【文徒】2015年(平成27)7月29日(第3巻141号・通巻586号)

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1)【記事】フィナンシャル・タイムズ買収余話
2)【本日の一行情報】
3)【深夜の誌人語録】

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1)【記事】フィナンシャル・タイムズ買収余話

外人記者の質問は鋭い。日経がフィナンシャル・タイムズ買収を発表した記者会見で次のようなやり取りがあったことを『東スポWeb』は伝えているが記憶にとどめておきたい。
「24日に行われた日経の会見で外国人記者が『オリンパス事件をFTが追及していたが、日経は出遅れたのではないか』という趣旨の質問をぶつけた。オリンパス事件とは2011年に発覚した粉飾決算事件で、月刊誌『ファクタ』がスクープし、FTも鋭く追及した。しかし、日経はオリンパスに気兼ねしたのかすぐには追っかけなかった。
日経の岡田直敏社長は『出遅れたとか遠慮したとかではない』と強弁。『FTの編集権の独立は保証します。FTの見方に学ぶことがあると思います』と、日経のやり方を押し付けないと話した」
例えば東芝の問題をフィナンシャル・タイムズであれば、どのように報道するのか想像してみたい。
http://www.tokyo-sports.co.jp/nonsec/social/426040/
日経の社員からしても単純には喜べまい。買収金額が1600億円と巨大なこともあり、社員からすれば1600億円のために酷使されるのはたまったものではないという思いがあるはずだ。社内が騒然になるのも当然というものだろう。
ロイターは「FT買収する日経とサントリーの共通点」で次のように指摘している。
「国際的に広く通用する製品もなく、縮小する一方の国内市場において、FTやビーム社などの買収はやや遠い将来を保証することを意味する。それ故か、日本企業による海外企業の買収案件は今年、すでに約500億ドルに上る」
http://jp.reuters.com/article/2015/07/27/column-ft-nikkei-suntory-idJPKCN0PY15K20150727
更に付け加えるのであれば電通がイージスを買収したことにも共通点が見いだせよう。
ピアソンはフィナンシャル・タイムズのみならず「ジ・エコノミスト」も売却するようである。「ジ・エコノミスト」に関しては、買収しないつもりだから、日経はこういう記事を書けるのだろう。
http://www.nikkei.com/article/DGXLASGM25H5P_V20C15A7FF8000/
韓国の東亜日報は次のように書いている。
「ピアソンはエコノミストの最大株主だが、編集権独立保障の様々な装置のため、事実上、経営権を行使できなかった。エコノミストの理事会メンバー13人のうち6人だけがピアソン関係者で、株の売却時もエコノミスト側の承認を得なければならないなど、支配構造が複雑だ。これに先立ちピアソンは、米国のブルームバーグトムソン・ロイター、ドイツのアクセル・シュプリンガーなどの巨大メディア会社にエコノミストの買収を打診したが、複雑な支配構造のため実現しなかったという。今回の売却も順調に進むか怪しむ見方もある」
http://japanese.donga.com/srv/service.php3?biid=2015072726578

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2)【本日の一行情報】

◎フジテレビの27時間テレビの評判が悪い。次のようなツイートを紹介しておこう。
FNS27時間テレビの出演者が着ているTシャツのかっこつけの英語が目につく。 『NO FUN  NO TV  DO HONKY』 英語ネイティブが読んだらこうなる: 『楽しさがない  テレビがない  クソ白人をやれ』 徘徊老人の呟きかい!」
http://kabumatome.doorblog.jp/archives/65835676.html
私は見る気もしなかったけれど。

◎7月29日にプレオープンする三省堂書店池袋本店だが、これは別館地下1階のみの開店となる。秋に2回目のオープン予定。2nd Stageは、書籍館オープンと別館地下1階をリニューアルする。そして、冬にグランドオープンとなる。
https://twitter.com/ikehon_sanseido/status/625310266197028869
https://twitter.com/ikehon_sanseido/status/625310912333742080
https://twitter.com/ikehon_sanseido/status/625311399334445056

◎小型機が調布の住宅街に墜落し、8人が死傷した事故で、小型機に搭乗し負傷した森口徳昭は「GQ JAPAN」の編集者だった。
http://www.sankei.com/affairs/news/150727/afr1507270024-n1.html

佐藤慶一(Web編集者)の意見。
「ウェブメディアやソーシャルメディア時代の情報発信をわかっていてもジャーナリズム(の意義や価値)を知らない、逆にジャーナリズムをわかっていてもウェブを知らないという状況のバランスの悪さは日本にはあると思います」
http://www.huffingtonpost.jp/keiichi-sato/web-journalism-media-japan_b_7876020.html

◎LINEを成功に導いた森川亮が代表を務めるC Channelは、KADOKAWA講談社集英社祥伝社スターツ出版ハースト婦人画報社の6社と協同で、雑誌の動画展開を開始することになった。講談社は「ViVi」、集英社は「ノンノ」で早速、動画をアップしている。祥伝社は「ジッパー」、スターツ出版は「OZモール」、KADOKAWAは「ウォーカープラス」、ハースト婦人画報社は「エルガール」を予定している。
https://www.atpress.ne.jp/news/68575
http://www.cchan.tv/clipper/vivi/
http://www.cchan.tv/clipper/non-no/
C Channelの評価はスマホ最適化を図ってから決まるはずだ。

◎第13回開高健ノンフィクション賞は、三浦英之の「五色の虹〜満州建国大学卒業生たちの戦後〜」に決定した。三浦は朝日新聞の記者だ。昨年が東京新聞の記者で、今年が朝日新聞の記者で、来年は?
http://www.asahi.com/articles/ASH7V5VD8H7VULZU004.html

◎「25ans」9月号の表紙を映画「進撃の巨人 ATTACK ON TITAN」に出演した水原希子三浦春馬が飾る。講談社にとってハースト婦人画報社との提携は、こうしたことも可能にするということだ。
http://www.asahi.com/and_w/interest/entertainment/CORI2056598.html

◎米アマゾンの2015年第2四半期(4〜6月)決算は、売上高が前年同期比20%増の231億8000万ドル(約2兆8670億円)、営業利益は4億6400万ドル。前年同期の1500万ドルの営業損失から黒字に転じた。
http://www.tsuhannews.jp/%e7%b1%b3%ef%bd%81%ef%bd%8d%ef%bd%81%ef%bd%9a%ef%bd%8f%ef%bd%8e%e5%9b%9b%e5%8d%8a%e6%9c%9f%e6%b1%ba%e7%ae%97%e3%80%81%e5%a3%b2%e4%b8%8a%e9%ab%98%e3%81%af%ef%bc%92%ef%bc%90%ef%bc%85%e5%a2%97%e3%81%ae/

ファーストリテイリンググループのブランド「ジーユー」は、ファッション誌「NYLON JAPAN」とのインスタグラムキャンペーン企画「Let's vote! 次号の表紙にしたいのはどれ?」を7月3日(金) から7月12日(日)の期間で実施した。ジーユーのインスタグラムコンテンツである「GUTL(ジーユー タイムライン)を通じて、読者が雑誌作りに参加できるという企画だった。
http://www.gu-japan.com/pdf/201507271500_nylonjapan.pdf
ソーシャルメディアの時代は「読者のために」という発想は驕りになりかねないのである。編集者に問われているのは「読者の力を借りる」という姿勢である。

◎「東芝は27日、不正会計問題を受けて暫定的に会長と社長を兼務している室町正志氏を、9月の臨時株主総会後の社長に指名する方向で調整に入った」(毎日新聞)そうだが、東芝は何も変える必要がないと判断したのも同じことである。
東芝が本気で変わろうとするのであれば、社長は社外から招聘すべきである。
http://mainichi.jp/select/news/20150728k0000m020147000c.html

◎紙の書籍を買うと、電子書籍が無料でダウンロードできる「プラス電書フェア」が、ジュンク堂池袋本店で開催されている。笠間書院、スタイルノート、青弓社、太郎次郎社エディタス、中央公論新社ポット出版の6社による共同フェアである。
http://ebook.itmedia.co.jp/ebook/articles/1507/27/news130.html
ヨドバシカメラとhontoのネット書店においても開催されている。
http://www.yodobashi.com/ec/feature/150008/index.html
http://honto.jp/cp/netstore/2015/plusdensho?cid=ip_ec_albn_r03

サントリーホールディングスは、「早ければ2018年にも上場する方向で、複数の金融機関から具体策の提案の受け付けを始めた」という日経の報道を否定した。
http://www.nikkei.com/article/DGKKASDZ27HZV_X20C15A7MM8000/
http://jp.reuters.com/article/2015/07/28/suntory-ipo-idJPKCN0Q201120150728

◎「週刊文春」新谷学編集長はBLOGOS編集部のインタビューに答えて次のように語っているが、確かに雑誌はデジタルで新たな収入源を開拓せずに何もやらなければ、部数をただ減らすだけである。
「先日も『文春砲』と呼ばれているAKB担当の鈴木記者と社内のAKBファンの女子編集者が、ニコニコ生放送選抜総選挙を実況中継しながら、メンバーの"ココだけの話"といった内容を展開したんです。その番組自体も非常に面白かったのですが、それをすぐ書き起こして電子書籍で売りだしたところ、あっという間に2000部ぐらい売れました。
この電子書籍の売上は40万円程度でしたが、何にもやらなければ売り上げはゼロです。そうやって、面白いものには100円でも200円でも払うという習慣をつけてもらう。そういう習慣付けは必要だと思います」
http://blogos.com/article/124406/
「塵も積もれば山となる」はインターネットにおけるビジネスの基本のひとつである。

オリコンによる2015年上半期書籍期間内売上額上位作品が発表された。BOOK部門を紹介しておこう。
1位 「妖怪ウォッチ 2 元祖/本家/真打 オフィシャル完全攻略ガイド」(小学館)
2位 「フランス人は10着しか服を持たない」(大和書房)
3位 「火花」(文藝春秋)
4位 「21世紀の資本」(みすず書房)
5位 「鹿の王 生き残った者 上」(KADOKAWA)
6位 「学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話」(KADOKAWA)
7位 「今日の治療薬 2015 解説と便覧」(南江堂)
8位 「聞くだけで神経が整うCDブック」(アスコム)
9位 「嫌われる勇気 自己啓発の源流『アドラー』の教え」(ダイヤモンド社)
10位 「ラプラスの魔女」(KADOKAWA)
KADOKAWAから三点がランクインしている。講談社集英社、新潮社からのランクインはなかった。特筆すべきは文庫部門で文藝春秋がベスト10に5点をランクインさせている。コミック部門ではベスト10に集英社が8点、講談社が2点と二社で独占してしまっている。
http://ebook.itmedia.co.jp/ebook/articles/1507/28/news043.html

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3)【深夜の誌人語録】

完成度において一流を目指すのではなく、情熱において一流を目指したいものである