【文徒】2015年(平成27)7月28日(第3巻140号・通巻585号)

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1)【記事】安保法案反対運動をめぐるメディア、特に雑誌の動き(岩本太郎)
2)【本日の一行情報】(岩本太郎)
3)【深夜の誌人語録】(岩本太郎)

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1)【記事】安保法案反対運動をめぐるメディア、特に雑誌の動き(岩本太郎)

6月中旬頃から、仕事の合間を見計らっては時々永田町まで足を運んでいる。もちろん、例の安保法制をめぐって国会議事堂周辺で連日連夜の如くに展開されている反対運動の様子を確かめにいくためだ。
主に訪ねるのは首相官邸前から国会議事堂の南側を正門にかけてぐるりと回り込む道筋にかけての一帯。このあたりでは2012年から首都圏反原発連合(反原連)が毎週金曜日夜の政府・国会向け抗議行動を続けており、特に3年前の今ごろは歩道に収まりきらないほどの参加者が集まったあげく車道にまではみ出し、とうとう完全に路上を占拠してしまったこともあるなど、今や東京の「デモ&集会名所」としての存在感が定着したエリアだ。
反原連による抗議行動はその後は次第に参加者も減っていたのだが、安保法案が衆議院で審議入りした今年5月以降の盛り上がりは、ある意味で3年前の再来とでもいうべきものだ。
また、これも既に反原発運動が盛り上がった頃から言われているように、参加者の多くは往年の市民運動とは色合いがかなり異なっていて、子供を連れた一般の主婦など、ようするに「普通の人」が大半。しかも、これも旧来型の組織動員などではなく、facebooktwitter、LINEなどをツールとして情報を集めたり、あるいは友人たちに拡散したりしながら集まってくる。
http://www.asahi.com/articles/ASH7V61DVH7VUTIL04D.html
ただ、3年前の反原連と比較しても今回は女性層、しかも学生にかけての幅広い年代が参加しているのが目立つ。正直、反原連の抗議行動では見たところの「主婦」は多くても「学生」の数は正直あまり多いとは言えなかったのだが、上記の記事にも名前の出てくる、今回の運動の中心的存在をなす学生団体「SEALDs」が主催するエリアに行くと、シュプレヒコールでわき起こってくる参加者たちの声からして若く、女性が多いことを即座に印象付けられる。
「SEALDs」の主要メンバーとしてコールの先頭に立つ女性たちのルックスも「見るからに今の若者たち」であり、ラップ調で時折英語のフレーズも混じるシュプレヒコールも相まって、その場で見ていると「市民運動」というより週末のクラブで若い子たちが盛り上がっているような印象だ。
https://www.youtube.com/watch?t=16&v=riZ8sdA4S0Q
(岩本撮影による短い参考映像)
さらに興味深いのは、こうした反対運動の高まりに今回は女性週刊誌などが呼応し、誌面でかなりのスペースをさいて取り上げるようになっているのだ。
http://mainichi.jp/shimen/news/20150422dde012040006000c.html
http://lite-ra.com/2015/06/post-1156.html
上記の毎日新聞の記事は4月、「リテラ」の記事は6月初めのものだから、安保法案のニュースがテレビあたりでおおきく報じられるようになるよりもかなり早い段階から週刊誌が動いていたのがわかる。また7月に入ってからも、例えば『女性自身』7月21日号の「シリーズ人間」で7ページに渡り「SEALDs」のメンバーの素顔に迫る記事を載せている。
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20150709-00010000-jisin-pol
しかし女性週刊誌がこういう話題で盛り上がるのって、1950年代に「デートもできない警職法」といった見出しが誌面に躍ったり、あるいは竹中労が活躍していた時代以来ではないか?
実際、抗議やデモの参加者の中にはこれで初めて『女性自身』を(あるいは雑誌そのものを)買って読んだという人も結構多いらしい。上記の『女性自身』が発売された直後にはtwitter上にSEALDs側も、
「週間(ママ)女性自身でのSEALDs特集を親戚のおばちゃんが興味持ってくれて『ご近所さんに見せるわ?』と嬉しいんだけどそのまま持って行かれたので、仕方がなく3冊目買うか悩んでる…。」
https://twitter.com/SEALDs_jpn/status/618673904043757568
などといかにも「そういう雑誌を初めて読みました」的なツイート(誌名の漢字表記も間違えてるし)を書いているほどだ。
3年前に反原連の官邸前抗議が始まった際には「これだけ人が集まってるのにテレビも新聞もほとんど取りあげない」との声が参加者たちからもあがったものだが、私が当時見たところでは、それは雑誌も同じ。いや、むしろ『週刊文春』が同年9月6日号に載せた「反原発デモ 野田官邸にのり込んだ活動家11人の正体 刺青ストリッパー、『ベ平連』礼賛学者、パンクロッカー…」などと報じた記事などのほうが目立つ程度だった。
実際、官邸前運動の参加者たちの多くもこの記事には反発を覚えるというより「オヤジ週刊誌は仕方ないよね」的メッセージをtwitterその他で発していたし、2013年末の「特定秘密保護法案」採決に反対すべく国会周辺に集まった人々に対して火に油を注ぐ格好となった石破茂(当時自民党幹事長)の「テロと同じ」発言は、その少し前に参議院議員山本太郎園遊会の場で天皇ご夫妻に対して直接手紙を渡した一件を、同年11月14日号で「山本太郎 天皇『手紙テロ』の罪と罰」との見出しで報じた『週刊文春』が用意したのではないかと私(岩本)は思っている。
要するに首相官邸や国会前に集う人たちの目にはテレビや新聞以上に、週刊誌というメディアは自分たちのことをろくに取材もせずに適当なことを書くだけで揶揄する、昔風にいえば「敵性メディア」とみなされていたようだのだ。
ところがその『週刊文春』が7月9日号で自民党批判の替え歌で物議を醸したアイドルグループ「制服向上委員会」を"左派アイドル"とはしながらもグラビアページで結構好意的に紹介していたりもするあたり、週刊誌も「潮目が変わってきた」との認識を持っているのだろうか、それとも商売右派の矜持なのだろうか。
もちろん、はたしてこれがどこまで続くかはわからないが、下記の岩本撮影映像にもあるように、
子供を連れて国会前までやってきた若ママたちが「安倍晋三から子供を守ろう!」などと自国の首相をまるで「人さらい」の如くに批判しているのを見るに、雑誌にとってもこれを敵にしないほうが得策ではないかといった判断がどこかに働いたところもあったのかもしれない。
https://www.youtube.com/watch?v=pnfNpv_k_8E

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2)【本日の一行情報】(岩本太郎)

◎その国会前での抗議も含めて、デモや集会の後に報じられる参加者数が主催者発表ベースと警察発表ベースとでザラに一桁は違っていたりする(もちろん主催者発表の数字のほうが圧倒的に多い)ことがよく問題視されるが、これについてジャーナリストで元毎日新聞記者の杉山正隆は自身の取材経験も交えてfacebook(公開設定)上で次のように述べている。
「概して言うと、警察発表は『その場にいた数』をカウントする手法で、主催者発表は『動いた人を含めての数』。むろん、これに『こうあって欲しい』との気持ちも勘案されます。ざっくりと言うと、動きのある集会やデモの場合、警察発表の2〜3倍が実数のことが多いです。基本的には『回転数』を勘案するか否かによるものです。
主催者にもよりますが、保団連(全国保険医団体連合会)の場合はほぼ実数で発表しており、動きを入れるとむしろ少ないぐらい。他団体の場合は1.5倍ぐらいの場合が多いように感じています。ですから、場合によっては警察発表と主催者発表で5倍の開きがある場合が少なくありません。
なお、私が取材する場合は、ほぼ実数で書いています。200人ぐらいであれば数えています。
沖縄の県民大会は取材に入りましたが、もともと外野席は開放していませんでした。内野はほぼ満席だったことと、入場をあきらめ入場せず球場外で声を上げている人やビラ配りの人たちがけっこういましたので、2〜2.5万人は固そうです。」
https://www.facebook.com/drms38/posts/1064367016906815?pnref=story

講談社「現代ビジネス」と「サイボウズ式」の共同制作によるブランデッドメディア「ぼくらのメディアはどこにある?」が7月23日にオープン。「これまでのメディアの歴史」と「これからの新しいメディア体験」をテーマとしたコンテンツを配信していくという。連載企画「往復書簡」の第一弾として、田原総一朗津田大介の対談がスタート。この秋には読者参加型イベントの開催を予定しているそうだ。
http://gendai.ismedia.jp/list/bokura-media
http://www.sankei.com/economy/news/150723/prl1507230112-n1.html

◎先の東芝「粉飾」決算問題に関して、なぜ新聞は「粉飾」ではなく「不正決算」「不正会計」「不適切会計」といった表現を用いているのか。「THE PAGE」が朝日・毎日・読売・日経・産経の主要5紙の広報部門に見解を訊ねている。
http://thepage.jp/detail/20150725-00000003-wordleaf

◎7月24日深夜に放送された「朝まで生テレビin広島」に出演した川崎哲が、自らの安保法制や核廃絶に関する見解に対して他のパネリストから番組中に寄せられた批判について、自分のブログで長文の返答を行っている。
http://kawasakiakira.at.webry.info/201507/article_11.html

東京都現代美術館で開催中の「おとなもこどもも考える ここはだれの場所?」展に出展された会田誠とその家族による作品「檄」に対して同美術館が改変・撤去を要請するに至ったきっかけは、たった1件のクレームだったという。会田はブログで「檄」は「政治的な作品」ではなく、「個々人が持っている不平不満は、専門家でない一般庶民でも、子供であっても、誰憚ることなく表明できるべきである」と主張。また、「ハフィントンポスト」は「檄」の全文を記事で転載した。
http://www.huffingtonpost.jp/2015/07/26/aida-makoto-geki_n_7876288.html?utm_hp_ref=japan

◎25〜26日にフジテレビ系列で放送された「FNS27時間テレビ2015」の平均視聴率は10.4%、瞬間最高視聴率は19.1%(どちらもビデオリサーチ調べ、関東地区)だった。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150727-00000083-spnannex-ent
日本テレビの老舗「24時間テレビ 愛は地球を救う」共々、テレビ界の夏の風物詩と言われながらも、経費その他からして「長時間テレビは既に役割を終えたのではないか」との説も、放送業界関係者の間では既に10年間以上前から言われてきた。
ただ、平均視聴率は90年代半ばに10%を切ったりしていた時期に比べると、目下苦戦に喘ぐフジテレビでも二桁を維持するなど、むしろ2000年代に入ってからのほうがよくなっている。局の大型看板番組ということでスポンサー受けもよいなど、こうしたところではまだまだ従来型のメディアビジネスが何とか踏みとどまっている。

◎普段は雑誌を読まないという女性でも女性誌に触れることの多い場所として語られてきたのが美容室だが、ここでも紙媒体ではなく、美容室側が用意した電子リーダーで読むケースが増えていると『女性セブン』の小学館の「NEWSポストセブン」が報じている。
http://getnews.jp/archives/1059307
ちなみに私(岩本)の自宅近所のコインランドリーでは最近、コミック誌よりも『VERY』『婦人画報』あたりを見かけることが多くなっている。

◎書店の激減と共に雑誌の凋落の要因としてよく挙げられるのが、都市部の地下鉄ホームにおける売店数の減少だが、そうした中で長らく「週刊誌を読者に手渡しで売る」貴重な存在であったはずの売り子の女性店員さんたちも窮地に追い込まれている。彼女らの大半は契約社員だが、定年以降も雇用が継続されることの多い正社員とは異なり、65歳になった途端に退職金も出ないまま雇い止めとなる。
そんな彼女たちが「差別撤廃」を求めて駅売店「メトロス」を運営する「メトロコマース」や、その親会社の東京メトロの本社にまで押しかけて抗議する模様を描いたドキュメンタリーの最新作『メトロレディーブルース3』が、7月25日に田町の交通ビルで開かれた「レイバー映画祭2015」にてお披露目された。
http://www.labornetjp.org/news/2015/1437840071332staff01
なお、東京メトロの駅売店はこの夏以降、従来の子会社「メトロス」から「ローソン」へと順次切り替わる。職人芸ともいうべき技を誇る店員さんから一対一で雑誌を買う機会も過去のものになろうとしているようだ。
http://trafficnews.jp/post/41719/

◎フリージャーナリストの安田純平がシリアで行方不明になっている問題について、日本のマスメディアからは一向に情報が流れてこないが、海外メディアは、昨年ISILへ渡航しようとして「私戦予備・陰謀罪」の疑いで警視庁公安部から自宅にガサ入れを食らったジャーナリストの常岡浩介にもあたるなどして精力的に報道を行っているようだ。
http://jp.sputniknews.com/middle_east/20150723/625613.html

横浜市立大学の鈴木伸治教授らのゼミ学生たちが、かつて風俗街として知られた市内黄金町エリアの魅力を発信するラジオ番組を製作。当初はコミュニティFM局の開設も目指していたというが上手くいかず、現在はYouTubeで配信しているという。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/kanagawa/20150726/CK2015072602000144.html
もし本当に「黄金町ラジオ」「FM黄金町」なんて局ができたら面白いのになあ。コミュニティFMというのはこうした地域をテーマにした放送にはうってつけのメディアであるはずだが、記事にもあるように現状では免許の取得が難しい。それは「素人のラジオ局だから」ということ以前に、横浜市内の中心部にはもはや電波の空きがないのだ。
私(岩本)の知人でもある元ダイヤモンド社の編集者で、かつて『週刊アンポ』にも関わった和田昌樹(元ダイヤモンド社常務取締役)も地元である横浜のみなとみらい地区でコミュニティFMを開設すべく行政当局と交渉したが「横浜港一帯は米軍の電波も飛び交っていて空きがない」「その場所から電波を飛ばすと東京湾を渡って千葉まで届いてしまう」との理由で難色を示されたとか。
ちなみに「出版人」事務所のある千代田区にもコミュニティFM開局に向けた動きがあったが、これも電波事情を理由に実現されないままになっている。
http://www.fmchiyoda.jp/00index.html

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3)【深夜の誌人語録】(岩本太郎)

人の善意は信じても善行を信用しすぎてはならない。善意で敷き詰められた地獄への道へと共に直進することなかれ。