忌花学廃人篇

暗がりに花咲かば人夢に死す
狂ふまで死を友とせよ花は敵
夜明け前世界を覆ふ花の縊死
花散れりこころの滅ぶ宿酔
花びらを浮かべて海は倒錯す
花の舞ふここもあそこも死者の国
粉々に砕けし花の詩の記憶
三月は桃源郷の黒が死ぬ
かく咲かばかく散る花の生理痛
花の香をこのままずつと汚したし
空低く曇れば花の屍骸満つ
人の死に泣くを慣れての花時雨
一望の瓦礫に花の舞ひ散れり
国中に花の絶えたる叫びかな
死死死死や死は死を生きる死死の死死
土砂降りの己が大地に杭を打つ
裏切りを知らず知らずに君影草
暴力が繋ぐキスとて五月晴れ
墜落はいつも今宵も磯遊び
この街を焼き捨てし後昼寝覚
殴るほど麦の穂揺るる涙かな
酔ひどれの薔薇の記憶を抱きしめよ
雛罌粟の酒精食らはばユダの夢
われありて君の選ぶは蟻地獄
閻魔まで辿り着かぬよ水遊び
背信のくんづほぐれつ子猫かな
われ思ふ故に消ゆるぞしゃぼん玉
瀧落ちて君の記憶を粉々に
死すべきは卯月にうづく酒の肉
許すまじその日その罪その浴衣
羅に隠す焦土を切り刻む
裏切られ踏みつけられて稲光
背信の夜に育む汗の蜜
憎しみを絶望で割るソーダ
愛よりも自傷を選ぶ磯遊び
短夜を嘘で彩る君は敵
香水の漂ふ肉はみな焦土
素粒子の瓦礫に巣食ふ蠅の牙
敗北を抱きしめ夏蝶まう死なう
人間の夜の血を吸ふ蚊の孤独
向日葵を貪り尽くす平和かな
炎天をさすらふ凶器僕なりき
こなごなに砕けて散らん蝉時雨
断念を胃に流し込む麦酒祭
存在の余白を泳ぐ赤鉛筆
かくすればこのままずつと油照り
人間を脱ぎ捨て夜へ逃避行
白菊の皺の数ほど奈落あり
背徳をのた打ち回る秋の虫
許すまじその存在をその秋を
肉体はかうして腐る女郎花
鈴虫のよがりよがりて狂ひ死に
純情を風にさらはれ曼珠沙華
赤蜻蛉何処へも行かぬ行けぬから
嗚呼君は嘘しか知らぬ鳥兜
実石榴や死臭まみれの酔つ払ひ
毒の湧く泉ありけり黄泉の月
虫時雨底なき底を手繰り寄せ
地獄から生まれ落ちたる夕化粧
栗と栗鼠ワイン片手に薄笑ひ
行く秋に愛なる行為つゆ知らず
背信は芋茎咥へし母に似て
霜月の尽きぬ思ひの上滑り
堕ちよ夢奈落に咲くは冬薔薇
断念も不義も一緒に落葉焚
壊るるは己にあらず枯木灘
いつしかはあり得ぬ日々よ凍る夜々
暗くただ暗く存在する師走
木枯しや荒野に巣食ふ神の自慰
涯もなし当てもなし凍蝶凍死
焼き鳥をひとりで食らふ堕落かな
抱かれても嘘しか言へぬクリスマス
冬蝶は軍靴の響く闇に死す
裏切りを友とし敵の年果つる
酔ふほどにベツドの上の隙間風
愛などは辞書の言葉ぞ雪女郎
天狼を汚す絶頂絶間なし