【文徒】2016年(平成28)8月30日(第4巻162号・通巻849号)

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1)【記事】テレビ局にとり「お荷物」となりつつある五輪中継(岩本太郎)
2)【本日の一行情報】
3)【深夜の誌人語録】

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1)【記事】テレビ局にとり「お荷物」となりつつある五輪中継(岩本太郎)

先に閉会したリオデジャネイロ五輪は前評判とは裏腹に、日本選手の活躍が目立ったこともあってテレビの中継番組の視聴率も含めて大いに盛り上がったようだ。テレビ視聴データの分析サービスなどを手掛けるスイッチ・メディア・ラボによる番組ジャンル別の視聴シェアを示すデータによると、リオ五輪中のテレビの視聴時間は前月に比べて平均50分も増加。また前月はわずか4%だったスポーツ番組の視聴シェアも、8月6日の開会式では30%、お盆休み中には40%近くまで伸びたそうだ。
http://getnavi.jp/life/63450/
多メディア化の中で総世帯視聴率(HUT)の減少に悩まされてきたテレビ局にとっては良い話題ということになろうが、しかし現実にはテレビ業界、特に民放関係者の間では高視聴率にもあまり浮かれるところはない、むしろしらけムードが漂っていたようだ。そのあたりの事情は開催期間中から『東洋経済』がよくまとめていた。まず8月16日の「リオ五輪にしらけムードのテレビ関係者たち」ではテレビ・ドラマ解説者でコラムニストの木村隆志が、制作者の視点から次のように述べている。
《特にドラマ業界にとって痛いのは、リオ五輪が8月の1カ月弱に渡って重点放送されること。夏ドラマは7月にスタートして9月に終わるため、ど真ん中の時期にリオ五輪があるのです。
つまり、ドラマが数回放送されて「ようやくなじんでもらえるか」どうかのタイミングでリオ五輪が開幕。放送そのものが飛んでしまったり、ドラマそのものが忘れられてしまったりなど踏んだり蹴ったり……。通常どおり放送されたとしても、リアルタイム視聴されるのはライブ中継のリオ五輪であり、ドラマは大半が録画されてしまい、視聴率が上がることはありません。
さらに、リオ五輪が閉幕した8月下旬には、残り放送期間が3週間程度しか残っていないため、視聴者は「今さら見ても」という気持ちになってしまいます。この厳しさを象徴していたのが、土曜21時に放送されていた「時をかける少女」(日本テレビ系)。同作はリオ五輪の開会式が放送された8月6日の夜に、わずか5話のみで終了しました。ドラマは通常10話前後、少なくとも8話は放送されるのに、その半分で終わらせてしまったのです》
http://toyokeizai.net/articles/-/131679
五輪やワールドカップ(W杯)などのビッグイベントの中継は多メディア化が進む今日においてもテレビの優位性が発揮されるコンテンツだが、しかし現実に今のテレビ局においては「平時」においてどれだけ視聴率を稼げるかのほうが経営上の重要課題である。
その意味では普段の編成を瞬間的にごちゃごちゃにしてしまう五輪やW杯はもとより、『24時間テレビ』のような長時間番組でも今や費用対効果を疑問視されるようになっているのが実情なのだ。むしろそうしたイベント的なコンテンツといえば、ここ20年来次々に社屋を建て替えた在京キー局にとってはむしろ本社敷地で開催するリアルイベントが、放送収入が伸び悩む一方での貴重な稼ぎどころになっているのだが、これにも悪影響が出たと木村は上記の記事で指摘する。
《もう1つ、テレビ局内で暗いムードの部署は、イベント事業部。近年、民放各局は夏の一大イベントを行っていますが、(中略)今年は書き入れ時の8月にリオ五輪があるため苦戦必至。各局のイベント担当者は、アトラクションやグルメメニューなどを例年以上に工夫することで、集客力と収益性を高めようとしています。しかし、私が某局のベテラン担当者に聞いたところ、「お盆前後の結果が出てからでないとわからないが、リオ五輪の影響か、客足が鈍い」と言っていました》
さらに、閉会後の8月29日付の「五輪に茶の間は熱狂、でもテレビ局は『赤字』」という記事では、同誌記者の田邉佳介が、もはや肝心の広告営業面でも完全にお荷物状態になってしまっている五輪中継の実態を紹介している。
《採算が厳しいのは、高額の放映権料に加え、編成上の理由もある。五輪中継は通常と異なる特別番組が組まれるため、番組と番組の間に流す、スポット広告の枠が減ってしまう。実際、日本民間放送連盟(民放連)は前回のロンドン五輪において、番組放映に関する収支が赤字だったことを明らかにしている》
http://toyokeizai.net/articles/-/133324
さらに私から補足すると、今回は日本時間の真夜中の中継だからその心配はなかったのだが、シドニー(2000年)や北京(2008年)大会の場合は人気の競技の中継が日本でもゴールデン枠に入るため、普段からその枠で放送されている高視聴率のドラマやバラエティをみすみすどかさなければならないことへの不満がテレビ局側にはあった。しかも、仮に人気ドラマを押しのけて入った競技中継が高視聴率を稼いだとしても、もとより五輪の場合は、番組の広告収入は放映権料を等しく負担した各在京キー局(ただしテレビ東京のみ他局の半額負担らしい)に対して電通から割り振られる形だし、その視聴率データは「イレギュラー月」扱いとして翌年の同時期の営業用には使われないのだ。
そんなわけで「むしろ夜中に地球の反対側で夜中にやってくれたほうがいい」との声を、私も以前にテレビ局の営業担当者から聞いたことがある。ゴールデンやプライム枠の編成をいじらずに、普段はほとんどセールスできていない深夜枠が埋まるからだ。その意味では今回は助かったという側面はあったかもしれない。
しかし4年後の次回は自国開催の東京五輪だ。ジャパンコンソーシアム(JC)方式による放映権料の負担は今回のリオ五輪+ソチ冬季五輪(2014年)で総額360億円だったが、これが東京五輪の場合は平昌五輪(2018年)とのセットで660億円と2倍近くに跳ね上がる。もとより「国策」であるがゆえに日本のテレビ局にここから逃れる術はない。
ちまたで最近よく聞かれる「テレビがメディアの王者として君臨する時代は2020年の東京五輪までじゃないか」という説も、あながち的外れでもなさそうな気もしてくるところだ。

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2)【本日の一行情報】(岩本太郎)

◎かつての『ガロ』の版元というよりも、いわゆるヘイト本の版元として名を馳せるようになって今や久しい青林堂から、厚労省OBのコンサルタントの田岡春幸による『中小企業がユニオンに潰される日』が9月10日に発売される。
はすみとしこによる表紙イラストからして、非正規労働者やフリーターたちを支援する「○○ユニオン」叩きの内容であることが推察され、さっそく立ち上がったネトサヨ系のまとめサイトでは批判の大合唱だ。しかしこれが話題を拡散し、結果的に炎上・焼け太りにつながるかもしれない。
http://togetter.com/li/1016747

江東区で2005年1月に創業した一人出版社「猿江商會」より、永江朗の新著『小さな出版社のつくり方』が9月21日に発売予定。2000年以降に創業した出版社11社、12人へのロングインタビュー集とのことだ。
http://goo.gl/vWRlTt
http://goo.gl/UX29xX

◎『月刊サーフィンライフ』などマリンスポーツ関連の雑誌や書籍の老舗版元として知られてきた「マリン企画」(および関連会社のエムピーシー)が8月19日に倒産。20年前のピーク時には約30億円あった売り上げが、マリンスポーツ人口の減少と出版不況などにより昨年には2億円程度まで減少していたらしい。
https://news.nifty.com/article/economy/stock/12204-12008/

◎「押し紙」など現在の新聞販売店が追い込まれた土壇場的な経営実態は、もはや配達員に使う外国人労働者を巻き込んでの「ブラック労働」なしには成り立たない水準まで来ているらしい。『現代ビジネス』で出井康博がレポート。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/49460

アメリカではアマゾンが実店舗の書店拡大を進めている。昨秋に本社のあるシアトルに開店したのに続き、今後はシカゴ、ポートランド、サンディエゴにも出店予定。ニューヨークへの仮店舗出店も取り沙汰されているという。
http://itpro.nikkeibp.co.jp/atcl/news/16/082902483/

◎ビデオリサーチは10月3日から、従来は別々に行っていた世帯視聴率調査(関東1都6県でサンプルは600世帯)とタイムシフト(録画)での視聴率調査(同300世帯)とを、双方合わせて900万世帯において2つ合わせて実施すると発表した。
https://www.videor.co.jp/press/2016/160826.htm
http://www.yomiuri.co.jp/culture/20160827-OYT1T50067.html?from=tw
かつて1990年代半ばに、テレビの広告効果に疑問を持った広告主側が「個人視聴率」の機械式調査を求めたのに対して、当時まだビデオリサーチの競合社として存在していたニールセンが新たな測定システムを導入のうえ応えようとしたところ、反発した各テレビ局から契約を解除され、その結果としてやがてビデオリサーチが視聴率調査を独占する今の体制になった経緯がある。
視聴率調査会社の顧客は、基本的に「自分のところの視聴率を調査してもらう」テレビ局がほとんどだ。そうした限られた市場規模の中でサンプル数や調査方式の拡充を図るのはビデオリサーチにとってもそれなりの経営負担であるだろう。

◎さっそくSMAP解散に絡んだ暴露本の企画をめぐって各出版社が動き回っているんだとか。
http://www.cyzowoman.com/2016/08/post_21545.html

◎そのSMAPがデビューから25周年を迎える9月9日に、お金を募って自主広告を出そうという動きがファンたちの間で盛り上がっているらしい。確かに彼らぐらいになれば、ファンの出資でマスメディアの広告枠に出稿できるぐらいの「宣伝費」は集まるかもしれない。
http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/geino/188631

クラウドファンディングは、このところ休刊が相次いでいるホラー漫画誌の再生に向けた取り組みにも活用されている。“新たな本格ホラー漫画専門誌”と銘打った『ホラーコミック レザレクション』が、10月24日まで創刊に向けてクラウドファンディングサイトの「FUNDIY」で』で出資を募集中。きっかけはイラストレーターでホラー漫画ファンの酒井康彰が「何かできないか」とつぶやいたツイートからだったとか。
https://fundiy.jp/project/HorarezaProject
http://getnews.jp/archives/1512723

◎徐々に身体が動かなくなる「脊髄小脳変性症」という難病を抱えた旭川市在住の男性が、4年前から考案を続けてきた「電子レンジだけで作れる料理」をまとめた「レンジと炊飯器で作る超かんたん料理 UDレシピ本」を出版した。地元の支援者らがプロジェクトチームを作って協力したほか、クラウドファンディングなどで140万円の寄付金を集めるなどして出版にこぎつけたそうだ。
http://www.asahi.com/articles/ASJ8Q5HSNJ8QIIPE012.html

◎週末に新宿コクーンタワーのブックファーストに行ったら、『イチロー会見全文』なんて本がスポーツ本コーナーに平積みされていた。定価は1200円で、編者は「国際情勢研究会」。オバマ米国大統領やウルグアイホセ・ムヒカ大統領の来日時のスピーチも速攻で書籍化していた。
https://twitter.com/iwamototaro/status/769472340149149697
http://goo.gl/tnZzXg

◎とうとうアメリカでは人工知能が書いた文芸作品のみを載せるデジタルメディアなるものが生まれたらしい。
http://techable.jp/archives/46311

◎「ポケモンGO」の中で使われる「ポケコイン」が資金決済法上の支払い手段、すなわち現実の「通貨」として使われているのではないかとして、関東財務局が調査を始めたという。
http://mainichi.jp/articles/20160827/k00/00m/020/035000c?fm=mnm
http://www.yomiuri.co.jp/economy/20160826-OYT1T50077.html?from=tw

ワンセグ携帯の所有者にはNHKとの受信料契約を結ぶ義務がないとの判決を26日にさいたま地裁で勝ち取った朝霞市議の大橋昌信は先の都知事選に「NHKをぶっ壊す!」との政策を掲げて出馬した立花孝志(元船橋市議)が代表を務める「NHKから国民を守る党」の所属である。
https://www.bengo4.com/internet/n_5038/
http://reut.rs/2bkwjcT
http://blog.goo.ne.jp/kimito39/e/2913b05977e56ec4423d6537419731d1

大阪市東淀川区の任意団体「りぼん社」が1979年に創刊した、障害者の自立支援を目的とした雑誌の先駆け的な存在である『そよ風のように街に出よう』(年2回刊)が来年夏で休刊。1990年頃には1万部を発行していたという。
http://goo.gl/nzdZp5

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3)【深夜の誌人語録】(岩本太郎)

撤退する場合、退却戦をいかに上手く闘い抜くかが重要だ。それが次の戦いの結果につながるのだから。