【文徒】2016年(平成28)2月2日(第4巻20号・通巻707)

Index------------------------------------------------------
1)【記事】「不買運動」を呼び起せてこそマスメディアである!
2)【本日の一行情報】
3)【深夜の誌人語録】

                                                                            • 2016.2.2. Shuppanjin

1)【記事】「不買運動」を呼び起せてこそマスメディアである!(岩本太郎)

「甘利大臣の辞任で支持者達がブチ切れ!文春不買運動がネット上で始まる!『甘利大臣をハメた文春を潰そう』」なのだとか。
http://saigaijyouhou.com/blog-entry-9818.html
http://ameblo.jp/kattann2525/entry-12123210514.html
もう一つ、「甘利氏の経済再生担当大臣への復帰を求める!」署名開始なんてのもネット上では始まっているらしい。
http://saigaijyouhou.com/blog-entry-9824.html
https://www.change.org/p/%E8%87%AA%E6%B0%91%E5%85%9A-%E7%94%98%E5%88%A9%E6%B0%8F%E3%81%AE%E7%B5%8C%E6%B8%88%E5%86%8D%E7%94%9F%E6%8B%85%E5%BD%93%E5%A4%A7%E8%87%A3%E3%81%B8%E3%81%AE%E5%BE%A9%E5%B8%B0%E3%82%92%E6%B1%82%E3%82%81%E3%82%8B?source_location=petitions_share_skip
まあ、この種の話は適当にさっぴいて読んでおくほうがよかろうし、実際に組織的な「不買運動」なるものがネット上での呼びかけはともかく、売り場で本当に起こっているのかどうかはわからない。ただ、実際に起こっていたとしても『週刊文春』の編集部から見れば「冥利に尽きる」ぐらいのものだろう(もちろん販売的には仮にそれで本当に部数が減るような事態になったらダメージを被るわけだが)。
放送業界でも、例えば「子供に見せたくないワースト番組」に選ばれたお笑いやバラエティ番組などの制作者に感想を訊けば「まあ、ワーストっていうのは勲章ですからね」といった答えが返ってくるのが昔からの常である。
ただ、上記のブログを見ながらふと思う。「そういえば最近、雑誌に対する不買運動って聞かないな」「だいたい不買運動で雑誌や新聞が潰れたケースなんて過去にあったっけ?」と。
そもそも不買「運動」なんぞを起こさなくても、一般読者による不買「傾向」は出版業界でも新聞業界でも年々強まる一方だし、以下の一行情報でも挙げた通り、近頃は日常的に雑誌の休刊のニュースをこの『文徒』でも伝えているような状況である。むしろ今回の『週刊文春』の甘利問題のスクープなどは「まだまだ不買運動が起こるくらい雑誌には活力がある!」と、我々としては喜んだほうがいいんじゃないかという気も、不謹慎ながらしてくる。
不買運動」ではないが、先日も話題を呼んだ『そうだ難民しよう!』著者のはすみとしこの「書泉グランデ」におけるトーク&サイン会が告知直後にネットで炎上した件にしても、あれはサイン会自体は中止に追い込まれたとはいえ、はすみや『そうだ難民しよう!』版元の青林堂からすれば、おそらくPR効果が得られて願ったりの展開だろう。「あの本は差別的だ」「書店に抗議しよう」とネット民たちが声を発すればするほど話題は拡散し、『そうだ難民しよう!』も逆に商品としてますます生き永らえていくことを、いいかげんリベラル陣営も自覚したほうがよさそうな気がする。
思い起こせば、かつて神戸少年事件の少年Aの顔写真を載せたことで全国の書店から「不買」ならぬ「不売」を食らったり、創価学会から系列メディアを女性誌まで動員し、電車の中吊り広告でも延々と総攻撃にさらされた『週刊新潮』は、それなりにダメージは受けたことだろう。『週刊文春』にしても1994年には、当時のJR総連委員長・松崎明に関する連載記事「JR東日本に巣くう妖怪」を載せたことで、JR傘下の東日本キヨスクから取り扱い中止を受けて部数を減らすという痛手を過去に被っている。それこそジャニーズやAKB絡みの記事がきっかけでネット上で不買を呼びかける声が広がったりした場合には、少しは心穏やかでないものは覚えるだろう。
とはいえ、両誌ともにそこで潰れることなく今も発行され続けている。さらに、今では成人となった上記の元少年Aが昨年に太田出版から出した『絶歌』にしても、それを売ることの是非について書店を巻き込んだ議論が沸き起こったものの、逆にそれが話題になって好調な売れ行きを示したことは記憶に新しい。
無論、政治の世界においても小泉劇場とか民主党政権交代とか、マスの潜在意識に何かが突き刺さるとき、雪崩のような現象がおきる。安倍首相もその恐ろしさは身に染みているはずだし、一方では大衆に対しても思いっきり逆撫でして不買の動きを引き出せるぐらいのことができてこそ、出版なり新聞の生き残りは図れるのではないか。

                                                                                                                        • -

2)【本日の一行情報】(岩本太郎)

集英社の「コバルト文庫」が新たなウェブサイト「よめる&かける小説総合サイト WebマガジンCobalt」を今春より公開。人気作家による書き下ろし新作をいち早く掲載するほか、小説の投稿企画も実施の予定。一方で、隔月刊誌『Cobalt』は4月1日発売の5月号を最後に休刊。
http://cobalt.shueisha.co.jp/info/
http://internetcom.jp/200155/cobalt-releases-new-website

◎『Free&Easy』が去る1月30日発売の3月号限りで休刊。
http://freeandeasy.co.jp/post-742/
http://www.oricon.co.jp/news/2066160/full/

◎『月刊空手道』『フルコンタクトKARATE』など武道や格闘技関連の雑誌・書籍を発行元として知られた福昌堂が、関連の福昌堂印刷と合計で約1億6000万円の負債を抱えて1月20日東京地裁より破産開始決定を受け、倒産。
http://efight.jp/news-20160127_232350
http://www.tsr-net.co.jp/news/tsr/20160127_01.html

東浩紀が自ら立ち上げた会社で発行する批評誌『ゲンロン』は「3000部売れれば採算が取れる」ビジネスモデルで続けているという。
《1万部刷っていますが、1800人近くいる「ゲンロン友の会」の会員に配り、ほか献本などを考えると実質8000部です。そのうち3000部売れれば、もう大丈夫。そしてうちの場合、3000部はまず確実に売れます》
《ガチの批評誌だって、採算ラインと売り方をちゃんと考えれば成立します。日本のものづくり全般がそうなのかもしれないけど、「俺たちはこれをつくりたいんだ!」という気持ちだけで商品をつくっても難しいですよ。供給サイドの論理だけでつくるのは、サスティナブルじゃないんです》
https://cakes.mu/posts/12066

◎『ビッグコミックスピリッツ』が創刊35周年記念の読み切りで掲載した『東京ラブストーリー 〜After25years〜』に対して「ネット上では『今さら見たくねーだろ』『もう無理』と不評の声が殺到」とのこと。まあ、この種の企画はそう言われるのが宿命みたいなところはある。
http://news.livedoor.com/article/detail/11125172/

◎耳の聞こえない「ろう者」の人々が無音の状態から視覚的な「音楽」を作り出す模様を追ったドキュメンタリー映画『LISTEN』が、5月より渋谷のアップリンクほか全国で順次公開。監督や出演者、スタッフのほぼ全員がろう者で、全編にわたって環境音も効果音もない無音の映画だそうだ。プロモーション資金を募るクラウドファンディングも「READYFOR」で4月12日まで実施中。
http://www.uplink.co.jp/listen/
http://www.cinra.net/news/20160129-listen
https://readyfor.jp/projects/listen

毎日新聞記者の日下部聡が「自分の情報は誰にどう使われるのか」をテーマに、自らの個人情報についての開示請求をCCC(Tポイントカードの使用履歴)、地元の区役所(誰が自分の住民票を閲覧したかについて)、警視庁の情報公開センター(自分の運転免許証に関する行政機関からの照会の有無)を行ってみたというレポート。運転免許証については警視庁から「存否を明らかにしないで、開示請求を拒否します」との通知が返ってきたとのこと。
《簡単に言えば「犯罪者が司直の手が迫っていることに気づいてしまう」ということだろう》
http://mainichi.jp/articles/20160201/ddm/004/040/003000c

◎最近の若者がテレビを見なくなった理由の一つに「動画が途中から始まるから」というものがあるんだとか。デジタル・ネイティブ世代にとっては至極当然の受け止め方なのだろう。
http://togetter.com/li/932660

◎コルク・佐渡島庸平が昨年末にダイヤモンド社から出した初の著書『ぼくらの仮説が世界をつくる』は「早くも3刷と好評を博している」そうだ。
http://diamond.jp/articles/-/85061

◎「組織の意思決定を国ごとに表した1枚の画像」がtwitter上で話題になっているとのこと。さて、貴方の会社はどの国にあてはまりますか?
http://netgeek.biz/archives/7737

                                                                                                                        • -

3)【深夜の誌人語録】(岩本太郎)

善は急ぎ過ぎると時に誤る。