【文徒】2016年(平成28)2月10日(第4巻26号・通巻713号)

Index------------------------------------------------------
1)【記事】芳林堂書店の異変と太洋社の「自主廃業」
2)【本日の一行情報】
3)【深夜の誌人語録】

                                                                            • 2016.2.10.Shuppanjin

1)【記事】芳林堂書店の異変と太洋社の「自主廃業」

芳林堂書店高田馬場店に次のような張り紙が掲出されたのは2月3日のことであった。
「いつも芳林堂書店をご利用いただきまして、誠にありがとうございます。
本日、2月3日〜2月7日まで、配送倉庫トラブルの影響により商品の入荷が出来ない状況になっております。
ご了承いただきますよう、お願い致します。」
芳林堂書店の異変に気がついたツイートが投稿された。
「芳林堂が機材トラブルか何かで本の入荷がないらしく一瞬焦った。調べてみると芳林堂全店そうらしい。ほかの店は普通に入荷があるので、中継ぎの問題じゃないみたいなんだよな。こういうの珍しいからびびった」
https://twitter.com/mibarich/status/694854191622152192
芳林堂書店高田馬場店はツイッター・アカウントを有しているが、「商品の入荷が出来ない状況」についてのアナウンスはされなかった。こんなツイートもあった。
「芳林堂はこんなツイートしてないで2/3から2/7まで配送倉庫のトラブルで本が入荷しないというのをまず伝えろ。何のためのソーシャルアカウントなんだ」
https://twitter.com/goroq/status/694811649476145152
芳林堂書店の帳合は太洋社である。この張り紙が掲出された翌々日に太洋社は「自主廃業」決め、2月8日に説明会を開くことを書店、出版社に通知する。ツイッターには芳林堂書店にかかわるツイートが投稿されつづけた。
「元白夜書房の藤脇さんの新著にも登場した芳林堂書店東長崎駅前店。たしかに、先週発売の雑誌は入荷してないが、お客さんがいないわけではないし、あまり気にしている様子もない」
https://twitter.com/TsukadaMasuhiro/status/696279671441326080
「『進撃の巨人』最新刊を買おうと 芳林堂書店に寄る。売ってない」
https://twitter.com/zeiwinnie/status/696274242552201217
今から振り返ってみるならば太洋社の危機は、昨日今日のことではあるまい。2013年決算で前年より売上を100億円も減らした段階で「終わり」は見えていたはずだ。ここまで売上を激減させたのは、こまつ書店、東武ブックス、喜久屋書店メロンブックス、ブックスフジなどの帳合変更によるものであった。
その年末には出版社15社に対して支払猶予を依頼している。書店からの入金率は60%程度にとどまり、売掛金不良債権化していると指摘されたのも、この頃である。翌年の決算おいて國弘晴睦社長は次のように嘆いた。
「書店の取引条件を引き下げる同業他社との帳合戦争には太刀打ちできない。武器をもたずに戦場にいるようだ。また書店の入金率も低下しており、出版社への支払いなど、資金繰りが厳しい」
既に白旗をあげていたのである。こうした経緯からしても、太洋社が今回、「自主廃業」を発表しても、それほどの驚きは出版業界にはなかったのだろう。
「某人文系版元営業のアル中」を名乗るyuliaは次のようにツイート。
「書店さんはこれから大変だろうな……太洋社との取引を精算しきる体力のある書店さんばかりじゃないだろうし。言葉は悪いけれど、手切れ金払わないと他の取次使えないんじゃ、太洋社と心中するしかない所も多いんじゃなかろうか」
https://twitter.com/Julien_Felis/status/696640044149288960
「曲がりなりにも『新栗田』っていう仕入先があった栗田の時より、耐えられない書店は多そうな予感」
https://twitter.com/Julien_Felis/status/696640511147249664
芳林堂書店が太洋社との取引を清算し、無事、トーハンに帳合変更できるかどうか、である。
三才ブックスの関係者と思われる海塚義昭は次のようにツイッターで指摘している。
「太洋社の説明会、最後の方でいい質問した人がいて『なんでこんなに受取利息があるんですか?元金相当ないとおかしいですよ』太洋社の人は答え濁してました。ここからは私の完全な推測ですが、書店の預り保証金をレンタルビデオの遅延延滞金みたいな利率で消したのではと」
https://twitter.com/yoshiakikaizuka/status/696646568879894528
「出版社勤務」のたけだまさるは、こう投稿している。
「栗田のように怒りの声が少ない分、太洋社に対して各社の対応などが見えにくい。
前回は合同質問状とか色々アクションあったけど、今回はそのようなこともないだろうし」
https://twitter.com/leader1976/status/696913007855570944

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2)【本日の一行情報】

◎「Amazonソムリエ」は日本独自のサービスだ。電話でベテランワインアドバイザーやソムリエに相談できるサービスで、相談も無料なら、電話料金も無料だという。
「アマゾンのサイトに電話番号を入力すると、平日正午から午後5時の間に、ソムリエなどワインの専門家から電話がかかってきて、購入についてアドバイスしてもらえる」(2月7日付朝日新聞)
http://www.asahi.com/articles/ASJ254HYXJ25ULFA00S.html
http://www.amazon.co.jp/b/ref=s9_acss_bw_sc_winestor_ar_s1?_encoding=UTF8&ie=UTF8&node=4097695051&pf_rd_m=AN1VRQENFRJN5&pf_rd_s=merchandised-search-2&pf_rd_r=1ZNKF244AF2BWFDAWD0H&pf_rd_t=101&pf_rd_p=285058289&pf_rd_i=71649051
「ブックソムリエ」を始めたら脅威だろう。アマゾンが「ブックソムリエ」を始める前に日本の電子書店がチャレンジすれば面白いのだけれど。アマゾンの先を行ってこそ、アマゾンとの差を縮められるのではないか。

◎ジュエリーカミネによる「ジュエリー絵画」は、すべて宝石でつくられる。その新作として、池田理代子の原画を元に制作された「ベルサイユのばら」シリーズ8作品が発売される。価格は10万5840〜786万2400円。
http://www.sankeibiz.jp/business/news/160208/bsf1602080500006-n1.htm

朝日新聞の平和博はニューヨーク・タイムズの2015年の第4四半期と通年の決算が、いずれも売上高はほぼ同額なのに、純利益が四半期で約50%増、通年で約90%増となったことの背景に迫っている。
「今回の純利益倍増の〝原資〟のかなりの部分は、この前年の大リストラのコストだったと見ることができる。
そしてタイムズの実態は、紙とデジタルの相殺により、成長が伸び悩みの状態ということになる」
http://www.huffingtonpost.jp/kazuhiro-taira/new-york-times-restructuring_b_9183924.html
「編集」改革は、これから正念場を迎える。

カドカワの子会社であるリインフォースはゲームニュースの「キュレーション」と「攻略サイト」の2つのサービスがシームレスに連携した「電ファミニコゲーマー」のサービスを無料で開始した。「ファミ通」、「電撃」、「niconico」という3つのゲームメディア/プラットフォームに加え、協力メディアの4Gamer.netなどが提供するあらゆるゲーム情報がワンストップでチェックできるほか、その他のゲーム動画やイラスト、個人のブログの記事など、ネット上のあらゆるゲーム情報が収集/整理されている。
http://www.famitsu.com/news/201602/08098966.html

◎同人誌の「幻影城 終刊号」に栗本薫が「京堂司」名義で書いた小説が掲載されることになった。
http://www.asahi.com/articles/ASJ234HG4J23UCVL00M.html

富士山マガジンサービスの西野伸一郎社長が日本で雑誌の直販による定期購読が伸びなかった背景を次のように述べている。
「個人的な見方だが、戦後、財閥解体の頃にさかのぼり出版社と取次・書店によるムラ社会が形成されてきた経緯があると思う。全ての流通は取次・書店を通すというムラ社会が出来上がり、直販は許されなかったのだろう。その後、一部ビジネス誌などには定期購読による直販を進める動きがあったものの、それ以外は、出版社は直販を控えてきた。しかし、もう販売面での書店への依存はできない。いまもムラ社会は残っているが、業界は変わっていくし、変わらないところはなくなっていくと思う」
http://kabutan.jp/news/marketnews/?b=n201602080508
私などが言い続けているデジタル・シフトを阻害しているのも出版業界の「ムラ体質」にあるように思えてならない。紙の出版は農耕文化なんだよね。狩猟文化を繰り込むことなくしてデジタル・シフトはあり得ない。

◎こうなると無敵の「文春砲」だな。国会議員としては前代未聞の「育児休暇取得宣言」をぶち上げた自民党の宮崎謙介衆院議員の「ゲス不倫」を今度はスクープしている。
http://shukan.bunshun.jp/articles/-/5859

クックパッドの「お家騒動」は結局取締役選任について一本化することで合意に達したが、堀江貴文が「週刊ダイヤモンド」で次のように一刀両断している。こういうときのホリエモンはズバリ核心を衝く。
「…自ら招いた社長と十分な話し合いもせず、突然解任をしようとするのはかなり乱暴にすぎ、上場企業にあるまじき行為だと思います。上場企業は創業者個人の持ち物ではありません。
それでも解任したいというのであれば、自ら少数株主が所有する株式をすべて買い取り、全株式を取得したうえで非上場化すべきでしょう」
http://diamond.jp/articles/-/85868

◎第51回吉田秀雄記念賞はアサツー ディ・ケイ最高顧問の長沼孝一郎に決まった。
http://www.jaaa.ne.jp/2016/02/4275/

パピレスの運営する電子書籍レンタルサイト「Renta!」の会員数が200万人を突破したそうだ。
http://www.dreamnews.jp/press/0000126664/

◎メディアドゥは、OverDrive Japanのブランドで展開する電子図書館事業における法人向け電子図書館の展開を加速させるという。大手通信キャリア、及び大手ISP(独立系、電力系)など数多くの法人クライアントを有しているZITTOとの協業を第一弾とするそうだ。ZITTOは、メディアドゥとともに電子書店「いつでも書店」を展開している。
http://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000031.000009027.html

◎「コロコロアニキ」(小学館)に連載されていた「かっとばせ!キヨハラくん」の休載が決まった。
http://www.sankei.com/sports/news/160209/spo1602090022-n1.html

押切もえの連作短編集である「永遠とは違う一日」が新潮社から刊行されることになった。
http://www.cinemacafe.net/article/2016/02/08/37701.html

NHK経営委員の安田喜憲による「最近の若者は本当にダメだから法律でNHKの番組を強制的に見せる時間をつくるべき」といった主旨の発言をして大炎上しているようだ。最初に取り上げたのは「netgreek」である。
「私は、今の若者に徴兵制はだめとしても、徴農制とか、徴林制とか漁村に行けとか、そういう法律で、テレビの番組も何時から何時まできちんと見るということにすればいいと思います。この番組を見なければ会社に就職させないとか、抜本的に政策を変えないと、日本は本当に大変なところへ行くのではないかと思います。
したがって、そういう面でNHKの役割は非常に大きいので、許される範囲を超えるものもあると思いますが、もっときつい方策をとらなければならないところまで来ているのではないか思います」
http://netgeek.biz/archives/65874
安田は立命館大学環太平洋文明研究センター長をつとめる地理学者、環境考古学者だそうだ。

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3)【深夜の誌人語録】

仕事においても旬を逃すな、鮮度を保て。