【文徒】2015年(平成27)5月26日(第3巻96号・通巻541号)

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1)【記事】徳山喜雄「『朝日新聞』問題」が集英社新書から刊行された
2)【本日の一行情報】
3)【深夜の誌人語録】

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1)【記事】徳山喜雄「『朝日新聞』問題」が集英社新書から刊行された

現役の朝日新聞社員であり、「戦争と新聞」の執筆者である徳山喜雄による集英社新書「『朝日新聞』問題」。さしずめ次のような箇所を押さえておこう。
(吉田調書報道には)「…ジャーナリズムの鉄則である『事実』の確認が不十分で、その事実に的確な『社会的な文脈』も与えず、被取材者に対して『反論権』も行使させなかった、という本質的な誤りがあったことも事実である」
「朝日の杉浦信之・取締役編集担当(当時)は2014年検証記事を掲載する際、1面で『女性としての尊厳を踏みにじられたことが問題の本質なのです』と述べている。にもかかわらず朝日の慰安婦報道の基調となってきたのは、『戦場における女性の人権』問題ではなく外交関係や政治的な問題であり、その結果、しばしば国益ナショナリズムの観点から保守系メディアと対立してきた。
朝日を含む日本の慰安婦報道は、国際的なスタンダードともこの点でズレており、再構築する必要があろう」
http://shinsho.shueisha.co.jp/kikan/0786-a/
徳山がここでいうジャーナリズムの鉄則とは、朝日新聞元編集局長であった外岡秀俊の「ジャーナリズムの鉄則とは何だろうか。それは簡略にいえば、『三つのテスト』に要約できる。(1)真偽性のテスト、(2)公益性のテスト、(3)反論権のテスト---である」という指摘に依拠している。
次のような外岡の発言も読んでおこう。苅部 直、半藤一利外岡秀俊の鼎談で、司会進行は、やはり「戦争と新聞」を担った朝日新聞の松本一弥(「Journalism」編集長)である。
「今回、原発問題と、それから歴史認識問題にじかにかかわる内容について、一連の問題が起きたというのは非常に象徴的だと思います。
要するに、イシュー(問題)自体が政治化されてきているわけですよね。そういう中で、朝日の幹部の人たちは、この件が政治的に利用され、『これで謝ると相手に屈したことになってしまう』と考えたのではないか。そういう政治的な力学の中で発想していったのかなという気がします。
それは、誰に対して何を謝るかという問題につながるのですが、結局のところ、終始そのことがわからなかったというのが、朝日が読者に対して目が向かなかった理由ではないかと思うのです」
文藝春秋OBの半藤一利の次のような発言にも耳を傾けておこう。
「これは朝日新聞だけじゃなくて文藝春秋でもありまして、私が役員になっているころでしたけれども、何か大きなミスをやった。これをしっかりと後世のため、後輩のために、『どうしてこういうことが起きたのか』ということを検証して残していこうじゃないかと、役員会では必ず決議をするんです。
ところが、実際にはやった試しがない。これはやっぱり、日本的組織というのはそれをやると責任者が出ちゃうんですよね。責任者が出るということについては、日本的組織というのは何か、かばうというようなところがある」
http://webronza.asahi.com/journalism/articles/2015031300008.html
大鹿靖明が書いたと噂される文春新書「朝日新聞 日本型組織の崩壊」と読み比べてみるのも一興かと。
http://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784166610150

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2)【本日の一行情報】

◎LINEの社長を離れた森川亮が立ち上げた動画プラットフォーム「C Channel」は、一か月で100万ページビュー、コンテンツ数は800件、全視聴時間の合計は4300万時間。この数字がそれほど大きいとは思わないが、一か月で800もの動画コンテンツを揃えたということから、このプラットフォームの潜在力の高さはうかがえよう。
森川が言うように「いろんなメディアに出ることでトータルでのブランドが作れる。縦長のモニタはすべてC CHANNELのコンテンツになっていく」ことができれば、化けることも間違いない。そう考えているから、森川は黒字化はすぐにでもできるが、そうするつもりはないと豪語できるのだろう。
http://jp.techcrunch.com/2015/05/22/150522c-channel/

◎「WWDジャパン」が恒例の雑誌特集を組んだ。
http://www.wwdjapan.com/fashion/2015/05/23/00016575.html

ワニブックスの「月刊コミックガム」が休刊。
http://yaraon.blog109.fc2.com/blog-entry-32178.html
このクラスのマンガ誌は「紙」では維持することができないのだろう。ウエブに雪崩れ込むことになる。そうした作品がタダで読めるようになると、有料で紙のマンガ誌に打撃を与えることになる。そのようにして紙のマンガ誌の淘汰が始まっている。

在特会元会長の桜井誠は次のように発言している。
「私が会長だったとき、去年ですけど、ニコニコのドワンゴのほうからチャンネル作ってみませんか、お願いしますと頭下げてきたんですよ。だからね、なんで急に閉鎖になったのか解らないんですけどね」
https://note.mu/mig_21ssmt/n/n93457f9d4a0f
http://togetter.com/li/825360

ウェザーニューズは、個人向け事業の北米展開の加速を目的に、ソーシャル天気でアメリカ最大の気象アプリを展開するWeathermob(本社:米国ボストン)のアプリ事業買収について合意した。これによりウェザーニューズは世界最大の気象プラットフォームを形成し、北米事業展開を加速させる。
http://weathernews.com/ja/nc/press/2015/150521.html

◎LEON、SAGE DE CRET、JACKET REQUIREDの3社コラボジャケットが誕生。限定72着だそうだ。4万2100円也。主婦と生活社の「最高実力者」たる遠藤大介会長には、さぞやお似合いのことだろう。コロコロ変わる社長さんには、似合いそうもない。
http://www.jacketrequired.jp/men/campaign/1505_leon/

KADOKAWAは、アマゾンとの直取引に踏み切ったわけだが(その攘夷路線は呆気なく頓挫したということだ)、信州大学の牧田幸裕准教授によれば、これは「アマゾン側からみると、取次をコントロールしながら自社に優位な取引を拡大していく意味のある施策になるといえるだろう」。
http://biz-journal.jp/2015/05/post_10071.html
角川歴彦の発言は調子が良ければ良いほど信じてはならないという教訓も残した一件である。

講談社から刊行された「三重スパイ イスラム過激派を監視した男」は、小説ではなくレッキとしたノンフィクション。アルジェリア、フランス、イギリスという三か国の諜報機関を股にかけたレダ・ハセインなる三重スパイに密着したルポルタージュなのである。
しかも驚くべきことに翻訳ではない。著者の小倉孝保は、毎日新聞の記者だ。カイロ支局長、ニューヨーク支局長を経験している。ともかく面白い。小説のように面白い。ただ、まあ無理なんだろうけれど、家族や友人だけではなく、諜報機関サイドの話を聞いてみたいものだ。
http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062194846
小倉は「初代一条さゆり伝説 釜ヶ崎に散ったバラ」という印象深い仕事もしている。

◎ストリップ興行師であった川上譲治の「すとりっぷ小屋に愛をこめて」(人間社文庫)を一気に読破。もともとは朝日新聞社から刊行された「さらばストリップ屋」が親本だが、写真の一部を差し替えている。
http://www.junkudo.co.jp/mj/products/detail.php?isbn=9784931388840
人間社は名古屋の出版社だが、なかなか良い仕事をしている。
http://www.ningensha.com/index.html
この出版社は書店も経営している。「書物の森」というが、名古屋では唯一の詩歌句の専門書店だ。「今はなき出版社の本さえある、ヘンテコな書店」って最高じゃないですか!
http://www.interq.or.jp/japan/ihono/syomotsunomori.html

◎5月31日に放映されるテレビ東京「日曜夕方の池上ワールド」は小学館から刊行された「池上彰が読み解く!戦後ニッポン 総理の決断」をテキストに、著者の池上彰氏が、戦後の外交史のいくつかの局面のなかで時の首相が下してきた「決断」をわかりやすく解説するそうだ。ウイークリーブック「池上彰と学ぶ日本の総理」全30巻が、戦前編と戦後編の2冊のムックにまとめられたが、戦後編が今回のテキストである。
http://www.shogakukan.co.jp/books/09102068

◎ドバイの紀伊國屋書店はワンフロアで総面積平方6000mを誇る巨大書店である。
http://www.nippon.com/ja/column/g00282/

インプレスは、身近で旬な話題を配信するウェブメディア「ネタとぴ」を創刊した。
http://internet.watch.impress.co.jp/docs/news/20150525_703324.html

クックパッドが遂に紙の雑誌を創刊する。何と宝島社との共同企画で料理生活誌「クックパッドmagazine!」を7月2日(木)に隔月刊で創刊する。490円+税、L判、中綴じだそうだ。
「2014年3月からのレシピ本出版活動において、クックパッド監修のレシピ本はのべ35冊(2015年5月22日時点)となり、本誌はクックパッド監修の本では初となる定期刊行の『料理・生活情報誌』となります」
https://info.cookpad.com/press/2015/0525

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3)【深夜の誌人語録】

光の射し込まない土中に根は、しっかりと張り、花の咲く世界を支えている。人類にとっての根は、むろん歴史である。