【文徒】2020年(令和2)10月26日(第8巻198号・通巻1855号)


Index------------------------------------------------------
1)【記事】光社「JJ」不定期刊化の衝撃
2)【記事】産経新聞宮嶋茂樹コラムが炎上
3)【記事】「この本を盗む者は」(KADOKAWA)における深緑野分の読書力
4)【本日の一行情報】
5)【深夜の誌人語録】
----------------------------------------2020.10.26 Shuppanjin

1)【記事】光社「JJ」不定期刊化の衝撃

永江朗は「エコノミストOnline」に10月14日付で「映画も大ヒット!『鬼滅の刃』で集英社が絶好調の一方、マンガを持たない出版社に『雑誌という不良債権』が重くのしかかっている」を発表している。
集英社の第79期(2019年6月~20年5月)決算は、売上高が1529億円で、前年比14・7%の増加。経常利益は300億円、当期純利益は200億円超。》
《一方、決算期間が同じ光社の第76期は売上高が約185億円で前年比9%の減少。主力とする女性ファッション誌がコロナ禍により発売中止、広告収入も減ったのが痛かった。経常損失が約14億円。》
《明暗を分けたのはマンガというコンテンツを持っているか否かである。マンガがあれば、紙版のコミックスやデジタル版が売れ、さらには版権ビジネスで稼ぐことができる。集英社でも紙の雑誌は前年比9・8%減となっており、縮小の比率は光社の8・1%減よりも悪い。コロナ禍がなかったとしても、紙の雑誌の市場縮小は続くだろう。マンガを持たない雑誌出版社は生き残り策を考えなければならない。》
https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20201006/se1/00m/020/023000c
社の売上高は、集英社の利益にも及ばないのである。しかも、注視しなければならないのは、キメツノミクスが猛威を振るう集英社と違って、光社がコロナ禍の影響を受けるのは、今期、第77期ということになる。これ以上、傷口を拡大させることはできない。最初に手を打ったのは「HERS」であった。社は6月4日付で「『HERS』逐次刊行化のお知らせ」を発表した。
《このたび女性月刊誌『HERS』を、2020年7月10日発売の8月号以降は逐次刊行とさせていただくことになりましたのでお知らせいたします。
2008年3月の創刊より、『HERS』は多くの読者にご愛読いただいてまいりましたが、今後は、月刊誌の枠にとらわれない、いまの時代に合ったメディア形態へと移行します。
具体的な施策については概要が固まり次第、あらためてご案内させていただきます。
なお、WEBメディアとしての『HERS』、光社公式通販サイト「kokode.jp」内の「HERS GREEN LABEL」は引き続き運営いたします。
今後とも変わらぬご支持を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。》
https://hers-web.jp/info/post_19996/
「HERS」がメディアとしてデジタルシフトを進め、ビジネスとして軌道に乗ってからの逐次刊化ではなかった。ともかく出血を止めなければならなかった。「逐次刊行」が「不定期刊行」と言葉は変わっても「JJ」についても同じことが指摘できるはずだ。
社が今年45周年を迎えた女性ファッション誌「JJ」の「不定期刊行化」を「JJnet」に発表したのは10月23日のことであった。
《いつも月刊『JJ』をご愛読いただきまして、誠にありがとうございます。
誠に急なご報告となりますが2021年2月号(12月23日発売)をもちまして、
月刊から不定期刊にさせていただく事となりました。
これまでご愛読くださった皆様、JJ誌面に登場していただいた全ての方々、そして取材や撮影で多大なるお力添えを賜りました関係者各位に深く感謝し、心から御礼申し上げます。
『JJ』は1975年4月創刊から、その時代時代の20代に寄り添った誌面作りを心がけ、約45年間、毎月発行させていただきました。日ごろアンケートや取材でいただく、読者の皆様からの『JJ』へのメッセージはスタッフ一同、何よりの励みになりました。本当にありがとうございました。
今後、『JJ』は不定期ではありますが、紙の“雑誌”という形が企画内容にマッチした場合、随時刊行いたします。その際は、あらためてご支援とご協力を賜りたくお願い申し上げます。
なおJJ公式サイトである『JJnet』はもちろん、TwitterやInstagramといったSNSYouTubeをはじめとした動画コンテンツは引き続き発信してまいりますので、変わらぬご愛顧を賜りますよう、何卒宜しくお願い申し上げます。
https://jj-jj.net/lifestyle/127781/
産経新聞は10月23日付で「女性誌『JJ』が不定期刊行に 部数低迷で」を掲載している。
《同誌は近年、部数が低迷。日本雑誌協会の公表データでは、今年4~6月の平均発行部数は4万5200部で、昨年同期比の半分以下だった。》
https://www.sankei.com/entertainments/news/201023/ent2010230009-n1.html
日本雑誌協会の公表データとは印刷部数であり、実売部数は印刷部数の6~8割ということになるか。実売は3万部台であると思われる。
日刊スポーツは10月23日付で「雑誌『JJ』不定期刊行に 今後はSNSなどで展開」を掲載している。
《同誌は1975年(昭50)創刊の老舗。これまでの主な登場モデルには、吉川十和子賀来千香子設楽りさ子梅宮アンナ片瀬那奈、東原亜紀、黒木メイサ吉川ひなのダレノガレ明美真野恵里菜滝沢カレンなどがいる。》
https://www.nikkansports.com/entertainment/news/202010230001159.html
私からすれば黒田知永子の名前を忘れてはならないと思う。そもそも光社にとって女性ファッション誌ラインを構築するにあたって第一歩となったのが「JJ」であったのである。光社の女性ファッション誌化の原点である。そうした歴史を踏まえるならば、不定期刊化は断腸の思いで決断されたはずである。
こんなツイートを発見した。
《出版全体の厳しさの反映ではあるんだろうけど、フワちゃんみたいなタレントがいて、メイクのビフォーアフター動画で人気になるYouTuberがいて、若い女性が一人でZINEを作れる時代に、「あなたたちのオシャレはこう」と示すタイプの女性誌は合わなくなってきたのもあると思う。》
https://twitter.com/mipoko611/status/1319634220365410304
こういうツイートもあった。
《【不定期刊になることを受けて】
俺「JJって雑誌知っとる?」
母「知っとるもなんも姉さん(叔母)が読モやっとったよ」
俺「ファッ!???」》
https://twitter.com/bradpit0702/status/1319564464094494721
こんなツイートも。
《以前は、JJとは女性自身の頭字に由来しているという話を授業ですると「おおっ」という反応があったんだけど、もう通じないだろうな。》
https://twitter.com/brighthelmer/status/1319772145677930496
荒子書店だった人」は予想している。
《JJ休刊かぁ。いつかこの辺りの雑誌にも波が来るとは思っていたけど、思っていたよりは遅かった。今後雑誌の休刊はより加速するでしょうね。》
https://twitter.com/arakoshoten/status/1319862171870711810
「JJ」の仕事もした経験を持つ写真家の中村路人は、削除してしまったが、「JJ」は「待合室系の雑誌」の雑誌であるとツイートしていた。販売的にもコロナ禍の影響を被らざるを得なかったのだ
《業界にいる自分の造語だけど「待合室系の雑誌」の一つのJJは/出版不況でもある程度の待合室への安心部数があったはず/町に1軒や2軒はある、美容室、ネイルサロン、エステ等/美容室だけでも全国に大小数十万軒/アパレルも含め、それら待合室部数も激少したのだろうコロナ禍経済深刻だ・・・》
広告的にも苦しかったはずである。コロナ禍がアパレル不況に拍車をかけた。「書籍編集者兼PRプランナー」だという「菊地(昭和55年生まれ)」は、こんなツイートを投稿している。
《版型やら読者層やらここ数年はいろいろと模索をしていた「JJ」も遂に休刊。ほとんどの版元にとって女性誌=ファッション誌であり、アパレル苦境時代の影響をそのまはま受けることになる。》
https://twitter.com/satoshi198006/status/1319779528663683072
田端信太郎の呟きは雑誌関係者を改めて震撼させることだろう。
《近いうちに雑誌ってもん自体がなくなっていくだろう。》
https://twitter.com/tabbata/status/1319775925072924673
しかし、私は断言しよう。雑誌は、全滅はしないのだと。「伝統」として生き残る雑誌は存在するはずだ。
電通OB・田中泰延のツイート。
《大学時代の同級生の口癖は「ワンレン!ボディコン!JJ!ハイレグ!」だった。わけがわからないが、彼の好みの女性のタイプを述べているようだった。その JJが月刊誌でなくなるという。時代の流れを感じる。その同級生もいまは総務大臣になっている。時代の流れを感じる。》
《大臣になった同級生にはその後の人生、別になーんの接点もない
「田中さんが大臣と同級生ということを知りまして、陳情に行くのですが同行してくださいませんか」
などという頼みが来る。どこで調べたのか。なんでそんなのに行かなきゃならないのか。
行ったら今もハイレグが好きか訊いといてくれ》
https://twitter.com/hironobutnk/status/1319773508554010625
総務大臣武田良太
https://www.ryota.gr.jp/#firstPage
雑誌は全滅しないにしても、時代は変わったのである。「CanCam」初のファッションディレクターとして活躍した渡辺佳恵がこんなツイートを投稿していた。
《数々の雑誌がなくなっていったけど/JJ休刊はさすがに衝撃。/やばいのはずっと知ってたけど、/旗艦雑誌だから潰せないでいただろうに/よほどのことだなと。
本当に時代が変わる。
仕事のイロハを教えてもらった/出版業界だから、感謝しかなくて/次の時代の在り方に期待!》
https://twitter.com/watanabeyoshie/status/1319772284312117249
渡辺は現在、何をしているかというと美髪・育毛サロン「RESALON」を運営している。
https://binotane.com/products/bi-hito_028/

-----------------------------------------------------

2)【記事】産経新聞宮嶋茂樹コラムが炎上

産経新聞が10月22日付で掲載したコラム記事「【直球&曲球】宮嶋茂樹 まだやっとるんか日本学術会議問題」が炎上している。ハッシュタグで「#産経新聞レイシズムをやめろ」なんていうのも現れた。
《ほれでもって、いかに中国共産党朝鮮民族がどれほど、歴史を捏造しとるか、そしてそれを正当化するために、わが国の領土を侵略し、わが国民の財産を奪い、名誉を辱めときながら、それを日本人から指摘されると「ヘイト」だとわめく、幼稚な民族のことを、世界中に知らしめたらんかえ!》
https://www.sankei.com/column/news/201022/clm2010220005-n1.html
Webメディア「 NOISIE」編集長の飯田光穂は驚いている。
《新聞社って、このレベルのヘイトスピーチを配信しちゃうんだ……という衝撃。
「幼稚な民族」って。目を疑う。
 将来の世代にこれ以上の負債を遺さないでほしい。》
https://twitter.com/mihoiida_tw/status/1319174846027157504
毎日新聞記者でYouTuberの宮原健太がツイートしている。
《#産経新聞レイシズムをやめろ というタグが広がっている。私も安倍首相に厳しい(決して乱暴ではない)質問を投げかけただけで産経抄に「底が浅すぎて、下心が丸見え」とまで書かれた。立場は異なっても越えてはならない一線があり、それが批判とレイシズムの違いだ。産経は良心を取り戻して欲しい。》
https://twitter.com/bunyakenta/status/1319260355965534208
宮原が産経抄に取り上げられたのは8月8日付のこと。これがそうだ。
《▼4日には、首相官邸で記者団の質問5問に答えて退邸しようとした安倍首相に対し、毎日新聞記者が「総理、逃げないでください」との声を浴びせた。この様子を日本共産党ツイッターで取り上げると、「この記者が私です」とまるで手柄誇りするように名乗りを上げる始末だった。
▼リップマンの見解とは異なり、マスコミは「性悪」だろう。ただし、「深いたくらみ」はないという点は賛同する。底が浅すぎて、下心が丸見えなのだから。》
https://special.sankei.com/f/sankeisyo/article/20200808/0001.html
宮原は8月8日に次のようにツイートしていた。
《産経にも良き先輩が多くいるので言いたくないが、本日の産経抄はひどい。総理が現在のコロナ下で官邸会見も国会も開かず、閉会中審査にも出ないことは脇に、私の総理追及を「底が浅すぎて、下心が丸見え」と。産経こそ安倍政権に気に入られたい下心が丸見えだ。》
https://twitter.com/bunyakenta/status/1291983162927538176
小説家の木村友祐は宮嶋茂樹の今回のコラムをデマだと一刀両断している。
《あまりにもひどいから、記事をツイートはしない。直球のレイシズム。デマと同じ。これを掲載する産経新聞は、もう公器としての新聞であることを自らやめたな。決定的に。「不肖」には「愚かな」という意味があるけど、宮嶋さん、ぼくの大学の先輩、あなたは愚かです。》
https://twitter.com/kimuneill/status/1319249030145167363
台湾籍で日本の小説家である温又柔は品性の欠如を指摘している。もともと品性は保守の専売特許ではなかったか。時代は変わるものである。
《保守なら保守としての品性を保ってほしい、新聞なんだから。これじゃネットで真実の歴史を学んだとか言ってるネトウヨさんと変わらないよ。それとも何?こういうこと言えば、一定の層からは熱烈に支持されるから苦肉の策? 全っ然面白くない。関西弁にも謝れ。》
https://twitter.com/WenYuju/status/1319263877389979656
木村と温は明石書店から往復書簡「私とあなたのあいだ」を刊行する。
https://twitter.com/kimuneill/status/1319608868616327169
漫画家の所十三宮嶋茂樹の幼児性を指摘している。
《今時の政権支持者によるボヤキでしかない散
数々のスクープ写真も他者への敬意や配慮を欠くこの人の性質が生んだってことかな。
ネトウヨと呼ばれてる人達とも重なる幼児性を感じる。》
https://twitter.com/tokoro13/status/1319403231747829762
「マスコミ市民」編集委員の高野真光からすれば、便所の落書き同じであり、日本新聞協会は何らかのアクションを起こすべきだとツイートしている。
便所の落書きレベルのヘイト剥き出しのとんでもない駄。こんなものは言論の名に値しない。産経新聞に、社会の公器とも言われる「新聞」を名乗る資格はない。産経新聞も加盟する日本新聞協会は、何らかのアクションを起こすべきではないか。》
https://twitter.com/mt3678mt/status/1319241849958133762
これを東京新聞労働組合が同感だと引用ツイートしている。
《同感です。/社会の公器にこれを書いた者は論外。/載せた新聞社も論外、責任は重大。/公器として絶対ありえない。許されない。》
《これを平気で掲載した媒体は/「社会の公器」たる新聞であることを/自らやめたのだろう。/もはや「差別ビラ」でしかない。》
《『産経』が載せたこの差別ヘイト記事。/極めて深刻です。/新聞を名乗る媒体が/これほどむき出しの差別、ヘイトで/人間の尊厳を傷つけている。/致命的だ。》
https://twitter.com/danketsu_rentai/status/1319262229506580481
https://twitter.com/danketsu_rentai/status/1319266251420569601
https://twitter.com/danketsu_rentai/status/1319420488578285569
小説家・津原泰水のツイートは皮肉たっぷりである。
ネトウヨの頭の中はこの程度、びっくりするけどこの程度、を多くもない字数で完璧に体現した珠玉のコラム。名作だと思います。本気で。三浦瑠麗が生き方を見つめ直すレベル。》
https://twitter.com/tsuharayasumi/status/1319346465496416257
政治学者の五野井郁夫によれば宮嶋茂樹は卑怯者ということになるようだ。
《回ってきたので読んでみたが分かりやすくひどい内容だった。こういう威勢のいいこと言っているフリして権力者にへつらい、マイノリティをくじく者を真の意味で卑怯者という》
https://twitter.com/gonoi/status/1319286185043243010
小説家・松井計は残念だという。
《この人も落ちたましたね。昔は変化球タイプとはいえ、面白いことも書いてらしたのに。時代の空気にダメにされちゃった人の一人と言えましょうね。私は残念ですよ。》
https://twitter.com/matsuikei/status/1319187470626422785
木村知は次のように警鐘を鳴らしている。
《このように本件で政権擁護している人の中には、知性、教養、学問を嘲笑、学者を敵視する態度さえ示して、反知性と反教養を大衆に浸透させようとする人がいるが、知性と教養を軽んじる者が多数派となった国の未来がどうなるか、解らないようだ。》
https://twitter.com/kimuratomo/status/1319273053700845571
百合花梨のツイート。果たして日本は「ならず者国家」なのだろうか?
宮嶋茂樹ってネトウヨが、事実無根のヘイトを繰り広げる記事を売り物にするのが、産経クオリティ。
真っ当な国なら、この反知性な新聞社は社会的制裁を受けてしかるべきなんだけど、そうならないのは、日本がそこまで「ならず者国家」になってる証左。》
https://twitter.com/yurikalin/status/1319230796171898881
果たして日本は「ならず者国家」の仲間入りを果たしてしまったのだろうか?

-----------------------------------------------------

3)【記事】「この本を盗む者は」(KADOKAWA)における深緑野分の読書力

深緑野分のツイート。
《そうなんです、『この本を盗む者は』重版決まりましたー!わーい!!というか、とりあえずホッと…!それで昔とった杵柄で下書きなしの画用紙字切り抜きをやりました。書店員時代にこうやってよくデカPOPつうか看板を作ってました。2枚目は残骸。》
https://twitter.com/fukamidori6/status/1319561430945779714
深緑野分は「カドブン」で「この本を盗む者は」(KADOKAWA)はドラえもんの影響を受けていると語っている。
《本の世界に入っちゃうという設定は、ミヒャエル・エンデの『はてしない物語』からの影響ももちろんあるんですが、直接的には『映画ドラえもん のび太のパラレル西遊記』(※1988年に公開された「大長編ドラえもん」第9作)のイメージが大きいんです。
のび太くんたちがひみつ道具を使って、『西遊記』を題材にしたゲームの世界で遊んでいたら、魔物とか妖怪たちがゲームの中から出てきてしまう。それまでの世界が、妖怪たちが生きている世界に変わってしまって、のび太くんのお母さんに角が生えてきたりするんです。いつもの自分たちのおうちのはずなのに、お母さんがお母さんじゃないし、お父さんがお父さんじゃない。自分は変わらないまま、みんながおかしくなっちゃった……となるあの物語の怖さは、原体験として私の中にずっとありました。》
https://kadobun.jp/feature/interview/bk2b9vmimqok.html
私は「この話の中でちゃんと否定したいと思ったのは、好きになることを強制される辛さ」だとサラリと言ってのける深緑野分が好きである。杉江松恋によれば「この本を盗む者は」はビブリオ・ファンタジーである。深緑の「読書力」に脱帽せざるを得ないのだ。
《お仕事告知。現在発売中の「週刊新潮」に深緑野分『この本を盗む者は』の書評を寄稿しました。ビブリオ・ファンタジーとでも言うべきか。主人公の成長小説になっている点がいいですね。》
https://twitter.com/from41tohomania/status/1317308541179359232
「本が好き」で、深緑野分はブック・カースについて次のように語っている。
《「本書のカギとなる『ブック・カース』は中世ヨーロッパに実在します。印刷機がまだない時代、修道士が聖書を写本していました。1冊1冊手で写していくわけですから、本はとても貴重なものでした。そのため盗まれないように“この本を盗む者には呪いがかかる”と本に貼り盗難を防いでいたのです。ここから、御倉館から本が盗まれて呪いがかかる、という物語を考えました」》
https://honsuki.jp/pickup/39882.html
「どのエピソードでも、深冬がそれにちなんだ本の一部を読まされることになるのだが、いうまでもなく、それはそのジャンルの本のパロディになっている」(金原瑞人)こともあって「この本を盗む者は」は本好きには、たまらない小説である。
https://www.bookbang.jp/review/article/645174
キートンの「探偵学入門」の遺伝子を持った小説である。

-----------------------------------------------------

4)【本日の一行情報】

清水潔ツイッターで三浦英之の「白い土地 ルポ 福島『帰還困難区域』とその周辺」を紹介している。
https://twitter.com/NOSUKE0607/status/1319529537001058304
集英社クリエイティブは小川真利枝の「パンと牢獄 チベット政治犯ドゥンドゥップと妻の亡命ノート」や上西充子の「国会をみよう 国会パブリックビューイングの試み」など、ノンフィクションの領域で良い仕事をしている。
http://www.shueisha-cr.co.jp/CGI/book/detail.cgi/1765/
http://www.shueisha-cr.co.jp/CGI/book/detail.cgi/1683/
http://www.shueisha-cr.co.jp/CGI/book/detail.cgi/1684/
三浦英之が清水潔にリプライしている。
《おおっ、清水潔さんにお読み頂けるなんて、恐れ多いです。かつて「殺人犯はそこにいる」を読んで、記者を辞めたくなりました》
https://twitter.com/miura_hideyuki/status/1319558619684237313

日本経済新聞は10月22日付で「報道の自由は失われた? 米メディアの実情に警鐘
『失われた報道の自由』より」を掲載している。
《弁護士でラジオ政治番組の司会者でもあるマーク・R・レヴィン氏は、近著『失われた報道の自由』(道本美穂訳、日経BPのなかで、米国の主要な新聞・テレビ局の多くは民主党を支持し、「匿名情報」や「つくり話」によって共和党やトランプ政権をおとしめようとしていると批判している。》
https://style.nikkei.com/article/DGXMZO65083380W0A011C2000000?channel=DF120220194796
「失われた報道の自由」によれば「共和党支持者のほぼ8割はメディアを信頼しておらず、民主党支持者のほぼ8割はメディアを信頼している」なのだそうだ。著者はフォックスニュースで政治討論番組を持つ司会者でもあるだけに「民主党とメディアの間にイデオロギーや政策面で深いつながりがあり、メディアが民主党の主張をなぞっているにすぎないことを表しているように見える」とまで書いている。

◎「BLOGOS」は10月22日付で「『官邸がTV監視』と赤旗が学術会議に続くスクープ ネットは『新聞・テレビは何やってるの?』」を発表している。
《・・・ネット上では、同様に政治や芸能でスクープ記事を放ち続ける「週刊春」と並べて、「日本には週刊春と赤旗以外の報道機関は存在していないの?」「赤旗へ出向して取材力を鍛えよ」など新聞やテレビを皮肉ったツイートも目立つ。「NHK受信料を払わずに赤旗に切り替えたい」という書き込みもあった。》
https://blogos.com/article/492817/

◎「日本マーケティング本 大賞2020」は、近藤公彦・中見真也 編著「オムニチャネルと顧客戦略の現在」(千倉書房)に決まった。準大賞は入山章栄「世界標準の経営理論」(ダイヤモンド社石井裕明「消費者行動における感覚と評価メカニズム 購買意思決定を促す『何となく』の研究」(千倉書房)の二冊に決まった。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000004.000044267.html
千倉書房の創業は1929年。日本評論社の取締役であった千倉豊が独立し、創業した版元である。
https://www.chikura.co.jp/about.html

東京新聞は10月23日付で「流行生んだ女性誌の歩み 『anan』創刊50周年記念フェス」を掲載している。
《同誌は大阪万博が開かれた1970年3月に創刊。日本初のL判(A4より22ミリ横長)サイズのオールグラビア誌で、その後の女性誌に大きな影響を与えた。アンノン族、ハウスマヌカンなどの流行を生み、月2回刊から週刊誌になった今は話題のスターをタイムリーに表紙とグラビアに起用。週刊誌では異例の重版が、今年だけでも3回を数える健在ぶりを見せる。》
https://www.tokyo-np.co.jp/article/63656
マガジンハウスは、これからも雑誌化の「保守本流」を歩んでもらいたい。

毎日新聞は10月23日付で掲載している「#排除する政治~学術会議問題を考える あそこは左翼の巣窟だけど… 反学術会議派・小林節氏が首相を糾弾する理由」で小林は次のように喝破している。
《何を行革の対象にするかは政治の自由だ。だが「任命拒否」のように、政治権力は学者を政治的に評価してはならないのと同時に、学者の組織のあり方にも政治権力は介入してはならない。これも「学問の自由」に鑑みて当たり前のことです。確かに学術会議は私から見て左ばかりだ。「左翼の巣窟」に映る。でもそれは憲法23条の下で、構成員たる学者たちが自主・自律的に改革すべきことで、政府が権力を振るって介入すべきことでは断じてない。》
https://mainichi.jp/articles/20201022/k00/00m/040/272000c

◎10月22日付で紹介した10月21日付毎日新聞の「『政府があらゆる記録を残すのは当然』 菅首相の新書から消えた言葉の重み」(大野友嘉子)は、首相の「政治家の覚悟」を春新書として刊行するに際して「政府があらゆる記録を克明に残すのは当然」などと書かれた章が削除されていた件について、春新書編集部にも問い合わせ、次のような返答があったことを記載している。
《「新書版を編集する過程で、菅氏が官房長官に就任して以降の発言を加えたいと考え、月刊『芸春秋』で行ったインタビュー記事4本を再録することにしました」
「単行本の第3章と第4章については、総ページ数など全体のバランスを考えた上で、編集部の判断で割愛することにしました」
「当該箇所のみが意図的に削除されたかのような報道も散見されますが、そうした意図は全くなく、編集上の理由によるものです」》
https://mainichi.jp/articles/20201020/k00/00m/010/342000c
こうした春新書サイドの回答を踏まえて小田嶋隆日経ビジネスの連載「小田嶋隆の『ア・ピース・オブ・警句』 ~世間に転がる意味不明」で次のように藝春秋に噛みついている。小田嶋は「当該部分の記述の削除は、著者(つまり菅首相)の側からの指示による決断であるに決まっている」と断定し、次のように書いているのだ。相当、強い口調だ。
《してみると、編集部は、著者の指示にしたがって(あるいは著者の了承を得た上で)記述を削除したにもかかわらず、なにゆえに毎日新聞の取材に対して
 「編集部の判断で……」
 と回答したのであろうか。
もし、首相の立場を忖度して事実に反した回答をしていたのだとすると、彼らはウソをついたことになる。
これは、重大な話だ。
日本を代表する大手出版社の社員が、全国紙の記者の取材に対してウソの回答をしていたのだとすると、これはただごとではない。
編集部が自発的にウソをついたのではなくて、首相サイドからの強い指示なり要望なりにしたがって虚偽の回答をしていた可能性もある。
とすると、編集部は、官邸に「屈服」「屈従」していたというお話になる。
これもまた、春砲を看板にマッチョな商売をしているコワモテの出版社としてはとんだチキンっぷりを晒した赤っ恥案件ということになる。》
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00116/00091/?gift=EXKg4LgFTYRZ7zkHRWJvKBjIFE3E8W2SUzACPs3Fzjc%253D&P=1
小田嶋のピューリタニズムもまたスターリニズムと表裏一体の関係にあるかもしれないことは踏まえておいても良いだろう。春新書の編集部は、「屈服」「屈従」とかじゃなくて純粋に「商売」を選択したのではなかったか。首相の本と言ったところで本人が書いたかどうかだって疑わしいタレント本の一種だろ?
小田嶋隆には竹中労の「美空ひばり」や杉田かおるの「すれっからし」を読むことをオススメしたい。こうした傑作を前に同じことを言えるかどうかである。

小学館は「テレワークのためのビジネスコーディネートBOOK きちんと楽ちん『テレウェア』」を発売した。著者ははるやま商事代表取締役・治山正史。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000882.000013640.html
テレウェアか!出版社は、こういうスクープも大切にしたい。コロナ禍でビジネスウェアにおいてもこれまでの常識が通用しなくなっているのは間違いあるまい。

◎「ライブドアニュース」は10月23日付で「恋愛の漫画も、恋愛じゃない漫画も、彩り豊かに。編集長・相田聡一が語る『りぼん』の未来」を公開している。相田の「熱さ」が伝わって来るインタビューだ。
《ハートが強くないとダメですよ、編集者は。ハートが弱い人は向いてないですね。自分の考えに揺らいだり、間違いを恐れるのも。揺らがずにドンドンやっちゃっていい。
間違ったとしても、また新たな挑戦をやればいいだけですから。漫画家やファンに厳しいことを言われても、それで自信をなくして何も言えなくなるのもダメ。「この漫画を作る」と決めたら、前に進むしかないんです。》
https://news.livedoor.com/article/detail/19066217/
少年ジャンプ+」編集長の細野修平が引用ツイートしている。
《僕の一年上の相田先輩のインタビュー。ジャンプに異動したときに、ジャンプの基礎を教えてくれた人。相変わらず全然ブレてない!》
https://twitter.com/HosonoShuhei/status/1319612406117531648

◎「東洋経済ONLINE」は10月23日付でアニプレックス高橋祐馬にインタビューした「映画『鬼滅』の熱狂に見たアニメの新しい稼ぎ方」(印南 志帆)を発表している。
《これまでのヒット作と異なる点があるとしたら、動画配信サービスでアニメを視聴するというスタイルがここ数年で視聴者の生活に根づいたことでしょうか。従来、アニメはテレビで放送されるものであり、放送を見逃したらDVDを探すしかありませんでした。ただ、鬼滅は、日本で提供されている動画配信サービスのほぼすべてで見ることができますから、「見たい」と思ったらすぐに見られる。アニプレックスのアニメ作品の中でも、ここまで配信先を広げているのは珍しいかもしれません。》
《今や鬼滅が深夜にテレビで放送されていたということを知らない方も多いでしょう。それくらい、配信でアニメを見るのが生活に浸透しました。》
https://toyokeizai.net/articles/-/383711

◎CCCマーケティングと、凸版印刷は、CCCマーケティング有するデータベースと凸版印刷が有する印刷テクノロジーを掛け合わせ、オンオフをスピーディーに実現するダイレクトメディア「オンオフ・リターゲティング・ソリューション」の提供に向けた協業を2020年10月1日より開始した。
この協業によりオンライン広告接触者へ最短3日でダイレクトメールの発送が可能な新サービスの提供を開始いたしましたので、お知らせいたします。
これまで、オンライン広告接触者へ向けたオフラインでのダイレクトアプローチは1カ月程度の長期間を要することが一般的でしたが、このたびの協業により、CCCマーケティングオンラインは広告接触したT会員に対し、スピーディーにDMを発送することが可能になる。今回の新サービスでは、CCCマーケティングの有するWEB行動履歴を元にオンライン広告に接触したT会員に、凸版印刷のデジタルマザー工場でのデジタル印刷にてオンライン広告接触者へ最短3日でDMを発送する。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000499.000000983.html

◎首相によって任命拒否された日本学術会議の会員候補6人のうち4人が日本外国特派員協会で記者会見した。参加しなかった2人もメッセージを発表した。朝日新聞デジタルは10月23日付で「任命拒否の6人『条の拡大解釈』 会見で菅首相を批判」(宮崎亮、石倉徹也)を掲載している。毎日新聞は10月24日付で「学術会議 任命拒否の6人が初めて共に訴えた菅首相への『胸の内』」(信田真由美、岩崎歩、柳楽未来)を掲載している。六人の発言やメッセージで気になった部分をメモしておこう。
早稲田大教授(行政法)岡田正則
《17年の学術会議の声明は私は関わっていないので個人の見解を述べます。軍事研究はきちんとやるべきだ。ただし、自主、民主、公開という原則でやるべきです。声明を出した際の一番の問題点は軍事研究のスポンサーが兵器技術に結びつけようという点だった。世界の中で軍縮とか平和を作っていこうとするならば、みんなが公開で軍事研究をきちんと研究して世界の中で兵器に使われないような技術として相互に点検していく体制が必要だと思う。
外務省とか国連に委託してきちんと軍事研究を推進するということなら誰も反対しないと思います。日本政府はそのような立場に立ってこの種の研究もきちんと進めてほしいと思います。》
立命館大法務研究科教授(刑法)松宮孝明
《学術会議法7条は、はっきりと210人の会員のうち、その半数を首相が任命すると書いてある。つまり、105人を任命しないとそれは違法であることは明らかです。
しかし、官邸は憲法15条1項の国民の公務員選定罷免権を根拠にして今回の措置が合法と説明している。これは恐ろしい話だ。首相は国民を代表しているから、これからどのような公務員であっても自由に選び、あるいは選ばないとすることができる。
その根拠は憲法15条だと宣言したということ。ナチスドイツのヒトラーでさえも、全権を掌握するには特別な法律を必要としたが、菅首相は現行の憲法を読みかえて、自分がヒトラーのような独裁者になろうとしているのかというくらいこれは恐ろしい話だ。》
京都大教授(キリスト教学)芦名定道
《日本の大学においてはさまざまな研究がなされているが、その中でも、軍事研究をめぐって、政府は大学における軍事研究を推進したい。それに対して反対をした。明確に反対の声明として出した学術会議が非常に問題になった。先生方がおっしゃっているように、戦前における学術のあり方、特に戦争の反省に基づいて今の学術会議ができている。》
東京慈恵会医科大教授(憲法小沢隆
《声明の前提になったのは、防衛装備庁の安全保障技術研究制度に起因するものだと思っている。これは岡田さんがおっしゃったように、軍事研究一般の問題ではなく、まさに装備庁からお金が出されて、基礎研究なども含めた研究資金が提供されるという問題として検討された。
どんなに基礎研究であっても、最終的には防衛装備品の開発につなげる目的をもった研究については、大学の場で研究教育活動をしている研究者がそれに関わるのは、非常に学問の自由や大学の自治の関係で問題が多いということが懸念される。
何よりも、軍事研究なので研究が将来的に公開されるのか、公表可能なのかという問題について懸念が大きかったので、あのような声明になったと私は受け止めている。》
東京大学教授(政治) 宇野重規
《私は日本の民主主義の可能性を信じることを、自らの学問的信条としています。その信条は今回の件によっていささかも揺らぎません。民主的社会の最大の強みは、批判に開かれ、つねに自らを修正していく能力にあります。その能力がこれからも鍛えられ、発展していくことを確信しています。》
東京大学教授(日本近代史)加藤陽子
《世の中のSNS上では、「役に立たない学問分野の人間が切られた」との冷笑的な評価がありましたが、真の事態は全く逆で、・社会科学の領域が、新たに、科学技術政策の対象に入ったことを受けて、政府側が、改めて、この領域の人選に強い関心を抱く動機づけを得たことが事の核心にあると、私は歴史家として考えます。
新法の下では、内閣府の下に、「科学技術・イノベーション推進事務局」が司令塔として新設されるといいます。自然科学に加えて、・社会科学も、「資金を得る引換えに政府の政策的な介入」を受ける事態が生まれます。》
https://digital.asahi.com/articles/ASNBR6TX4NBRULBJ00F.html
https://mainichi.jp/articles/20201023/k00/00m/040/331000c
朝日新聞デジタルが10月25日付で掲載している「『政治主導』だからこそ、説明と対話を 学術会議問題」(赤田康和)で、一橋大教授(政治学)の中北浩爾は次のように述べている。
《6人の意見表明の要点は、首相の任命拒否が法に違反し、学問が弾圧された戦前の悪夢につながりかねないということだった。これらの指摘はいずれも正論だが、国民に共感が広がらない恐れがある。》
《学者コミュニティーへの信頼低下を背景に、日本学術会議にも不信の目が向けられがちだ。日本学術会議の新会員の推薦についても、一部の学者によって不透明に決められているという印象を持つ国民も少なくない。
いくたびもの選挙を勝ち、国会議員、首相へと上り詰めた、たたき上げの菅首相と、エリートや既得権益層とみられがちな学者との対立という構図では、学者の側に支持が集まりにくい。》
https://digital.asahi.com/articles/ASNBR71Z6NBRUTIL04K.html

毎日新聞デジタルは10月24日付で「#排除する政治~学術会議問題を考える 行革や効率性で『句を言う人』飛ばす怖さ 菅政権の新自由主義 重田明大教授」を掲載している。重田の発言。
《保守的な考え方に聞こえるかもしれませんが、日本学術会議の問題に関して言えば、保守することが重要なのです。長きにわたって維持されてきた法解釈の前例というのは、合理性があるから前例となっているわけで、それを踏襲しないことは、これまで妥当とされた合理性の毀損にあたります。》
https://mainichi.jp/articles/20201024/k00/00m/040/186000c
重田園江は私が現在、読んでいる「フーコーの風向き」(青土社)の著者である。

朝日新聞デジタルは10月24日付で「ディープフェイク、米大統領選でも? 悪用防止対策進む」(池上桃子、赤田康和)を掲載している。
人工知能(AI)を使って作られる本物そっくりの偽動画「ディ