消費増税法案成立で民主主義を否定する政治文化の第一歩を日本は踏み出した

8月10日の参議院本会議で消費増税関連8法案が民主党自民党公明党などの賛成多数で可決、成立した。社会保障と税の一体改革関連法ということになるのだろうが、消費増税に重心が偏向していることは間違いなかろう。だから、自民党の賛成を得たと考えるのが妥当だ。それでも社会保障にかかわる最低限の法案がセットされているのは、民主党の対面を保つことと創価学会を最大の支持母体とする公明党への配慮があってのことだろう。この法案の成立に前向きなのは朝毎読の三大新聞。例えば朝日新聞民主党自民党の二大政党が合意することで法案が成立したことを社説で次のように評価している。

いまの参院議席配分からみて、総選挙後も単独で両院の過半数を握る政党はない。「ねじれ」国会は今後も続く。
国民に負担を求める政策の実行がいかに困難か。一体改革をめぐる協議で、両党は身をもって学んだだろう。
ここはチャンスである。
政党同士、建設的な批判は大いにしあうのは当然だ。ただし、不毛な政争はやめ、協力すべきは協力する。
一体改革関連法の成立を、そんな新しい政治文化をつくる一歩ととらえたい。

私などからすると消費増税衆議院解散総選挙なしに「協力すべきは協力する」法案ではないと思う。民主党を政権の座につかせた2009年の総選挙に際して掲げたマニフェストに従えば消費増税は公約違反にほかならない。解散総選挙なしに二大政党が消費増税を実現するために手を組むのは「民意」を無視した野合にほかならないと私は考えるが、朝日新聞の認識は違うようだ。朝日新聞の政治意識からすれば民衆の生活意識は無知ということになるのだろうが、私の生活意識からすれば朝日新聞の政治意識は非常識である。
朝日新聞の認識は仮に消費増税法案にかかわらず重要法案の是非をめぐって解散総選挙を行ったとしても、参議院では、どの政党も単独過半数を握れない「ねじれ」国会を前提にすれば、重要法案に関しては不毛な政争をやめて「協力すべきことは協力する」のが「新しい政治文化」だというのだろう。しかし、それは本当に「新しい政治文化」なのであろうか。
「新しい政治文化」といったところで主権者を軽視しがちな「古い政治」を前提にしていたのでは少しも新しくないはずである。歴史を振り返ってみるならば、朝日新聞は戦前昭和の大政翼賛会の焼き直しを「新しい政治文化」と言っているだけではないのか。だとすれば、今回の消費増税強硬は「新しい政治文化をつくる一歩」どころか、議会制民主主義に汚点を残す一歩であったと私には思えるのだ。そもそも政党政治による代議制民主主義が最も大切にすべきなのは「対立」(と「対話」)のプロセスではないのか。「対立」(と「対話」)のプロセスを忌避することは聞く耳を持たない独裁制専制への第一歩なのだという認識が朝日新聞にはないのだろうか。消費増税は代議制民主主義の機能不全によってもたらせた真夏の夜の「奇怪」にほかならないのである。
東京新聞の社説によれば民主党と消費増税で野合した自民党の総裁である谷垣禎一は今年一月の野田佳彦首相の施政方針演説に対する各党代表質問で何と次のように指摘していたというではないか!

民主党政権は、マニフェスト違反の消費税率引き上げを行う権限を主権者からは与えられていないんです。議会制民主主義の歴史への冒涜(ぼうとく)であり、国権の最高機関の成り立ちを否定するものです。

私は谷垣のこの発言に全く同感なのだが、その谷垣が民主党との野合を決断したということは、谷垣もまた野田佳彦同様に変節、転向したということなのである。こう言ってまで野合を決断した自民党も議会制民主主義を冒涜し、国権の最高機関の成り立ちを否定したことにおいて、民主党と同罪であるということである。消費増税を通じて日本の民主主義は危機に直面したのである。それでも「新しい政治文化をつくる一歩」と強弁するのであれば、朝日新聞よ!それは民主主義を否定する政治文化なのである。議会制民主主義という「これまでの民主主義」にとっても、議会制民主所儀に直接民主主義の要素を積極的に取り入れることになる「これからの民主主義」にとっても、誤った一歩だ、「政治の貧困」を恥ずかしげもなく露呈させた一歩である。
消費増税法案が成立するに当たって、朝日、読売、毎日という三大全国紙は野田政権を後押しする論陣を張り、その最大の抵抗者である小沢一郎を「政治とカネ」という常套句で叩きつづけた。大新聞もまた民社主義から主権者を疎外することに加担したのである。大新聞は「民意」に耳を傾けず、勝手に消費増税翼賛の大本営発表をしはじめたのだ。これも昭和戦前の新聞と瓜二つの光景であった。そうした「報道の貧困」がまかり通るなか東京新聞が今日の社説で敢えて「投票先を決めるのは有権者だが判断材料を提供するのはわれわれ新聞の仕事だと肝に銘じたい」と書いたことは評価したい。
いずれにせよ、消費増税法案が成立したことで消費はますます冷え込むことになるだろう。消費の冷え込みは政府に対するリコールの民衆の側からの明確な意志表示である。消費税の政治的な役割を野田や谷垣は忘れてはなるまい。