安倍晋三は平成の井伊直弼かもしれない!

安倍晋三が率いる自由民主党が大勝した総選挙に際して掲げた政権公約のタイトルは「日本を、取り戻す。」とある。安倍は政権公約の冒頭で「私たちは、国民の皆さまと一緒に、たくましく、やさしく、誇りある日本を取り戻します。ともに『新しい朝』を迎えるために」と書いているが、安倍が取り戻そうとしている「たくましく、やさしく、誇りある日本」は、「戦後レジームからの脱却」というかねてかにの安倍の口癖を踏まえるならば、「戦後レジーム」の内側にないことだけは確かだろう。ということは安倍にとって自由民主党が政権を半世紀以上にわたり、ほぼ独占して来たことによって作り上げた「日本」は取り戻すべき対象ではないということでもある。私の感覚からすれば「戦後レジーム」とは自由民主党そのものなのである。しかし、だからといって安倍=自由民主党が取り戻そうとしている日本の理想が大東亜戦争敗戦以前の昭和日本にあると考えるのも短絡的である。
大東亜戦争が理念的にはアメリカの覇権主義に反対して、また欧米の植民地主義の軛からアジアを解放するために戦われた戦争(むろん、アジアに対する侵略戦争であったという一面もあったにせよ、だ)であったという歴史的事実を踏まえるならば、自由民主党政権公約に「日米同盟の強化のもと、国益を守る、主張する外交を展開します」と明確にアメリカの覇権主義に加担する旨を記している以上、安倍が国民とともに取り戻したいと願う日本はそこにはあるまい。ちなみに、アメリカのアジア・太平洋地域に対する覇権主義はペリーの来航以来、今日に至るまで一貫している。1945年9月2日、戦艦ミズリー艦上で行われた降伏文書調印式に際して、アメリカが掲げたのはペリーが旗艦サスケ・ハナ号に掲げていた星条旗であった。
日本は1945年の敗戦により、つまり、アメリカによる戦略爆撃(東京大空襲に象徴されよう)と二発の原爆投下により、非戦闘員たる無辜の民衆までも大虐殺されたうえで敗戦に追い込まれた結果、アメリカの覇権主義に飲み込まれ、そうして成立したのが「戦後レジーム」、即ち「戦後民主主義」体制にほかなるまい。日本を占領統治したアメリカは日本を自らの覇権主義の東アジアにおける橋頭堡にすべく、本来であれば革命でもしなければ実現できなかったであろう改革(戦前の農本主義者でさえ実現できなかった農地解放、戦前の社会民主主義者でさえ実現できなかった財閥解体などである)を次々に実現していったのである。国家の最高法規である「憲法」までアメリカは日本にプレゼントしてくれたのである。主権在民象徴天皇制を同居させた日本国憲法は、まさに「一君万民」の憲法であった(国体は護持し得たのである、アメリカのアイデアによって!)。おまけに日本が調印しながらも、大東亜戦争の開戦で破棄してしまっていたパリ不戦条約の理念も第9条の非戦条項として復活していた。確かに日本国憲法は国会の議決を経て施行されはした。しかし、国民主権を謳う憲法なればこそ国民投票にかけるべきだったはずである。これをサボタージュしてきたのも自由民主党に連なる政治家たちである。
安倍が本気で「戦後レジームからの脱却」を実現しようというのであれば、アメリカの覇権主義から日本を解放しなければならないはずだが、安倍にも、自由民主党にもその気はないらしい。安倍にいたっては早くも「走米派」の馬脚を現している。安倍は総選挙に大勝した直後(首相に就任する以前だ)、アメリカのオバマ大統領と電話で協議し、1月の訪米を希望した。それでいて「日本を、取り戻す」?2.26事件に連座した青年将校の口吻を真似れば、自由民主党政権とは江戸幕府であり、安倍晋三井伊直弼ということになるのではないか。結局、朝日新聞あたりの報道によればアメリカの都合で1月の訪米は無理になったようである。安倍の「主張する外交」のこれが実力なのだろう。
安倍晋三朝日新聞を嫌いであろうと、朝日新聞安倍晋三を嫌いであろうと、私からすればアメリカの覇権主義に飲み込まれたままで思考停止してしまった日本から目を背けようとしている点でも、日中関係を日米関係からしか構想できないという点でも、安倍晋三朝日新聞は同じ穴の狢としか思えないのである。朝日新聞は1月7日付の社説でこう書いている。

日米同盟を深化させ、友好国との連携を深めて中国に向き合う――。安倍政権の外交戦略を一言でいえばこうだろう。その方向は間違っていない。

この社説は昨年12月に米政府機関である国家情報会議が「2030年の世界は、今日とは一変した世界であろう。そのときまでに、米国も中国も、その他のいかなる大国も、覇権的な国家ではなくなっている」と結論づけた未来予測を紹介しているが、近未来においてそうなればこそ日本が脱却しなければならないのは、アメリカの覇権主義に組み込まれたままの日本ではないのだろうか。日米同盟を深化させるにしても、この課題に向き合わないのであれば、アメリカは日本に対してのみ覇権的な国家として君臨することになるであろう。それは言うまでもなく中国の日本に対する覇権的な振る舞いを誘発するであろうし、ロシアの日本に対する覇権的な振る舞いも誘発することになるのではないか。そうして日本は世界から孤立していく。最悪のシナリオだ。