【文徒】2016年(平成28)6月7日(第4巻104号・通巻791号)

Index------------------------------------------------------
1)【記事】伊勢志摩サミット・30億円国際メディアセンターでゴチのマスメディアに批判の牙はあるのか(岩本太郎)
2)【本日の一行情報】
3)【深夜の誌人語録】

                                                                            • 2016.6.7.Shuppanjin

1)【記事】伊勢志摩サミット・30億円国際メディアセンターでゴチのマスメディアに批判の牙はあるのか(岩本太郎)

先に終了した伊勢志摩サミットで3日間だけ使われた国際メディアセンターの別館は約28億5000万円かけて建築され、これから約3億円をかけて解体されるそうだ。サミット会場の地元三重県産のスギやヒノキがふんだんに使われ、解体後に生じた資材は再利用されるとのことだが、いずれにしてもそこで使われているのは税金である。
もっとも、外務省の担当者は「ぜいたくなものではないと理解しています。工期も短く、三重県に同様の建物を建てるとすれば、抑えている方です」と述べたとか。籏智広太は「BuzzFeed News 」でこう述べる。
熊本地震で被災した南阿蘇鉄道の復旧に必要な費用や、JR九州がつくった豪華列車「ななつ星」の製作費とほぼ同額だ。場所によっては、病院をひとつ建てることもできる。
ただ、担当者が説明するように、サミットには、海外に日本をPRするという重要なミッションもある。それなのにプレハブやテントで済ますわけにはいかないだろう。ちなみに、サミットの総額予算は約600億円。そのうち警備関連費が約340億円を占めている。
別館ではサミット後、6月10日までは地元の小学校の見学会が開かれるほか、6月4〜5日には一般公開もされている(すでに募集は終了)。スケジュールは未定だが、10月をめどに解体工事を完了させる見込みだ》
https://www.buzzfeed.com/kotahatachi/summit-media-center?utm_term=.mhm1KpKnx#.xtoDwow6a
http://www.nikkansports.com/general/news/1653201.html
http://www.nikkansports.com/general/news/1653239.html
8年前の洞爺湖サミットの際、首脳会談の会場となった洞爺湖畔のウィンザーホテルに近いルスツリゾート内に特設された国際メディアセンターも、約30億円かけてわざわざ新築した施設が使われていた。
当時、私はフリーランスのジャーナリストらによる独立系メディアセンター(札幌市内の海事測量会社の経営者の厚意を受けて同社のビル内の空きフロアに設置)のスタッフも兼ねてのサミットの周辺取材をしていたが、我々独立系のジャーナリスト集団に対しては国際メディアセンターへの入構に必要なパスの割り当てが数枚に限定され大半のメンバーは入れずじまい。
何とか中に入って記者会見などに参加することができた仲間のジャーナリストたちが写真も示しつつ報告してくれたところによると、センターの内装はホテル級に豪華でダイニング形式の料理は無料で食べ放題。会社から出張旅費をもらって「まあ食べてこいや」とか言われた大手メディアの記者たちが大して仕事もしないまま優雅に過ごしていたそうだ。
取材(?)を終えてセンターから帰る記者にはサミット記念のICレコーダーもお土産としてついたという。そうしたゴチにあずかっている実態があるからか、総額約600億円もかけて開催されたサミットに対しアンチグローバリズム側からの批判があることなどの切り込みがまるで皆無。こうした大手マスメディアの体質は、やはり8年たってもまったく変わっていなかったようである。
それでいながら舛添都知事が政治資金を私的に使っただの、家族旅行で泊まったホテルがどうのこうのと正義の味方気取りで責め立てているんだとしたら笑っちゃうぜ。

                                                                                                                        • -

2)【本日の一行情報】(岩本太郎)

◎7月下旬を目途に実質的に閉店することが報じられた紀伊國屋書店新宿南店だが、6月5日夕刻に私(岩本)が久々に新宿駅新南口からテラスづたいに3F入口より入ろうとしたところ、両脇のウインドウに「2016年10月に紀伊國屋書店 新宿南店は開店20周年を迎えます。〜これまでのご愛顧への感謝とこれからの新しい出会いを求めて〜」と題して、人気の作家たちが「祝二十周年」「これからもよろしくお願いします」などと手書きで寄せたお祝いメッセージを集めたボードが掲げられていた。
https://www.instagram.com/p/BGRKxomjqFH/?taken-by=taroimo0424
でも開店20周年記念日よりも前に実質的に閉店するんでしょ!?
閉店に言及したものは見たところなかったので、5月半ばに閉店の件が発表される以前に書かれたものなのか?
それにしてもメッセージを寄越した作家たちのことを思えば、今もこれを店先に掲出しているのは書店としていかがなものか。かつては日本一の規模を持つと呼ばれた大書店の店員たちの、閉店を前にしたモラル&モラール・ハザードぶりの表れなのか……などと思いつつ写真をアップしたところ、
「(店員その他による)抗議の意図かもしれませんね」
とのコメントもいただいた。なるほど。だとすると、そのボードの裏側には店員たちのどんな思いが隠されていたのだろう?

舛添要一東京都知事による公私混同疑惑に揺れる東京都だが、6月1日に開幕した東京都議会に、舛添都知事による所信表明演説などを取材しようとやってきた『BuzzFeed』記者の渡辺一樹に対し、都側の報道担当者は「インターネットメディアは報道として扱いません。一般傍聴に並んでください」と告げたという。「議会はインターネットメディアを、報道として認識していない」のだそうだ。
https://www.buzzfeed.com/kazukiwatanabe/arent-we-news-media?utm_term=.cy0AK0KDM#.rbg2v5vlA
こういう話が相変わらず多すぎて、そろそろ怒る気力も失せそうなところだが、怒り続けていかねばなるまい。国政はもとより最大の地方自治体である東京都にしてこの有様となれば、その他の地方議会の取材現場における実情たるや、いかばかりであろうか。

桑田佳祐が6月29日に3年ぶりのシングルとして発表する「ヨシ子さん」には、今年3月に宮城県のJR女川駅からレギュラーラジオ番組『桑田佳祐やさしい夜遊び』の生放送をした際のライブ音源3曲が収録されているという。これ東日本大震災後に地元に立ち上がった臨時災害FM局「女川さいがいFM」が3月末限りで閉局すると聞いた桑田が申し出て実現したものだ。
http://www.oricon.co.jp/news/2072840/full/
ちなみに女川さいがいFMが3月29日の閉局間際の放送で最後にオンエアしたリスナーからのリクエスト曲は、桑田率いるサザンオールスターズの大ヒット曲ながら「3.11」後はどの放送局でも実質的に放送禁止歌状態になってしまったといわれる『TSUNAMI』だった。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201604/CK2016040302000135.html

◎ロシア外務省のザハロワ報道官が産経新聞に関して「ロシアに関する多くの記事は批判的、時に攻撃的であり、事実はしばしば歪曲され、否定的な見地で伝えられる」などとしたうえで、同紙からのインタビューには応じるべきでないとの姿勢を示した同国の他の国家機関向けの公式文書が、何故か間違って産経新聞モスクワ支局に到着。
同紙の遠藤良介が外信コラムでザハロワ報道官あての書面の体裁をとりつつ「たるんでませんか?」と内容を暴露した。
http://www.sankei.com/column/news/160602/clm1606020008-n1.html

◎今年度のギャラクシー賞NPO放送批評懇談会主催)で「DJパーソナリティ賞」を受賞した荻上チキは6月2日に行われた同賞の贈賞式のスピーチで「ラジオとはメディアの最前線であり、最終防衛ラインだ」とのラジオ論を展開。その思いを同日22時からのTBS「荻上チキ・Session-22」で語った内容は現在でも公式サイトよりポッドキャストで聴けるが、このポッドキャスト自体がアクセス数の増大に伴なうサーバ維持などの経費の問題から、この6月30日限りで終了してしまうという。
http://www.tbsradio.jp/41101

◎「右翼と左翼 どちらが気持ち悪い」とのアンケートに6割が左翼だと答えたとか。インターネットリサーチ「Qzoo」なるネット調査会社のアンケートで、左翼が右翼より好感度が高かったのは60代以上男性のみ。もっとも、こうした世論調査では定番の選択肢「どちらともいえない」がない調査だった模様。ついでに「どちらも気持ち悪い」という選択肢も加えておけば少しは違った結果になったかもしれない。
そもそも、この設問自体が何が右翼で何が左翼かという"印象"の表象だろう。左翼は右翼より"気持ち悪い"と思われていることに自覚的でないかぎり後退戦は続くということだ。
http://news.ameba.jp/20160603-145/

山口組の分裂抗争では様々な情報が乱れ飛んでいるが、やはり今ではヤクザの世界でもLINEやfacebookなどのSNSが普及し、そこから発信する者も多いようだが、情報の信憑性・正確度という点では疑問符がつくものもそのぶん多くなっているようだ。 西郷正興は「ネタりか」で次のように書いている。
《現役の幹部を名乗りながら、最近堅気になったような人間がいたとして、それを持ち上げる事がマスコミとして必要なのであろうか? そこに少しの違和感を持つのは筆者だけであろうか?》
《週刊誌より早く表に出るのは締め切りの関係も当然あるし、キチンと責任を持った記事にする為には推測、憶測で書く事は出来ない。実際に匿名のアカウントを持つ人間と接触を図った筆者の周りの実話誌の記者もいたが、話にはならなかったらしい。この意味を読者の方それぞれが推測して頂きたい》
《組の代紋を加工し、背景画像・サムネにして、ヤクザの抗争をツイートする。それがいい事であるか、悪い事であるか、筆者には理解しづらい。ただヤクザの代紋はそんな安いモノではないのは確かだ。
 少なくとも神戸山口組は4月15日付で「和、団結」で始まる公用、私用を問わず携帯電話、パソコンによるメール、LINEの使用禁止の文書が出ている。それ以降も神戸山口組関係者を名乗る人間のツイッターはナゼか、ツイートし続けている》
http://netallica.yahoo.co.jp/news/20160526-92254639-tbnews

◎何と清原和博には「ポエムの才能」があるらしい。今年1月に彼が公式ブログに載せた「日曜日の夕方」という一文には多くの出版関係者が涙したんだとか。「衝撃の手記」第一弾はポエムになるのか?
《街の中 車を走らせる 信号待ち 楽しそうなカップル 幸せいっぱい笑顔な家族 信号が変わっても 気付かず 後の車にクラクション サウナに 駆け込む》
http://www.asagei.com/excerpt/59475

◎6月4日に東大本郷キャンパスの福武ホールで行われたエドワード・スノーデン(元FBI・CIA職員)のネットでの公開インタビューには約200人の聴衆が参加する盛況となった(私も参加した)。
携帯電話やSNSの普及などによって、今や国家や権力者が極めて低コストで効率よく一般の個人の情報を監視・収集できるようになった現状について「電源が入っている携帯は、常に歌を歌っているようなものです。『私はここにいます』と叫んでいるのです」などと、なかなか詩的な表現もまじえながら能弁に語っていた。
亡命中ということから何やら憔悴したニューロティックな人格を事前に連想していたが、冒頭では横田基地での勤務時代に覚えたというカタコトの日本語で「勉強しました。上手じゃありません」と語って聴衆を和ませるなどサービス精神も旺盛でキャラ立ちしそうだ。先に始まった『サンデー毎日』での独占インタビュー連載に加え、まもなく彼を追ったドキュメンタリー映画シチズンフォー』も公開されるということで、何やら上手い具合に日本でもキャンペーンが立ち上がりつつあるのかもしれない。
http://headlines.yahoo.co.jp/videonews/jnn?a=20160605-00000000-jnn-int
http://gaga.ne.jp/citizenfour/
なお、今回の公開インタビューを主催したのは「ムスリムとの共生を考えるシンポジウム実行委員会」という団体で、主にイスラム教徒に対する警察の監視について訴訟を提起したムスリム違法捜査弁護団のメンバーが中心に組織。
ここに来年で創立70周年を迎える自由人権協会(JCLU)が、そのプレイベントも兼ねて共催に関わった。インタビュー後に行われたシンポジウムでは、アメリカで「9.11」後に進んだムスリムへの無差別的な監視が、弁護士らによる訴訟や「スノーデン・ショック」によって政府に政策転換を促したという。
現在ではニューヨーク市警のテロ対策活動については人権侵害が行われていないかをチェックする独立委員会が市警内部に設けられ、そこに民間の法律家も参加して監督するようになったそうだ。
ジャーナリストの青木理らも加わっての討論で語られた「権力による監視に対する一番の抑制策は、監視する主体である行政権力を、市民が主体となって監視するシステムを構築することだ」との意見は正論だ。

                                                                                                                        • -

3)【深夜の誌人語録】(岩本太郎)

「『印象操作』よ何するものぞ」の「メディアリテラシー(媒体素養)」ってやつを持ちやがれ。