【文徒】2020年(令和2)10月14日(第8巻190号・通巻1847号)


Index------------------------------------------------------
1)【記事】まだまだつづく学術会議任命拒否事件
2)【本日の一行情報】
3)【深夜の誌人語録】
----------------------------------------2020.10.14 Shuppanjin

1)【記事】まだまだつづく学術会議任命拒否事件

毎日新聞は10月12日付で「#排除する政治~学術会議問題を考える 法政大出身の菅氏へ『民主主義国家が誇り持てる首相に』田中優子・法政大総長」(牧野宏美)を掲載している。
《――田中総長は2018年度から日本学術会議の活動を評価する外部評価有識者に就任し、取りまとめ役の座長を務めています。外部から見た学術会議の課題は何でしょうか。
◆一つは、会員に医学や工学など自然科学分野に比べて人・社会科学分野の研究者が少なく、偏りがみられることです。今年3月に提出した外部評価意見書の中には、次のような内容も盛り込みました。「社会が大きく変化する時代は、既存の価値観を疑い新たな価値を創造する人・社会科学の機能が、今よりもさらに重要になると思われる。(中略)会員選考等では、既存の分野等にとらわれない幅広い分野の研究者を積極的に選考しダイバーシティー(多様性)を推進していただきたい」
つまり、人・社会科学の研究者ばかりを任命拒否したのは、私たち外部評価有識者の意見も間接的に否定したことになりますね。》
https://mainichi.jp/articles/20201011/k00/00m/040/065000c
朝日新聞デジタルは10月12日付で「学術会議は既得権益か 菅氏を追う作家が暴く露骨な意図」(藤田さつき)を掲載している。「総理の影 菅義偉の正体」の森功は次のように述べている。
《とはいえ、今回の件がこれほど問題化した背景には、国民の側に「政権のありようがおかしいのではないか」という疑問がくすぶっているからでしょう。その疑問と、政権側が打ちだそうとしている既得権益打破」というスローガンの、どちらが国民の側に説得力を得ていくか。私たちが試されています。》
https://digital.asahi.com/articles/ASNBD366DNB6UPQJ00R.html
朝日新聞デジタルは10月13日付で「学術会議元会長『官邸の難色に驚いた』16年人事を証言」(聞き手・宮崎亮)を掲載している。学術会議元会長で東大名誉教授の大西隆は次のように語っている。
《「学術会議は、会長名で105人の推薦名簿を任命者である首相に宛てて公書で届けた。見ていなければ99人を選んで任命することはできないはずだ。矛盾しているし、無責任のそしりを免れない。任命を拒否された方々を愚弄している」》
https://digital.asahi.com/articles/ASNBD7FDLNBCUTIL021.html
時事通信は10月12日付で「菅首相、『6人排除』事前に把握 杉田副長官が判断関与―学術会議問題」を配信している。
《関係者によると、政府の事務方トップである杉田副長官が首相の決裁前に推薦リストから外す6人を選別。報告を受けた首相も名前を確認した。首相は105人の一覧表そのものは見ていないものの、排除に対する「首相の考えは固かった」という。》
https://www.jiji.com/jc/article?k=2020101200927&g=pol
津田大介ツイッターで、この記事をこう解説している。
《こないだの朝日新聞の独自記事でも2016年夏から断続的に選考に関与しており、首相の懐刀・杉田和博官房副長官が圧力かけてるということが報じられましたが、今回の件もその延長上にあり、人事を通じて圧力をかけている存在が杉田官房副長官だというわかりやすい構図が明らかになったということですね。》
https://twitter.com/tsuda/status/1315612784395055104
佐々木中は、こう皮肉っている。
《嘘をつき、矛盾を指摘されるとおろおろ言い訳、その言い訳もまたボロを出す、の繰り返し。「おろおろしている」という報道がありましたが、「おろおろしているという指摘はあたらない」とでも言い出すんですかね。》
https://twitter.com/AtaruSasaki/status/1315624930608775168
九州大学法学部教授・南野森のツイート。
《ほんとに御用学者、御用コメンテーター、御用インフルエンサーっているんだね。改めて。今は学術会議の粗探しとか、ましてや6人のネガキャンをやっている場合ではないのに。今それに一生懸命な人って、やはり何かから人々の目を逸らせようとして頑張っているとしか思えない。誰かに頼まれてるのかな。》
https://twitter.com/sspmi/status/1315887791041961984
毎日新聞は10月13日付で「#排除する政治~学術会議問題を考える 菅首相二つの狙い『徹底破壊して』作る暗い世界 経済学者・安冨教授が読む」(大迫麻記子)を掲載している。
《大学は、事実として学歴差別という日本社会の最悪の差別の頂点に立つ機構です。国民の多くは、学歴差別によって傷つけられ、苦しんでいます。そのような人たちは、学術界へのあからさまな攻撃を悪く思わないかもしれません。
ですから、今後もエスタブリッシュメントに対する象徴的攻撃を繰り返すことで、自らの支配力を強化しながら、国民の支持も集めていこうとするのではないでしょうか。》
https://mainichi.jp/articles/20201012/k00/00m/040/232000c

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2)【本日の一行情報】

◎国家基本問題研究所のホームページが10月5日付で発表した北海道大学名誉教授・奈良林直の「学術会議こそ学問の自由を守れ」を10月12日付では次のように紹介した。
《一方、学術会議が力を入れているのが、「軍事研究の禁止」を旨とした防衛省関連研究の否定である。実例を一つ挙げる。北大は2016年度、防衛省の安全保障技術研究推進制度に応募し、微細な泡で船底を覆い船の航行の抵抗を減らすM教授(流体力学)の研究が採択された。この研究は自衛隊の艦艇のみならず、民間のタンカーや船舶の燃費が10%低減される画期的なものである。
このような優れた研究を学術会議が「軍事研究」と決めつけ、2017年3月24日付の「軍事的安全保障研究に関する声明」で批判した。学術会議幹部は北大総長室に押しかけ、ついに2018年に研究を辞退させた。
学術会議は、日本国民の生命と財産を守る防衛に異を唱え、特定の野党の主張や活動に与くみして行動している。優秀な学者の学術集団でありながら、圧力団体として学問の自由を自ら否定している。
しかし、この部分が次のように訂正されている。
《一方、学術会議が力を入れているのが、「軍事研究の禁止」を旨とした防衛省関連研究の否定である。実例を一つ挙げる。北大は2016年度、防衛省の安全保障技術研究推進制度に応募し、微細な泡で船底を覆い船の航行の抵抗を減らすM教授(流体力学)の研究が採択された。この研究は自衛隊の艦艇のみならず、民間のタンカーや船舶の燃費が10%低減される画期的なものである。
このような優れた研究を学術会議が「軍事研究」と決めつけ、2017年3月24日付の「軍事的安全保障研究に関する声明」で批判した。学術会議からの事実上の圧力で、北大はついに2018年に研究を辞退した。》
【訂正】として次のような章が掲げられている。
《当初の原稿では「学術会議幹部は北大総長室に押しかけ、ついに2018年に研究を辞退させた」としましたが、学術会議幹部が北大総長室に押しかけた事実はありませんでしたので、「学術会議からの事実上の圧力で、北大はついに2018年に研究を辞退した」と訂正します。》
https://jinf.jp/weekly/archives/32608

上代学会は10月12日付で「抗議声明」を発表した。この間、様々な声明を読んできたが、これが一番印象に残った。
上代学会常任理事会は、日本学術会議の推薦した会員の一部について任命を拒否した政府の措置に対し、強く抗議します。今般の措置は、権力からの独立を法的に保障された学術会議の地位を公然と侵害するものであり、とうてい容認できません。学術会議の協力学術研究団体でもある上代学会を運営してきた立場として、即時撤回を求めます。
私たちは、かつて津田左右吉の『古事記』『日本書紀』研究が国家権力によって弾圧された経緯を熟知しています。「神武紀元二千六百年」の虚構性を暴露するものだったことが当時の国策に抵触したのでした。戦後の上代学研究者は、日本史研究者とともに、津田の受難を二度と繰り返さないことが研究発展のために必須であると考え、そのために相互努力を惜
しまないことを不律としてきました。今般の措置は、私たちの研究者としての信条を踏みにじるものであり、自由闊達であるべき学問討究を萎縮へ導く暴挙であって、この点からもとうてい容認できません。
今般の任命拒否は英米の著名な科学雑誌にも取り上げられ、政治が学問の自由を脅かしていると報じられました。日本だけでなく世界中の科学者が、政府の措置を非常識きわまる強権発動と見ているのです。
言語表現を取り扱うわが学会としては、任命拒否の理由を菅総理まともに説明しようとせず、無効で無内容な言い逃れを重ねていることをも看過できません。総理の態度は事実上の回答拒否であり、コミュニケーションの一方的遮断です。あたかも何事かを答えたかのように見せかけている分だけ、ただの黙殺より悪質だとも言わなくてはなりません。
前政権以来、この国の指導者たちの日本語破壊が目に余ります。日本語には豊かなコミュニケーションを担う力が十分備わっているのに、見せかけの形式に空疎な内容を盛り込んだ言説が今後も横行するなら、日本語そのものの力が低下してしまいます。日本語の無力化・形骸化を深く憂慮します。頼むから日本語をこれ以上痛めつけないでいただきたい。》
http://jodaibungakukai.org/?fbclid=IwAR0P_rt-yGV05avmKCxlpdFfIKIoBmMfy1DL8SR3IWQj6CkHg-Ijy6GVeRg

角幡唯介元朝日新聞記者である。
《30年前から人の話を聞いていないとずっと不平を言われ続けてきたが、ついに先ほど娘からも指摘をうけた。「お父さんに言いたいんだけど、人の話聞いてないよね。すごくムカつく」。今思えばなぜ自分が新聞記者をしていたのか、とても不思議だ。》
https://twitter.com/kakuhatayusuke/status/1315795952817508352

◎マガジンハウスのグラビア女性週刊誌「anan」10月21日発売2222号の表紙を飾るのは映画「劇場版『鬼滅の刃無限列車編」の公開に合わせて、「鬼滅の刃」の竈門炭治郎と煉獄杏寿郎の特別描き下ろしツーショット、加えて23ページに及ぶ特集を組んでいるそうだ。集英社女性誌にはできないことを創刊50年の「anan」がやってのけたということである。
https://realsound.jp/book/2020/10/post-634266.html

TOKYO No.1 SOUL SET渡辺俊美によるお弁当エッセイ「461 個の弁当は、親父と息子の男の約束。」(マガジンハウス)を原作したる映画「461 個のおべんとう」が11月6日に公開される。シングルファザー井ノ原快彦が演じ、息子を「なにわ男子」に所属する道枝駿佑が演じる。
https://screenonline.jp/_ct/17399216
「461 個の弁当は、親父と息子の男の約束。」は既に小学館でコミカライズもされているし、NHKでテレビドラマ化もされている。原作がもっと売れても良いんだよなあ。

◎宝島社が発行する「お金が貯まるポーチ」シリーズが、10月で累計178万部を突破する。「お金が貯まるポーチ」とは、“クリアジップケース”をセットできる6穴バインダー付きの多機能ポーチ。週ごとや用途ごとに予算をケースに分けて入れることで無駄遣いを減らし、貯金を可能にする。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001065.000005069.html

◎「デイリー新潮」は10月11日付で「首相補佐官『柿崎明二氏』は毎日新聞勤務の過去 転職先で出世した“ヤメ毎”リスト」を発表している。
《転職先でひとかどの出世をする人が目立つのが、毎日OBの特徴なのである。毎日のオンザジョブトレーニングが優れているのか、それとも毎日OBは順応性が高いのか、はたまた力のある人が多いからか…。
毎日からの転職組でサラリーマンとしては出世頭と呼ばれているのが、TBSホールディングスの武田信二会長(68)である。同局とグルーブの全権を握るドンだ。
毎日には千葉県立東葛飾高校、京大経済学部を卒業後の1978年に入社。TBSへの転職は91年。毎日では経済記者だったが、同局に移るとCMを扱う営業畑を歩んだ。》
https://www.dailyshincho.jp/article/2020/10111800/?all=1

◎and factoryは、KADOKAWAが10月1日より開業した、アニメをテーマにしたコンセプトホテル「EJアニメホテル」へのスマートフォンを起点とした新たな体験を生む空間演出を「EJアニメホテル」と共に手がけた。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000202.000014185.html

◎登録者数30万人超のYouTubeチャンネル1人前食堂 Maiの食いしん坊レシピ「私の心と体が喜ぶ 甘やかしごはん」を11月11日に刊行する。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000007575.000007006.html
レシピ本の主流は今やインターネット発である。

◎「月刊コミックゼノン」の創刊10周年を記念し、コアミックスは同社として初の試みとなる、BookLive!、dブック、pixivコミック、コミックシーモアなど主要電子書店での「コアミックス作品の一挙無料開放キャンペーン」を期間限定で実施する。コアミックス作品の単行本第1巻が無料で読める。
https://www.coamix.co.jp/news/zenon10th_e-bookcampaign/

東京新聞は10月13日付で「電通パソナら身内で利益分与 持続化給付金、外注先8割公表せず」を掲載している。
《持続化給付金の委託問題の焦点の1つは、サービスデザイン推進協議会(サ協)から再委託・外注が繰り返された多重下請け構造不透明さにある。契約金1億円以上の事業者だけで4次下請けまで64社(元請けを含む)あり、経産省はこのうち8割近くの社名を公表していない。さらに、いずれの社も外注先を選んだりする際、複数業者からの相見積もりを取っていなかった。競争が働かず、外注費が膨らんだ懸念がある。
社名が明らかになっている15社は元請けのサ協を設立した電通パソナ電通の子会社などで、身内で利益を分け合う構図となっていた。経産省関係者も「身内間で事業を外注すれば、見積もりが甘くなる可能性はある」と認める。》
https://www.tokyo-np.co.jp/article/61417/

◎寺本幸司がフェイスブック筒美京平を追悼している。
《「筒美京平が死んだ!」
筒美京平(渡辺栄吉)とはじめて会ったのは1967年ポリドールの洋楽部の部屋だった。
それから言葉を交わすようになって、ある日「自由ヶ丘のジャズ クラブでピアノを弾くのだけれど、」とぽつんといったのでその店に行って彼のピアノを聴いて見た。
モダンjazzにハマっていたから、ジャズ ピアノ プレィヤーの音は耳の奥の底まで染み込んでいる。
だが、渡辺栄吉の音は違った。
ポップな響きのリズムにメロディがある。
それから彼が筒美京平になって橋本淳と作ったいしだあゆみ「ブルーライト ヨコハマ」でメジャー作曲家になって、こちらはアンダーグラウンドで浅川マキなんかをやっていたが、1979年 桑名正博「セクシャル バイオレットNO1」でオリコン7週1位のセッション仕事をした
いまだからいうが肉体関係のない同性愛者のようにたくさんの豊穣な時間を京平さんとは共有した。
おれより2つも年下なのに、逝ってしまった。
今夜は寂しくてやりきれない。》
https://www.facebook.com/permalink.php?story_fbid=637765886922742&id=100020680098709
松本隆フェイスブックで追悼している。
《神戸のラジオ局でマイクに向かってると、「京平先生が亡くなった、、、」と太田裕美からメールが入った。瞬間、涙の洪水になりそうな心を抑えて、平常心を保ちながらラジオを終わらせた。取り乱さなくて偉いでしょ、褒めてよと天国の京平さんに呟く。
作詞家になった瞬間、目の前に筒美京平は立っていて、先輩と後輩であり、兄と弟であり、ピッチャーとキャッチャーであり、そして別れなければならない日が来ると、右半身と左半身に裂かれるようだ。
ぼくが京平さんからもらったものはありったけの愛。彼ほどぼくの言葉を愛してくれた人はいない。
ありがとう、京平さん。いつかぼくも音符の船に乗り、天の園に舞い上がる日が来る。少しの間、待ってて。そうしたら笑顔で、喜んだり怒られたり哀しんだり楽しく語り合おうね。》
https://www.facebook.com/photo.php?fbid=3445139325600401&set=a.145103225604044&type=3
沢田研二のアルバム「女たちよ」は「源氏物語」をモチーフに作詞高橋睦郎、作曲は筒美京平、編曲は大村雅朗の3人が全曲を担当する。これは傑作だった。
https://www.universal-music.co.jp/sawada-kenji/products/upcy-6066/

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3)【深夜の誌人語録】

企画の第一歩は正しいを疑うことである。