【文徒】2019年(令和元)7月31日(第7巻136号・通巻1556号)


Index------------------------------------------------------
1)【記事】講談社「はじめてのはたらくくるま」に漫画家が投げかけた疑問
2)【本日の一行情報】
3)【深夜の誌人語録】
----------------------------------------2019.7.31 Shuppanjin

1)【記事】講談社「はじめてのはたらくくるま」に漫画家が投げかけた疑問

このツイッターアカウントは厳密にいえば大塚英志事務所の「中の人2人」による投稿ということだ。増刷を中止した講談社が発売する絵本「はたらくくるま」についてもツイートしている。
《幼児向け車図鑑に戦車。児童書に戦車等の兵器を求めたのは遡ると昭和13年内務省指示事項。科学戦に備えた啓蒙の一環。「爆弾、タンク、飛行機等」の「機能や本質」を伝えよ、とある。今後、「はたらくくるま」が「たたかうくるま」にならないとは限らない。》
《しかし「内務省指示事項」でさえ、5、6歳の子供には「健全」さ、や「母性豊かな」ものを、ぐらいの統制だったが講談社の絵本なんかの戦時下の自発的イケイケぶりを思い起こせば今回の一件は版元講談社の社風がこのご時世に呼応しよみがえったのだろう。》
《まあ、反応が薄いってことは「子供に戦車」のどこが悪いのってことなんだろうな。
でも「はたらくくるま」の中で唯一、「ひとをころすくるま」ですよ。「くにをまもるくるま」なんてゴマカシは言わないこと。》
https://twitter.com/MiraiMangaLabo/status/1154597447789735938
https://twitter.com/MiraiMangaLabo/status/1154599158071754752
https://twitter.com/MiraiMangaLabo/status/1154630564734885889
「はじめてのはたらくくるま」というタイトルでありながら、「くるま」という概念を明らかに逸脱していても、30ページ中6ページにわたり自衛隊の「のりもの」が紹介されているのは、就学前の幼児の頃から、戦闘機や戦車など本質的には「ひとをころすのりもの」に慣れ親しませるという意図なくしてはあり得まい。
東京藝術大学の川嶋均は講談社ビーシー公式ホームページのお問い合わせ欄から次のような抗議を送信したことをフェイスブックで明らかにした。
《実際には自衛隊の兵器をずらりと満載した絵本を、『はじめてのはたらくくるま』というタイトルで、帯で表紙の軍用車両を隠して売るやり方は、非常に悪質だと思います。講談社は親や子どもをだまして商売し、軍国主義化に加担する、死の商人となってしまったのでしょうか?増刷中止の告知をホームページで拝見しましたが、それではまったく手ぬるいです。この恐ろしい本が幼い子どもたちの手に渡らぬよう、すべての書店・家庭から回収し、絶版・断裁処理までして初めて、企業として責任ある行動といえるのではないでしょうか?だまされて購入した被害者にもきちんとお知らせを送り、返金して対応してください。ほんとうに怒っています。この件、FB等でも発信し、抗議の声を広げていきます。》
https://www.facebook.com/hitoshi.kawashima.794/posts/2483997234992947
産経児童出版化賞を受賞した「もうひとつの『アンネの日記』」講談社)の翻訳者としても知られる、さくまゆみこは自らのブログ「バオバブのブログ」に「『はじめてのはたらくくるま』(講談社)について」をエントリしている。
《◆『はじめてのはたらくくるま』について
子どもの本にかかわる人たちの間では、ただ今この本が「どうなの?」という話題になっています。『はじめてのはたらくくるま』(講談社)。3-6歳向けの乗り物絵本なのですが、表紙を見ると、バス、郵便車、シャベルカー、消防車、救急車などと並んで、銃を撃とうとしている自衛隊員を乗せた車(高機動車というのだそうです)が(本屋さんで見た人に聞くと、この自衛隊車はオビで見えなくなっているそうです)。
びっくりしたのは、それだけではありません。全30ページのうちの6ページを使って自衛隊の乗り物が紹介されています。最初の見開き「りくじょうじえいたい1」は、戦車のオンパレード。次の見開きが「りくじょうじえいたい2」で、水陸両用車、地対艦誘導弾発射機搭載車(ミサイルを発射できる車ですね)などが載っています。そして3つ目の見開きは「こうくうじえいたい」と「かいじょうじえいたい」で、戦闘機いろいろ(ステルス戦闘機も)とか、対戦哨戒機とかミサイ護衛艦とか潜水艦などが載っています。
◆まず「くるま」がおかしい
ちょっと考えても、戦闘機や潜水艦は「くるま」じゃないですよね。「はたらくくるま」の本を作ろうという企画の中で、飛行機や船は出てきません。こんな見開きがあることを考えると、最初から自衛隊の乗り物を載せる目的で作られたのかもしれないと思えてきます。
◆次に「はたらく」がおかしい
戦車や戦闘機の目的は、「はたらく」じゃなくて、「たたかう」とか「てきをころす」ですよね。小さい子どもは、働く車の絵本や図鑑が大好きです。だからタイトルを見て飛びつく親子もいると思います。で、楽しく見ているうちに、別の意識がすり込まれてしまう。それって、今の政権がいろいろな手を尽くしてもくろんでいることなのでは?》
http://baobab.way-nifty.com/blog/2019/07/post-db45e2.html
漫画家の田川滋がこんなツイートをしている。
講談社はファッション誌「ViVi」の自民党コラボ(自民党ら広告費が出ていた事を後に認めた)の件もありましたけど、これもステルスな”広報”として予算の類が出ている可能性はありそう。》
https://twitter.com/kakitama/status/1154650839232831489
漫画家のおおはしよしひこが田川のツイートに応じている。
《出版不況なので。最初から「話がついてて、何万部か買い上げてくれることになってる」「そんじゃあ出そう」ってパターンが多いと思います。奥付には何も書いてなくても。》
https://twitter.com/uorya_0hashi/status/1154656436799987712
田川は更踏み込んで次のような推論を立てている。
《「はたらくくるま」の件は表現の自由一般の問題と言うより本のつくりが詐欺的であり、それ以上に「不自然」である所が注意すべき点だと思います。なぜ、こう言う本が出来たのか。出版社サイドは他意はなかった的に説明しているが、自主的な理由だけでこう言う本を作ったとはいささか考えにくい。》
《表紙とその帯のつくりには「中では兵器を載せている事を気づかれない様にする」意図がありありと出ている。まずこれが詐欺的なところ。兵器ものりものの多様性の一つとして紹介しようとしただけと言うなら、表紙では隠そうとするのはおかしいだろう。》
《そして中で五分の一を割いて紹介しているのは「兵器としての車」ではなく「陸海空の自衛隊の装備」。これは”自衛隊の広報”。陸だけでなく海空も「紹介しなければならない」と言う前提が働いているので「くるま」を逸脱する内容になり、そのために作りの不自然さが「見て気づかれる」レベルになった。》
《「見て気づかれる不自然さをあえて回避していない」のは、自主的な編集だと考えるにはずいぶん不合理で、間抜けな話。
しかしそれが「外から押し着せられた必要性」なら、対価を得る仕事として合理になる。》
《本の中では海上保安庁の艦船も少し紹介しているが、これも、「はたらくくるま」の本になぜか「海上自衛隊の」艦船を載せている不自然さから「自衛隊」を薄めようとして「船が載っている」ことの不自然さをかえって増大させている。》
《こう言う作りになる一番合理的な理由は、「この本は幼児に向け自衛隊の”広報”をそれを明記せずに潜り込ませようとしたものであり、と言う事はその対価(予算、買い上げ保障等)が外から版元に流れている」と言う可能性。
とするとその「対価」には公金が入っている可能性もある。》
《このあたりのことが「疑うに足る理由」のある作りに、この本は”なってしまっている”。》
《もし、予算なり初版の一定数買い上げの保証なりがあったとするなら、「もう増刷しない」と言う対応は予定の範囲であり、損害も無い、と言うものだろう。》
https://twitter.com/kakitama/status/1155204029779042304
https://twitter.com/kakitama/status/1155205803877339136
https://twitter.com/kakitama/status/1155207194960248832
https://twitter.com/kakitama/status/1155209107814486016
https://twitter.com/kakitama/status/1155213546512211968
https://twitter.com/kakitama/status/1155214630781743104
https://twitter.com/kakitama/status/1155215367611904000
こうした疑問に講談社なり、講談社ビーシーはNOならNOとはっきりと答えるべきである。これもおおはしのツイートだ。
《まあ、あんまり言うとアレなんですけど。「外からはわからないのですが、実はスポンサーがいます。そこからの依頼で、この本は作られました」「ちゃんと明記してある場合も多い。でも、よく見ないとわかんないよね、これ」実はかなり多いですね。特に最近多くなってる傾向。》
https://twitter.com/uorya_0hashi/status/1154669438563545088

------------------------------------------------------

2)【本日の一行情報】

◎「大阪ほんま本大賞」は、木下昌輝の「天下一の軽口男」(幻冬舎時代小説庫)に決定した。上方落語の開祖・米沢彦八を描いている
https://www.nnn.co.jp/dainichi/news/190729/20190729029.html
木下昌輝のツイート。
《おかげさまで『天下一の軽口男』を増刷していただきました。
帯も書店員様のコメント付きのものです。感謝です。
ぜひ、書店でお買い求めください。
あんまり増刷されたことないのですが、幻冬舎さんはこんな印紙?も送っていただきました。レトロな雰囲気がありますね。》
https://twitter.com/musketeers10/status/1155033529492766721

「リング」「らせん」ほか、鈴木光司による大ヒット小説をコミカライズした関連6作品を一挙掲載、総ページ数1000ページ超が小学館のコミックアプリ「マンガワン」で8月4日までの期間限定で公開される。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000346.000013640.html

小学館のコミックアプリ「マンガワン」は、「永井豪とダイナミックプロ」の「デビルマン」「マジンガーZ」「キューティーハニー」「バイオレンスジャック」という4作品を7月29日より順次、期間限定での掲載を開始した。
https://www.dreamnews.jp/press/0000198945/

博報堂は、Link-Uとの共同事業である書店アプリサービス「まいどく」を7月29日より開始した。「まいどく」は、小説・ライトノベル・実用書・ビジネス書を中心とし、「ためし読み→中身が気に入ったら購入」という仕組みを提供する書店アプリだ。
ユーザーには、3000字相当のチャプターを無料で読むための“コイン”が24時間ごとに提供されるため、毎日気軽にためし読みを楽しむことができる。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000230.000008062.html

◎D2C、サイバー・コミュニケーションズ電通のグループ3社は、「日本の広告費」関連市場の把握の一環として、わが国で初となる「物販系ECプラットフォーム広告費」の推計を共同で実施した。「物販系ECプラットフォーム広告費」は2018年に1,123億円(前年比120.6%)に達し、2019年には前年比128.3%の1,441億円にまで成長する見通しにあることが分かった。
http://www.dentsu.co.jp/news/release/pdf-cms/2019073-0729.pdf

電通は、イノベーション領域のコンサルティングとソフトウェア開発領域のケイパビリティーの強化を目的に、新会社「株式会社GNUS」(ヌース)を設立し、7月29日より営業を開始した。同社は、フリーランスエンジニアと共にチームを組んでソフトウェア開発ソリューションを提供する米Gigster社(ギグスター社)と日本ビジネスにおいて独占的な業務提携契約を締結している。
http://www.dentsu.co.jp/news/release/pdf-cms/2019074-0729.pdf

◎扶桑社、JTBパブリッシング講談社は、「引き寄せ」や「月星座」でカリスマ的な人気のある占星術師Keikoの新刊発売を記念し、3社合同でキャンペーンを開催する。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000306.000026633.html

◎版元の地球丸が倒産し、今年の4月号をもって休刊してしまった「天然生活」が扶桑社から復刊されることになった。8月20日10月号が刊行される。
https://tennenseikatsu.jp/

◎全体的には苦戦している雑誌ジャンルのなかでパズル誌は2018年度累計で前年比107.1%と売れている。しかも、パズル誌においてはマガジン・マガジンが圧倒的に強く、売上上位10誌のうち7誌がマガジン・マガジンから刊行されている。もっとも売れているパズル誌はマガジン・マガジンの「クロスワードOn!」だ。「ほんのひきだし」が発表した「苦戦が続く雑誌市場で、34か月連続売上を伸ばす『パズル誌』 客単価UPにどうつなげる?」は次のように書いている。
《どの雑誌も読者の7~8割が女性で、60~70代が読者の中心となっています。ただ、お絵かきパズルについてはほかと比べて購入者層が広く、30~40代の読者にもよく買われているようです。》
https://hon-hikidashi.jp/more/90147/
併読率も高く「クロスワードOn!」の購入者のうち、約2割は1か月以内に他のクロスワード誌を買っているという。

◎ファッションメディア「Droptokyo」や「The Fashion Post」を運営し、モデルエージェンシー「Holiday」も擁するウィークデーは、日本テレビに全株式を譲渡することで合意し、日本テレビの子会社となることを発表した。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000006.000035451.html

◎ヤフーと三越伊勢丹は、三越伊勢丹のECブランド「arm in arm」にて、Yahoo! JAPANビッグデータとAIを活用し、子育て中の小柄な女性向けのロングスカートを開発した。商品は9月下旬より「arm in arm」のECサイトにて発売する予定だそうだ。
https://about.yahoo.co.jp/pr/release/2019/07/26b/

◎「VOGUE JAPAN」(コンデナスト・ジャパン)は、グローバルなファッション・イベント「VOGUE FASHION’S NIGHT OUT」(ヴォーグ・ファッションズ・ナイト・アウト/以下FNO)」を、東京2019年9月14日(土)、神戸10月19日(土)、名古屋10月26日(土)、そして大阪11月16日(土)~17日(日)の国内4都市にて開催するが、FNO東京の公式サイトをオープンさせた。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000593.000000930.html

朝日新聞デジタルは7月29日付で「JR東、記事捏造で広報誌休刊 架空人物にインタビュー」を掲載した。毎日新聞も7月29日付で「JR東、広報誌休刊へ 記事一部を不正に改変して掲載」を掲載し、讀賣新聞オンラインは7月30日付で「教授名は偽名・顔写真も加工…取材断られ記事捏造」を掲載している。休刊となったのは「JR EAST」だ。朝日新聞デジタルは、こう書いている。
《JR東によると、捏造があったのは、「インフラの海外展開」をテーマに「国際経済学者 浦野正次」に聞いたとするインタビュー記事。一問一答形式で5ページにわたって掲載されていたが、実際には同誌の2013年3月号に掲載された浦田秀次郎・早稲田大大学院教授のインタビュー記事「インフラ輸出の条件」を一部改編して再掲していた。「浦野正次」は架空の人物で、顔写真は浦田教授本人の写真を加工したものだったという。》
https://www.asahi.com/articles/ASM7Y516ZM7YUTIL01H.html
https://mainichi.jp/articles/20190729/k00/00m/040/188000c
https://www.yomiuri.co.jp/national/20190729-OYT1T50210/
「自炊力」「にっぽんのおにぎり」「ジャパめし」などの著書を持つフードライター白央篤司がこの件についてツイートしている。
《インタビューが実現せず「担当者が締め切りに間に合わせるために過去の記事を改編」したものの、その過去記事に登場した教授に献本されて発覚。休刊へ。罪深すぎる…連載してる人たちの仕事の場なくしたんだよ。カメラマンやデザイナーの仕事も。JR東日本広報誌。》
https://twitter.com/hakuo416/status/1155821773004234760
-----------------------------------------------------

3)【深夜の誌人語録】

変えてはならないことを安易に変えてしまうから滅びるのだ。