楊井人文一般社団法人日本報道検証機構代表)が翌2日付の『Yahoo!ニュース』に「まだ鵜呑みにできない理由」を指摘する論考をさっそく載せていた。その2日付記事よりいくつかの箇所を引用しつつ、その段階では「一律減点」が事実だと信じるに足るだけのエビデンスは示されていない、ということを具体的に指摘している。
《この裏付けとなる「証拠」(エビデンス)は何か、とみてみると、匿名の「関係者」の話しか出てこない》
《(証言者として)「関係者」と「同大関係者」というのが出てくる。同じ人物か別人か、どういう立場の人間か、これだけではわからない。(略)「そのような事実がある」と取材に対して証言した人物が、いったい何人いるのか。「女子一律減点」に直接関わった人物なのか、伝聞で知った人物なのか、その証言の裏付けとなる客観的証拠もあるのか、証言だけなのか。
どこを読んでも、読者には、記事の信憑性を判断する手がかりが何ら与えられていない。この記事のリードには「大学の一般入試で性別を対象とした恣意的な操作が明らかになるのは極めて異例で、議論を呼びそうだ」と書かれている。裏を返せば、メディア(読売新聞)は、読者に記事の信憑性を判断する手がかりを与えずとも、これを事実として受け入れ議論してくれると考えている。そして、実際にその思惑どおりになっているのだ》
https://news.yahoo.co.jp/byline/yanaihitofumi/20180802-00091684/
承知の通り、この問題については読売のスクープを受けて各大手メディアが続々と後追い報道に乗り出しているが、今のところ「一律減点」そのものが誤報だったとの話は出ていない。もとより楊井自身も上記で《正直いえば、誤報になる可能性は極めて低いと私は思っている》と述べた通りの展開になっている。
もっとも、読売は4日付に掲載した社説「東医入試疑惑 受験生への説明責任を果たせ」の時点でも、記事中では女子受験者に対する一律減点について《事実であるなら、受験生への背信行為だというほかない》と、頭に断りを入れたうえで批判している。この時点でも裏付けがまだ取れていないのではないかとも思われる記述だ。
https://www.yomiuri.co.jp/editorial/20180803-OYT1T50127.html
朝日新聞は3日付の社説で《事実であれば許しがたい行いだ》と、同じく留保付きで言及している。他紙でも《信じがたい不正が、東京医科大で何年も前から隠れて行われていた疑いが持ち上がっている》(信濃毎日新聞4日付社説)や《受験者の得点を操作して女子合格者の割合を抑えていた疑いがあることが分かった》(秋田魁新報4日付社説)といった具合に、断定せずに論評するケースが見られた。
https://www.asahi.com/articles/DA3S13618927.html
https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20180804/KT180803ETI090014000.php
https://www.sakigake.jp/news/article/20180804AK0008/
毎日新聞は4日付社説の時点で《女子受験生の得点を一律に減点し、合格者数を抑えていた。得点操作はマークシートの1次試験の際に行われていた》と断定のうえ《断じて容認できない》と批判している。もっとも、その毎日も読売の「スクープ」を受けて後追いした2日昼過ぎの第1報では《女子受験生の点数を一律で減点するなど男子受験生を優遇していたことが関係者への取材で明らかになった》と「関係者」とは誰なのかを明示しないまま報道するにとどまっていた。
http://mainichi.jp/articles/20180804/ddm/005/070/122000c
https://mainichi.jp/articles/20180802/k00/00e/040/299000c
日経新聞にしても2日朝の後追い後追い第1報では《2日、関係者への取材で分かった》としたのみ。以後は《2日発覚し》《2日、判明した》と証拠を示さぬまま続報を重ねていた。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO3370137002082018CC0000/
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO33711350S8A800C1000000/
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO33747030S8A800C1EA2000/
読売は5日付朝刊で「女子だけでなく、3浪の男子も抑制」と題し、この問題について東京医大による《同大による内部調査の詳細が判明した》と続報。
《一連の得点操作は、臼井正彦前理事長(77)の指示で行われていた》
《同大は週内にも調査結果を公表する見通し。文部科学省の私大支援事業を巡る汚職事件で、臼井前理事長を贈賄罪で起訴した東京地検特捜部も、一連の操作を把握しているとみられる》
https://www.yomiuri.co.jp/national/20180805-OYT1T50003.html
但しこの「内部調査」が「一律減点」の証拠、もしくはそれと何か関わりがあるものなのかは否かは定かではない。前出の楊井もこれを受けて同日付『Yahoo!ニュース』で《当初報道の一部が事実と異なることを認める内容で、前日まで使われていた「女子受験生の一律減点」という表現は一切なくなっていた》と、再びこの件に言及。有料版の「ヨミウリオンライン」から記事の該当箇所を引用しながら以下のように論じている。
《要するに、1次でも2次でも女子だけを対象にした一律減点はしておらず、2次で現役〜3浪の男子に加点するなどの得点操作をしていたということのようだ。(略)事実であれば(これも読売が取材した「関係者」情報であって、まだ事実と確証できるものではない)、従来の「1次で女子を一律減点した」という報道は誤報だったことになる。
もちろん、この続報のとおりであっても、女子合格者を抑制する効果を狙っていたと考えられるから、その限りでは誤りではない。読売新聞も、今朝の続報から「東京医科大(東京)が医学部医学科の一般入試で女子受験生の合格者数を抑制していた問題」という表現に切り替えている》
《事実関係が確定すれば、読売新聞をはじめ各紙は、きちんと一部訂正して検証すべきではないだろうか》
https://news.yahoo.co.jp/byline/yanaihitofumi/20180805-00092047/
具体的論拠を示さず「関係者」証言をもとに報道する藪の中方式は昔から週刊誌などの雑誌が得意としてきた。ただ、今回は他紙によるスクープを欧米のように「〇日付〇〇紙が報じた」と明記することをしないまま後追い報道する日本の新聞界の慣習がそこに重なってきたことで”疑惑”が他へも拡散しつつあるようだ。

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2)【本日の一行情報】(岩本太郎)

◎『マガジン航』での仲俣暁生による〈月のはじめに考える-Editor's Note〉8月6日付は「出版業界は沈みゆく泥舟なのか」。《これまではできるだけポジティブな話題を見つけるようにしてきた。でも今月はどうしても筆が進まず、公開が週をまたいでしまった。いまだに何を書いてよいやら、という諦めのような境地にさえなっている》と前置きしつつ、インプレス総研が先日発表した「2017年の日本の電子書籍と電子雑誌の市場規模」などをもとに《紙も売れなければ電子もダメ、まさに八方塞がりの状況》ともいうべき出版業界の行く末を案じている。
https://magazine-k.jp/2018/08/06/editors-note-35/

◎上記の楊井が代表を務める日本報道検証機構が公式サイトに掲載した産経新聞についての検証記事を、『週刊金曜日』が2017年2月17号および単行本『検証 産経新聞報道』において「盗用」したのではないかと指摘されていた問題について、同誌の小林和子編集長は8月3日号で4ページにわたる検証記事を掲載のうえ謝罪した。
『検証 産経新聞報道』めぐる本誌部員の「盗用問題」
http://www.kinyobi.co.jp/
楊井は《当初行き違いがあり、解決に少々時間がかかりましたが、ジャーナリズム倫理の重要な一問題についてほぼ意見の一致を見ました》とFacebook上で見解を表明した。
https://www.facebook.com/photo.php?fbid=2069495429792141&set=a.193881467353556.47294.100001951136965&type=3&theater

愛媛新聞オンラインによれば、集英社は豪雨災害を受けた宇和島市に対して義援金200万円を新居浜市を通じて宇和島市に贈るとともに、新居浜市のあかがねミュージアムに100万円を寄付した。この100万円は4日開幕の企画展「Hello, ONE PIECE」などに宇和島市の児童生徒らを招待する費用に充ててもらう。3日に新居浜市役所で行われた贈呈式で集英社の廣野真一常務が石川勝行市長に目録を手渡したそうだ。
https://www.ehime-np.co.jp/article/news201808040034

◎音楽グループ「AAA(トリプルエー)」が特集や付録、表紙に登場した『with』9月号は「ネット書店では売り切れが続出」とのこと。
https://www.musicman-net.com/artist/77804

◎11月にサンマークから出版予定の小林麻耶の著書『しなくていいがまん』は、既に原稿が全て書きあがっていたものの、小林の突然の結婚および事務所退所表明により現在書き直しを進めている最中だという。
https://www.daily.co.jp/gossip/2018/08/03/0011508472.shtml

和歌山県高野町高野山金剛峯寺が年1回刊の雑誌『KUKAI〜空海密教の宇宙』を9月に創刊する。
http://www.koyasan.or.jp/news/2018/05/14/3849/
https://mainichi.jp/articles/20180803/k00/00e/040/211000c

玄洋社の総帥・頭山満係累にあたり、今年3月に筑摩書房から刊行された中島岳志の『超国家主義:煩悶する青年とナショナリズム』の写真を担当した写真家・頭山ゆう紀の写真展が18日まで中野区上高田の「スタジオ35分」で開催中。『文春オンライン』が頭山へのインタビューを掲載している。
https://twitter.com/YuhkiTouyama/status/1015256715502055424
http://bunshun.jp/articles/-/8453

◎あの大泉洋出世作となった北海道テレビHTB)の人気バラエティ番組『水曜どうでしょう』のマンガ企画が『週刊少年チャンピオン』で進行中だという。
https://mainichi.jp/articles/20180801/dyo/00m/200/045000c

◎民間のみならず公共サービスでも電子化が進み、欧州でも究極のペーパーレス国家として知られているエストニアには実はアマゾンの拠点がなく国内ではサービスが使えないという意外な事実を、当地在住で仮想通貨のシンクタンクを営んでいる福島健太が『BUSINESS INSIDER』でレポートしている。
https://www.businessinsider.jp/post-172497
https://news.mynavi.jp/article/paperless-3/

◎『ニューヨーク・デイリー・ニュース』で7月23日に行われた大量解雇劇の舞台裏について、解雇を免れたエディトリアル・スタッフに『DIGIDAY』がインタビュー。表題の「新聞はもう死んでしまったように感じる」は原題では「It feels like the paper died’: Confessions of a New York Daily News staffer」。「神は死んだ」といってるような感じらしい。
https://digiday.jp/publishers/feels-like-paper-died-confessions-new-york-daily-news-staffer/

東日本大震災の被災地での救援活動の後、岩手県議を辞した高橋博之が復興支援ビジネスの一環として2013年7月に創刊した食べ物付き情報誌『東北食べる通信』は、A3判オールカラー16ページの誌面に毎回少量の食材がついてくる形式。そこからSNSを通じたネットワークが広がり、現在では全国各地に購読者が拡大。共鳴した台湾のメンバーによる「台湾版」も登場している。
《購読者たちは、情報誌を読んだ後、食材を口にする。ある読者は、殻付きのカキの身をとるために家族総出で格闘し、とれたての赤色の生ワカメをゆでると緑色になることに感激した。食べ終わると、フェイスブック上の購読者グループに届いた食材で作った料理の写真を投稿し、「素晴らしいカキをごちそうさまでした」「ありがとう」とコメントする。(略)
長期休暇になると、購読者がSNSでつながった生産者のもとを訪ね、リアルな場でも交流するようになった。生産者を都会のレストランなどに招き、購読者と種まきや稲刈りといった生産現場の様子を話す対面の場も設けた。購読者は1年半で定員の1500人になった》
《同じように一次産業の衰退に悩む地域から創刊を目指す声が続々と寄せられた。高橋は14年4月、一般社団法人日本食べる通信リーグ」を創設した。ノウハウを共有しながら仲間を増やし、各地で創刊が相次いだ。いまは全国34誌に広がり、購読者は約1万人を数える》
https://globe.asahi.com/article/11724539
https://tohokutaberu.me/
http://taberu.me/

◎『hon.jp』がアメリカで10代の若者たちが読んだ本の感想をYouTubeで紹介しつつ他の読者たちと語り合う「ブックチューバー」がブームになっている状況をレビュー動画付きで紹介。
https://hon.jp/news/1.0/0/12192
日本にも同様の存在が出てきているらしい。「ベル」と名乗る若い女性が、自身の読んだ本や音楽など様々な情報をYouTubeで発信している『ベルりんの壁』(2015年6月登録)は既には約2万5000人ものチャンネル登録者を獲得している。
https://www.youtube.com/channel/UCL4QAojeGy6CJ9R2PwmlmJQ
https://keiichinishimura.com/youtuber-belle/
https://withnews.jp/article/f0180805002qq000000000000000W09210801qq000017527A