忌花学廃人篇 其の参

戦場の彼方に消ゆる原爆忌
虫の音の何も叫ばぬ桃源郷
きりぎりす人の死にゆく時刻む
月光に許され夜汽車夢を逝く
今生の無意味を重ね夜は長し
純情の毒婦を飾る彼岸花
あの世まで燃ゆる恋あり星月夜
居待月煙草ぷかぷかぷかりぷか
宵闇の人はばらばらバス待てり
永遠を掴み損ねて断腸花
老人は林檎を齧る牙を研ぐ
魂を滾らせ閏の菊人形
人類は死へ死へ死へと紅葉かな
むせび泣く芒の揺るる丑三つ
自壊せよ我が身に宿る神無月
神去りてその後世界に「ん」を吐けり
願くは枯木となりて親不知
人生を断ちて彼岸の閑古鳥
叛逆の鞭に従ふ卑弥呼かな
転ぶこと重ねて太る失語症
死のごとき視線の先の夜は長し
人体の地下に交尾の玉くしげ
酔ひ痴れて堕落補陀落常世ここ
水の死に歓喜こぼるる錬金術
天然の狂気に孕む枯木灘
暗がりに歴史を隠す更年期
美しき誤算の枯るる只管打坐
今日なるは今も昔も不発弾
錯乱を愛でて一日方便品
今日死なう明日死なう死は不老不死