【文徒】2019年(令和元)6月20日(第7巻108号・通巻1528号)


Index------------------------------------------------------
1)【記事】「梅田 蔦屋書店」の人コンシェルジュ三砂慶明が評判だ
2)【本日の一行情報】
3)【深夜の誌人語録】
----------------------------------------2019.6.20 Shuppanjin

1)【記事】「梅田 蔦屋書店」の人コンシェルジュ三砂慶明が評判だ

田畑書店社主の大槻慎二が「『梅田 蔦屋書店』にみる出版界蘇生のヒント」を「論座」に発表している。「梅田 蔦屋書店」の人コンシェルジュ三砂慶明の取り組みが紹介されている。大槻が田畑書店の経営を引き継ぎ、「1年経ち2年経ち、ようやく市場で勝負できる本ができたと思ったのが、デヴィッド・フォスター・ウォレス著・阿部重夫訳の『これは水です』」だったそうだが、「読者を選ぶ本だということは承知していたが、それでも思った以上に早く、売れ行きがピタリと止まってしま」うなか、三砂から「この本、売らせていただけませんか?」と電話がかかって来る。大槻は、こう書いている。
「それからほぼ9カ月、売りに売っていただいた。これまでのところの実売数は、店舗単独で500冊強。これがどれぐらいの部数かというと、まあこの本に関しては実売部数を明かしても誰にも迷惑がかからないから明かしてしまうと、初刷2000部、2刷3000部、3刷2000部。トータルで7000部の刷部数のうち、現在の在庫が800部。流通在庫を考慮すると、全国の総実売のおよそ1割を売っていただいていることになる」
https://webronza.asahi.com/culture/articles/2019061400005.html?page=1
私の場合、三砂慶明の名を知ったのは「本の雑誌」の「横丁カフェ」である。岸政彦の「はじめての沖縄」(新曜社)を次のように評していた。
「頁をめくる度に、著者と一緒に沖縄の町を歩きながら、居酒屋でお酒をくみかわし、著者が耳を傾けつづけた果てしない人びとの物語がどこまでも広がっていくのは、まるで『遠野物語のようです」
http://www.webdoku.jp/cafe/misago/20180705094557.html
「4歳の僕はこうしてアウシュヴィッツから生還した」(NHK版)も取り上げていた。
http://www.webdoku.jp/cafe/misago/20180510090000.html
「読書の学校」フェアも知っていた。
「『読書の学校』フェアは、梅田蔦屋書店・人コンシェルジュ三砂慶明さんが企画されています。第1回の選書が並ぶのは9月30日(日)まで。10月からは第2回のラインナップに変わります。みなさま、イベントはもちろんのこと、梅田蔦屋書店さんにぜひぜひお立ち寄りください!」
https://twitter.com/robot_ishiguro/status/1039706812075847680
こういう本格的な書店人を擁することのできる蔦屋書店は、やはり強い。同族経営の店主が利益と人脈を独占するというスタイルの独立系書店は消えてゆくしかないのだろう。結局、大型書店を別にすれば書店は書店人を育て切れなかったのではないだろうか。

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2)本日の一行情報

田中康夫も私とほぼ同じ見解である。田中康夫YouTube式チャンネル「だから、言わんこっちゃない!」の《Vol.543 「このたびの自民党との『ViVi』広告企画に政治的な背景や意図はまったくございません。」(C)大日本雄辯會講談社 「おもしろくて、ためになる」錯乱コメントで炎上商法に参戦だぁw》は、乾智之広報室長、渡瀬昌彦常務取締役の責任を厳しく問うている。大炎上のきっかけとなったのは取材を対応した乾の「政治的意図はなかった」という一言である。講談社の社員にとっては必聴である。
https://www.youtube.com/watch?v=p6xN7T72M5Y
乾や渡瀬に本田靖春を語る資格はあるのだろうか。いずれにしても講談社の社員は、そろそろ沈黙を破り、はっきりと声をあげるべきである。

元木昌彦の「平成挽歌―いち雑誌編集者の懺悔録(7)」。若干、解説しておくことにしよう。その昔、渡瀬昌彦常務や乾智之広報室長などから聞いた話も含まれていることも、予めお断りしておこう。
「だいぶ前になるが、藝を統括する常務がある日突然、切られたことがあった。役員会議の席で突然、社長からクビをいい渡されたそうだ」
これは大村彦次郎常務だろう。
DAYS JAPAN」問題で会社を辞めたのは土屋右二編集長。もっとも講談社を辞めても広告代理店マンが設立した編集プロダクションで講談社のパートワークの仕事を請け負っていたと記憶している。業界紙記者であった松田賢弥は、この件を取材すべく広報室長と帝国ホテルのオールドインペリアルバーで出会う。取材のはずだったが、「週刊現代」記者の職を得る。元木編集長とのコンビの始まりだ。
この当時の広報室長は「S」だ。
「私と親しい鈴木がいきなり局長のSを飛び越して役員に抜擢されたのである。私もびっくりしたが、本人はもっと驚いたのではないか。だが、肩書はサラリーマン社会では絶対のものである」
鈴木俊男が飛び越してしまったのは鈴木富夫。鈴木富夫、鈴木俊男のコンビは定期的に宮野澄と会食していたことで知られる。宮野は小石原昭と袂をわかったジャーナリストである。もともと鈴木俊男は川鍋孝に私淑していた。俊男は杉山捷三、川鍋、元木の四人で定期的に食事会を開いていた。元木の仲人は杉山。杉山は「週刊現代」で言うと川鍋の直系にあたる。
「芸人のビートたけしが、彼の軍団を率いて講談社に殴り込んだ事件が起きた」際の編集長は須川真。銀座のクラブの女性と愛人関係になるが、東京アドエージが間に入りことなきをえる。その際、当時、浜田博信常務取締役が赤坂の事務所に300万円(!)を風呂敷に包んで持って来た。須川は「VIEWS」の編集長もつとめるが、その後任が渡瀬昌彦である。
DAYS JAPAN」に話は戻るが、「有名人の講演料がいくらかという特集」の企画者は講談社の社員ではない。当時、私と私の上司は毎月、名田屋昭二(「with」や「ViVi」な講談社女性誌の黄金時代を築いた渡会明子編集長との「関係」で知られる)に企画案を提出するアルバイトを社には黙ってやっていた。最初は「ペントハウス」で、次が「DAYS JAPAN」となるわけだが、名田屋と私の上司との間に立っていたのが、六本木の賭博で会社を辞めることになる千田正洋や若き日の金丸徳雄常務である。
とまあ、こうした背景を踏まえたうえで元木の回顧をお読みいただきたい。
https://www.data-max.co.jp/article/29982?rct=business

講談社が運営するウェブメディア「ミモレ」の大森葉子編集長が7月1日付で退任する。後任は、川良咲子副編集長。大森はビューティ誌の「VOCE」編集次長に就任する。「ミモレ」は休刊することになるのかもしれない。大草直子のいない「ミモレ」は「ミモレ」じゃないんですよ。
https://www.wwdjapan.com/articles/880803
第二事業局で何かが起きているのだろう。

◎「小説家になろう」から生まれ双葉社から単行本が刊行された神埼黒音の「魔王様、リトライ!」がテレビアニメ化され、7月3日よりTOKYO MX、BSフジほかにて放送開始される。
https://ncode.syosetu.com/n6789do/
https://www.futabasha.co.jp/booksdb/book/bookview/978-4-575-75141-3.html
https://www.excite.co.jp/news/article/Lisani_0000205023/

◎「別冊少年マガジン」で連載中の「進撃の巨人」の5年ぶりとなる原画展「進撃の巨人展FINAL」が、7月5日(金)~9月8日(日)の期間、森アーツセンターギャラリーで開催される
https://www.excite.co.jp/news/article/Qetic_319860/

◎グーグルは、日本におけるスタートアップ支援の取り組みとして、年内にコミュニティスペース「Google for Startups Campus」を渋谷ストリームに開設する。既にロンドン、マドリード、サンパウロ、ソウル、テルアビブ、ワルシャワの6拠点で開設されており、渋谷は7番目となる。
https://forbesjapan.com/articles/detail/27887

藝春秋のOBである半藤一利が大月書店から絵本「焼けあとのちかい」を刊行する。私にとっては衝撃的なニュースだ。半藤が絵本を刊行することが衝撃的なのではない。大月書店から上梓することが衝撃的なのである。私などの認識からすると大月書店は日本共産党のマルクスレーニン主義研究所(M・L研究所)の責任者であった有賀新が経営を担っていた日共系出版社の代表格である。「スターリン全集」「レーニン全集」「マルクスエンゲルス全集」を刊行した出版社である。毎日新聞が6月18日付で「『戦争だけはいけない 子どもたちに』半藤一利さん、初の反戦絵本」を公開している。
「昨年11月、大月書店の編集者、森幸子さん(43)から『(戦争体験を)絵本にしたい』と手紙が届き、絵本作りが始まった。絵は、東京都墨田区生まれで、母親が東京大空襲を体験した塚本やすしさん(53)が手がけた。猛火で次々と人が亡くなる光景を何の感情も抱かずに眺めたこと、離ればなれになった父と再会した際も『ドラマのような感動はなかった』ことなど、ありのままを絵本にした」
https://mainichi.jp/articles/20190617/k00/00m/040/179000c

◎アスク出版から5月28日に発売されたヘミングウェイのテキストを使った英語学習書「ヘミングウェイで学ぶ英法」(倉林秀男・河田英介)が売れ行き好調で重版が決まった。
https://www.ask-books.com/978-4-86639-280-6/
朝日新聞デジタルは6月17日付で「『ヘミングウェイ法』なぜ人気? 発売数日で重版」を発表している。
「語学教材を手がけるアスク出版が発行した。著者の一人で、杏林大外国語学部の倉林准教授(42)が2年前に企画を持ち込んだのがきっかけだ。言語学の専門家として、学作品を素材にしたの学習本を出したいと考えていた」
https://www.asahi.com/articles/ASM6C56Z8M6COBJB00J.html
倉林は杏林大学国語学部准教授だが、同校卒業のOBである。
「また、日本と海外の駅や飛行場の案内掲示を比較する論を書いたりしています。なぜ、日本の駅では日本語以外に英語や中国語、韓国語が書かれているのでしょうか?観光客のためにでしょうか?海外で観光客の多い都市では多言語では表記されていません。どうしてなのでしょか?こうした日本と海外の事例を比較して考えることで、いろんなことが見えてきます。その国の人たちの考え方も知ることができるかもしれないと思いながら研究をしています。
アイドルグループの歌詞も飛行場の案内掲示も全て<ことば>に関係したことで、この<ことば>の使われ方、使い方にとても興味があり、<ことば>の研究をしています」
https://www.kyorin-u.ac.jp/univ/faculty/foreign/special/cheering/teacher/kurabayashi_hideo/
倉林はフィッツジェラルドの「パット・ホビー物語」(風濤社)の書評を「読書人」でしている。次のようなとても重要な指摘をしている。
「一九二五年に出版された『グレート・ギャツビー』は感性に訴えかけるような情緒的な描写が、繊細で豊かな比喩表現が読むものたちを魅了した。しかし、『パット・ホビー物語』ではその体が一変する。登場人物の行動や振る舞いの描写が読む者に場面を想起させる。ハリウッドの脚本家としての経験もあり、ト書きのような描写も目立つ。このフィッツジェラルドの晩年のスタイルは同時代作家のアーネスト・ヘミングウェイにも近く、さらにはレイモンド・カーヴァーミニマリズムのスタイルにも通底すると言えるかもしれない」
https://dokushojin.com/article.html?i=739
村上春樹の小説にもヘミングウェイが見え隠れする理由がこの辺にあるのではないだろうか。倉林は「言語学から学作品を見る ―ヘミングウェイ体に迫る」(開拓社)も上梓している。オレヘミングウェイが暮らした白亜の邸宅「フィンカビヒア(Finca Vigia)」を訪ねるべく、キューバにまで出かけたんだよね。
紀伊國屋書店 新宿本店がツイート。
「【1FAzone】
今話題の『ヘミングウェイで学ぶ英法』(アスク)をご存知ですか?
シンプルな英語で書かれたヘミングウェイの名短編を通じて生きた英語を学べるだけでなく、原を読み解くことにより小説そのものへの理解が深まります。
1FA50新刊話題書にて展開しております。nu」
https://twitter.com/KinoShinjuku/status/1141263867319767040

◎King & Princeの平野紫耀が表紙を飾った、光社の女性誌「美ST」8月号は、通常版・増刊号ともに発売初日にもかかわらず増刷が決定した。光社の女性月刊誌の増刷は、「JJ」2010年3月号以来、実に9年半ぶりの快挙である。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000181.000021468.html
King & Princeが表紙飾った「AERA」6月24日号(朝日新聞版)が週刊誌では異例の重版に踏み切った。
https://dot.asahi.com/info/2019061800043.html?page=1
編集現場の志気が低下しなければ良いのだけれど…。オレたちの記事よりもKing & Princeで売れるなんて、やってらんねぇよと考える編集部員もいないわけではないだろう。

福島民友が6月16日付で「本と人...つなぐカフェを 南相馬の書店『フルハウス』増築計画」を掲載している。
「多くの人にとっての交流の場をつくりたい―。南相馬市小高区の自宅で書店『フルハウス』を経営する芥川賞作家の柳美里さん(50)は、書店駐車場に誰もが立ち寄れるブックカフェの増築を計画している。『地元住民や高校生、遠方から訪れた人たちが共に過ごし、新たなつながり、化が生まれてほしい』。柳さんはそう願っている」
http://www.minyu-net.com/news/news/FM20190616-387415.php

◎マガジンハウスで『ブルータス』『リラックス』『クウネル』などの編集に携わった岡本仁が四国村ギャラリーで猪熊弦一郎展の監修を務めたが、セオリーを無視した編集者ならではの展示方法が話題になっている。
https://casabrutus.com/art/107988
編集者と展覧会は親和性が高いはずだ。新聞社とは一味違った「事業」が展開できるのではないだろうか。「紙からリアルへ」という方向性を真剣に模索したい。

◎米フェイスブック(FB)が2020年から独自の仮想通貨「リブラ」(Libra)を発行するそうだ。ビザやマスターカードペイパル、ウーバーなど27の企業や団体も事業に加わる。
https://mainichi.jp/articles/20190618/k00/00m/020/131000c?fm=mnm
「ウォールストリートジャーナル」が「フェイスブックの仮想通貨『リブラ』 早わかりQ&A」を発表している。
フェイスブックはリブラによって、銀行口座を持たない人々や、海外に送金する余裕のない世界の何百万という人々に最低限の金融サービスを提供することができるようになると説明している。融資を得ることができないない中小企業も支援することができるとしている」
https://jp.wsj.com/articles/SB11779740187811784788204585373573252552574
ブロックチェーン革命の始まり、始まり…


◎タレント杉原杏璃が、「株は夢をかなえる道具 女子のための株式投資入門」(祥伝社)の出版記念講演会を開いた。日刊スポーツが6月16日付で「杉原杏璃『夢実現するため』女子に株式投資のススメ」を発表した。杉原は「株ドル」。
https://www.nikkansports.com/entertainment/news/201906160000543.html

◎「J-CASTニュース」が「拳銃強奪容疑者、父は関テレ役員だった キー局・フジテレビはどう報じたか」を公開している。
「容疑者の父親については、17日午後早い段階で読売新聞(オンライン版)『奪った拳銃、逃走中に1発発砲か...警官襲撃逮捕の男』の記事で、『飯森容疑者の父親は関西テレビの役員で、府警に『息子に似ている』と連絡』と報じていた」
https://www.j-cast.com/2019/06/17360262.html?p=all

◎日販コンピュータテクノロジイ(NCT)は、プログラミング教育向けロボット「こくり」を利用した図書館向けプログラミングワークショップパッケージを発売した。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000010.000042786.html

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3)【深夜の誌人語録】

転んでも立ち上がれば良いだけの話である。