【文徒】2014年(平成26)4月21日(第2巻73号・通巻275号)

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1)【記事】いくら何でも「どの面下げての編集者」なのでは?
2)【本日の一行情報】
3)【深夜の誌人語録】

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1)【記事】いくら何でも「どの面下げての編集者」なのでは?

祥伝社が「どの面下げての韓国人」(豊田有恒)で朝日新聞に出稿した広告の表現に対して、弁護士の神原元が「ヘイトスピーチ」に当たるとして朝日新聞内容証明郵便を送付した件は既に報じたが、 C.R.A.C.(Counter-Racist Action Collective)のウエブサイトにその文面が掲げられている。
「…2014年4月4日、貴紙朝刊の3面下段に「どの面下げての韓国人」という書籍の広告が掲載されました。この本の内容自体は私も未見であるものの、この表題自体が明らかなヘイトスピーチ(差別表現)であり、このような広告を新聞に掲載すること自体、人種差別を扇動するものであって、許されることではないと思量しております。
 この広告の掲載について、貴社としてどのような検討がなされ、どのような経緯により掲載が決まったのか、非常に疑問に思っています。一読者として、この広告の貴紙への掲載の経緯について、お尋ねしたいと思います。恐縮ですが、書面でお答え頂ければ誠に幸いです」
http://cracjpn.tumblr.com/post/82180861014/hate
C.R.A.C.は祥伝社の宣伝プロモーション室にも電話をしている。そのやりとりも公開されている。
http://cracjpncs.tumblr.com/post/82367138945
「どの面下げての韓国人」は現在3刷2万4000部。産経新聞は「この本の根底には韓国への愛があるのだ」と内容を擁護している。知っている人は知っている溝上健良による文章だ。
「いささか刺激的な題名と帯の文言で、朝日新聞に広告が載った際に『明らかなヘイトスピーチで、このような広告の掲載自体が許されない』と抗議の声を上げた弁護士がいたほど。それでも内容に立ち入れば、単なる嫌韓本ではないことは容易にわかるはずで、今月1日の発売で現在3刷2万4000部と売り上げは好調」
http://sankei.jp.msn.com/life/news/140419/bks14041908420005-n1.htm
溝上といえども、さすがに本のタイトルと帯の文言までも肯定するに至っていないことに着目すべきである。そもそも内容が「単なる嫌韓本」でないのであれば、「いささか刺激的な題名と帯の文言」である必要があったのだろうか。神原にしても「本の内容」を問題にはしているのではない。帯と同じ文言を掲げた広告が「ヘイトスピーチ」に当たるとしているのである。
産経の記事の中で、この本の編集者は昭和53年に20万部のヒットとなった「韓国の挑戦」の著者が集大成として書いた本であるということを強調しているが、それならば尚更のこと「どの面下げての韓国人」というタイトルが相応しいものであると私には逆立ちしても思えないのである。豊田が「どの面下げての韓国人」というタイトルを選んだとしても、編集者はその良心を賭けて、別のタイトルに変更すべきではなかったのか。もし、豊田との意向とは別に編集者が、このタイトルを選んだとするのなら、それは私からすれば「信じられない光景」だ。
次のような小林健治の文章を引用しておくこととしよう。
「1960年代に欧州で沸き起こった、ネオナチズム運動を取り締まるために、各国であいついで、ヘイトスピーチを犯罪とする法律が立法化された。人種差別撤廃条約(1969年発行)も、そのような事態を背景に1965年に国連で採択されたのである。そこに盛り込まれた精神は、第二次世界大戦の痛烈な反省の上に生まれた“世界人権宣言”に源を持つ。
そして“世界人権宣言”の根底には、ユダヤ人600万人、ロマ人50万人、精神障害者、同性愛者20万人のホロコーストを二度とくり返さないという決意がある。
ハーケンクロイツ(鉤十字)を掲げて、韓国・朝鮮人差別などを声高に叫ぶ『在特会』などのネット右翼が、公然とヘイトデモを行うような行為は、少なくとも欧米では犯罪であり、信じられない光景なのである」
http://rensai.ningenshuppan.com/?eid=143

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2)【本日の一行情報】

◎学研の女性誌「mer」は「雑誌不況が叫ばれる昨今において、2007年の発刊以来前年度対比120%超えを継続」しているそうだ。
http://mer-web.jp/

◎電子書店「BookLive!」はアフィリエイト業界最大手リンクシェア・ジャパンが提供する「TGアフィリエイト」とのサービス連携を開始した。これによりアフィリエイトリンクのいずれかで商品が購入された際、紹介者に商品価格(税抜き)の10%を成功報酬として支払う。対象となるのはBookLive!で配信している27万冊を超える全作品である。「BookLive!」ではオープニングキャンペーンが実施されている。期間中に対象バナーを掲載して、10クリック以上が発生した個人サイトに100円の報酬を進呈し、期間中に1回の購入で500円以上の商品を販売した個人サイトに、500円の報酬を進呈する。キャンペーン期間は5月21日まで。
http://booklive.co.jp/release/2014/04/161730.html

◎「女性による、女性のためのエロティックな恋愛小説」を謳ってKADOKAWAから2013年2月に創刊されたWeb小説マガジン「fleur(フルール)」は「サイト開設から半年後には月間100万PVを突破、今では150万PVに迫る勢い」だそうだ。
http://mf-fleur.jp/
波多野公美編集長は次のように語っている。
「エロティックなコンテンツには人を元気にする力があります。だから、女性にも新しい化粧品や洋服を身に付ける、あるいは美容室に行くのと同じ感覚で、自分好みのエロティックなコンテンツに触れることで元気になってほしいと思ったのです。でも、女性が心から楽しめる良質な官能コンテンツは、それまでは存在していませんでした」
これも重要なポイントだろう。
「…すべての作品でセックスシーンを丁寧に描写すること、登場する男性が基本的にコンドームをつけていることが分かる描写を作家さんへお願いしていることもポイントです。多くの女性が、愛する男性と安心して身体を重ねたいと考えていて、その最中には大切に扱われたいと願っているからです」
http://ebook.itmedia.co.jp/ebook/articles/1404/17/news005.html

電子書籍版が紙版よりも一ヶ月早く読めるということである。竹書房の「近代漫画」はブックパスの読み放題プランで約1カ月早く独占先行配信される。
http://ebook.itmedia.co.jp/ebook/articles/1404/17/news083.html

二子玉川商店街内マンション3階の1室にあるショップ&ギャラリー空間「fringe」(世田谷区玉川3、TEL 03-3708-7009)で4月29日まで「私の極楽空間 本屋さん」が開催されている。これも古書を利用。コラボしたのは雑誌の古書店「magnif」(神田神保町)だ。
http://nikotama.keizai.biz/headline/769/

朝日新聞によれば「緑風出版晩成書房水声社など中小の出版社が、アマゾンへの出荷停止」を決断した。日本出版者協議会に所属する出版社である。日本出版者協議会はアマゾンが大学生などに対し、書籍の価格の10%をポイント還元する「〈Amazon Student〉プログラム」再販契約に違反しているとして、その中止を求めてきたという経緯がある。緑風出版の高須次郎社長は日本出版者協議会の会長である。
http://www.asahi.com/articles/ASG4K4RCDG4KUCVL00Q.html

サムスンAmazonが提携した電子書籍サービス「Kindle for Samsung」。毎月1冊、無料の電子書籍が提供される「Samsung Book Deals」も含まれたサービスだ。
http://japan.cnet.com/news/service/35046764/

◎4月12日に発売されましたリュウコミックス『嵐ノ花 叢ノ歌』第5巻(徳間書店)において編集部のチェックミスにより一部ページにデータの乱れが発見された。
http://www.comic-ryu.jp/topics/topics140414_01.html

◎日本出版販売が発表した3月の雑誌・書籍売上動向によると、雑誌・書籍合計売上は前年同月比0.0%。内訳を見ると決して楽観できないことがわかる。雑誌3.8%減、書籍2.1%減、コミックが10.8%増。コミックによって支えられた結果なのである。
http://ryutsuu.biz/sales/g041721.html

TM NETWORKのデビュー30周年を記念し「TM NETWORK 30th Anniversary Special Issue 小室哲哉ぴあ TM 編」が刊行された。
http://topics.jp.msn.com/entertainment/music/article.aspx?articleid=4102796

◎「マウンティング女子」という言葉は覚えておこう。
http://trendy.nikkeibp.co.jp/article/pickup/20140417/1056737/?n_cid=nbptrn_top_new

ガルシア・マルケスが亡くなった。
http://www.huffingtonpost.jp/2014/04/17/gabriel-garcia-marquez-dies_n_5171154.html
ぴあ出身の作家・盛田隆二フェイスブックで次のように書いた。
「立て続けに4回読んで傍線だらけになった『百年の孤独』を東芝ルポの脇において、デビュー長篇を書いたのが1990年。それ以来、書きあぐねるたびに読み続けている。本当にありがとうございました。合掌」
https://www.facebook.com/ryuji.morita.56?fref=ts
寺山修司は「百年の孤独」に刺激を受けて映画「さらば箱舟」を完成させた。フランチェスコ・ロージは「予告された殺人の記録」を映画化した。

内田樹は次のように危惧している。
集団的自衛権行使について、それを政府解釈に一任させようとする流れにおいて、安倍内閣はあらわに反立憲主義的であり(彼が大嫌いな)中国と北朝鮮の統治スタイルに日ごと酷似してきていることに安倍支持層の人々がまったく気づいていないように見えるのが私にはまことに不思議でならない」
http://blog.tatsuru.com/2014/04/18_1041.php

村上春樹の短編小説集「女のいない男たち」(文藝春秋)が刊行されたが、「文藝春秋」に発表された際に中頓別町の町会議員から抗議を受けた「ドライブ・マイ・カー」の「小さく短く息をつき、火のついた煙草をそのまま窓の外に弾いて捨てた。たぶん中頓別町ではみんなが普通にやっていることなのだろう」という表現は「小さく短く息をつき、火のついた煙草をそのまま窓の外に弾いて捨てた。たぶん上十二滝町ではみんなが普通にやっていることなのだろう」と改められた。上十二滝町は架空の町。村上は「羊をめぐる冒険」で十二滝町という架空の町を登場させている。
http://www.huffingtonpost.jp/2014/04/17/murakami-drive-my-car_n_5171039.html

河北新報の追及が続いている。反省すべきは反省する必要があると思う。そのためにも検証は欠かせまい。4月19日付「復興の陰で」は「コンテンツ事業 被災地への発注把握せず 経産省とJPO」。記事はこう書き出されている。
東日本大震災の復興予算を投じた『コンテンツ緊急電子化事業』が本来の事業目的と異なっている問題で、事業を管轄する経済産業省と受託団体の日本出版インフラセンター(JPO、東京)が被災地の企業に発注した金額や対象書籍の冊数を把握していないことが18日、分かった」
http://www.kahoku.co.jp/tohokunews/201404/20140419_73019.html
仲俣暁生フェイスブックで緊デジの作業も東北の制作者として関与したk_airyuuのブログを知った。
「当時所属していた会社で、『東北の制作者』として参加していた自分にとって、記事の内容自体は既知の事実でしたが、いまなお電子書籍の仕事に携わる者としては電子書籍に対するイメージダウンが心配なところです。まあ事実なので仕方ありませんが…」
k_airyuuは「最初に制作ノウハウの習得が必要だった」「縦割りによる分業という方法もあった」「著者・出版社の『ボランティア的な参加形態』を取れなかったか?」と真摯に総括している。
https://kacco.kahoku.co.jp/blog/k_airyuu/49508
k_airyuuは「…緊デジの経緯から『被災地関連の補助事業の難しさ』についてより多くのひとが考え、そこから教訓を学ぶ事が『終わってしまった事』について考える意味だと思います」と書いているが、全くその通りだと思う。

円城塔の「Self―Reference ENGINE」(ハヤカワ文庫)がフィリップ・K・ディック賞の特別賞を受賞した。亡くなった伊藤計劃の「ハーモニー」も特別賞を受賞している。
http://www.nikkei.com/article/DGXNASDG1902B_Z10C14A4CR8000/
屍者の帝国」(河出書房新社)は草稿を何十枚か残して世を去った伊藤の意志を次いで円城が完成させた作品である。

竹熊健太郎ツイッターで「ツルシカズヒコを株式会社ホップ・ロウ代表取締役社長から解任しました」と報告。
https://twitter.com/kentaro666
ホップ・ロウは「電脳マヴォ」を運営している。
http://mavo.takekuma.jp/
一方、ツルシカズヒコはツイッターで「私、戦います」と宣言した後、竹熊について次のようにツイートしている。
「今回の竹熊健太郎さんのケース。フリーランスだった人が大学の教員になったことで生じた病だと思います。日本のマンガ業界が生んだ病とも言えそうだし、大学という教育産業が抱える病ではないでしょうか」
「薬物依存の可能性が極めて高い竹熊健太郎さん。勤務先の京都精華大学多摩美術大学はその事実関係を調査する義務はないのだろうか」
https://twitter.com/k_tsurushi
ワタナベコウはブログで「竹熊さん、入院してください」をアップしている。
http://www.kureyan.com/column-kou/19882.html

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3)【深夜の誌人語録】

言葉は沈黙に敗北しつづけるという自覚なくして言葉を商売にすべきではあるまい。