【文徒】2015年(平成27)4月23日(第3巻77号・通巻522号)

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1)【記事】「打倒!アマゾン」から転向し、アマゾンに尻尾を振ったKADOKAWA
2)【記事】「出版物に軽減税率適用を求める有識者会議」設立(田辺英彦)
3)【本日の一行情報】
4)【深夜の誌人語録】

                                                                            • 2015.4.23 Shuppanjin

1)【記事】「打倒!アマゾン」から転向し、アマゾンに尻尾を振ったKADOKAWA

ADOKAWAは社内カンパニー制を廃止したことで、更なるリストラに突き進むことになるだろうと私も予想している。
http://otapol.jp/2015/04/post-2818.html
もし私が現在、KADOKAWAの社員であれば、かつて佐藤辰男がそうしたように「同志」を募って、別会社を設立するけどね。KADOKAWAの株価に振り回される経営は、やがて焦土をもたらすことになるはずだ。いずれにせよ、KADOKAWAの市中在庫は、とんでもない状態になっているのは間違いあるまい。
ADOKAWAは今後、リストラとともに、出版業界に大混乱をもたらすような、なりふり構わない施策を次々に打ってくるものと思われる。その幕開けがアマゾンとの直取引の開始だといって良いだろう。日経は「角川が発行するすべての書籍や雑誌が直接取引の対象」と書いている。
ADOKAWAからすれば物流コストを圧縮できるし、アマゾンもまた仕入のコストカットを実現できる。
http://www.nikkei.com/article/DGXLASDZ21HPG_R20C15A4MM8000/
しかし、角川歴彦は2013年の第20回東京国際ブックフェアの基調報告で「打倒!アマゾン」を唱えていた「攘夷派」であったはずである。何しろ次のような文章を「アスキークラウド」の澁野義一に書かせていたほどである。
「角川会長は『Amazonが大きくなるに任せてしまったのは、出版業界に問題があったから』と断言する。旧来の制度が、内側からのイノベーションを妨げていたが、今後は出版業界全体がひとつになって『黒船』に対応していく必要があるというのだ」
「角川会長は『Amazon.comができることは、出版業界がひとつになってやらないといけない』と指摘する。『余生をかけて出版業界のルールを変える活動をする』(角川会長)。日本が培ってきた豊かな出版文化を守り育むための戦いの始まりだ」
http://ascii.jp/elem/000/000/804/804815/
ADOKAWAは「打倒!アマゾン」どころか、アマゾンに尻尾を振って、直取引を始めてしまったのである。しかも「抜け駆け」である。
実は、角川歴彦に「Amazon.comができることは、出版業界がひとつになってやらないといけない」などという「志」は微塵もなかったのである。口から出まかせを言ったに過ぎなかった。これほど無責任な出版人は、過去、この業界にいたであろうか。KADOKAWAはユダたることを選択したのである。
気をつけるべきは中小の版元であろう。恐らく、KADOKAWAは取次を外したアマゾンとの直取引を実現したことで、再販制をなし崩し的に瓦解させるような暴挙に必ずや出て来るものと私は予想している(最初は時限再販を利用しながら)。
後世、日本の出版業界をひとつにできなかった戦犯はKADOKAWAであると語り継がれることになるだろう。角川歴彦よ、恥を知れ!今は他の大手出版社がKADOKAWAにつづかないことを願うばかりである。
いずれにせよ、アマゾンは大阪屋を傘下に収めた楽天をせせら笑っているに違いない。

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2)【記事】「出版物に軽減税率適用を求める有識者会議」設立

5月22日、日本書籍出版協会日本雑誌協会など出版関係6団体は作家や学識者らによる「出版物に軽減税率適用を求める有識者会議」を設立し、第1回会議において出版物に軽減税率適用を求める提言を採択した。
会議の後に行われた説明会に出席した。
書協、雑協、JPO、読進協、取協、日書連による軽減税率専門委員会の高橋明男委員長(講談社・広報室長)を中心に、同委員会の中の倫理(線引き)ワーキンググループの高沼英樹座長(光文社・編集管理局長)、流通ワーキンググループの永井祥一座長(日本出版インフラセンター専務理事)らが列席して、経過報告を行った。
有識者会議のメンバーは浅田次郎日本ペンクラブ会長(第1回会議は欠席)、里中満智子氏、弘兼憲史氏、柳田邦男氏など作家、ジャーナリストと学者、そして出版6団体の委員を含め19人(第1回会議は出席者13名・代理含む)。この日の初会合で、座長に片山等・国士舘大法学部教授が選出された。
採択した提言は、以下の通り。
「私たちは、2017年4月に予定されている消費税率10%への引き上げに際し、出版文化に軽減税率を適用することを求めます。
現在、生活必需品である食料品への軽減税率適用が検討されております。食が「身体の糧」であるのと同様に、書籍・雑誌等の出版物は「心の糧」であり、生きていく上で欠かせない必需品です。わけても子どもたちにとって読書体験は人格形成の基本を構築していく上で不可欠なものです。加えて、出版物は健全な民主社会を構成するための知的インフラであり、知力、技術力、国際競争力の源であります。
ヨーロッパの国々や多くの先進国では、出版物に軽減税率が適用されています(イギリスでは税率ゼロ)。各国は、出版物をその国の文化の持続的発展や国民の知的水準を維持・向上させる上で必要な存在と位置づけ、国民が容易にかつ低価格で手に入れることが可能なように制度として保障しているのです。
憲法25条では、『すべての国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する』と規定されています。最低限度の健康的な生活に食料品が不可欠であるように、出版物は最低限度の文化的生活に必要不可欠です。
出版物への軽減税率適用は、必ず実現すべきものと考えます」
この提言をもとに、政界に向けてのロビー活動や世間一般に向けたアピールを行っていくという。
この日の会議の内容について高橋氏が語ったところによれば、出席した委員からは自民党だけでなく、ポイントとなる公明党へも積極的な働きかけを行ったほうがいいとの発言もあったという。
倫理ワーキンググループ座長の高沼氏によると、「書店やCVSで区分陳列されているもの(成人誌、18禁、小口シール止めの雑誌等)は軽減税率適用を求めない」方針だという。これに関しては出版界全体の総意ではないので、今後、理解を求めていきたいとのこと。
流通ワーキンググループ座長の永井氏は、「複数税率によって店頭の現場が混乱するので軽減税率をやめたほうがいいという議論が一方であります。これをクリアするために我々としてはスムーズな流通が可能な方法について検討作業に入っています。基本的に軽減税率適用の商品に関しては、コード表記は現行のままとし、適用外のものに対してはどういう方法があるのか、という方向で検討を開始した」と語った。
説明会の後、永井氏に、本体よりも付録のほうが主になっているようなものが"本"として売られているが、これも軽減税率の適用になるか伺ったところ「軽減税率の適用外です。明らかに雑貨に分類されるものに2段バーコードを付けて、出版社側が"本"と言い張っていたものがありました。今までは警告書だけでしたが、今後はペナルティを課すかどうか議論しているところです」とのこと。
また、明確に軽減税率5%適用を求める新聞協会との足並みの乱れを危惧する声が記者からあったが、共闘していく姿勢に変わりなく、ただ、税率については5%を求めるが、据え置きの8%でも受け入れるつもりであるという。
今後必要に応じて、第2回、第3回の有識者会議を開いてくようだが、早ければ秋の臨時国会、でなければ来年の通常国会で軽減税率の法案が提出されるそうなので、早急に出版界の総意を確定してロビー、広報活動を展開しないと要望は届かないだろう。
(田辺英彦)

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3)【本日の一行情報】

◎約1年ぶりに復刊を果たした「小悪魔ageha」は、同誌の公式サイトで「復刊記念特別企画」として「読書感想文」を発表したが、何とそのなかに創刊編集長である中條寿子の「復刊号は特に読みたい企画がなくて、もちろん全部読みましたが、企画内容が私たちの知りたいことじゃありませんでした」という激辛メッセージが掲載され、話題になっている。
http://mdpr.jp/gal/detail/1482364
早速、公式サイトをチェックしてみたが、そんな企画は見当たらなかった。削除されちゃった?
http://k-ageha.jp/

◎「週刊ダイヤモンド」の誤ったデータによる記事で名誉を傷つけられたとして、栃木県の国際医療福祉大学ダイヤモンド社(東京都)に損害賠償を求めた訴訟で、東京地裁は、同社に220万円の支払いを命じた。
http://www.yomiuri.co.jp/national/20150421-OYT1T50023.html

◎動画配信の米ネットフリックスがいよいよ今秋に日本上陸を果たす。これを迎え撃つのがNTTドコモとエイベックス・グループ・ホールディングスによる「dTV」(「dビデオ」を全面リニューアルした)であり、日本テレビが傘下に持つ「Hulu」だ。
http://diamond.jp/articles/-/70465
ユーザーの視聴データを分析できる動画配信サービスがテレビのあり方をどう変えるかだ。

Twitterは設定を変更することでフォローされていないTwitterユーザーからダイレクトメッセージを受け取れる機能を追加した。
http://www.itmedia.co.jp/enterprise/articles/1504/21/news038.html

◎アイドルグループ・℃-ute鈴木愛理が、主婦の友社の女性ファッション誌「Ray」の専属モデルとなった。
http://www.oricon.co.jp/news/2051852/full/

◎「週刊文春」(文藝春秋)、「週刊現代」(講談社)、「週刊ポスト」(小学館)、「週刊プレイボーイ」(集英社)、「週刊SPA!」(扶桑社)という週刊誌5誌が手を組んで、1号限りの「週刊誌」として『スペシャルマガジン 総力特集 サザンオールスターズ「葡萄」』を制作。
15万部刷って、全国のローソン店舗で24日から無料配布される。それぞれの週刊誌はオリジナルアルバム『葡萄』(3月発売)の収録曲から1曲ずつ選び、これを題材に企画を立てて記事化し、出来栄えを競う。
http://www.oricon.co.jp/news/2051896/full/
週刊新潮」の名前がないのは、「週刊新潮」らしい判断があったのだろうか。どうせなら女性週刊誌も加えて欲しかったなあ。

◎グーグルは、スマホを使っての検索結果の表示方法を全世界でアップデートし、スマホ対応のウェブサイトが優先的に上位に並ぶようにした。スマホ対応していないウエブサイトにとっては一大事だ。
http://www.gizmodo.jp/2015/04/post_16983.html

船戸与一が亡くなった。戦後70年の年に「満州国演義」(新潮社)全9巻を完結させての死であるところに船戸の凄みを感じないわけにはいかない。祥伝社の社員であったこともある。
「戦争のたびに日本の経済は大きくなっていくのだ。(中略)これまで戦争に反対して来た言論界もこのことに気づいた。わずか二十万部の発行部数だった讀賣新聞は柳条溝事件を持ち上げて対支強硬論を唱えることによって部数を伸ばし、いまや大新聞となった。
東京日日新聞は満蒙領有論者・松岡洋右を全面支持し、満州事変を東京日日新聞後援・関東軍主催と自負している。東京朝日新聞も暴支膺懲を叫んで部数を伸ばしつづけた。要するに、戦争は儲かるんだよ、汗水垂らして働く百姓を除いてね。名古屋から来たその商人は滔々とそんなことを喋った」
満州国演義3 群狼の舞」に出て来る一節だ。合掌。
http://www.asahi.com/articles/ASH4Q4R7JH4QUCLV00J.html
船戸が豊浦志朗名義で書いた「叛アメリカ史」は、布川徹郎ドキュメンタリー映画「bastard on the border 幻の混民族共和国」を母胎にして生まれたルポルタージュだが、「満州国演義」は、この映画のプロデューサーをつとめた崔洋一によって映画化してもらいたいと考えるのは私だけだろうか。
高野秀行の「ミャンマーの柳生一族」(集英社)は、高野と船戸によるミャンマー珍道中が描かれている。船戸の素顔を知ることのできる貴重な一冊。
「私のところへ、早稲田大学探検部の先輩である船戸与一から突然電話がかかってきて、『おまえ、一緒にミャンマーへ行かないか』と誘われた。しかも、『合法的に行く』という。『そんな無茶な』と思った」
http://books.shueisha.co.jp/CGI/search/syousai_put.cgi?isbn_cd=4-08-746023-1&mode=1
ゴルゴ13」を小説化した船戸の「落日の死影」は、朝倉喬司布川徹郎、伊達政保らとともにミクロネシア独立運動に身を投じた経験が反映されている。
http://big-3.jp/bigcomic/news/golgo_novell.html

電通は、タイムアウト東京と共同で、同社が発行するフリーマガジン『Time Out Tokyo Magazine』(タイムアウト東京マガジン)の中国語版を2015年6月に創刊する。訪日中国人向けに特化したメディアとして年2回発行する。
http://www.dentsu.co.jp/news/release/2015/0422-004031.html

◎アムタスが運営するスマホ、ケータイ向け電子書籍配信サービス「めちゃコミック」の新テレビCMが5月1日(金)より放映開始となるが、これに合わせて、77作品478話分を会員・非会員を問わず無料で提供するキャンペーンを実施する。
「めちゃコミック」は年間売上高100億円、月間利用者数は500万人を誇る。アムタスはインフォコムのグループ会社である。「めちゃコミック」は一話30円というバラ売りが支持されている。
http://www.atpress.ne.jp/view/60710
http://www.amutus.co.jp/service/comics/

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4)【深夜の誌人語録】

味方が増えれば増えるほど、敵もまた増えるものだ。