【文徒】2019年(令和元)7月19日(第7巻128号・通巻1548号)


Index------------------------------------------------------
1)【記事】「京アニ」放火殺人、アニメ業界、海外からも悲しみのメッセージが相次ぐ
2)【記事】安倍首相演説ヤジの「当事者」がブログ証言。警察発表も変化
3)【本日の一行情報】
----------------------------------------2019.7.19 Shuppanjin

1)【記事】「京アニ」放火殺人、アニメ業界、海外からも悲しみのメッセージが相次ぐ(岩本太郎)

7月18日現在、33人が亡くなった。出口が一つしかないビルの、その出口前に40リットルのカゾリンを撒いて火を放つ。出口を塞いでの放火による、これはもう虐殺だろう。
狙われたのはアニメ制作会社「京都アニメーション」(京アニ)。けいおん!」「涼宮ハルヒの憂鬱」「響け!ユーフォニアム」などの作品を手掛けてきたことで知られている。『ハフポスト日本版』は「『京アニはアニメ界のノートルダム大聖堂だ』中国でも心配する声が続出」を発表し、こう報じている。
《火災のニュースが中国メディアによって報じられると、中国版Twitter「ウェイボー」でも「#京都アニメーションで爆発発生」というハッシュタグがトレンドランキングを駆け上がり、日本時間の午後1時20分の時点で4位にランクインしている》
Twitterでは日本人ユーザーの「京アニ燃えるのがオタクにとってどのくらいやばいかって言うとノートルダム大聖堂が燃えるくらいヤバイ」という投稿があったのに対し、中国のウェイボーでも「貴重な資料が焼失したら業界全体の損失だ京アニはアニメ界のノートルダム大聖堂なんだ」と似た内容のコメントもあり、両国のファンのショックの大きさをうかがわせた》
https://www.huffingtonpost.jp/entry/kyoani-weibo_jp_5d2fef21e4b004b6adaad400
NHKも同じ頃、海外のファンがネット上で綴る悲しみの声を紹介しつつ、アニメーション研究者・明治大学特任教授氷川竜介の《東京一極集中だったアニメーション業界の中で、設立当初から京都にスタジオを構えてヒット作を次々と発表し、地方に拠点を置くスタジオができる突破口になった》《日本のアニメを変えてきた会社なのでこのような火災が起きて非常に驚いている》といった解説を交えながら報じた。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20190718/k10011997071000.html
Twitter上には「#PrayForKyoani」というハッシュタグが立ち上がり、ここにも世界中のファンからメッセージが殺到している。『BuzzFeed NEWS』が取り上げている。
https://twitter.com/hashtag/prayforkyoani
https://www.buzzfeed.com/jp/kotahatachi/kyoto-anime3
フランス大使館も夕刻には公式アカウントにローラン・ピック駐日フランス大使によるメッセージを掲載した。
《多くの犠牲者と重傷者を出した京都のアニメーション制作会社の火災を知り、恐怖を覚えました。
犠牲になられた方々とご遺族の方々、また京都アニメーションの職員の皆様にお悔やみとお見舞いを申し上げますとともに、フランスの全面的な連帯の意を表します》
https://twitter.com/ambafrancejp_jp/status/1151763021850714112
アニメーション業界からも弔意のメッセージがあがった。漫画やアニメの原作者である辻真先は次のように書いた。
《新作アニメの企画会議から帰って、哀しいニュースを知りました。大学でアニメ史を講義したとき、学生に作品の冒頭を見せたとたん「おっ,京アニだ!」反応の大きさに驚いたものです。日本の最前線で創り続ける京都アニメーョンの名を、アニメと無縁な方にも知ってほしいと、あえてお願い致します》
https://twitter.com/mtsujiji/status/1151854535377219584
映画史研究者である春日太一は『週刊春』の連載で触れる意向を表明した。
《旧作しか取り上げない週刊春の連載ですが、次の締切(8/1発売号の掲載分)は「涼宮ハルヒの消失」を取り上げることにしました。
おそらくアニメに詳しくない方も多いであろう春読者にも京都アニメーションの価値を知ってもらうべく。
今の自分にできるのは、これくらいしかありません》
https://twitter.com/tkasuga1977/status/1151858905489608704
元朝日新聞のフリージャーナリスト・烏賀陽弘道は怒りを込めて言う。
《73人いた従業員のうち33人が死に、36人がケガというのはむごすぎる。これは虐殺とかテロのレベルの話だ》
https://twitter.com/hirougaya/status/1151849827648430086
アメリカのアニメ配給会社「センタイフィルムワークス」は「京アニ支援」のクラウドファンディングを立ち上げた。
https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_5d300753e4b0419fd327f70f?ncid

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2)【記事】安倍首相演説ヤジの「当事者」がブログ証言。警察発表も変化(岩本太郎)

安倍首相が15日に札幌市で行った街頭演説中、ヤジを飛ばした市民を警官が取り押さえて排除した件について、北海道警は17日に《聴衆同士のトラブルを防ぐための通常の警察活動だった》と説明したそうだ。朝日新聞は、当初はヤジが《公職選挙法違反(選挙の自由妨害)にあたる「おそれがある」》としていた道警が《「事実確認中」と見解を変えた》とこれを報じた。
https://www.asahi.com/articles/ASM7K56FSM7KIIPE00V.html
当日の警察による「排除」の場面は地元の民放の北海道テレビ(HTB)が17日に映像入りで報じていた。HTBは他にも年金問題に関するプラカードを掲げようとして警察官に移動させられたという女性による《安倍さんに見てもらいたかったんですけど、警察に阻まれました》などのコメントも紹介した。
https://www.htb.co.jp/news/archives_5001.html
「排除」の場面は現場にいたと思しきTwitterユーザーたちからも写真や映像入りで紹介されていた。「mold」を名乗るアカウント主は自身のものらしいコンテンツのほか、他のユーザーや上記のHTBによる報道もシェアしながら、当日の現場の雰囲気を伝えている。
https://twitter.com/lautream/status/1151523045959327745
そうした中、その現場でヤジを飛ばして警察に「排除」された当事者という人物が「note」に自ら報告をアップした。「アラサーの福祉系労働者(ソーシャルワーカー)」だという大杉雅栄が騒動の翌日《なんか知らないけど、僕たちのやった行動が一部でバズっているようなので、それについて書いてみようと思う》と冒頭で前置きしながら次のように書いた。
《つい昨日、7/15に「わがPM」こと安倍晋三が、僕の住む札幌の街に来るという話を友人Mから聞いたので、友達数人と一緒に駆けつけることにした。(略)これは、アベに直接句を言う、またとないチャンスだと思ったのである》
《いざアベが話し始めても、一向にヤジは聞こえてこない。他の人に託していてもどうにもならないし、「ええいままよ」という感じで、「帰れー」とか「やめろー」とか叫んでみることにした。突然の大声に、聴衆が一瞬ざわつく。すると、ものすごい速度で警察が駆けつけ、あっという間に体の自由を奪われ、強制的に後方に排除されてしまった》
《再び大声で「アベやめろ」とコールしてみた。アベは何事かと一瞬振り向いたので、ここぞとばかりに指をさして面罵することができた。
もちろん、この時も速攻で(コール開始から実に三秒ぐらいで)近くにいた警察に身動きを封じられ(一人からは首を締められそうになって少しこわかった)、再び離れた場所まで押し流された。あっという間に終了である。このときは、とりあえず現場で一言で句を言えればOKと考えていたので、それ以上は粘らずに立ち去ることにした(私服警官は相変わらずゾロゾロとついてきたが、適当にまいた)》
https://note.mu/s_ohsg1/n/n459263e58af1
北海道新聞も18日になって「突然包囲、2時間見張られ… 首相へのヤジ排除『恐怖感じた』『異様』」と題し、当日「増税対」を現場で叫んだ途端に警察官に囲まれ隅に追われたという24歳の女性の声などを報じた。
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/326197/
16日付の朝日新聞の記事では立命館大法科大学院教授の松宮孝明が《判例上、演説妨害といえるのは、その場で暴れて注目を集めたり、街宣車で大音響を立てたりする行為で、雑踏のなかの誰かが肉声でヤジを飛ばす行為は含まれない》としつつ、むしろ連れ去った警察官の行為について《刑法の特別公務員職権乱用罪にあたる可能性もある》《警察の政治的中立を疑われても仕方がない》とコメントしている。
https://www.asahi.com/articles/ASM7J4DN3M7JIIPE027.html
安倍首相の街頭演説をめぐっては2017年7月の東京都議選の際秋葉原駅前で行われた演説の際、「帰れ」「やめろ」のコールが起こったのに対して首相が「こんな人たちに負けるわけにはいかない」と演説中にやりかえした一件があった。おそらくこのこともあって今回の参院選では安倍首相の街頭演説の日程が自民党側から明確に公開されず、上記の大杉の投稿にもあるように、首相や自民党に反対する側が独自に情報を聴き付けたり広めたりしながら現場に駆け付ける状況が続いている。
ただ、街頭演説へのヤジが「選挙妨害」にあたるか否かをめぐっては、件の秋葉原のケース以来議論が分かれている。これについて朝日新聞の田玉恵美が一昨年10月に紙面で特集で取り上げ、かつて原発運動やヘイトデモ反対活動の現場に取材に行っていた私にもコメントを求めに来たのだが、この時はネット上でもずいぶん発言をめぐって叩かれたものだ(ご丁寧にも産経新聞にまで朝日紙上での私のコメントが引用された)。
https://www.asahi.com/articles/DA3S13185064.html
https://www.sankei.com/premium/news/171031/prm1710310006-n1.html
おそらく今後もこうした攻防が繰り返されることだろうが、議論のスピードは現場発の生情報も含めながらますます早くなっている印象だ。

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2)【本日の一行情報】(岩本太郎)

◎コミュニケーションツールとして一般企業で採用例が増えている「Slack」を藝春秋も採り入れているそうだ。導入の背景として社内体制の変化のほか《何より大きな出来事は、『春オンライン』の開設です。これで横のつながりがより必要になってきました》と『オール讀物』『別冊藝春秋』編集長の大沼貴之は説明している。https://internet.watch.impress.co.jp/docs/column/slack_info/1196360.html

白泉社が「LINEマンガ」で新連載漫画の先行配信(無料連載)を19日から開始した。「xxxな関係」(なかじ有紀)を皮切りに毎日1作品、計6作品の新連載をスタート。単行本1巻分が掲載されるまでは「LINE マンガ」のみの配信となる。また、先行期間終了後、他の電子書店でも配信・販売する。
https://manga.line.me/
http://manga-blog.line.me/ja/archives/80431558.html

◎書店空白地帯となっていた栃木県北部の那須地方で2017年10月にオープンした那須ブックセンターを支援すべく、利用客たちが立ち上げた組織「応援する仲間たち」の会員が200人を突破したと地元の下野新聞が報道。ベレ出版の創業者である内田眞吾が私費を投じて運営しているが、経営的には《近い将来立ち行かなくなる恐れがある》とのことで苦戦中の模様。支えてくれる「仲間たち」をもっと増やしたいと呼びかけている。
https://www.shimotsuke.co.jp/articles/-/194925

◎『BusinessJournal』による「ツタヤ図書館」問題追及シリーズ。16日付の最新レポートによれば、今年4月1日付で海老名市立図書館(2015年10月に全国で2番目の「ツタヤ図書館」としてオープン)に着任した館長は司書資格を持っていないらしい。
https://biz-journal.jp/2019/07/post_109318.html 

◎神戸市に本社を置くラジオ関西AM神戸)で故・内田裕也の「初期激レア音源」が発見されたそうだ。日本で10番目に開局した老舗ラジオ局であるラジオ関西は現在も10万枚を超えるアナログレコードを所有しているという。
https://maidonanews.jp/article/12547434
ラジオ関西はいわゆる「電リク」(電話リクエスト)の草分け的なラジオ局としても放送業界では知られる。1995年の阪神・淡路大震災ではほぼ全壊に追い込まれた局舎のスタジオから、電リクのシステムを使って被災地情報を発信し続けたと、以前に私も神戸まで取材に伺った際に聞いた。

福井県美浜町と地元のNPO「ふるさと福井サポートセンター」が、人口減少対策と移住促進を図るべく著名なクリエイターを招き、町内の空家から情報発信をしてもらう「クリエイターinレジデンス推進事業」を実施中。地元の福井新聞によればITジャーナリストが移住しているというので読んでみたら佐々木俊尚だった。配偶者でイラストレーターの松尾たいこと共に、東京と軽井沢、美浜での3拠点生活を行っているのだそうだ。
https://www.fukuishimbun.co.jp/articles/-/894700

◎ゴール判定をめぐる「誤審」で混乱し、主審がその場で「判定は運営が決めている」などと発言したとして物議を醸した13日のサッカーJリーグ公式戦「横浜F・マリノス浦和レッズ戦について『JCASTニュース』が報じている。実際には主審によるそうした発言は一切なく、スポーツ紙だけでなくサッカー専門紙までが「選手コメントのみで報じた」ことによる「誤報だった、としている。
https://www.j-cast.com/2019/07/16362730.html

◎明治大4年生の日下部智海が、過去約20年間のジェンダーに関する国会議員の問題発言を時系列で紹介する「政治家うっかり失言TIMELINE~ジェンダー編~」を今月1日に開設。毎日新聞によれば12日までにアクセス数は9万を超えたという。
https://charitsumo.com/ukkari/13967
https://mainichi.jp/articles/20190712/k00/00m/010/130000c


◎都内・神楽坂で書店一体型のレンタルオフィスを営んでいる「BOOK&OFFICE 悠」では個室契約した借主に特典として書店内の本が全て読み放題となる「契約室内読み放題サービス」を行っているという。《受付で部屋番号カードを掲示すると、1回5冊まで書店内の本を契約したレンタルオフィス内でゆっくり読むことができる仕組み》とのこと。『商業界ONLINE』が紹介している。
http://shogyokai.jp/articles/-/1676
もっとも「ウラゲツ」はこうしたサービスには懐疑的な見方をツイート。
《すべての本を買い取っているなら話は別かもしれませんが、もしそうでないなら出版社は書店さんに本を貸しているわけではないので、「読み放題」は違和感があります。いくら読まれても最後には返品されるなら出版社に収益が入りませんから、出版社からするとかなり疑問を抱かざるを得ないモデルです》
https://twitter.com/uragetsu/status/1151698701070417920

◎「無人古本屋」として話題を呼んだ都内・三鷹の「BOOK ROAD」オーナー・中西功が今度は吉祥寺の東急百貨店の裏手に「吉祥寺×4ビル(バツヨンビル)」という新たなスポットを17日にオープンした。個人経営の小さな書店がシェア形態で入る「ブックマンション」が地下1階に設けられているとか。
『SUUMOジャーナル』がさっそく中西にインタビューしている
http://suumo.jp/journal/2019/07/17/165810/