今日はネットを賑わす「ステマ」という流行語について考えてみた

ステマ」という流行語がある。広告業界用語と言って良いだろう。『断捨離』がベストセラーとなったから、「捨てるマーケティング」の略称だなどと早とちりしてはなるまい。もともとはステルス・マーケティング(stealth marketing)の略称である。敵のレーダー網に察知されずに爆撃を行うステルス戦闘機のステルスである。「デジタル大辞泉」はステルス・マーケティングを次のように解説している。

《「ステルス」は隠密の意》宣伝であることを隠した宣伝。例えば、記事の中に潜り込ませた広告、テレビドラマの中に特定の商品が繰り返し出てくる行為、記事に見せかけた広告、報酬を払って良い噂を流してもらう行為など。

このステルス・マーケティングが「ステマ」と短縮されることにより、「ステマ」は人を騙すという否定的な意味あいを帯びるようになる。「ヤラセ」とか「サクラ」とほぼ同じ意味であると考えて良いだろう。「同人用語の基礎知識」(www.paradisearmy.com/.../pasok_stealth_marketing.htm)によれば「ステマ」という言葉がソーシャル・メディアの世界で一気に広がったのは宮崎あおいの元夫で俳優の高岡蒼甫が次のようなツイートが火をつけた「2011年の、いわゆる 『フジテレビ韓流ゴリ押し騒動』」を発端にしてのことであるらしい。

正直、お世話になった事も多々あるけど8は今マジで見ない。 韓国のTV局かと思う事もしばしば。しーばしーば。うちら日本人は日本の伝統番組求めてますけど。取り合えず韓国ネタ出て来たら消してます^^ ぐっばい。

「フジテレビ韓流ゴリ押し騒動」とは事の真偽は定かではないが、高岡のツイートを契機にフジテレビは韓流ドラマの放送枠を拡大するばかりではなく、情報バラエティや報道番組でも積極的に韓流を取り上げたのはステマではないか!と一部の視聴者が怒りの声をあげフジテレビや広告会社に何度もデモを繰り広げたというフジテレビバッシングの一件を指すのだそうだ。高岡はグーグルの年間検索ランキングでは「話題の人」として6位にランクインしている。そして、年が明けると例の「食べログ」事件が発覚する。

飲食店の人気ランキングサイト「食べログ」が、好意的な口コミ投稿の掲載や順位の上昇を請け負う見返りに飲食店から金を受け取る「やらせ業者」にランキングを操作されている事例があることが4日、運営会社のカカクコム(東京)や飲食店関係者への取材で分かった。(1月5日付「産経ニュース」)

食べログ」を舞台にしてのヤラセ投稿に続いて、「ヤフー知恵袋」でもヤラセ投稿が発覚する。このところ新大陸メディアに押されて昔日の勢いを失っていたマスメディアはここぞとばかりに盛り上がる。だから、ネットは信用できないのだとでも言わんばかりに!もっともマスメディアにしてからがこれまで「ステマ」に一切かかわらずに来たかと言えば、そんなことはあるまい。いずれにせよ、そうしたなかで「ステマ」は言葉として市民権を獲得するに至るわけだ。例えば『東洋経済』オンラインは2月7日付で「食べログ事件で明るみ、巧妙な“ステマ”の実態」という記事を発表している。

サイトの利用者に広告と気づかれないように行われる宣伝は「ステルスマーケティングステマ)」と呼ばれ、食べログを運営するカカクコムやヤフーは共に「やらせには関与していない」と主張する。一方、運営者が主導し収入を得る例もある。
サイバーエージェントが運営しているブログ「アメーバ」で昨年9月、二人の芸能人のブログに花王の歯磨き粉について内容の似た紹介記事が掲載され、「ステマではないか」と波紋を呼んだ。これは実際に花王が仕掛けたステマだったが、ブログの中には広告と明示されていない。

1月17日には「ステログ」なる「食べログ」の投稿に「ステマ」があるかどうかを判定するサイトが誕生し、開設一日で60万PVを記録してしまった。「ステログ」は「食べログ」の店舗情報のURLを入力して判定する。評価基準は次のような三つ。「新大陸」にはこうした「批判」を新たな「方法」の開発をもって乗り越えようとする自浄作用がある。

信頼できる高評価者 過去投稿数50回以上で評価3.5以上で投稿日数が比較的バラけていて400文字以上投稿している人。ただし、ステマでもそういう人はいます。
頻繁な高評価者 1日3回以上(!)投稿する日が過去3日以上ある人で対象店舗に評価3.5以上をつけてるのに文章が短い人の数。食べログ好きなのか、意図がある投稿かどちらか。通常40%以下。
初投稿で高評価者 初投稿で評価4.0以上つけている人数。ネットに詳しくない常連さんか、意図がある投稿かは自己判断。地元密着の店だと前者のケースも多いです。ただし、食べログのロジック上、スコアに反映されません。

花王サイバーエージェントの運営する「アメーバ」のブログを活用して「ステマ」を仕掛けた件だが、別にこれは花王だけの専売特許ではない。「アメーバ」ではブログを更新する芸能人・有名人に、企業の商材に関する情報を提供するマーケティング手法を「記事マッチ」と呼んでいるようである。しかし「ステマ」と「記事マッチ」をどのように峻別するのか。これだけソーシャルでも、マスでも「ステマ」批判が盛り上がるとなると、逆効果を心配する企業も現れて来るだろう。フジテレビのようにはなりたくないというわけだ。
アメリカではブロガー自身が「ステルス・マーケティング」とは一切関係ないと宣言するケースも多いようだし、フェイクとブログの造語である「フログ」という蔑称も使われ始めているようである。それにしても「ステマ」という言葉がこれだけ流行したのは、ソーシャル・メディアの影響力の大きさゆえだろう。その影響力の大きさゆえ新聞は自社の記者アカウントを紹介したり、ソーシャル・メディアとの「協働」をはかろうとしているし、一般の企業はその影響力を何としても自社のマーケティングに生かしたいと必死なのだろう。
ところで、忘れてはならないのはマーケティングと「戦争」の深い係わりである。日本を焦土と化したカーチス・ルメイ戦略爆撃がマスメディアを駆使してのマーケティングに結実したように湾岸戦争を経てアフガン戦争、イラク戦争でステルス戦闘機がピンポイント爆撃が「ステルス・マーケティング」に結実したのではないだろうか。マーケティングは戦争を母胎にして進化を遂げるのだ。アメリカがマーケティング先進国なのは、戦争大国であるからに他なるまい。どんなマーケティング理論にも必ず戦争の影がつきまとう。「ステルス・マーケティング」を「ステマ」と言って簡略化し、流行語にしてしまうのも、実は「平和ボケ」のなせるワザなのかも知れない。