【メディアクリティーク】徹底追及 主婦と生活社の消費増税分不払い問題

 7月13日付け「文徒」で配信した「主婦と生活社の消費増税分不払い事件」。主婦と生活社が委託契約しているライターやカメラマンら約140事業者(特定供給事業者)に対して、支払う業務委託料に消費税の増税分を反映していなかったのは消費税転嫁法違反(買いたたき)に当たるとして、公正取引委員会主婦と生活社に対して再発防止を勧告した。
この件について、主婦と生活社の高納勝寿社長を直撃すべく、7月13日の月曜日、8時半頃、主婦と生活社本社を訪ねた。
 受付の守衛さんに高納社長に面会したい旨を伝えると、まだ出社していないという。要件を聞かれたので「消費税増税分の不払いについて話を伺いたい」と答え、何時ごろ出社するのか尋ねると、「こちらではわかりません。日によって時間はまちまちですから」と言う。ひとまず、名刺に用件を記し、高納社長が来たら渡してくれるよう頼み、守衛さんに預けた。
 こうなったら出社して来たところを捕まえようと、入口が見える場所に陣取って張り込んだ。1時間ほど待ってみたが現れず、念のため、もう一度受付に寄って確認したが、やはりまだ出社していなかった。
 経理担当者に話を聞こうと総務に電話すると、その件については広報が対応するという。が、担当者は午前中不在なので、午後に改めて連絡してくれという。午後、担当者と連絡が取れ、広報を担当している管理部総務課の網谷茂孝課長に電話でインタビューした。

――まず、大まかな経緯をご説明していただけますか。
網谷「今年4月に入ってから、公正取引委員会から連絡がありまして、消費税関係の立ち入り調査を行いたいと。実際に調査に来ていただきまして、当社の昨年、2014年4月以降、消費税が切り替わった取引を全て見ていただきまして、その中で一部、本来消費税を転嫁すべきところが漏れているというご指摘をいただきましたので、既にご指摘いただいたところに関しては、勧告を受ける前に全て支払いを済ませて現在に至るという、そういう流れです」
――4月に公正取引委員会の調査があったということは、何かきっかけとかリークとかあったということですか?
網谷「そこは公正取引委員会のほうに確認しておりませんし、おそらく訊いてもお話しいただけないかと思いますが、同業他社にもいくつか同様の調査が入っていたとその後ちょっと聞きましたので……」
――他の出版社にも、ですか?
網谷「おそらく出版にもある程度入って来ているのではないかと推測はしております」
――具体的にどこと伺ったのですか?
網谷「ちょっと申しあげかねます……極秘の情報としていただいているところですので」
――消費増税分の不払いが一部あったということですが、公取委の資料には約140事業者とありますが、これがその一部ということですか。
網谷「そうです。年で多少増減はしますが、取引の総数でだいたい千三、四百ありますから、その約1割ということです」
――フリーランスのライターやカメラマン、それに編集プロダクションなどで140ということですか。
網谷「今回漏れが多かったのは、主にライターやカメラマンさんなど個人の方で、まあ、法人も編集部のほうでチェック漏れがあって2、3社ございましたが、主に個人事業主の方です。個人の方につきましても、お支払いが上手く出来ているところと、今回ご指摘いただいて、「これは対象になるよ」と言われたところがありまして……。特定供給事業者の解釈という部分で、どこまでを特定供給事業者とするか、毎月お仕事をしていただいている同じ流れの中にある方か、というところでこちらの解釈に誤解があった部分と、あとは管理の不徹底とチェック漏れがあったことで転嫁漏れがあったということでございます」
――誤解があったというのはどういうことでしょうか?
網谷「年間契約に近い形で年初に契約を結んでいる額がそのまま走ってしまった部分ですとか、あと形としては、連載等は特定供給事業者に当たるということですが、連載という形ではなくとも状況的には連載にほぼ近い形であるので、「これは対象になりますよ」という部分が主ですね。
――140の事業者が1割程度ということですと、これらの事業者は限られた媒体ということですか?
網谷「そこにつきましてはある程度、媒体ごとに多寡はあるんですが、比較的雑誌に関しては何件か引っかかるところが出てきたという感じですね」
――雑誌に関しては、ですか。
網谷「書籍に関しては特定供給事業者に当たるところはないという公取委の見解でしたので。雑誌で定期的にお仕事をしていただいているライターやカメラマンさん、ですね」
――確認漏れとか誤解というのは、編集者の責任において、ということですか?
網谷「そこに関しましては、管理のほうで最終的に経理でチェックができなかった部分と、総務側、管理側からも解釈の徹底を管理できなかった部分もありますので、社全体の責任として受け止めています」
――外注への支払いに関しては、編集者が経理に詳細を提出しますね。4月以降の増税分に関しては、それに上乗せをするという操作は経理のほうでするわけですか?
網谷「そこに関しては、基本的には編集者がまず伝票を上げてきて、という形になります。公正取引委員会のご指摘にもありましたが、どういう業務が特定供給事業者に当たるか当たらないか、かなり難しい判断になる部分もありまして、経理のほうでは編集がどういう仕事を依頼しているか、内容を細かく見られないところもございますので、そこのところでチェック漏れなどが出てしまったということです」
――特定供給事業者について、公取委の判断とそちらの判断に齟齬があったわけですね。基本的にフリーランスの人に対しても消費税を払っていたんですか?
網谷「内税の形でずっと続けていましたので、そこが漏れとして出てきてしまいました。今回、ご指摘を受けて基本的には全て、特定供給事業者に当たらないところに関しても外税に直そうと、社内には徹底させています」
――例えば不況だと原稿料を引き下げるところもありますが、内税ということは、増税に際して原稿料を下げる形でこれまで通りの金額、とすることもできますね。
網谷「見あいでそういうことを要請したという報告は上がっておりません。単発の仕事であれば、仮に昨年3月にページ単価税込1万円で依頼し、増税後の4月にもページ単価税込1万円で依頼しても、必ずしも消費税の転嫁が適正に行われていないというわけではなくて、その依頼する業務が流れを持って3月4月と連続している場合には適正に対応しないといけない、という説明をいただいています。その中で適正に転嫁されていないケースがいくつかあったということです」
――その点について、今年の4月に公取委の調査があるまでフリーランスの方から問い合わせなり、増税分を上げてくれるような要請なりはなかったんですか?
網谷「編集にも再度聞き取りをしましたが、現場のほうで対象になった140の事業者の中からそういう話が上がって来たということはなかったと聞いております」
――そうすると要請が受け入れられないので公取委に訴えたというわけではないんですね。
網谷「そうですね、こちらが把握している限りでは。もちろん、担当編集に違うことを言うというのは、可能性としてはありますが。少なくとも聞きとりに際してトラブルはないということでしたので」
――140の事業者からは編集部に問い合わせのようなものが一切なかったと。
網谷「そうですね。もしかしたら現場の問い合わせレベルではあったかもしれませんが、少なくともトラブルになったケースはないと聞いています」
――問い合わせがあったかどうかわからないが、トラブルになったことはないと。
網谷「だいぶ古いことですので、もし問い合わせがあったとしても、対象になっている方だったのか、本来転嫁の必要がない方だったのか、遡っては調べられません」
――そもそも、対象になっているか、転嫁の必要がないかは、消費税が導入された時点で判別しているのでは?
網谷「そうですね。そこに関しては外税と内税に切り分けてやっている部分もございまして……。消費税が5%に引き上げられたところで、内税に、という指導が役員のほうから入ったところもあったので、そのあたりである程度内税に統一した部分もあるんです。その流れの中で、本来、分けなくてはいけない事業者の方も入ってしまったということで、今後10%になりますので、そうしたトラブルが二度と起こらないようにということで全ての扱いを外税にするということです。
 拾いきれなかったところと解釈の違いというところがほとんどですので、悪意を持って事業者の方に転嫁していないということはやっていないと確認しております」

 と、ここで電話取材は終わったが、網谷課長から「一応、報道関係からご取材を受けたときに公式の見解をご用意しているんですが、それをお伝えしたほうがよろしいですか?」
と申し出があった。
――それは文書のようなものを送ってくれるということですか?
網谷「いえ、短めのコメントですので、だいたい各報道の方には口頭でお伝えしているんですが」
――ではお願いします。
 ということで伺った「公式見解」は以下の通り。
「特定供給事業者の解釈に対して誤解があり、一部の事業者が消費税転嫁の対象から漏れておりました。今回の勧告を真摯に受け止め、対象事業者についてはすでに全額支払いを済ませております。合わせて法令遵守について社内で周知し、再発防止を徹底しております。」

確かに短いコメントだった。
しかし、短いとはいえ「公式見解」だ。問い合わせのあった報道機関に対してのみ、「口頭で伝えている」という対応がまずもって信じ難い。自社のホームページにアップするでも、報道各社にFAX等で送るでもない。同社のホームページには「TOPICS」タグがあり、発行雑誌の「お詫びと訂正」などはここにアップされているが、今回の件に関してはこうした「事件」があったことにも触れてなければ、お詫びも出していない。露見しなければ頰被りし、バレても大々的にメディアで取り上げられるのでなければ、この程度の対処で済まそうという魂胆なのだ。こうした隠蔽体質そのものが問題なのだ、ということは考えないのだろうか。
 そして「同業他社にもいくつか同様の調査が入っていた」という発言。思わせぶりに秘密は公言しないというポーズをとって見せたが、そう匂わすこと自体が同業者への裏切りであり、「他社もやっているのだから」という小学生並み言い訳、自己弁護にも聞こえる。
 そもそも、今回の消費税増税分不払いは、読者からすれば大手に当たる、れっきとした老舗の出版社としてはあってはならない、杜撰な管理体制としか言いようがない。特定供給事業者に対する公取委との見解の相違というが、うがった見方をすれば、ある種のフリーランスに対しては対象者かどうかという基準とは関係なく、「この人は増税分を転嫁しなくても大丈夫だろう」と編集者が勝手な判断を働かせたとしたら、その原因はどこにあるのか。どこの編集部も取材経費、制作費に関しては緊縮を強いられているのだろうから、経費を浮かせようと、文句を言わなさそうなフリーランスを狙い撃ちしたと考えられなくもない。それが外注の1割という数字なのではないか。
 経理にしても今回の増税に関しては、中小企業庁が手引きを作って消費税転嫁対策特別措置法の対応をレクチャーするほど周知を徹底させようとしたのだから、特定供給事業者かどうかなどという基本的なことについて、「見解の相違」などという言い訳が通用するはずはない。グレーゾーンがあるなら、実施前に中小企業庁に問い合わせれば済むことだ。それをしてこなかったのは単なる怠慢か、確信犯か。そもそも出版に関しては素人でも金勘定に関してはプロである旧第一勧業銀行(みずほ銀行)出身の郄納社長が、消費税の仕組みについて知らないわけがない。導入が決まった時点で社長を務めていたのだから指導、管理を徹底させるべき立場だったのではないのか。先の「公式見解」も、本来なら郄納社長名義で出すべきではないのか。郄納社長の経営責任は問われてしかるべきだ。仮にも出版社が言論を扱う企業である以上、銀行マンが得意とする「事なかれ主義」は通用しないのである。

 公取委の調査に関しては、知り合いの小規模なデザイン事務所の人間が、アンケートのようなものが公取委から送られてきて、消費税も含めきちんと特別事業者(買い手)が支払いをしているかどうか調べることがあると話していた。恐らく今回の件も、どこかの取引先が主婦と生活社に不正があると記入したのだろう。
 主婦と生活社と取引のある編集プロダクションの人間に、今回の件について話を聞いたところ、法人ということもあり、消費税の転嫁は適正に行われていたようだ。公取委の調査が入ったことは知らなかったというが、「あそこはヤバい」という話は、同業のフリーランスなどの間で噂になっていて、聞いたことはあるという。
具体的に何かがあって「ヤバい」わけではなく(それが単なる噂たるゆえんだが)、老舗女性週刊誌の止まらない部数下落、昨年新創刊した女性月刊誌の不調、飛ぶ鳥を落とす勢いだった男性月刊誌の凋落ぶりなどを考えれば、「ヤバい」という空気が流れていたとしても不思議ではない。件の編プロの人間は、「異動だか何だか、担当がコロコロ変わる」と呆れていたが、あながち「ヤバい」のは単なる雰囲気だけの話ではないのかもしれない。(田辺英彦)