【文徒】2014年(平成26)7月10日(第2巻128号・通巻330号)

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1)【記事】「OverDrive」日本上陸の衝撃
2)【本日の一行情報】
3)【深夜の誌人語録】

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1)【記事】「OverDrive」日本上陸の衝撃

電子書籍に関して信頼のできる書き手のひとりである鷹野俊が「INTERNET Watch」に発表した世界最大級の電子図書館プラットフォーム「OverDrive」についてのレポートは読んでおく必要がある。「OverDrive」は日本ではメディアドゥが提携した。まず「OverDrive」のスケールから。
OverDrive電子図書館システムはなんと、現在4000社200万タイトルを45カ国3万館以上にサービス提供している。タイトル数は、毎週約1万点ずつ増えているそうだ」
OverDrive電子図書館システムは、北米で90%、オーストラリア/ニュージーランドで85%、英国では80%の公共図書館へ導入済み。大学、企業、政府などにも採用されており、最近大きく伸びてるのは小学校、中学校向けらしい」
「貸出実績は2013年実績で1億件、直近では月間1200万件、ウェブサイトは年間43億ページビュー、新規ユーザーは3340万人に達しており、今なお伸び続けているという。2014年実績では、貸出数2億件に到達する見込みとのこと」
OverDrive」は単独での日本上陸ではなく、日本の企業と業務提携しての上陸を図ったわけだが、その際、出版業界や取次業界の既存プレイヤーと組むのではなく、新興の電子書籍取次であるメディアドゥと組んだことは、なかなか賢い選択である。
これまでの黒船はグーグルにしても、アマゾンにしても、単独での上陸であったため、いわば「攘夷」の暴風に曝されることになったが、「OverDrive」は、そうしたナショナリスティックな反発を最低限に抑えて日本市場に参入することになったと言って良いだろう。もちろん、パートナーが既存のプレイヤーであれば「OverDrive」の持ち味たる革新性を削がれる心配も出て来るが、出版業界との歴史的なしがらみがさしてないメディアドゥと組んだことで、持ち味を削がれる心配もあるまい。それほど「OverDrive」の電子図書館システムは革新性に富んでいるのだ。「OverDrive」は図書館と電子書籍市場を地続きに捉えたサービスを提供しているのである。鷹野は次のように書いている。
「『出版社にとって電子図書館は、本のプロモーションの場になった』とMike Shontz氏。電子図書館とはいえ無限に借りられるわけではなく、契約によって貸出枠が決まっている。そして、借りられない場合にユーザーは、順番待ちをするか、『Buy It Now(今すぐ買う)』から購入するかを選択できる。つまり、図書館は小売の敵ではなく、販売機会を増やす心強い味方になるというのだ。だから、紙と電子の本は、同時に出されるのが当たり前。むしろ、電子の本が試し読みやマーケティングリサーチ、プロモーションのために使われるようになってきたため、電子の方が先に配信される場合も増えてきたという」
私はメディアドゥを電子書籍取次としてはやがて限界を露呈するだろうと見ていたが、「OverDrive」との提携で見る目が変わったと正直に告白しておこう。メディアドゥが例えば日本の取次業界の一角を占める太洋社あたりと経営統合したならば、面白いことになるだろうななどという妄想さえ私は抱いてしまうのである。
http://internet.watch.impress.co.jp/docs/event/20140708_656827.html

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2)【本日の一行情報】

◎フランス版『ELLE』編集ディレクターのヴアレリー・トラニアン、さすがだな。次のような指摘に私も同意する。
「…手軽なH&Mやトップショップ(TOPSHOP)といったファストファッションが登場して、ファッションはより民主的になった。これは、女性の選択肢が広がり、市場も広がったことを意味します」
日本版の編集長と対談しているのだが、日本版の編集長が悲しいほどに軽く見えるのは私だけであろうか。
http://www.fashion-headline.com/article/2014/07/07/6840.html

◎私の人生とともにあった映画館が8月をもって閉館することになった。「新橋文化劇場」と「新橋ロマン劇場」。「新橋ロマン劇場」は小沼勝の傑作「箱の中の女・処女のいけにえ」が最も似合う小屋であった。この映画館の斜向かいに居酒屋「五條」があり、昨年亡くなった中川六平と毎日のように飲んでいた。
http://www.cinematoday.jp/page/N0064448?utm_source=gunosy&utm_medium=feed&utm_campaign=xchg
http://shinbashibunka.com/

◎「日本全国モテる書店化プロジェクト」の発起人でもあるコピーライター川上徹也がダイヤモンド社から刊行した「『強い文章力』養成講座」が売れるような予感。ダイヤモンド社の書籍は「切り口」がよく練られている。
http://www.diamond.co.jp/book/9784478027097.html
http://kawatetu.info/project/

◎三井ショッピングパーク ららぽーと6施設(TOKYO-BAY、豊洲柏の葉、横浜、新三郷、磐田)で「学研×ららぽーと『夏休み自由研究大作戦』」が開催される。
http://resemom.jp/article/2014/07/07/19323.html

◎この「SAPIO」の記事は「週刊文春」は凄いぞというPR記事と読めなくもない。
http://www.news-postseven.com/archives/20140708_260324.html

講談社現代新書「愛と暴力の戦後とその後」の刊行を記念して、著者の赤坂真理内田樹トークイベントが7月30日に西武池袋本店別館8階で開催される。
http://www.libro.jp/news/archive/004188.php

内閣府・防災担当の公式Twitterアカウント「@CAO_BOUSAI」が7月5日、スパムツイートを投稿してしまった!
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1407/07/news075.html

講談社メールマガジン「現代新書カフェ」に薦められ「日本軍と日本兵」を読んでみたが、確かにサッカーW杯日本代表と日本軍がよく似ていることがわかる。日本軍も日本代表も「予期せざる事態にうまく対処」できず、「急速に変化する状況に対処する才覚も準備」もなかつたことを露呈してしまったのである。
http://bookclub.kodansha.co.jp/bc2_bc/search_view.jsp?b=2882434

◎ 昨日も書いたことだけれど…。イースト・コミュニケーションズの編集長を兼務する小野里稔の減給三ヶ月という処分は軽すぎるし、問題となった「フリー&イージー」の発行人をつとめる、イースト・グループ・ホールディングスの富永正人が何の処分もないということも私には解せない。本来であれば富永が退任し、「フリー&イージー」を休刊にしなければならないほどの大問題であると私は考えている。
記事を捏造した編集者をクビにするのは簡単である。しかし、総ての責任を一兵卒の個人に押しつけてしまうだけでは、そのような個人を生んだ組織の病巣は放置されることになるのではないだろうか。そもそも「フリー&イージー」の版元たるイースト・コミュニケーションズは何故、安西水丸の追悼特集で捏造が行われたのかをしっかりと検証したのだろうか。「出版」を軽く考えてはならなすはずだ。雑誌にしても、書籍にしても「商材」ではあるが、単なる「商材」ではないのである。私には「出版」を軽く考える出版社が増えてきているように思えてならない。もちろん、売れなければならないが(商売として成立しなければならないが)、それが総てではないはずである。
http://www.jiji.com/jc/c?g=soc_30&k=2014070800370

インプレスグループの電子書籍専門レーベル「impress QuickBooks」とクラウド翻訳サービスのConyacが共同で翻訳コンテストを開催する。課題は「ライトなラノベコンテスト」受賞三作品を3回にわけて実施する。報酬は400ドル!私は安くて驚いている。報酬は日本円に換算すると4万円強だぜ。電子書籍の時代においては、出版にかかわる仕事のギャラに強烈なデフレ圧力がかかるということなのだろう。
https://conyac.cc/ja/campaign/translation_contest_1407

◎「東洋経済オンライン」で山折哲雄と元読売新聞東京本社社長の滝鼻卓雄が対談している。山折はメディアの報道が集団的自衛権憲法9条に集中していることに関して、次のように言っている。
「ただ、私が、ひょっとするとこの2つの問題より重要かもしれないと思っているのは、天皇の元首化の問題です。これは大変なことです。場合によっては、天皇制のあり方を明治の時代にまで戻すことになりますから。にもかかわらず、この問題について、注意を喚起したり、批判したりする報道がまったく見られません」
http://toyokeizai.net/articles/-/41425
ちなみに、これは私の「天皇論」。
http://d.hatena.ne.jp/teru0702/20120409/1333953546

アンジェラ・アキの名曲をモチーフして生まれた中田永一の小説「くちびるに歌を」(小学館文庫)が映画化されることになった。映画の出来いかんで文庫は化けるだろう。
http://www.fashionsnap.com/the-posts/2014-07-08/kuchibiruniutawo/
http://www.shogakukan.co.jp/pr/kuchibiru/

◎隆祥館書店(大阪・安堂寺町)の二村知子店長は元シンクロの日本代表である。
http://toyokeizai.net/articles/-/41562
「作家さんとの集い」が好評なのは、そのラインナツプからして理解できる。8月に予定されている内田樹釈徹宗という組み合わせには、そそられる。

主婦の友社の「作りおきサラダ」が「文春図書館」で紹介されている。初版8000部でスタートし、プロモーションもしなかったが、店頭で反響を呼び、書店員がテレビで紹介するなど評判が評判を呼び、今年の上半期に最も売れた料理本となった。保存容器に入れての写真がシズル感を盛り上げているのが勝因である。
http://shukan.bunshun.jp/articles/-/4127

小学館の日本最大級WEBコミック裏サンデー」連載投稿トーナメントのテレビCMである。
http://kouichinouta.jp/2014/07/08/tvcm-2/

電通の6月度単体売上高。テレビやネットは良いんだよなあ。
http://www.nikkei.com/markets/ir/irftp/data/tdnr/tdnetg3/20140707/8rm3ed/140120140707009877.pdf

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3)【深夜の誌人語録】

情熱に奉仕させる「冷たさ」を身につけたいものである。