【文徒】2014年(平成26)4月28日(第2巻78号・通巻280号)

Index------------------------------------------------------
1)【記事】「緊デジ」検証は絶対に必要だ!
2)【記事】「とほん」とミシマ社
3)【記事】「もしドラ」編集者が立ち上げた「note」
4)【本日の一行情報】
5)【深夜の誌人語録】

                                                                            • 2014.4.28 Shuppanjin

1)【記事】「緊デジ」検証は絶対に必要だ!

出版業界は電子化の作業に公募しながら、不採用となった被災地の制作会社の疑問に耳を傾け、疑問のひとつひとつに真摯に答えるべきだと私は思っている。「出版ムラ」の論理に逃げては絶対にならないはずだ。時が過ぎるのを待って、総てはなかったことにしてしまうようなことだけは、出版業界の良心にかけてやめてもらいたいものだ。河北新報の4月14日付「コンテンツ事業 仙台の企業公募不採用 理由知らされず」は次のように書いている。「公募で採用されず、最終的に自己破産」してしまった企業もあったという。
「コンテンツ緊急電子化事業の作業に当たる会社の公募で、工場や事務所が被災した制作会社が応募しても採用されないケースが複数あった。東北の制作会社の関係者から『巨額の公費を投じた事業なのに選定基準が不透明だ』と疑問の声が相次いでいる」
http://www.kahoku.co.jp/special/spe1118/20140424_01.html
鎌田博樹が「マガジン航」に「東北を遥か離れて:電子化事業への5つの疑問」を発表したのは2年以上も前の2012年3月4日のことである。
「そもそも主体であるべき東北も、支援の対象としての東北も見えてこないのだ」
「事業はセンターのパブリッシャーズ・フォーラム(有識者委員会)が方針策定・承認を行うことになっているが、常識的に考えて「有識者」は出版業界外の第三者で「東北」を何らかの形で背負う人が好ましいように思われるのだが、ここにも東北の影は見えず、出版が前面にいる」
http://www.dotbook.jp/magazine-k/2012/03/04/digitization_project_is_too_far_away_from_tohoku/
電明書房のブログは昨年6月に「緊デジ(経産省電子書籍化事業)の成果が謎すぎる件」を書いている。
「中小出版社支援がお題目だったはずなのに、リストを見ると大手出版社の割合が非常に多い……が、緊デジの理念が崩壊していたのは途中から見え隠れしていたし、出版デジタル機構が挟まっている時点でそうなるのは自明の理だろう。ただし、コミックの割合が高すぎるのが非常に気になる」
「緊デジと出版デジタル機構の関係がまずよくわからない。はっきり言って、配信業務が緊デジの規模に見合うほどやれていたとは思えない一方で、出版社と緊デジを繋ぐ窓口のみにしては規模がでかすぎる。そして、新たな一手がビットウェイの買収である。官民ファンド経由なので単純に税金とも言いがたいが、それでも公的資金入れて電子書籍ストア込みの取次抑えるのは、倫理的にどうなのさ?」
http://www.denmei.org/201306/kindigi.html

                                                                                                                        • -

2)【記事】「とほん」とミシマ社

奈良県大和郡山市で2014年2月22日にオープンしたばかりの「とほん」は僅か4坪の書店。ミシマ社のウエブサイトで、その存在を知った。
「とほんの売り場は4坪。畳でいうと8畳程度です。その小さなスペースに新刊本、古本、リトルプレス、雑貨が並んでいます。うち新刊本は200冊程度ですから、棚を眺めていただけばミシマ社さんの本もすぐ見つけていただけると思います」
http://www.mishimaga.com/hon-hatsu/026.html?utm_source=dlvr.it&utm_medium=twitter
店名の由来は、こうだ。
「店名の『とほん』は『雑貨とほん』『大和郡山とほん』『人とほん』『町とほん」など、いろいろなものごとに『と、ほん』と繋がっていけたらと思い名づけました。『とほん』という言葉を辞書で引くと『ぼうぜん、ぼんやり』という意味もあります。小さな店で並べている商品も少ないですが、ひとつひとつの本や雑貨をぼんやりと眺めてゆるやかな時間を過ごしていただけるような場所にしていきたいです』
http://www.to-hon.com/
小さいながらも「とほん」は利潤最大化よりも、店頭というプラットフォームの最適化を志向しているのだ。出版業界のプレイヤーは今に至るも利潤最大化の発想から抜けきれないでいるが、まず志向すべきなのはプラットフォーム最適化なのである。昔から「損して得を取れ」と言うでしょ。そもそも「と」で繋ぐということ自体、プラットフォーム的なのである。
いずれにしても、こういう書店に目をつけるところがミシマ社の「営業力」なのである。その営業力はプラットフォーム最適化を志向していると言っても良いのかもしれない。

                                                                                                                        • -

3)【記事】「もしドラ」編集者が立ち上げた「note」

サービスが開始された「note」は有料のコンテンツも販売できるSNSだ。
「noteは、文章、写真、イラスト、音楽、映像などの作品を投稿して、クリエイターとユーザをつなぐことができる、まったく新しいタイプのウェブサービスです」
https://note.mu/
「…コンテンツ単位での課金、コンテンツ全体での継続課金も可能(継続課金およびムービーへの課金は今後対応)となっているほか、課金する場合はどこまでを無料で「チラ見せ」するかも指定できる。決済手数料および、販売価格から決済手数料(5%)を引いた額の10%がコンテンツの販売手数料となる。決済手段は現在カードのみだが、今後は各種の決済手段に対応する」
http://jp.techcrunch.com/2014/04/07/jp20140407-piece-of-cake-note/
またひとつ雑誌のライバルが誕生した。「note」を手がけるのは、それなりの著名人のコラム約4600本を週150円で閲覧できる「cakes」で知られるピースオブケイクである。ピースオブケイク加藤貞顕代表取締役CEOはアスキーダイヤモンド社で編集者をつとめ「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」を大当たりさせた経験を持つ。2011年12月にピースオブケイクを起業する。
http://www.pieceofcake.co.jp/team

                                                                                                                        • -

4)【本日の一行情報】

板橋区立教育科学館のプラネタリウムを管理・運営しているのは学研教育出版なのか。
http://gakken.jp/ep-koho/?p=10035

◎日販は、5月31日まで、全国の148書店で「おはなしマラソン」読み聞かせキャンペーンを展開している。
http://news.livedoor.com/article/detail/8770558/

◎米Facebookの2014年第1四半期(1〜3月)の決算を発表した。モバイル広告が好調で、売上高は前年同期比72%増の25億200万ドル、純利益は前年同期193%増の6億4200万ドル。
「広告による売上高は前年同期比82%増の22億7000万ドルで、総売上高の91%を占める。モバイル広告が広告収入全体に占める割合が前期の53%から59%に拡大した」
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1404/24/news038.html

◎ジャルパックがツイッターキャンペーンを開始。ツイッターで「JALPAKオリジナル東京GO!GO!観光バス」の写真と見かけた場所を投稿してただいた方の中から、抽選でJALパック海外旅行券が当たる。
http://sankei.jp.msn.com/economy/news/140424/prl14042414180087-n1.htm

◎ニュースアプリ「Gunosy(グノシー)」は海外展開を開始した。
http://www.asahi.com/tech_science/cnet/CCNET35047009.html

小学館女性誌CanCam」「AneCan」「Oggi」「Domani」「SAKURA」が明治の果汁グミとコラボ開始。
http://cont.insightlab.jp/meiji_gumi/

◎アマゾンは塩野七生の「ローマ人の物語」(新潮社)の日本語版と英語版を電子書籍として先行リリース開始。
http://www.amazon.co.jp/gp/feature.html?ie=UTF8&docId=3078108476

講談社は「石ノ森章太郎デジタル大全」を各電子書店で配信開始。配信は15期にわかれ、総ページ数は12万8000に及ぶそうだ。
http://ebook.itmedia.co.jp/ebook/articles/1404/24/news122.html

KADOKAWAの14年3月期業績予想は非開示にしていた連結経常利益が前期比15.3%減の73.3億円に減る見通しと発表。
http://kabutan.jp/news/?b=k201404240034

◎「本が好き!」「YONDEMILL(ヨンデミル)」「HONDANA(ホンダナ)」を運営するフライングラインの鐘ヶ江弘章社長の発言。
スマホタブレットの普及により)「むしろ以前よりも文字を読むことが多くなったのではないでしょうか。“活字離れ”と言うよりも、“紙の本離れ”ですよね。そんな今の状態に対して、出版産業が対応できていないのが問題なんです」
http://itnp.net/story/726

本屋大賞に参加すると参加書店用注文用紙が用意され、ノミネート作品・大賞作品の注文配本が優遇されるという。しかし、海堂尊は次のように指摘している。私もそう思う。
「『本屋大賞に加盟すればいいじゃないか』という声が聞こえてきそうですが、そうした同調圧力こそが書店の多様性を失わせ『本屋大賞栄えて本屋滅ぶ』ということになる、というのが私の意見です…」
http://author.tkj.jp/kaidou/2014/04/post-83-5.php
海堂はまた匿名投票者が多いことも問題視している。これももっともな指摘である。
「店員が胸を張ってやる素晴らしい企画であるなら、匿名の投票者がいるのはおかしい。匿名でなければ投票できない人の存在で、本屋大賞の暗部が見えてきます」
http://author.tkj.jp/kaidou/2014/04/post-83-6.php
書店一軒一軒が独自の「本屋大賞」を掲げれば良いにもかかわらず、広告屋の尻馬に書店員が乗せられてしまったのが本屋大賞であろう。柴山哲也が指摘していたが本屋大賞は草の根の世論を偽装した人工芝の作られた世論商法なのではないだろうか。「本屋大賞栄えて本屋は滅ぶ」は本当だと思う。

◎何とアマゾンでゴルフ場の予約まで可能になってしまった。ゴルフダイジェスト・オンライン社との提携による。
http://www.zaikei.co.jp/releases/164969/

◎ヤフーはブックオフコーポレーションの43%の株式を取得し、資本・業務提携を行った。これによりヤフーがブックオフ筆頭株主となった。
http://pr.yahoo.co.jp/release/2014/04/24a/
「ヤフーはブックオフに合計約92億円出資。この資金を活用し、ブックオフが主体となり、リユース業界として国内最大級の物流センターを首都圏に開設し、中古品流通の拠点とする。今回の提携などを通じ、ヤフオク!は流通総額1兆円を、ブックオフは利益倍増を目指す」
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1404/24/news171.html
このタッグは極めて理に適っているけれど、これまで大株主であった大日本印刷講談社小学館集英社の影が薄くなる?

講談社の「Kiss PLUS」の後継誌となる「ハツキス」が隔月刊で6月13日に創刊される。
http://natalie.mu/comic/news/115230

電通イージス・ネットワークのジェリー・ブルマンCEOが次のように発言している。
「イージスは、現地の市場に特化した中小規模企業の買収に重点を置いてきました。そして、他とは極めて異なるビジネスモデルで運営をしています。それが『One P/L』。国ごとに全事業を一つの決算単位で見るのです。私たちの企業は互いに競争するのではなく、同じ市場の中で一つのチームとして機能します」
http://dentsu-ho.com/articles/1063

講談社は、電子書籍スティーブ・ジョブズII」終章追加版を配信開始。デジタルはこういうことも可能にする。
http://japan.cnet.com/release/30069712/

カルチュア・コンビニエンス・クラブが健康食品通販販売に参入。子会社を通じてオーダーメイドサプリを販売するというのだが、当然、懐疑的な見方もあるようだ。
http://www.tsuhanshinbun.com/archive/2014/04/50-6.html

カルチュア・コンビニエンス・クラブが運営する武雄市図書館は、カルチュア・コンビニエンス・クラブに運営を委託するにあたり、郷土資料まで「除籍」していたとは!テーマパークの親戚のような図書館であっても良いが、図書館に過度の「断捨離」は禁物だ。
http://www.huffingtonpost.jp/2014/04/24/takeoshi_n_5203682.html

ダイヤモンド社の「統計学が最強の学問である」がビジネス書大賞を獲得した。書店賞もダイヤモンド社の「伝え方が9割」、審査員特別賞もこれまたダイヤモンド社の「嫌われる勇気」などを刊行した古賀史健に決定。
http://diamond.jp/articles/-/52085
http://biztai.jp/prize.html

◎シャープは、イオングループ未来屋書店が運営する電子書籍ストア「mibon(ミボン)」に、Android端末向け専用ビューアアプリケーションの提供を開始した。今後、「mibon」ストアサイトのリニューアルに合わせ、iOS端末向けの専用ビューアアプリケーションや関連する電子書籍ソリューションも順次提供する予定だという。イオンがシャープを買い叩いたに違いない。
http://www.sharp.co.jp/corporate/news/140425-a.html

◎PHP研究所は資格の学校TACの刊行物の電子書籍化を共同で行う。三橋貴明の「経済ニュースの裏を読め!」や平野敦士カールの「モヤモヤOLみなみが教わった『自分を変える』プラットフォーム仕事術」など5点が第一弾。
http://www.sankeibiz.jp/business/news/140425/prl1404251037017-n1.htm

◎2013年下期のABC公査が発表されたが、「週刊文春」は46万8910部となり、総合週刊誌で10年(20期)連続1位となった。
http://mainichi.jp/select/news/m20140426k0000m040059000c.html

◎改正著作権法が成立。
http://www.jiji.com/jc/c?g=soc_30&k=2014042500246
日本出版者協議会が二つの問題点を指摘している。
「1 紙媒体と電子媒体の出版権が、出版者に一体的に付与されていないため、アマゾンなどの巨大な電子配信業者によって電子出版市場が支配される道を開いた。
2 出版者が紙媒体の出版権しか持てない場合、デジタル海賊版を差し止めることができないなど、海賊版対策として致命的欠陥がある」
加えて古典を新たに組み直し、あるいは翻刻・復刻して出版物を出版した出版者や 著作権が消滅した未発行の著作物を発行した出版者の権利を文化的学術的観点から定の条件をつけて一定期間保護するための法的整備を速やかに行うよう要望している。
http://shuppankyo.cocolog-nifty.com/

テレビ朝日の刑事ドラマが全滅。ゴールデンタイムで視聴率5位とかつての定位置に戻ってしまった。
http://www.j-cast.com/2014/04/24203161.html?p=1

KADOKAWAの「関西ウォーカー」と「東京ウォーカー」のデジタル版でゴールデンウィーク特大号が99円で配信されている。99は「れんきゅう」というわけだ。
http://news.walkerplus.com/article/46301/

◎「翼の王国」が崩壊間近!フリーエージェントスタイルの資金が完全にショートしたと与沢翼がブログで告白。破産しちゃった。
「既にフェラーリロールスロイスベントレー3台を売却し、住宅なども全て解約しております」
http://ameblo.jp/yozawa-blog/entry-11834514071.html

◎立宮翔太はネットから生まれた「才能」である。
http://parkersdog.web.fc2.com/
書評ブログ「文学どうでしょう」は毎日更新を原則としている。つまり一日一冊。作家の盛田隆二フェイスブックで「書評する手際はプロの仕事」と評価している。昔であれば、こういう新しい才能に雑誌は必ず飛びついたものだが、今の雑誌は「昔の名前で出ています」主義に堕落してしまっていると言っては酷だろうか。

◎2014年3月度 博報堂・大広・読売広告社 単体売上高実績表
http://sub0000526160.hmk-temp.com/download/140120140409035616.pdf
大広と読売広告社博報堂のお荷物なのだろうなあ。

                                                                                                                        • -

5)【深夜の誌人語録】

前を向いて歩めとよく言うが、前のめりになり過ぎるよりも、後ろ向きになって過去をしっかりと踏まえて、後ろの未来を注意深く確認しながら、ゆっくり歩むほうが良いのではないだろうか。