【文徒】2020年(令和2)11月11日(第8巻209号・通巻1866号)


Index------------------------------------------------------
1)【記事】掛川市9坪の高久書店から見えること
2)【本日の一行情報】
3)【深夜の誌人語録】
----------------------------------------2020.11.11 Shuppanjin

1)【記事】掛川市9坪の高久書店から見えること

2020年2月に掛川市にオープンした9坪で在庫数は6000冊の高久書店の高木久直は「本屋バカ」を自称する書店人だ。戸田書店のフランチャイズ企業・リブレ時代に「静岡書店大賞」の発起人をつとめ、書店勤めのかたわら自前で「走る本屋」を始め、そのことがきっかけとなり、高久書店として独立を果たす。「Nippon.com」が11月9日付で「本屋を植える仕事、書店なき町に本を届ける-掛川・高久書店」(三宅玲子)を公開している。
《本の読み聞かせのボランティア活動で伊豆半島の町に出かけたときのことだ。公民館で読み聞かせが終わって帰ろうとした高木さんは「先生、私のこと、覚えてる?」と小さな子どもを連れた若い母親に話しかけられた。
高木さんは大学卒業後の数年、伊豆の中学校で社会科の講師をしていた。結婚してこの町に暮らしているという教え子は、「今日、読んでくれた本、よかった。なんていう本?どこで買える?」と尋ねた。高木さんが読んだ『はらぺこあおむし』は絵本作家エリック=カールの代表作で、絵本の取り扱いのある書店なら大抵は置いている。そう説明した高木さんは、教え子の次の言葉にショックを受けた。「そんなこと言ったって、うちらの近所に本屋なんかないもん」
「ただ読み聞かせをして帰っていくのは、まるで見せびらかしているだけのような残酷な行為に思えたんです」(高木さん)
ほとんど使命感のような思いで高木さんは自前で車を買い、「走る本屋」を始めてしまった。月に2回ほど、仕事が休みの日に紺色のワンボックスカーに仕入れた本を積んで出かける。地域のお年寄りも本が届くのを楽しみにするようになった。本を待つ人たちと直接顔を合わせ、言葉を交わしながら、高木さんは「地域に本屋は必要」との思いを深め、高久書店の開業を決めた。》
https://www.nippon.com/ja/japan-topics/c07110/
「ソトコト」も11月6日付で「『走る本屋さん』の『高久書店』が、“小さな総合書店”になりました。」を発表している。
《選んだ物件は、掛川に15年以上暮らしていた高木さんがずっと意識していた場所だった。建物は数年前までパン屋の店舗として使われてきたもので、築100年近い古民家だ。『高久書店』がオープンするまで、掛川市街地には2年以上本屋がなかった。そこに新しく本屋を開店して実感したのは、本屋離れ、活字離れと危惧されてはいるが、「本屋がなかったから本から遠ざかっていた」人たちがいかに多かったかということ。「本屋があるなら入ってみよう、買って読んでみようという人が、想像していた以上に水面下にいたことに驚きました」。》
https://sotokoto-online.jp/3225
開店前のインタビューも発見した。「ほんのひきだし」が1月19日付で公開した「『私は生涯、本屋でありたい』 無書店地帯に『本屋植える』高久書店・高木久直氏の挑戦」は新聞之新聞からの転載である。
《雑誌は銘柄を選んで配本してもらいますが、書籍に関しては配本は受けず、こちらから注して仕入れるスタイルを取ります。注は直取引の出版社以外はトーハンを通じて行います。販売実績に応じたランク配本となるコミックや庫は、必要な銘柄・冊数を事前にトーハン静岡支店に申し込み、支店扱いのフリー分から調達してもらえるようにお願いしました。》
https://hon-hikidashi.jp/bookstore/101176/
このインタビューで高木は「今のところ日商は3万円、月商は90万~100万円を目標に設定」していると語っているが、これが何を意味するか分かるだろうか。粗利は、たったの20万円ということである。現行の正味では街の書店の経営は成立しないということである。高木のような「本屋バカ」でもない限り、書店経営に手を出すことはないだろう。書店を取り巻くリアルにもっと敏感になったほうが良いはずだ。書店が必要としているのは同情ではなく、カネである。

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2)【本日の一行情報】

◎小説家・木村友祐のステキなツイート。
《猫がこちらを見る。じっと見る。その目には明らかにぼくが映っていて、ぼくに対して何かを感じている。そのとき何をどんなふうに感じているのか、想像できないけど想像してみた方がいい。自分の存在を受けとめている猫=他者の重みに気づくために。自分が何かしてあげていると思い込まないために。》
https://twitter.com/kimuneill/ status/1326158817839624193

◎11月10日付中日(東京)新聞の大波小波和久井光司の「ヨーコ・オノ・レノン全史」(河出書房新社)を紹介している。
《レノンの反戦平和思想がヨーコの感化によるものだったことは疑いない。本書は一九六八年、レノンとの結婚報告に帰国した際、ヨーコが中央大学で開かれた世界反戦平和集会に出席し、三上治から「叛(はん)」の赤ヘルメットをもらったことを突きとめている。ヨーコの前衛・反戦思想は筋金入りだったのだ。》
http://www.kawade.co.jp/np/search_result.html?writer_id=10141
旗派の「叛」である。

◎この指摘は鋭い。「RealSound」が11月10日付で公開した「“動き”にこだわったアニメがトレンドに? 『鬼滅の刃』『呪術廻戦』『ヒロアカ』などから探る」は次のように書いている。
《ちなみに、アニメ終了時のタイミングは、ちょうど『週刊少年ジャンプ』本誌で最終決戦の真っただ中であり、毎週怒涛の展開が続いていた。「本誌派のファン」「単行本派のファン」「アニメ派のファン」三者の“熱”が同時期に高まったことでコンテンツ力が跳ね上がり、今日まで支持を伸ばしてきたように感じる。
https://realsound.jp/movie/2020/11/post-651739.html

共同通信は11月9日付で「『御書印』集め、静かなブームに リアル書店巡りのきっかけに期待」を配信している。
《御書印は、店員が御書印帖にはんこを押し、メッセージを記入する。費用は1回200円前後。参加店では、表紙が緑色の専用の御書印帖を無料で配布している。小学館パブリッシング・サービス東京)の小川宗也さん(49)が、友人の1人が趣味にしている御朱印集めをヒントに発案した。
営業活動ではなく、客として訪れた書店で店長や店員に話し掛けられず「客と店側のコミュニケーションがなく、このままだと書店に足を運んでくれる人がますます減ってしまう」と危機感を抱いたのがきっかけだった。「もっと多くの人に本屋さんに足を運んでもらいたい。本屋さんをもっと好きになってもらいたい」と強調する。
https://www.47news.jp/47reporters/5472291.html
高久書店もこの御書印プロジェクトに参加している。店長の高木は「積小為大」と書き込む。
http://kakemachi.com/event/2020/06/10/%E3%80%90%E5%BE%A1%E6%9B%B8%E5%8D%B0%E3%83%97%E3%83%AD%E3%82%B8%E3%82%A7%E3%82%AF%E3%83%88%E3%80%91%F0%9F%93%96%E9%AB%98%E4%B9%85%E6%9B%B8%E5%BA%97%E3%81%95%E3%82%93/
「積小為大」は「小さい事が積み重なって大きな事になる。だから、大きな事を成し遂げよう思うなら、小さい事をおろそかにしてはいけない」という意味だ。二宮尊徳の言葉だ。

◎「ananAWARD」に選ばれたのは林真理子松任谷由実「フジテレビュー」は11月9日付で「松任谷由実『ananAWARD』の授賞式でセルフツッコミ!会場に笑いを起こす」を発表している。
《1978年の初登場以来、定期的に登場している松任谷。「(ananは)もともと読み物の印象が強くて。ファッションの撮影には、ワクワクして出かけた思い出があります」と、懐かしそうに語る場面も。》
https://www.fujitv-view.jp/article/post-200349/
日刊スポーツは11月9日付で「ユーミン生登場!コロナ禍で音楽は『生きていく糧』」を掲載している。
《2022年に迎える自身の50周年に向けては「ananの50周年をお祝いさせていただいたので、私の50周年の時は大特集を組んで!」と笑顔でおねだりするなど、ユーミン節で盛り上げた。
https://www.nikkansports.com/entertainment/news/202011080001157.html

◎パリ在住の槻舘南菜子がツイートしている。
《今日からオンライン上で始まったヴェルナー・シュローターのレトロスペクティブで久々に作品を再見し、酔いしれている 今、uploadされているのは、初期のかなり実験性の強い時代、彼が愛して止まなかったマリア・カラスを巡る美しき短編集。引き続き追います》
https://twitter.com/775nanananana/status/1325860657003171841
谷哲也が槻舘を引用ツイート。
《Werner Schroeter,日本では見られない欧州のオンデマンド映画が多い中、ありがたいです。「彼は最底辺のものの最も高貴なものとの決闘、命あるものの死せるものとの決闘、リアルなものの象徴的なものとの決闘を演出した」ファスビンダーの言葉。》
https://twitter.com/Tshibutani/status/1325960174754934784
「マリア・マリブランの死」や「ナポリ王国」は傑作であった。
http://www.athenee.net/culturalcenter/program/sch/schroeter.html

◎「BBC News Japan」は11月9日付で「新型コロナウイルスの『画期的な』ワクチン、9割以上に効果」を公開している。
新型コロナウイルスのワクチンを開発中の米製薬大手ファイザーと独バイオエヌテック(BioNTech)は9日、治験の予備解析の結果、開発中のワクチンが90%以上の人の感染を防ぐことができることが分かったと発表した。》
《日本政府は7月、このワクチンの臨床開発が成功し規制当局の承認が得られた場合、2021年上半期に1億2000万回分を納入することで両社と合意している。》
https://www.bbc.com/japanese/54869478
日本経済新聞は11月10日付で「ワクチンで逆転 映画館株7割高、Zoom2割安」(宮本岳則)を掲載している。アメリカの株式市場が即座に反応している。
《衝撃の大きさは個別銘柄の値動きからも読み取れる。映画館チェーン最大手AMCエンターテインメント・ホールディングスはコロナ感染予防で入場者数が限定されており、大手格付け会社からは「6カ月以内に手元資金の流動性を失う」と宣告された。これまで空売り勢の餌食になっていたが、9日は前週末比76%高まで買い戻される場面があった。かたや映画館から顧客を奪ったネットフリックスは一時9%安まで売られた。
負け組と勝ち組株の「逆転」は他にもある。スポーツクラブを運営するプラネット・フィットネスは一時29%高まで値を飛ばした一方、自宅用の運動機器で急成長を遂げたペロトン・インタラクティブは25%安まで売り込まれた。在宅勤務需要を取り込んだズーム・ビデオ・コミュニケーションズは2割近い下落率を記録した。投資家はIT(情報技術)関連の勝ち組銘柄に偏った組み入れの見直しを迫られている。》
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO66025520Q0A111C2000000/?n_cid=SNSTW005

◎世界化社の「MEN'S EX」12月号は、「SUITS OF THE YEAR 2020」の受賞者インタビューを特集している。この「SUITS OF THE YEAR 2020」は世界化社と日本経済新聞社の「NIKKEI STYLE Men's Fashion」が共同で立ち上げ、今年第三回を迎えた。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000967.000009728.html

◎「NEWSポストセブン」は、「菅首相の著書、もとは政治資金で出版 印税はどうなるのか?」を11月9日付で公開している。
《8年前の単行本の発行元は藝春秋の自費出版部門「藝春秋企画出版部」。菅氏が単行本の制作費を自分で出して出版した本であり、その費用は686万円で、最終的には285万円の赤字だったという。また、自費出版の場合は、基本的に出版社が著者に支払う印税は発生しない。》
https://www.news-postseven.com/archives/20201109_1610323.html?DETAIL
新書版は晴れて印税契約を結んでいるということだけれど。「NEWSポストセブン」はデザインを一新した。

◎「東洋経済オンライン」は11月9日付で「YouTube、あまりにも圧倒的な稼ぎ方のカラクリ ジャニーズも頼る『20億人経済圏』の全貌」(東洋経済記者 中川 雅博)を発表している。YouTubeは広告で儲けている。
《グーグルの親会社アルファベットが2020年1月に初めて開示したYouTubeの広告収入は、2019年の1年間で151億ドル(約1兆5800億円)。グーグルの検索広告と比較するとまだ小さいが、成長率は年30%を超えている。》
YouTubeは広告を否定するサブスクリプションで儲けている
アメリカで2015年、日本では2018年に開始した「YouTubeプレミアム」(月額1180円~)は、広告表示がなく、動画のオフライン再生も可能な有料サービスだ。これには2018年開始の音楽ストリーミングサービス「YouTubeミュージックプレミアム」(単独では月額980円~)も含まれる。
これらサブスクリプションサービスの有料会員数は、世界で3000万人に達する。有料会員の視聴時間に応じて投稿者にも収益が分配されるほか、曲の再生回数に応じてレコード会社にも還元する。今年初めにグーグルのスンダー・ピチャイCEOは2019年通期決算の発表の場で、「YouTubeサブスクリプションは年換算で30億ドル規模の収益に達した」と述べた。広告の事業規模には及ばないが、着実に成長を続けている。》
https://toyokeizai.net/articles/-/387157
グーグルのYouTubeに限ったことではないが、GAFAと呼ばれているプラットフォーマーが凄いのは自己否定の精神によって成長していることである。これまでのメディアビジネスであれば広告で儲かっているのであれば、広告を否定するようなサービスを絶対に始めまい。

小学館のWebメディア「和樂web」と雑誌「和樂」より、「新選組」「尾形光琳」の2つをテーマとした新商品が、2020年10月30日(金)より公式通販にて発売開始となった。
新選組」は植物染の老舗「染司よしおか」と「和樂」で、新選組の「だんだら羽織」をモチーフにした新しいアイテムを製作した。あづま袋(価格:12,000+税)限定数:10点、大判ストール(価格:22,000+税)限定数:10、小ざぶとん(価格:12,000+税)限定数:10、ランチョンマット&コースター(価格:5,000+税)限定数:10、風呂敷(価格:12,000+税)限定数:10。
尾形光琳」は「紅白梅図屏風」に描かれた黒い渦巻き模様「流水紋」を施した応量器である。価格:146,000+税、限定数:5。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000891.000013640.html

毎日新聞は11月10日付で「継承『強引人事』 『余裕とゆとり』がない菅政権が『相手を間違えた』迷走 御厨貴氏が読む任命拒否」を掲載している。
《政治がどんどん党派的になり、官僚人事でも政権に近いと言われた黒川弘務・東京高検検事長(当時)の定年を延長したりした。時の為政者が任命権を行使して人事が問題になるのは、第2次安倍政権から非常にはっきりしてきた。人事権を盾に取るやり方が、ついに学術会議にまで及んだのか、という印象だ。威令は行き渡り、政治・行政から多様性がなくなってしまう。身を守る官僚の側からすれば、物言えば唇寒し以外の何物でもなくなる。この意味では政治改革は行き過ぎたと言うべきであろう。》
https://mainichi.jp/articles/20201108/k00/00m/040/210000c
政治がどんどん党派的になり、保守が解体されていったのである。

日本経済新聞は11月9日付で「ファミマ、雑誌売り場を縮小 コロナで売れ筋変化」を掲載している。
《各店舗の雑誌棚を原則5台から3台に減らし、空いた2台分のスペースには房具や日用品を移す。「巣ごもり消費」で自宅で調理する機会が増えたことで、売れ行きが好調な調味料や加工食品などプライベートブランド(PB)商品の取り扱いを増やす。
現時点でセブン―イレブン・ジャパンやローソンなど他の大手が追随する動きはない。セブンでは付録を前面に置いた雑誌、ローソンでは庫や書籍の販売が堅調で売り場は確保する見通しだ。》
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO65942440W0A101C2TJ2000/
現時点でセブンやローソンがファミマのように雑誌売り場を縮小する動きはないにしても、コンビニにおける雑誌の居場所はどんどんと狭められていくことに間違いはあるまい。

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3)【深夜の誌人語録】

夢に自由を!自由に自由を!