【文徒】2018年(平成30)4月26日(第6巻77号・通巻1251号)

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1)【記事】自分に都合のよい憶測に踊らされる政治家たち
2)【本日の一行情報】
3)【深夜の誌人語録】

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1)【記事】自分に都合のよい憶測に踊らされる政治家たち

自民党下村博文文科相は、講演会で、福田淳一財務事務次官によるテレビ朝日の女性記者へのセクハラ問題で、女性記者が福田氏の発言を録音していたことについて「確かに福田事務次官はとんでもない発言をしたかもしれないけど、テレビ局の人が隠してとっておいて、週刊誌に売ること自体が、はめられてますよ。ある意味犯罪だと思う」と述べ、セクハラ被害者を「犯罪者」扱いする発言をした。これは4月23日付「しんぶん赤旗」のスクープ。
https://www.jcp.or.jp/akahata/aik18/2018-04-23/2018042301_03_1.html
当初、下村衆議院議員は発言を素直に認めなかった。4月23日付日経に掲載された共同発「下村氏、コメントせず 赤旗の『犯罪』扱い報道」は、こう書く。
自民党下村博文文部科学相は23日、セクハラが疑われている福田淳一財務事務次官の発言を女性記者が録音して週刊誌に渡したことについて、下村氏が講演会で『ある意味で犯罪だと思う』と述べたと共産党機関紙『しんぶん赤旗』が報じたことに対し『コメントできない』と語った。国会内で記者団の質問に答えた」
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO29721780T20C18A4000000/
下村は心底、共産党が嫌いなのだろう。コメントしなかった、その気持ちはわからないわけではない。「私の記憶している限り、そうした発言はしていない」と否定するよりはマシであるのかもしれない。下村は日を置かずして発言を撤回し、謝罪した。4月23日付「しんぶん赤旗」の「セクハラ被害者犯罪者扱い 下村元文科相が撤回 『謝罪』しながら人権侵害に居直り」は次のように書いている。
自民党下村博文文科相衆院議員)は23日、福田淳一財務事務次官によるセクハラ被害を受けたテレビ朝日の女性社員が福田氏の発言を録音していたのは『ある意味犯罪だと思う』と述べたことについて『表現が不適切でした』と認め、『率直に撤回するとともに謝罪いたします』とするコメントを発表しました。
しかし、コメントは『謝罪』と言いながら、『女性記者は端(はな)から週刊誌に提供する意図で隠し録音をしていたのではないかという疑念が生じた』と述べるなど、被害者の人権と尊厳を傷つける内容となっています」
https://www.jcp.or.jp/akahata/aik18/2018-04-24/2018042401_02_1.html
簡単に解説すると講演会で発言した「ある意味犯罪だと思う」は撤回し、取材するが、「「確かに福田事務次官はとんでもない発言をしたかもしれないけど、テレビ局の人が隠してとっておいて、週刊誌に売ること自体が、はめられてますよ」という発言に関しては撤回も、謝罪もしないということである。下村のこうした認識は麻生太郎財務相の耳にも入っているようだ。
麻生太郎財務相は24日の閣議後の記者会見で、セクハラ疑惑で事務次官を辞任した福田淳一氏への処分の在り方に関連し『はめられ訴えられているんじゃないかとか、いろいろなご意見は世の中いっぱいある』と語った」
https://this.kiji.is/361376717924877409
毎日新聞は4月24日付で「セクハラ疑惑 麻生氏止まらぬ擁護 女性活躍ポーズだけ?」を掲載しているが、そのなかで次のように書いている。
「麻生氏は同日の記者会見でも『はめられたとの意見もある』などと述べた。被害女性の方が悪い−−とも言いたげな姿勢は、政府が成長戦略の柱とする『女性活躍』を真っ向から否定するものだとの声が出ている」
https://mainichi.jp/articles/20180425/k00/00m/040/144000c?fm=mnm
文化人類学者の春日匠は次のようにツイートしている。
「アホかいな。どういうふうに『はめられ』るといいおっさんが『縛ってもいい』とか言わなきゃいけない状況に陥るのさ」
https://twitter.com/skasuga/status/988728293389041664
しかも、麻生の発言が飛び出した会見では、麻生がNHK記者を朝日新聞記者と間違えるという失態もおかしている。こんなやりとりがあった。
記者「処分をしてから辞任を認めるべきじゃないか、具体的に、たとえば、いったん官房付きにして、調査結果が出て、必要に応じて処分をしてから辞任を認めるべきじゃないかという意見も出ていた」
麻生「官房付きにして、給料は誰が払うの?どうして?税金よ?問題があって辞めた人に対して、なんで税金で給料払わなくちゃいけないの?ちょっと、もうちょっと常識的なことを聞くようにしたら、朝日新聞だったら」
別の記者「朝日新聞の××です」
麻生「あ、同業者?」
記者「さっきのはNHKさん」
麻生「おまえNHK?見かけない顔だな」
福田次官のセクハラ疑惑では「親安倍派」と見られて来たNHKも朝日化してしまったということなのだろうか。
朝日新聞が4月25日付で社説「福田次官辞任 『女性が輝く』の惨状」を掲載している。
「女性社員が録音したのは被害から身を守るためだ。週刊誌への提供も、会社が社員を守る措置を取らなかったため、やむをえず取った行動にみえる。反省すべきは会社で、記者は責められない。
ネットにはこの女性への中傷があふれる。男性の行いよりも女性側の告発意図を無責任に勘繰り、あざ笑う。ジャーナリストの伊藤詩織さんが昨年、レイプ被害を訴えたときと同じだ。
そうした言葉の暴力を助長しているのは、一連の政治家や官僚の言動だ。なのに、安倍首相は次官が辞任を表明した際に『誠に遺憾。行政の信頼回復に取り組む』とのコメントを出したが、この問題で、リーダーとしての明確な姿勢を示したとは言えない」
https://www.asahi.com/articles/DA3S13466528.html

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2)【本日の一行情報】

毎日新聞の「セクハラ疑惑 麻生氏止まらぬ擁護 女性活躍ポーズだけ?」は、こうも書いている。
経団連榊原定征会長は23日、記者会見で『異性と1対1ではさまざまな誤解を生む。取材で夜でもお酒の場でも行くのはどうか。マスコミ側にも規律や規範があってもよい』と語った。19日には千葉市熊谷俊人市長がフェイスブックに『(報道機関は)女性記者を使って情報を引き出す取材態勢について総括すべきだ』と投稿した」
「『男女雇用機会均等法上も問題がある』と言うのは労働政策研究・研修機構の内藤忍副主任研究員だ。同法は労働者の配置で性別による差別を禁じる。『大臣や経団連自ら民間企業に法律違反をそそのかすのか』と憤る」
これに対してフェイスブックにおける物言いを引用された熊谷市長は、ツイッターでこう反発している。
「私の発言を切り取ってマスコミに都合の良い記事を書いて相変わらずだなと思います。女性記者からの夜1対1会食を断ると男女雇用機会均等法に反する?何を言っているんだと思います」
https://twitter.com/kumagai_chiba/status/988921539549511680
「女性記者からの1対1取材はいつでもお受けします。既婚者でも公職にもある私が、必要も無いし、誤解を避けるために女性記者からの1対1夜会食を断る権利が無いかのような記事を書いていておかしいと思わないのでしょうか」
https://twitter.com/kumagai_chiba/status/988922140689711104
「優秀な記者は記者会見はもとより、独自の観点から丁寧に各方面に取材し、私にもテーマを絞った取材をしてきます。経験の浅い記者が取材対象にくっついて何かを拾うような手法がベストなのか、私は分かりません。日々のニュースは通信社に任せ、深堀りする記事に記者を活用しても良いのではと思います」
https://twitter.com/kumagai_chiba/status/988929707809755136

◎「ダイヤモンドオンライン」が掲載した「セクハラ問題で財務省とマスコミが露呈した絶望的な無理解」で竹井善昭は次のように書く。
テレビ朝日は『財務次官のセクハラ行為が黙認されることへの懸念』と言うが、誰だって追求されなければ黙認する。それを調査報道によって黙認できないようにすることがジャーナリズムの仕事ではないのか。また、ジャーナリストとして最も大切にすべきは、社内規定でもなく取材先の都合でもなく、社会的正義であるはずだ。財務事務次官のセクハラという大きな問題を追求することは、たとえ他社の媒体を使おうとも、ジャーナリストとしての正義だ。不適切なのは女性記者ではなく、情報を葬り去った上司のほうなのだ。さらに言えば、彼女がやったことを『不適切』と言うこと自体がセカンドレイプであることも、テレビ朝日は認識したほうがいい」
http://diamond.jp/articles/-/168388
竹井は、こうも書いている。
「いま世界では、人権はあらゆるものに優先されるべきことだとされている。しかし、モリカケ問題は人権問題ではない。だから、女性の人権に関わるセクハラは、モリカケ問題より優先されるべきなのだ」

◎4月24日20時の毎日新聞テレビ朝日の角南源五社長による4月24日の定例記者会見の模様を報じている。
「…女性社員が福田氏との会話の録音を週刊新潮に提供したことについて、テレ朝は『取材活動で得た録音が第三者に渡されたことは報道機関として遺憾に思う』とこれまで答えていたが、この日は角南社長が『女性社員は公益目的から被害を訴えた。当社としてもその心情は理解できる』とも述べ、一定の理解を示した」
https://mainichi.jp/articles/20180425/k00/00m/040/102000c?fm=mnm

◎「リテラ」が「記事の削除とお詫び 林芳正文科相の“風俗通い”報道の記事についてお詫びし削除します。」を掲載。
「昨日4月24日に本サイトで『週刊文春』が林芳正文科相の“風俗通い”“キャバクラヨガ通い”をスクープしたとの記事を配信しましたが、記事内容に不正確な点がありましたので、記事を削除してお詫びいたします」
http://lite-ra.com/2018/04/post-3971.html
週刊文春」の今週の右肩は「林芳正文科相 公用車で白昼“セクシー個室”ヨガ通い」。
林芳正文科相(57)が、平日の白昼、“キャバクラヨガ”と呼ばれる店に、公用車で出かけていたことがわかった。
週刊文春の取材によれば、4月16日14時半、林大臣を乗せた公用車は、恵比寿にある雑居ビルの前に到着。林氏はヨガスタジオに入り、2時間を過ごした後、待たせていた公用車に乗り込んだ」
http://bunshun.jp/articles/-/7159
安倍「桃色」内閣の様相を呈して来たな。

千趣会が運営する通販事業ベルメゾンは、夏の主力商品である汗取りインナー「サラリスト」シリーズのプロモーションを4月23日(月)より順次開始する。
今回のプロモーションでは、汗に悩む男女の恋模様を漫画化した「大汗ラブストーリー」全3話を「サラリスト」特設サイトにて連載するとともに無料漫画サイト「FEEL FREE」(祥伝社)においても限定連載する。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000010.000018201.html

◎青山ゆずこのマンガ「ばーちゃんがゴリラになっちゃった 祖父母そろって認知症」(徳間書店)は、フリーライター・漫画家として活躍する著者自身の祖父母の在宅介護についてつづったWEB連載をもとに、描き下ろした作品だ。こういうマンガはドラマ化に向いていると私は思う。
https://news.mynavi.jp/article/20180423-620896/

◎「フリースタイル」38号。今が旬のポップカルチャーから三本を選ぶというコラムコーナーが巻頭を占拠しているが、小森収が岩本太郎の「炎上!100円ライター始末記」(弊社刊)を選び、中条省平佐久間良子高崎俊夫の「祝祭の日々」(国書刊行会)を選んでいる。加えて小森が「出版人・広告人」の連載を担っていた井家上隆幸の追悼文を書いているのだが、そこでは元木昌彦の「知られざる出版『裏面』史」が紹介されていた。
http://webfreestyle.com/freestyle-bn.htm
「フリースタイル」はマスを志向する雑誌の多くが失った雑誌らしい匂いを持った、それゆえ懐かしさを禁じ得ない雑誌である。

カドカワ川上量生が自らの公式ブログに「ブロッキングについて」を発表した。
「やはり根本的な解決法としてはブロッキング、およびそれに類する方法しかないのです」
「今回の政府のブロッキングにかかわる施策を拙速だと批判するよりも、変化の早いネットの世界に比して対応が後手にまわりがちで時間もかかっていた法制化の議論を、一挙に進める好機だと関係者の皆様には捉えていただき、違法サイトに対して実効性のあるブロッキングの法制化にむけて、みなさんの知恵をお借りできればと思っています」
http://ch.nicovideo.jp/kawango/blomaga/ar1496563
讀賣新聞が4月25日付で社説「海賊版サイト 接続遮断はやむを得ぬ措置だ」を発表した。
「3サイトによる著作権侵害の被害額は、昨年9月からの半年間で、4300億円にも及ぶとの試算がある。深刻な状況を考えれば、接続の「ブロッキング」は、やむを得ない措置である」
「無論、表現の自由は最大限に尊重されねばならないが、不当な手段で掲載しているサイトを同列に論じるべきではあるまい」
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/20180424-OYT1T50125.html
私たちは仲俣暁生フェイスブックで放った「大雑把。出版社も新聞社も通信事業者も無意味に尻尾をふるのかこの国は。言いたくはないが、たかがマンガ商人の儲けの話じゃねーか」という発言を胸に刻み込んでおくつもりだ。

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3)【深夜の誌人語録】

怖がることが勇気を生み出す。