【文徒】2019年(令和元)6月19日(第7巻107号・通巻1527号)


Index------------------------------------------------------
1)【シリーズ】講談社広報室の劣化 #7「ViVi」における不適切な表現について
2)【記事】関西テレビ 常務の謝罪と差別番組について
3)【本日の一行情報】
4)【深夜の誌人語録】
----------------------------------------2019.6.19 Shuppanjin

1)【シリーズ】講談社広報室の劣化 #7「ViVi」における不適切な表現について

「ViVi」の公式ツイッターが復活したことは報告したが、炎上する以前の6月10日に次のような投稿がなされていた。
「ニコル『私はもう本当にその人しか見えなくなる。盲目タイプ?
星夏『それは昔から変わんないよね(笑)』
ニコル、星夏、愛花の3人が恋バナのため焼肉屋さんに集合。2時間ノンストップの赤裸々トークを特別に大公開しちゃいます!」
https://twitter.com/vivi_magazine/status/1138034042375462913
本文を見てみると藤田ニコルが「私はもう本当にその人しか見えなくなる。盲目タイプ?」と語ると、古畑星夏が「盲目(笑)。それは昔から変わんないよね(笑)。でもニコルのことは昔から知っているけど、恋愛観は大人になったと思う」と応じている。
https://www.vivi.tv/post28870/?utm_content=2380674149
視覚障碍者の存在を念頭に置いたとき、果たして、ここで「盲目」という言葉を使うべきかどうか、当然のごとく編集者は悩みに悩んだ末に「盲目」という言葉を確信的に選択したのだろうが、その判断は正しいのだろうか。他にも言い換えは可能なはずである。それだけに「ViVi」のツイートに対して、「使うべきではないと思う」というレスがあったことを報告しておこう。
「盲目は差別用語ではないという見解があるが、使うべきではないと思う。講談社自民党とのコラボで大失敗をやらかしたばかりなのに、無神経過ぎやしないだろか?」
https://twitter.com/deltaforceJP/status/1139438603220557824
私も「盲目」という言葉を「ViVi」のような大衆誌において使うことは避けるべきだと考える。
何故なら、「盲目」には視覚障害者に対して社会に存在する差別意識が歴然と現れていると私は考えているからだ。小林健治の次のような指摘を引用しておこう。
「それでは、視覚障害をもつ人たちは、この言葉についてどのような思いを抱いているのか。拙著『差別語・不快語』の中でまとめている、遠藤織枝氏の調査(2000年)から見てみよう。
 先に例にだした『めくら蛇に怖じず』に対して、『容認できる』と答えた視覚障害者は23.5%。『避けたい』『絶対に言わない』と答えた人は53.0%である。
『群盲象をなでる』については、容認は23.1% 拒否は45.8%
『盲目的』(盲目ではない)については、容認が45.3%、拒否42.3%と意見が分かれている。『盲目的』と『盲目』では、『盲目』のほうがより強い表現のように思われるが、それでも半数近くの視覚障害者が差別感(不快感)をもっている」
http://rensai.ningenshuppan.com/?eid=183
問われるべきは講談社の人権感覚である。渡瀬昌彦常務や乾智之広報室長は、何も答えずに済むとでも思っているのだろうか。私たち出版人は「ViVi」が選択した表現に対して正式に抗議したい。私たちが正式に抗議するのは創業以来、初めてのことである。決して軽く受け止めてもらいたくはない。まさに講談社の言論(表現)の質が問われているのだ。
それにしても私も個人的にかかわっている差別論研究会には講談社の社長室や編集総務局からも参加し人権に関する知見を深めていたのではないか。残念である。むろん、そうした研究会で乾智之広報室長の姿を遂に見ることは遂になかった。 

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2)【記事】関西テレビ 常務の謝罪と差別番組について

大阪府吹田市で巡査を刺し、拳銃を奪って逃走していた男が逮捕された。「アエラドット」が「逃走中の拳銃強奪犯を大阪府箕面市山中で逮捕 父親は在阪メディア役員」を公開している。
「飯森容疑者の生まれは神奈川県だが、育ちは現場近くの大阪府田市だという。通報した父親は在阪メディア役員で、飯森容疑者は大阪府内の中学校から公立高校に進み、東京の大学に進学したという」
https://dot.asahi.com/wa/2019061600019.html?page=1
デイリースポーツは「拳銃強奪 容疑者の父・関西テレビ常務が謝罪『いまだ信じられない』」を発表している。
大阪府吹田市で警察官が刃物で刺され、拳銃が強奪された事件で、強盗殺人未遂容疑で逮捕された飯森裕次郎容疑者(33)の父で、関西テレビの飯森睦尚常務取締役(63)が17日、代理人の弁護士を通じて、報道各社に書面コメントを発表した。『心よりお詫び申し上げます』と謝罪。『いまだ信じられない気持ち』と胸中を伝えている。なお、同局によると、この日は出社していない」
https://www.daily.co.jp/gossip/2019/06/17/0012435521.shtml
飯森常務は営業局、スポーツ局、東京支社を担当していた。容疑者岩手めんこいテレビで働いていたことがあるという。
江川紹子や南野森のツイートに私は同意する。これが江川のツイート。
「自ら実名をさらして謝罪したのか…。息子はすでに33歳というのに。報じる側の責任みたいなのも感じたのだろうが…」
「息子のことで、このお父さんは仕事を辞める必要はないし、そういう事例を作って欲しくもない。会社の人たちは、気を配ってあげて欲しい」
https://twitter.com/amneris84/status/1140550063552368641
https://twitter.com/amneris84/status/1140552870493687809
南野森のツイートはこれだ。
「被疑者の有罪が確定したとしても、33歳という年齢の息子の行動について親が詫びたり責任をとるなどする必要はない。社会的地位や責任ある立場ゆえに謝罪したとして、それでもう充分。それ以上は不要」
https://twitter.com/sspmi/status/1140557382864424960
確かにツイッターのタイムラインには、次のような書き込みが少なくなかった。
関西テレビの飯森睦尚常務取締役と飯森裕次郎の関係は今の所テレビは無視。いつもの大人数で取り囲んで『今のお気持は!』やれよ」
関西テレビ報道ランナーさんに高視聴率が取れる企画のご提案です!
御社の常務取締役 飯森睦尚さんに単独インタビューをプライムタイムだけではなくローカル枠全部とCX系全国中継で、ご子息の生い立ちから性格、趣味、小中高校の卒業アルバム全部公開、仕事を転々とした経緯とか流せばバッチリです!」
こうした投稿を見ていて思い出したのは、川本三郎の「映画の戦後」におけるこんな記述がある。
マッカーシズムは、上流階級に対する大衆の反逆なのである。単純に、右が左を追いつめた、というだけでは、とてもあの事態は説明できない。しかも、ドミトリクの『ケイン号の叛乱がより複雑なのは、その艦長(ハンフリー・ボガート=大衆)が結局は、上流階級に破れてゆく、という構図をとっていることである」
http://www.pen.co.jp/book/b212706.html
関西テレビで私たちが問題にすべきは、バラエティー番組「胸いっぱいサミット!」において5月18日放送で作家・岩井志麻子による「(韓国人は)手首切るブスみたいなもん」などの深刻な差別(ヘイト)発言があったことである。毎日新聞は6月18日付で「関西テレビ『ヘイト』放送 民族・女性差別発言編集せず」を発表している。
関西テレビ大阪市)のバラエティー番組「胸いっぱいサミット!」が5月18日、出演者の作家、岩井志麻子氏による『(韓国人は)手首切るブスみたいなもん』などのヘイト発言と受け取られかねないコメントを放送し、ツイッターなどソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS上で批判が巻き起こっている。この日の放送は収録だったにもかかわらず、制作サイドが人種差別や女性蔑視をあおるような発言を編集しなかったことは、テレビ業界全体が人権への配慮を強く求められている中で波紋を広げそうだ」
記事の中で若一光司が次のようにコメントしているのが印象的であった。
「収録・編集された番組でこのような内容が流されたことに衝撃を覚えた。今回の発言は韓国人に対してだけでなく『ブス』と呼ばれて傷ついてきた人やリストカットを繰り返してしまう人に対する二重三重の差別と侮蔑を含んでいる」
https://mainichi.jp/articles/20190617/k00/00m/040/268000c?fm=mnm
朝日新聞デジタルも6月18日付で「作家の岩井志麻子氏、収録番組で差別的発言 関テレ放送」を公開している。そこで同志社女子大教授(メディアエンターテインメント論)の影山貴彦は次のように語っている。
「しゃべり手の責任がゼロとは言わないが、責任が重いのは編集せずに放送した関西テレビだ。バラエティーだから許されるだろう、といったダブルスタンダードもいい加減やめるべきで、作り手が鈍感すぎると思う」
https://www.asahi.com/articles/ASM6L3CSWM6LPTFC007.html
いささか図式的に言うのであれば、テレビのバラエティ番組における、こうした差別発言に共感を抱く輩がテレビ局のお偉いさんである容疑者の父親を叩くのである。

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3)本日の一行情報

◎「SEVENTIE TWO」が「自民党のタイアップ広告はなぜ『ViVi』だったのか?」を公開している。
「そして、なんといっても講談社は出版界の自民党と言えないこともない。
講談社は野間ファミリーが支配する同族企業である。現在の野間省伸(よしのぶ)社長は7代目。父は故野間惟道(これみち)氏。父方の祖父は、太平洋戦争で本土決戦を主張し、ポツダム宣言受諾後の8月15日には割腹自殺した阿南惟幾(あなみこれちか)陸軍大将である。ある意味、これほど由緒正しい総合出版社というのは、日本にはなかなか見当たらない。自民党の広報室が今回のタイアップ広告を掲載するとしたら、これは「ViVi」web版しか選択肢がなかったというのがよく分かるのである」
https://www.seventietwo.com/ja/business/WhywastheLDPtieupadViVi

芥川賞直木賞日本文学振興会主催)の候補作が発表された。芥川賞の候補作は次の通り。
今村夏子「むらさきのスカートの女」(小説トリッパー春号)/高山羽根子「カム・ギャザー・ラウンド・ピープル」(すばる5月号)/古市憲寿「百の夜は跳ねて」(新潮6月号)/古川真人「ラッコの家」(文学界1月号)/李琴峰「五つ数えれば三日月が」(文学界6月号)
私の好みからいえば本命は今村夏子「むらさきのスカートの女」、対抗が李琴峰「五つ数えれば三日月が」。
直木賞は報道にもある通り、候補作の作者6人全員が女性であった直木賞でも芥川賞でも初めてのことである。
朝倉かすみ「平場の月」(光文社)/大島真寿美「渦 妹背山婦女庭訓 魂結び」(文藝春秋)/窪美澄「トリニティ」(新潮社)/澤田瞳子「落花」(中央公論新社)/原田マハ「美しき愚かものたちのタブロー」(文藝春秋)/柚木麻子「マジカルグランマ」(朝日新聞出版)
朝倉かすみの「平場の月」は山本周五郎賞を取っているからなあ。近松半二の「妹背山婦女庭訓」は、その昔、何故か朝倉喬司たちと国立劇場で観劇したんだよね。大島真寿美「渦 妹背山婦女庭訓 魂結び」か、原田マハ「美しき愚かものたちのタブロー」か。両作品とも文藝春秋である。
https://www.asahi.com/articles/ASM6F5VT2M6FUCVL01H.html

浅田真央が、日本テレビ24時間テレビ42」(8月24、25日)のチャリティーパーソナリティーに決まった。
https://www.sponichi.co.jp/entertainment/news/2019/06/16/kiji/20190615s00041000594000c.html

朝日新聞デジタルの6月17日付「NHKチーフP、強制わいせつ容疑で逮捕 AIの責任者」は、こう書いている。
「路上で無理やり女性にわいせつな行為をしたとして、警視庁は17日、NHK放送総局大型企画開発センターのチーフプロデューサー阿部博史容疑者(41)=東京都町田市=を強制わいせつの疑いで逮捕した」
https://www.asahi.com/articles/ASM6K61G7M6KUTIL037.html
日刊スポーツの6月18日付「NHK AI特番トップが強制わいせつの疑いで逮捕」によれば、容疑者について次のように書いている。
「『NHKスペシャル』『クローズアップ現代』などで、東日本大震災などの震災ビッグデータやAI活用をテーマにした大型特集番組を制作、局内評価も高かった。AIに関する著書もある。
17年から今年4月まで計4回放送されたマツコ・デラックスと有働由美子が出演したドキュメンタリー『AIに聞いてみた どうすんのよ!?ニッポン』も手がけ、自身も番組に出演して解説した。同番組に登場する「AIひろし」は同容疑者が開発。『博史(ひろふみ)』の名から『ひろし』となった」
https://www.nikkansports.com/entertainment/news/201906180000028.html
沖縄戦 全記録」や「原爆死」も阿部の仕事である。AIに関する著書はNHK出版から刊行している。「震災ビッグデータ = DISASTER BIG DATA」と「データでいのちを描く : テレビディレクターが自分でAIをつくったわけ」がそうだ。「ハフポスト日本版」では2015年に「NewsPicks」でインフォグラフィックス・エディターとして働く櫻田潤と対談している。阿部はこんなことを語っている。
「テレビでは、ある程度ストーリーを作ることが要求されます。紙芝居のようなもので、ある一定の時間軸にずっと画を乗せて、時間内に到達点に達する必要があるからです。ですから、実はインフォグラフィック的な発想で作られています。震災ビッグデータや医療ビッグデータの取り組みは、それにデータビジュアライゼーションを取り込んで、データを視覚的に見えやすくしたものです」
https://www.huffingtonpost.jp/wisdom/datajournalism-infographics_b_7178006.html

◎料理や雑貨など暮らしまわりのスタイリストとして活躍する伊藤まさこは、19.1万人を突破するインスタグラムのフォロワー数を誇る。そんな伊藤がマガジンハウスから女性誌「Hanako」での連載を一冊にまとめた「フルーツパトロール」を刊行した。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000086.000030125.html

◎米Amazonが、米国のプライム会員向けサービス「Spark」を終了した。たった二年での撤退である。
https://japanese.engadget.com/2019/06/16/amazon-sns-spark-2017-2/

◎「BrandZ」(ブランジー)による「世界で最も価値のあるブランドTop100」が発表された。昨年3位だったアマゾンが遂に第1位を獲得した。第2位はアップル。第3位は昨年1位だったグーグル。第4位はマイクロソフト5位はVISA(ビザ)、6位はFacebook日本企業ではトヨタが41位。
https://www.gizmodo.jp/2019/06/brandz-brand-ranking-2019.html

マーティン・スコセッシボブ・ディランを描く「ローリング・サンダー・レヴュー」がネットフリックスで配信されている。やはりネットフリックスの会員になるしかないよな。スコセッシは「ウッドストック」を起点にザ・バンドの解散コンサートを撮った「ラスト・ワルツ」、「ボブ・ディラン ノー・ディレクション・ホーム」、「ザ・ローリング・ストーンズ シャイン・ア・ライト」と音楽ドキュメンタリーを監督してきたが、予告編を見るとわかるのだが、「ローリング・サンダー・レヴュー」では、一歩踏み込んでいるようなのだ。
https://www.netflix.com/jp/title/80221016
中川五郎が絶賛している。
「すごいです!! あと一万回でも見たい。44年前によくわかっていなかったことが、今はっきり見えました。『ハリケーン』強力すぎます。ディラン、すごいです」
https://www.facebook.com/goro.nakagawa1/posts/10211696972814400
スコセッシは音楽センスが抜群の監督である。「ミーン・ストリート」でロバート・デ・ニーロの登場場面に流れる「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」や「グッドフェローズ」で流れるザ・クリスタルズの「ゼン・ヒー・キスト・ミー」は忘れ難いのだ。そうそう「カジノ」で使っていたアニマルズの「朝日のあたる家」も印象に残っているし、「ギミー・シェルター」は「カジノ」「グッドフェローズ」「ディパーテッド」と三作品で使っている。ただ、ディランは私の記憶する限り使っていないのよ。

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4)【深夜の誌人語録】

過信と自信は天と地ほど違う。過信は居丈高であり、自信は謙虚である。