【文徒】2014年(平成26)4月30日(第2巻79号・通巻281号)

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1)【記事】ポプラ社前社長・坂井宏先の死に至る軌跡
2)【記事】鵜飼商法」考 リクルート楽天
3)【本日の一行情報】
4)【深夜の誌人語録】

                                                                            • 2014.4.30 Shuppanjin

1)【記事】ポプラ社前社長 坂井宏先の死に至る軌跡

ポプラ社前社長の坂井宏先が死んだ。「死んだ」というよりも「死んでいた」と表現するほうが正しいのかもしれない。
ポプラ社前社長の坂井宏先(さかい・ひろゆき)さんが18日死去していたことが28日分かった。68歳だった。愛知県出身。葬儀は近親者で行う」(時事ドットコム
http://www.jiji.com/jc/c?g=obt_30&k=2014042800867
死後10日を過ぎて「分かった」という死には孤独の影が寄り添う。葬儀も未だ行われていないのだ。産経ニュースによれば「昨年11月に退任して病気療養中だった」ようだが、坂井は果たして病院で死んだのだろうか。病院で死ねば近親者に即座に連絡が入るはずであろう。
http://sankei.jp.msn.com/life/news/140428/bks14042817280004-n1.htm
時事にしろ、産経にしろ、坂井の死因については何も触れていない。坂井の死を最も早く伝えたのは産経であった。4月28日午後5時28分にアップしている。時事は4月28日午後9時28分。
昨年12月3日にポプラ社の社長に就任した奥村傳はサンケイ出版を本籍とする扶桑社出身の人物である。坂井の死を知った奥村が古巣の産経に伝えたのかもしれない。坂井の死にかかわる情報が出て来るのは、これからなのかもしれない。取り敢えず、私は坂井宏先がポプラ社の社長を去るまでの経緯をスケッチしておこう。
坂井がポプラ社社長の辞任を申し出たのは2013年11月25日のことであったと言われている。突然の辞任であったため即座に次期社長を決めることができず、奥村が社長に就任するまで空白が一週間以上も続いてしまう。奥村はポプラ社で専務にまで登りつめるが、専務から社長に就任したわけではない。専務を降り顧問に名前を連ねていた奥村が社長に就任する。「新文化」の書き方が正しいわけだ。
http://www.shinbunka.co.jp/news2013/12/131204-01.htm
こうした社長人事から、ポプラ社の経営がトラブルに巻き込まれていたことが示唆されよう。実際、このときポプラ社サイドから社長交代の理由に関して「本業以外の投資損失を回復し責任を果たした、および本人の体調不良によるもの」と説明された。「本業以外の投資損失」に関しては佐伯雄大が今年の1月22日に「サイゾー」にアップした「ポプラ社の社長が突然の辞任!"ズッコケ三人組"立役者にまとわりつく黒い噂」に詳しい。
「ある意味、順風満帆。坂井氏の社長人生の前半はそうだったのだろう。しかし、そうした状態も前述の交代理由でも触れられていた06〜07年頃の投資の失敗で、陰りがさす。一説によると、これらはFXによるもので、数億円もの損失を被ったともいわれている。ポプラ社の売上高は平成24年3月期で94億円、利益は6億円程度。数億円という特別損失はこの規模の会社には相当重い負担であったに違いない」
http://www.premiumcyzo.com/modules/member/2014/01/post_4810/
坂井は、この危機を乗り切るべく、ホールディング・カンパニー制に移行し、上場を果たし、その上場益で損失補てんを図ろうとする。疑似「労働組合」を経営に対峙し、同族経営を排除することでポプラ社を言わば乗っ取ってしまった坂井らしい発想であった。しかし、今度は思惑通りに事は運ばなかった。佐伯は次のように書いている。
「07年4月にポプラ社などを子会社とするポプラホールディングスが発足した。しかし、20億円もの特別損失を抱えたままの会社がそう簡単に上場できるはずもない。結局、10年にポプラホールディングスが子会社5社を吸収合併して、ポプラ社(新社)となり、元の鞘に収まった」
「元の鞘」に戻るに際して、坂井は「週刊新潮」2010年9月9日号に掲載された特集記事「きかんしゃトーマスポプラ社』に暴力団フロントが寄生した」に書かれた人物に頼ったものと思われる。この人物が本当に「暴力団フロント」であったかどうかは別にして、ポプラ社の会長に就任するも、2010年11月に突如、退任してしまう。
次のような佐伯の指摘を見逃してはなるまい。坂井は投資に失敗して会社に巨大な損失をもたらしただけではなく、それが社長辞任の引き金になったというのだ。
暴力団への融資で問題となったみずほ銀行グループに金融庁監査が入ったが、その取引先であるポプラ社においても1億円以上の使途不明金が発覚したというのだ。その私的流用の責任をとって辞任したというのが、社長交代劇の真相のようだ」
このように経営者としてポプラ社に「闇」を抱え込ませてしまった坂井宏先だが、そんな坂井がトーハン社長に就任していたかもしれないのである。「FACTAオンライン」にアップされている「FACTA」2012年7月号に掲載された「『トーハンの上瀧天皇』82歳退任の舞台裏」は、こう書いている。
トーハンに長らく君臨しつづけた上瀧博正取締役相談役は退任するに際して、坂井宏先社長を実現しようとした。
「…引退の舞台裏では同社の経営権を巡り、出版業界を巻き込んだ泥仕合が展開されていた。トーハンと取引のある出版社幹部が憤る。『5月14日に上瀧氏から、山崎厚男会長と近藤敏貴社長に退任を迫るメモが届いたそうだ。上瀧氏自身も一緒に責任を取って身を引くので、後任には相談役を務めているポプラ社の坂井宏先社長を就かせるとの内容だったという。信じられない話だ』」
http://facta.co.jp/article/201207027.html
この人事には、さすがに株主である出版社や書店の大半が猛反発する。2012年7月17日付「Business Journal」は次のように書いている。
「『取次会社という各出版社と等距離であるべき会社のトップに、いち出版社の、それも大株主でもない会社の社長が就任するのは問題だ』
との声が、トーハン社内はもちろん、株主である大手出版社をはじめとする各出版社、書店から湧き上がったのは当然である。結局、坂井氏が身を退くかたちで、この1件は収まった」
http://biz-journal.jp/2012/07/post_401_2.html
もし坂井がトーハンの社長に就任していたならば、どうなったであろうか。上瀧や上瀧の背後に見え隠れしたセブン&アイ・ホールディングス鈴木敏文の「傀儡」であれば未だ良い。坂井がポプラ社に「闇」を抱え込ませてしまったように、トーハンにも同じような「闇」を抱え込ませてしまったならば…そう考えるだけでも私はゾッとする。

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2)【記事】鵜飼商法」考 リクルート楽天

リクルートOBの永江一石によればリクルート楽天は「鵜飼商法」において共通していると指摘する。
「まずはサービスを利用させて徹底的に顧客を囲い込み、競合を潰してそのサービス無しでは身動きできないようにしておいてからのち、徐々に値上げしていく」
リクルート楽天にとつて「鵜」は二種類いるといって良いだろう。企業とユーザーたる個人だ。
得意先たる企業へのアプローチにおいて楽天のほうが、より徹底している。永江によれば、企業からむしり取る姿勢において両者は変わりないが、リクルートは「やんわり」だが、楽天は「えげつない」のである。しかも、楽天はユーザーに対する姿勢もえげつないのである。楽天社員による「不当表示」問題も、この「えげつなさ」に起因すると考えて良いだろう。
http://www.asahi.com/articles/ASG4T63M7G4TULFA02T.html
永江は、こう書いている。
「(リクルート)社内には順法精神がきちんとあったと思う。仮にユーザーからクレームが来たら、いったん掲載停止にして営業責任者が訪問して確認を取るのが普通だった。
かたや楽天。個人的に商売の仕方が好きではないのでいつもつついているが、いまだに偽ブランドとかも出ているし、ヤラセの評価は満載だし、景表法や薬事法でかなりヤバイ表現満載だし、誇大広告もたくさんある。リクルートなら審査担当が巡回確認して即座にIDを停止するレベルである」
http://www.landerblue.co.jp/blog/?p=12178
何故、こうした違いが生じるのかといえば、リクルートは雑誌育ちの企業であったということではないのだろうか。雑誌は読者を大切にしなければビジネスとして成立しなかったのである。そうした精神と楽天は無縁であったということである。

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3)【本日の一行情報】

集英社の「メディアガイド 2014」。紙版も良いがデジタル版のほうが、持ち運びが楽という点で使い勝手が良い。他の出版社も集英社のようにデジタル版の媒体資料を充実させて欲しい。
http://adnavi.shueisha.co.jp/mediaguide/2014/index.html
女性誌・男性ファッション誌ではモデルの一覧を掲載していて、これは有り難い。

金沢市の金沢フォーラスは雑貨ショップ「nikoand…(ニコアンド)」と未来屋書店が連携した新業態をオープンする。ニコアンドは横浜と鹿児島でカフェ併設の雑貨店を運営している。またしても書店にカフェ、雑貨…。こうしたカフェ併設型書店の近未来は午後6時からビールの販売なのではないだろうか。
http://www.hokkoku.co.jp/subpage/K20140426303.htm

◎ 次の指摘はその通りであろう。
「無料マンガは印刷や流通コストがかからないため、1話あたりの掲載料が週刊少年誌と比べると10分の1以下で済み、単行本化した際の採算ラインも1万部程度は低くなる」
http://www.crank-in.net/game_animation/special/30600/2
しかし、誰もが成功するというわけにはいくまい。
インターネットにおける無料マンガは大手とデジタルボーンの新興勢力がプレイヤーとなるのだろうけれど、マンガ誌を擁する中堅出版社は、そこから弾かれてしまう可能性があるのではないか。

◎ニコ動で再生数が730万に及んだ「進撃の巨人OPに中毒になる動画」が講談社によって削除されたとネット民は騒いでいるけれど、著作権侵害に妥当するわけだからな。
http://yaraon.blog109.fc2.com/blog-entry-23486.html
出版社は出版社のコントロールのもと、MADコンテストなり何なりのカタチを取りながら、著作権侵害における「例外状態」を作りだすという施策も考えなければなるまい。

◎5月18日放映の「仮面ライダー凱武/ガイム」で仮面ライダーキカイダーの共演が実現する。
http://www.cinematoday.jp/page/N0062568?utm_source=gunosy&utm_medium=feed&ut
私にとってはパチンコでお馴染みのキャラクターである。

◎「ルーズヴェルト・ゲーム」のテレビ放映が始まったが、私の興味は専ら講談社文庫から刊行されている原作が半沢直樹のときのように化けるかどうかである。
http://diamond.jp/articles/-/52291

アメリカの調査会社によれば、イギリスでネット広告費が新聞広告費を抜くのは確実らしい。
http://news.nifty.com/cs/magazine/detail/toyo-20140426-35883/1.htm
朝夕の電車に乗っていれば、日本も同じことになると思わざるを得ない。

◎2013年下半期のABC公査で、ファッション誌では宝島社が1位、2位を独占した。1位が「In Red」、2位が「sweet」なんだそうだ。しかし、「In Red」にしても部数は減少傾向だし、「sweet」に至っては坂道を転げるように部数を減らしていることも現実である。その危機感が宝島社に「大人のおしゃれ手帖」や「オトナミューズ」を創刊させたと言える。
http://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000044.000005069.html
それにしても部数で宝島社に対抗できるのは集英社だけになってしまった。

◎「白泉社×TSUTAYAコミックフェア
花とゆめ40thマンガみたいな恋をしたいコミックデートフェア」が5月1日〜6月30日まで開催される。TSUTAYA限定のクリアしおりが貰える。
http://store.tsutaya.co.jp/news/sell_book/003698.html
白泉社電子書籍の「ヤングアニマルカラー版」を5月31日まで50%オフキャンペーンを実施している。
http://www.hakusensha-e.net/v_1stfair2
eBookJapanは「ヤングアニマル」電子版の配信を開始した。
http://www.gamespark.jp/release/prtimes/20140425/10634.html

資生堂は化粧品と日用品の販売戦略を明確に分けることを決断した。これは正しい選択だ。シャンプーの資生堂じゃ化粧品のブランド価値が毀損されてしまうもの。私の予想に反して魚谷雅彦社長は、相当のやり手なのかもしれない。
http://www.asahi.com/articles/ASG4T5W4FG4TULFA02K.html?iref=comtop_list_biz_n01

科学ジャーナリスト大賞を「東電テレビ会議 49時間の記録」を制作したOur Planet-TV」が獲得した。通称「アワプラ」はインターネット放送局である。
http://www.asahi.com/articles/ASG4T4RHSG4TULBJ00G.html

テレビ朝日が2013年3月期までの7年間で約1億1200万円の「所得隠し」を東京国税局から指摘される。
http://mainichi.jp/select/news/20140426k0000m040074000c.html

◎女性の間でフルーツをブランデーに一日漬けるだけで良いフルーツブランデーが流行しているのか。
http://yukan-news.ameba.jp/20140426-87/

◎小説家の嶽本野ばらが作詞家兼シンガーとしてアルバム「初音ミクの結婚」を6月25日に発売する。
http://www.cinra.net/news/20140426-takemotonobara

安倍晋三首相が2年連続で「ニコニコ超会議」に登場した。
http://news.mynavi.jp/news/2014/04/26/112/
ニコニコ超会議」は「時代の気分」を象徴しているイベントである。好きかと聞かれれば、私は嫌いだと答えるが、現実は直視しなければなるまい。

◎ ピケティの「21世紀の資本論」が米アマゾンのランキングトップに立った。
http://news.livedoor.com/article/detail/8772597/
池田信夫は「ピケティを読む読書塾」を開催するという。池田によればマルクスの入門書として最高なのは廣松渉の「唯物史観の原像」(三一新書 絶版)だという。私も同感である。これに私は吉本隆明の「カール・マルクス」(光文社文庫)を加えておこう。
http://ikedanobuo.livedoor.biz/archives/51895538.html#more
日本では「21世紀の資本論」をどこが出すのだろうか?ハート+ネグリの「帝国」程度には売れるはずだ。

◎「書店大商談会」が第五回を迎える。10月23日に東京ドーム・プリズムホールで開催される。また今年から「北海道書店大商談会」も9月11日に札幌パークホテルで開催されることになった。
http://www.jpic.or.jp/topics/docs/setsumeikai.pdf

◎東京都書店商業組合が創価学会のドン池田大作に感謝状を送った。その文面が凄いぞ。ここまで褒めちぎるかね。
「世界各国の信頼と友情の広がりは、世界平和の実現への希望をもたらし、その卓越した指導力に心から敬意を表するものであります」「小説、随筆、詩歌、童話など優れた作品を世に送り、世界中の人々に、文字・活字の力を通じて広く感動と感銘を与えてこられました」だって。東京都書店商業組合は創価学会の別働隊なのかしら?
http://www.seikyoonline.jp/news/headline/2014/04/1212650_4440.html

◎氏家夏彦が指摘するようにテレビはインターネットに入り込むことでインターネット広告市場におけるシェアアップを図るだろう。
「インターネットは、今年は動画広告元年と言われているように、さらに増加する要因があります。むしろテレビはこのインターネットの動画広告にどれだけ食い込むかが勝負になって来るでしょう」
「ここでテレビ局が足並みを揃え、地上波放送のタイム&プレイスシフト視聴動画プラットフォーム、つまり全局全番組見逃し視聴サービスを構築すれば、動画広告は一気に集中し、インターネット広告市場でもテレビ局のシェアが急激に高まります」
http://ayablog.jp/archives/25324

◎「筋肉マン土下座ストラップ」が累計100万個も売れている。
http://wpb.shueisha.co.jp/2014/04/27/29502/
土下座マンガの板垣恵介に感謝したほうが良いだろう。

◎バービー人形の生誕55周年を記念して「Barbie ぴあ」が発売されているが、タレントの篠田麻里子益若つばさがバービー人形をプロデュースしている。この2体はそごう千葉店の「モード・オブ・バービー展」で展示されているそうだ。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140425-00000102-spnannex-ent

村上春樹は「国民作家」なんだよね。9年ぶりの短編集「女のいない男たち」が早くも5刷40万部!文藝春秋によれば「初版20万部でスタートした発行部数は、3月27日に決定した発売前の事前重版(2刷)10万部、4月21日に決定した3刷5万部、24日に決定した3万部と合わせ、現在40万部となりました」とのこと。加藤典洋が日経で書評を書いている。曰く
「必ずしも秀作揃(ぞろ)いとはいえないが、かなりの激情をひめた、未来性ある一冊という評価が可能である」
http://www.nikkei.com/article/DGXDZO70464510W4A420C1MZB001/

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4)【深夜の誌人語録】

私は「痩せたソクラテス」ではなく「太ったマルクス」を選択したい。