【文徒】2019年(令和元)9月6日(第7巻162号・通巻1582号)


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1)【記事】「表現の不自由展・その後」実行委員会と津田大介の攻防の行方
2)【本日の一行情報】
3)【人事】光社 9月1日付
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1)【記事】「表現の不自由展・その後」実行委員会と津田大介の攻防の行方(岩本太郎)

「表現の不自由展・その後」中止問題で津田大介(「あいちトリエンナーレ2019」芸術監督)と「不自由展、その後」実行委員会のメンバーたちが2日に日本外国特派員協会で相次いで会見したのは既報の通り。ジャーナリストの綿井健陽は4日、Facebook上で後者の各メンバーの発言要旨を紹介しながら、自身の見解を綴っていた。綿井は前回2015年に東京・練馬で行われた「表現の不自由展」に参画していた1人である。
《私(綿井)が思うに、津田氏が提示した「再開への条件」だが、展示を再開するか、しないかを最終的に判断するのは「あいちトリエンナーレ」実行委員会(委員長:大村・愛知県知事)だから、津田氏が同実行委に対して、この「再開への条件」を示して説得できるかにかかっていると思う。
同実行委の中には大村知事の他にも、河村・名古屋市長や地元の団体や大学学長やメディアの社長など、20数名が委員に入っている。他にも、「あいちトリエンナーレ」全体の協賛や協力企業は多数。これらの「関係者」が再開の方に勇気をもって同意するか、あるいは、現在の中止の状態で終わらせる「事なかれ」「本気でやろうとしない」方に同意するのか。
「あいちトリエンナーレ」実行委は、この事態下で、何を目指して、何を守りたいのか。それを国内外に明確に表明、共有して、判断をしてほしい。それは、日本社会の様々な化・芸術・表現空間に対して、それに携わる人たちはもちろん、介入・口出しするような人たちへも、今後大きく影響を与える判断となるだろう。未来の道しるべとなる、勇気あるジャッジを望む》
https://www.facebook.com/takeharu.watai/posts/2415281208548544
しかしはたして津田に「あいトレ」実行委員会をどこまで説得できるのか。上記会見の席で、例えば「不自由展・その後」実行委員会の1人・小倉俊丸が明かした以下の舞台裏事情からしも決して楽観視できないのではないか。
トリエンナーレ側は展示前も展示後もカメラが入ることを禁止し、観覧した人々へのインタビューも禁止した。こうしたメディア規制は実行委員会にはなん野(ママ)相談もなしに行われた。会場正面にはSNSへの投稿禁止も掲げられ、これらの条件を飲まなければ展示自体ができないと言われ、やむなく受け入れた。今もメディアは入室できておらず、明らかな報道の侵害だ。展示の作品の多くは歴史認識天皇をめぐって検閲に遭った作品ばかりだが、不自由展の展示中止の問題は同時に報道の自由への深刻な侵害を含んでいる》
https://times.abema.tv/posts/7017643
津田大介はそうした「その後」側の会見を記者席で静かに見ていたようだ。津田と親交のある夏野剛ドワンゴ社長・慶應義塾大学別招聘教授)は、『AbemaTV』で「最も深く傷ついているのは津田君だ」と、彼を擁護する意見を述べていた。
《僕は津田君をよく知っているが、本来だったら実行委員会の人たちが言うようなことを主張するようなタイプの人。その津田君をもってしても中止せざるを得なかったということ。それはとても重いことだ》
《彼はこの展示会をずっとやりたいと思っていたし、ギリギリの所を狙っていた。津田君が今まで発言してきたことを分かってあげたい》
《こういう催しでは、何を出展するのか、どこで線を引くかなど、監督の決定権がすごく大事で、それがなければ成立しない。アーティストはなんの責任も取らないが、参加者に危害を加えるような人が現れたり、京アニみたいなことが起こったりした場合に責任を負うのは一義的には監督だ。その津田君が判断したことに対して、実行委員会の人たちが無責任に言っているのはおかしいと思う》
https://news.merumo.ne.jp/article/genre/8980208?utm
既に報告している通り、この中止問題をめぐっては国内外の様々な団体が、展示中止の撤回などを求める声明を続々と出してきている。5日には有志のアーティストたちが「芸術支援の新しい可能性を模索する社会実験」として組織している「アーティスツ・ギルド」が「『表現の不自由展・その後』の閉鎖に対する声明。そして、その前とこれから」を発表している。そこにはこんな一節もある。
《私たちは威嚇や脅迫、政治家の不当な介入に対し強く抗議します。そして政治的圧力、脅迫、リスク管理、配慮、自己規制などによって織りなされるこの巧妙な検閲の共犯関係に対し強く抗議します
《展示作家の権利と表現の自由を守ることはあいちトリエンナーレの責務です。また、自由権規約(市民的及び政治的権利に関する国際規約)の締約国である日本政府には「表現の自由についての権利を行使する人々を封じることを目的とした攻撃に対し有効な措置を講じなければならない」と課されています。したがって日本政府には、脅迫や攻撃に対してあいちトリエンナーレ全体の安全を保障し、表現の自由を守るために具体的な措置を講じる責任があります。
しかしながら閉鎖から1ヶ月経った現在も展示は閉鎖されたままです。政府には、関係各所の安全を確保するために必要な具体的措置をただちに取ることを求めます。そして、あいちトリエンナーレ実行委員会には、『表現の不自由展・その後』の展示を迅速に再開することを求めます。
〈表現の不自由展・その後〉が示すことは、今回の事態以前にもこの国で多くの検閲的な介入がなされてきたということです。そして同展示に展示されたものは氷山の一角に過ぎず、表に現れない検閲や抑圧によって隠され、潰されてきたものが膨大にあることを私たちは知っている筈です。その繰り返しと諦めによって、検閲や抑圧は内面化され、アートに携わる者自身が、不自由な表現のプラットホームに加担してきました。
「その後」が示すものの発端は「その前」にあります。今ある困難な状況は、外的な検閲や抑圧と共に積み重ねられた自己規制、相互抑圧、萎縮、怠慢が織りなす私たち自身によるネガティブな造形物です》
https://bijutsutecho.com/magazine/news/headline/20495#.XXCvYKRMXqF.twitter
綿井が上記で書いているところによれば、2日の日本外国特派員協会会見は《普段と違って、日本メディアと韓国メディアがほとんどで、欧米メディアの参加者が極端に少ない》状況で行われたという。海外からの中止撤回を求める声が日本政府や「あいちトリエンナーレ」実行委員会に対して揺さぶりをかけるといった展開が今後どこまで期待できるのかはわからない。しかし「不自由展、その後」企画段階から中止に至るプロセスも明らかにしつつ、当事者間での議論の中に外側からの様々な声が反映されていくことを私も願う。上記で引用した『美術手帖』はなおもこの問題に関連する様々な動きを、サイト上の「まとめ」を随時更新しながら伝えている。
https://bijutsutecho.com/magazine/news/headline/20294
NHKも5日夜の『クローズアップ現代+』で「『表現の不自由展・その後』中止の裏で何が」を放送。津田や「表現の不自由展・その後」実行委員会の岡本有佳のほか「あいちトリエンナーレに協賛した企業の社長や事務局に「電凸」を行った男性2人などにも取材したほか、中止問題について市民が独自に集会を開いて議論する様子などを伝えている。それらの一端はテキストでも公開されている。番組自体も「NHKオンデマンド」などで後から視聴できる旨が放送時に告知されていた。
https://www3.nhk.or.jp/news/special/enjyou/expression/

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2)【本日の一行情報】(岩本太郎)


◎「CAREER HACK」が「少女マンガ誌『デザート』元編集長が貫くこだわり」「『となりの怪物くん』ヒット要因を編集者が解説!」「“シロウト”こそヒットを生み出す?ベテラン編集者に学ぶ、読者目線の養い方」を公開している。講談社で「デザート」編集長をつとめるも、今年5月に退社し、スピカワークスを立ち上げた鈴木重毅の「編集論」だが傾聴するに値する内容だ。
《忘れてたけど、何でそんな簡単なこと忘れてたんだろう。ああそうだな、とても大事なことなんだなって。マンガを通じてそこに気づけるだけで、すごく生きるのが楽になると思うんです。》
《この講義では「コンテクスト」って言葉がよく出てきますが、なんだか難しい言葉じゃないですか。だから僕は、コンテンツが「プレゼント」だとしたら、コンテクストは「贈り方」のことなんだろうなと置き換えて考えてみてます。》
《企画を作り始めてから整えるまで、「コンテンツとコンテクストの間」「作家と自分の間」「自分とチームの間」「作品と読者の間」をそれぞれどのくらい行ったり来たりできるかが、コンテンツやコンテクスト、ひいては企画を強めることにつながると思っています。》
https://careerhack.en-japan.com/report/detail/1161
https://careerhack.en-japan.com/report/detail/1162
https://careerhack.en-japan.com/report/detail/1163

◎欧州各国の社会・経済・政治事情について執筆活動を続ける在英ジャーナリスト・小林恭子が、今年4月にイタリアのペルージャで開催された「ジャーナリズム祭」のレポートを中心に、欧州メディアの最新動向をレポート。英『ガーディアン』は直近の2018~19年度において、長年の赤字体質をようやく克服して80万ポンド(約1億円)の営業利益を計上したそうだ。《鍵はデジタル収入と読者からの支援の増加》にあると小林は言う。『ガーディアン』の電子版は過去記事も含めて無料で読めるが、一方では《有料購読という形ではなく、「会員」、「支援者」、「貢献者」として読者に幾ばくかの料金を払ってもらう仕組みを考案したこと》が功を奏しているようだ。
https://news.yahoo.co.jp/byline/kobayashiginko/20190901-00139036/
https://news.yahoo.co.jp/byline/kobayashiginko/20190903-00140836/
https://news.yahoo.co.jp/byline/kobayashiginko/20190904-00140839/

◎印刷業界大手の廣済堂が、子会社の廣済堂出版の全株式を日本国内在住の個人に譲渡するとを決めたそうだ。ウェブメディア『M&A速報』によると、廣済堂出版については5期連続の赤字を計上しており、短期的な収益改善は厳しい状況にあることから《出版事業に係る知見とネットワークを持つ個人へ》を譲渡するのが最善と廣済堂が判断したという。譲渡価額は非公表。譲渡予定日は今年9月30日とのこと。
https://maonline.jp/news/20190830c
廣済堂出版は後に幻冬舎を創業する見城徹角川書店に入社する前、出版業界で最初に入社した会社でもある。

◎『Business Journal』の「ツタヤ図書館」問題追及シリーズ。南海電鉄和歌山市駅前での正式オープンが先ごろ発表された関西で初のツタヤ図書館(和歌山市民図書館)に総額で94億円といわれる公金が投入された背後事情などについて報じている。同図書館を含む和歌山市駅前再開発プロジェクトで当事者である南海電鉄の負担額が比較的少ない背景には、以前に《南海が和歌山市駅を廃止するという話》があったと指摘する地元関係者の証言なども紹介されている
https://biz-journal.jp/2019/08/post_116464.html

◎元産経新聞記者で弁護士の楊井人ら有志が運営してきた一般社団法人「日本報道検証機構」が8月30日、運営してきた誤報検証サイト『GoHoo』や公式twitterアカウントで突然の解散発表。2012年の設立以来、寄付や会員からの会費により運営してきたが、「諸般の事業から事業継続が困難」になったとして29日限りで解散、30日から清算手続きに入ることになったという
http://gohoo.org/
https://twitter.com/GoHoo_WANJ/status/1167238048892903425
『GoHoo』は現在「解散のお知らせ」以外のコンテンツは閲読できなくなっているが、過去の誤報検証記事についてはアーカイブ公開することも検討しているとのこと。また、「元代表理事・清算人」となった楊井も《もしご質問やご意見がありましたら、こちらにお寄せいただければと存じます》として
『Peing』で問い合わせに答えている。楊井から関係者向けに送られてきたメール(私ももらった)によれば、経済的な理由に加え、同機構の運営にかかわる事務作業などの負担が楊井自身の弁護士としての本業にも支障をきたす状況になっていたようだ。
https://peing.net/ja/gohoo_wanj?message=1
https://www.j-cast.com/2019/08/31366393.html

◎情報センター出版局OBの「古き良き時代のノンフィクション書籍編集者」こと田代靖久による「note」連載『その出版社、凶暴につき 情報センター出版局クロニクル』が2カ月ぶりの更新。通算40回目となる今回は、「平成」が始まった1989年頃に同社で手掛けた書籍(村野雅義『環境空気の崩壊』、岡庭昇『飽食の予言 PART2』など)の舞台裏話を綴っている。連載は今後《月一回くらいの不定期更新》になるとのことだが、末尾には「特報」も。
《連載のペースが落ちている間、種々の事柄が水面下で進行していた!
現在、某出版社とのあいだで、某プロジェクトが鋭意進行中!
詳細が決定次第、近日大発表予定!! 乞うご期待》
https://note.mu/eden_rrr/n/n71eeaae20631
https://twitter.com/EDEN_RRR/status/1168305610003079168

◎『重版未定』『編プロ☆ガール』『ぽんぽこ書房 小説玉石編集部』など出版業界の内幕を描いた漫画作品でも知られ川崎昌平が《何やら雑誌の話題で界隈が盛り上がっているようですが……》とSNSで新作の告知。スマホ向けのコミックサイトの「よもんが」で新連載を始めたそうだ。タイトルは『もう雑誌なんて誰も読まねえよ』とのこと。
https://www.yomonga.com/pc/
https://twitter.com/shouheikawasaki/status/1168893701059424258
https://www.facebook.com/photo.php?fbid=2399040410182638

◎作家・映画監督の森達也が新たなドキュメンタリーの主人公に選んだのは東京新聞記者の望月衣塑子だった。『i-新聞記者ドキュメント-』のタイトルで11月15日から東京・新宿ピカデリーほか全国で順次公開される予定。
https://cinra.net/news/20190903-i
望月の著書を原案として先頃劇映画化された『新聞記者』にも森は関わっていた。「もともと森が監督するはずだった」との噂もあるらしい。

◎出版情報登録センター(JPRO)の説明会「JPRO MORE-出版社・取次会社・書店・図書館をつなぐ『今』と『未来図』」が17日の14時から都内の一橋講堂で開催される。小学館社長の相賀昌宏(日本出版インフラセンター代表理事)、トーハン副社長の川上浩明による挨拶に続き、集英社顧間で一ツ橋企画代表の柳本重民(出版情報登録センター管理委員長)ほかによる「JPROの今と未来図」、講談社佐野洋(電子出版物登録WGリーダー)ほかによる「出版情報登録の現場から(電子出版物登録新方式その他)」が予定されている。
https://jpro2.jpo.or.jp/news/detail?seq=135&kind=0

◎かつて内外出版社が発行し、2015年に休刊した後は今年5月に「復刻号」が刊行されたヘア&ファッション情報誌『CHOKiCHOKi(チョキチョキ)』について、引き続き「復刻第2号」の発行に向けたクラウドファンディング・プロジェクトがスタートした。今年3月にも「復刻号」のためのクラウドファンディングを立ち上げており、その際は計181人から総額215万3889円の支援を獲得したという。
https://camp-fire.jp/projects/view/190121
https://www.wwdjapan.com/articles/920714

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3)【人事】光社 9月1日付

今泉 祐二
新:第三編集局JJ編集長 兼 JJ Web編集室長
旧:第三編集局JJ編集長

田頭 晃
新:出版局新書副編集長
旧:第三編集局 JJ Web編集室長(副編集長)