忌花学廃人篇 其の弐

詩を砕く仮面の光る冬薔薇
マフラーを赤旗に見立て神田川
根へ下部へ落下せよ人も季節も
一行の冬に意味なき墨の声
凩や涙を壊す砂と影
日向ぼこ灰色の死を掻爬せり
そのために死なば如月生きよ屑
凩や夢破れての隅田川
異邦の詩求めて泳ぐ紀元節
祖国にて俳句に狂ふ結氷期
僕は誰れ夢精の続く冬の蠅
流氷の使徒は蜂起を去りにけり
一滴の歴史に凍る最上川
原点は氷河に眠るギムレツト
寒鰤に妙法を混ぜる料理店
夢や凶器は花の破片動機は青空
花冷の不快全開無限大
手淫せり無数の花の埋葬日
堕天使の手淫を覗く花子かな
花の根に思想はありや神田川
桃色の倦怠に折れる花の夢
陰茎や花散る墓地の表意文字
花や恥べき過去の未来の情事
断念の花の殺意に濡るる街
花食らふ胃袋永久に吠ゆるべし
陰気なる記憶に花の寄生虫
死者の棲む根の国花の咲かぬ場所
花咲かば逆光線を射殺せり
血に混じる涙は花の剰余価値
光満ち花散る黄泉の大陰唇
ありがたや殺意を孕む君影草
吸血の荒野に折れる蚊の心臓
さみだれ縄文土器の火焔たつ
人体を舐め尽くす蝸牛の死
夏山に向かひて敗れ去る初心
羅を脱げば八幡大菩薩
梅雨寒の虚空に赤を塗りたくる
万緑を芯から犯すサキソフオン
煙草をふかす孤独も所詮五月
皆して汗に溶け合ふ不敬罪
背後から善意の襲ふ五月闇
影ひとつ粉砕またも蝉時雨
ゆすらうめ君は非在の女神かな
何事も為さずに死なう蚊の飛翔
雨乞のついでに恋を乞う五十路
官能に至る線香花火死へ
官能の汗の染み入る北枕
エルメスの夜に溺るる金魚かな
全焼の夢を泳がば厭離穢土
海ゆかば沈黙を飼ひ馴らす夏
パラソルに隠れて罪は膨張す
ソーダ水飲めば泡立つ殺気立つ
火遊びを汚され砂をゆく裸足
くらがりに匂ふ乙女の水遊び
向日葵は火照りを常に弄ぶ
香水に傷つく肌の迫り来る
いづこにも辿り着けぬよ黒揚羽
頭の果てに捨てし記憶の蝉時雨
敗北に曝す陰画の大旱
平凡を生きて山河の敗戦忌