忌花学廃人篇其の九

目瞑れば遥か神田の恋の猫
蕎麦食へばシュールしろしろ喉の夢
もののふの句を詠めばジャズピアノ祭
故郷は窓に腰かけ蕎麦の花
麦酒酌む友あり蕎麦屋惣右ェ門
湯煙に水車の国の良夜かな
炎天を壊すごとくに蕎麦を食ふ
「東京へゆくな」と父は雪の中
あたたかき映画の中の稲穂かな
人の食ふ涼しき蕎麦にその名あり
蕎麦挽きてほんのり香る仔猫かな
山々を開き深雪の寿屋
初蝶や蕎麦切る音のほがらかに
麦切りや颯爽と立つ旅姿
そねそばの清水湧く湧く五字七字


死に絶えて
白首
白鞘の
Synthese


ともすれば陽炎に猫の縊死あり
回廊にやさしく死せり山ざくら
陰火照り雛祭る夜の惨劇
青春は凍りたる夏の微分
国津罪銃声探す水鉄砲
空蝉やシェストフを抱く少年期
悲喜劇に非有の薔薇よ散るなかれ
投げ捨てて燐寸一本原爆忌
詩へ翔ぶは唖蝉飛騨に墜ちにけり
火祭りや言語を断ちて火を呪ふ
鈴虫や騒音のわれにふりそそぐ
凩や橋の上の顔叫び果つ
父よ母よ斧一振りの降誕祭
砦から廃墟へ冬の時計台
中絶のああら悲しや生殖器
半熟の憎悪を茹でるクライド忌
少年の悪魔の顔を拾ふレノン忌
一行十七音の墓や虚子忌
その花を知らねどその名に花を見ゆ
正月はいつものやうに夢を焼く


王国の
鏖殺
謳歌する
血紅忌


思へるはおまんこのみや断腸花
はじめての夢のなかだけ放火犯


放課後に「吉本隆明詩集」読む杏タルトもひとつの転位