尖閣諸島問題を解決するには

中国共産党の機関紙である人民日報は9月28日付の紙面で尖閣諸島問題に対する日本の対外政策を「小ざかしい外交」であると批難している。野田佳彦首相の国連での発言に対しても、日本に大局観を語る資格はないと切って捨てている。尖閣諸島を国有化したことが、ここまで中国政府の反発、というよりも激怒を招くことになるとは政府としても想像していなかったのではないだろうか。一般の国民にしてもそうだ。今年は日本と中国が国交を回復してから40年という節目に当たるが、一触即発の緊張感に包まれるまでに日中関係は悪化してしまった。ツイッターでは「武力衝突になっても死ぬのは俺達だけで充分だと思う」という現役自衛官のつぶやきもあった。日中関係の歯車はどこで狂い始めてしまったのか。その原因はどこにあるのか。
自民党加藤紘一ネトウヨ方面で評判の悪い政治家のひとりである。ツイッターでは「売国奴」といった罵詈雑言が投げつけられている。確かに加藤は親中派の政治家であり、現在も日中友好協会の会長をつとめている。しかし、加藤が自身のオフィシャルサイトに9月25日付で発表した「尖閣問題はつとめて冷静な対応を」の次のような箇所は傾聴に値するのではないだろうか。事の発端は2010年9月7日の尖閣諸島中国漁船衝突事件に遡る。

いま、日中両国は引くに引けない状態になっています。その原因が、私は前原誠司国交相にあると思っています。
2010年9月、尖閣周辺でカワハギが異常発生していました。日本では料亭で扱われる高級魚ですから、中国漁船が目の色を変えました。その漁船を、海上保安庁公務執行妨害で逮捕しました。小泉政権時までは、ただ領海から追放していたケースでした。
この「逮捕」が、訒小平以来の「棚上げ」の約束違反だったのです。なぜなら、在宅起訴という略式裁判ではあっても、日本の国内法において裁かれ、日本の裁判所の書類にハンコを押してしまえば、その時点で日本の法律が及ぶ範囲であるということを認めることになるからです。おそらく、前原氏はそのことに考えが及ばなかったのでしょう。そうでなければ、司法に判断を託すはずがありません。
ここで「訒小平との約束は反故になった」と中国が判断しても仕方ありません。中国側の行動が激しさを増してきたのは、それ以降です。

小泉純一郎は首相時代に靖国神社に参拝することで中国との関係を悪化させてしまったことで知られているが、尖閣沖に出没する中国漁船に対しては、領海から追放するにとどめ、逮捕することで日本の司法に判断を託するということはしなかったのである。中国に対して硬軟を使い分けたということであろう。長期にわたって政権を担って来た自民党の政治家ならではの老獪さ、あるいは「イデオロギーを超えた保守の知恵」とでも言おうか。これに対して民主党はこれまで政権の座に就いたことがなく、いくら首相が保守を自称しようとも、「イデオロギーを超えた保守の知恵」が全く蓄積されていなかったのである。そういう幼稚さを海上保安庁を管轄していた前原誠司国交相にしても露呈させてしまったのである。首相の野田佳彦にしてもそうだろう。尖閣諸島を国有化するのであれば、それに対して中国はどのように反応するか、いくつものシナリオを予め用意し、シナリオごとの対応を政府は事前に検討していたと私にはどうしても思えないのである。外交が行き当たりばったりでは困るのである。ましてや領土や国境にかかわる問題は、加藤が言うように妥協は成立するはずがないのである。
それにしても安酒に酔うことなく、尖閣諸島問題を実務的に解決するには、どうしたら良いのだろうか。二国間の問題として「棚上げ」してきたのが「これまで」だとすれば、今後はどうすべきなのだろうか。偶発的な武力衝突を避けるためにも、日本と中国という二国間の枠組みを超える必要があると私は思う。国連でのやり取りでもそうであったが、二国間の枠組みでは、それぞれ当事国が一方的に主張するだけである。その挙句の果てに待っているのは武力衝突であろう。そうした最悪の事態を避けるためにも、アメリカも含めて、日本、中国、韓国、ロシアによる多国間協議が可能な場を設けるしか実務的に解決する手立てはないように思えてならない。日中ともに、そうした体制を構築する努力に取り組むべきではないのだろうか。これは韓国との間に横たわる竹島問題でも当てはまる。
日本が中国(や韓国)との対立を深めてしまうと、日本がいくら従米を尽くそうとも、日本はいつの間にかアメリカに反米の烙印を押されてしまう危険性があるということを政権を担っていた自民党内のオールド・リベラル派は肌でわかっていたのではなかったか。彼らは親米と親中を両立していた。もっとも自民党は野党に転落していたことで、その部分が急速に劣化させているのではないかと私は危惧している。右傾化とは「勇ましさ」が「臆病」を圧倒することにほかならない。