【文徒】2016年(平成28)10月18日(第4巻194号・通巻881号)

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1)【記事】『週刊ポスト』が朝日新聞「経営危険」社外秘資料を暴露
2)【本日の一行情報】
3)【深夜の誌人語録】

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1)【記事】『週刊ポスト』が朝日新聞「経営危険」社外秘資料を暴露(岩本太郎)

週刊ポスト』が10月28日号で朝日新聞「社外秘」資料を暴露している。危険水域に入り始めた(?)経営実態が明らかになった。
今年の夏に社内の各部署や支局で管理職から社員に配布されたという、その〈経営説明会の要点(全社員に知っていただきたいこと)〉と題された1枚のペーパーによると、今年2016年度における同社の年間売上高は3年前の2013年度に比べて500億円超もの減収となる恐れがあるという。
《しかも、その落ち込み幅が、〈年間の給与・賞与総額に相当〉と意義づけをするだけでなく、〈※社員1人あたり▼1200万円程度に相当〉と下線付きで強調する念の入れようだった。》
《文書では、〈人件費以外の固定費を大幅に削減し続けることは困難〉とし、〈16年度は、現状のままでは赤字見通し〉と、“赤字転落”の危機にあることを明らかにしたのである》
《〈17年度から給与改革・定年延長ができないと、⇒⇒恒常的赤字に落ち込む(16年度だけでは済まない)〉
 では、どうなるというのか。文書はこう続く。
〈「繰延税金資産の取り崩し」+「新聞業の減損」で赤字数百億〜1千億円規模〉
 つまり業績見通しの悪化で会計上の費用も積み増しを迫られることになり、赤字額が大きく膨らむという説明だ。これにより、〈信用失い、取引条件悪化〉〈キャッシュ不足で運転資金が回らなくなる〉という文言で文書は締めくくられている》
http://www.news-postseven.com/archives/20161014_456912.html
こうした実態は朝日だけに限るまい。新聞の「押し紙」問題を追求し続けているジャーナリストの黒藪哲哉が先日、毎日新聞についてのある内部資料をもとに推論して書いた記事によると《「押し紙」を排除したときの毎日新聞の販売収入は年間でマイナス295億円》に及ぶのではないかという。
http://www.kokusyo.jp/oshigami/10459/
ただ、全国紙の中でも社員の給与水準が高いことでも知られる朝日新聞である。「もはや社員の給与を削るしかない」と賃下げを説得する文書なのだろうが、日本の新聞業界が音を立てて崩壊へと向かうXデーは意外に早くやってくるのかもしれない。
経営学的には朝日は"新聞も発行している不動産会社"であり、報道はコアビジネス=不動産事業に付随する事業ということになる。

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2)【本日の一行情報】(岩本太郎)

電通の過労死問題について、産経が「『鬼十則』背景か」との見出しで、十則の中から三つを引用しながら報じている。
http://www.iza.ne.jp/kiji/events/news/161015/evt16101509500016-n1.html
《弁護士側は、電通の過労体質を指摘した上で、第4代吉田秀雄社長の遺訓とされる「鬼十則」を明らかにした》とあるが、よく読めば他での報道と同様、亡くなった女性社員によるツイートの紹介が記事の中心だ。別に「鬼十則」が今回の過労死の要因になったことを示すものは記事中では何も示されておらず、こじつけ気味に引用したに過ぎない内容である。とはいえ「鬼十則=悪」と見なされる時代がやってきたのか……とも思う。

◎その電通の過労死問題を機に「長時間労働を撲滅して、日本から過労死をなくしましょう!」というネット署名運動が「change.org」で始まった。
https://goo.gl/3bHYRT
認定NPO法人フローレンス代表理事駒崎弘樹は自身のブログで《電通の経営陣は若者の命を奪っておいて、なんで辞めないの?》《しかし、気づいたのです。これは電通だけに憤り、電通だけが罰せられても、本当の問題は解決しない、と》などと述べつつ、この署名への参加を呼び掛けている。
http://www.komazaki.net/activity/2016/10/004837.html

◎版元の音楽専科社の事業停止に伴い行く末が案じられていたアニメ声優専門情報誌『Pick-up Voice』が、『声優Pick-upActor』と誌名を改めたうえで辰巳出版から発売を継続されることになった。
https://twitter.com/PuV_official/status/787182572962885632?lang=ja
http://www.sponichi.co.jp/entertainment/news/2016/10/15/kiji/K20161015013540840.html

◎『PLAYBOY』とは対照的に『PENTHOUSE』はヌードを捨てなかった。今年初めに同誌の権利を買収したペントハウス・グローバル・メディア社の女性CEO、ケリー・ホランドは『Forbs』の取材に
「前のオーナーたちは雑誌のブランド力を全く理解しない、心無き人々でした。このブランドで何が出来るか、ビジョンが全く無かったのです」「ヌードの掲載中止を決めた、プレイボーイの二の舞いにはなりたくない」としつつ、以下のように答えている。
《私に言わせれば、無料ポルノが滅ぼすのは別の無料ポルノサイトです。それは出口の無い下水管の中の争いのようなもの。私は無料ポルノを敵だとは思いません。私たちのヌードは無料のポルノとは別の物だから。どっちが質的に優れているという話ではなく、全く別のカテゴリに属する物なのです》
《プレイボーイのヌードの掲載中止を決めたのは根性の無い銀行家や、安全な場所から意見を言いたがる企業をとりまく人々です。ブランドというのは人間と同じで、同じDNAを持ち続けます。ペントハウスにとって美しい女性のヌードを載せることは、遺伝子として受け継いだものなのです》
http://forbesjapan.com/articles/detail/13925
ちなみにこのホランドは元戦争ジャーナリストで、アダルト映画業界で働いた経歴も持つ、自称フェミニストなのだそうだ。

中野駅からほど近い、廃校になった小学校の校舎に5年前から入居のうえ活動しているマンガ・アニメなどの文化・芸術情報発信施設「中野マンガアートコート」が、契約解除後も占有しているとして中野区から退去を求められているという。コスプレイヤーには人気の撮影スポットとして人気を集めている場所だが、中野区によれば運営主体のタイケン学園の側に、同校が区との間で結んでいた基本協定に対する「重大な違反行為があった」とのこと。学園側はなおも同地での施設使用を続けると主張しているらしく、中野区では損害賠償訴訟の準備をしているそうだ。
http://news.ameba.jp/20161013-1190/

◎パチンコ業界への規制が年々厳しくなる中で、業界団体である東京都遊技業協同組合(東京都遊連)がこのほど「媒体広告」を行わないようにとの注意喚起を傘下の組合員ホールに対して行ったそうだ。媒体広告とは具体的には、芸能人などの有名人招致イベントにおける「当日の店内告知や注意喚起」「近日来店予定の告知」のほか、出玉系イベントを想起させる内容のものを指しているとか。ようするに有名人を呼び、その来店をアピールして集客を図ろうとすることを禁じるわけだ。ちなみに媒体広告の範囲は「メールやインターネット上の広告や、ブログ・Twitter・LINE・専用アプリも含まれている」とか。
http://biz-journal.jp/gj/2016/10/post_1471.html

◎神奈川県真鶴市にある築50年の民家を自宅兼事務所としつつ、男女のパートナー2人が営んでいる「真鶴出版」は、訪ねてきた人が「泊まれる出版社」を標榜しているそうだ。
http://manapub.com/
https://dot.asahi.com/dot/2016101400173.html

◎鹿児島県の種子島にある河野書店(熊毛郡南種子町)が10月31日限りで閉店。店内で手作りのパンや惣菜なども売っているお店だった。
https://twitter.com/mageshian1025/status/786127541119520768?ref_src=twsrc%5Etfw
https://goo.gl/3YNNZG

◎元BC級戦犯の飯田進さんが93歳で亡くなった。かつて10代で海軍の資源調査隊員として赴任したインドネシアで捕虜虐待の罪を問われ、戦後は30歳までスガモ・プリズンに服役。出所後に社会復帰するも、長男がサリドマイド被害者であったことをきっかけに、やがて全国の被害者や家族が国や製薬会社を訴えたサリドマイド訴訟の原告団長に就任。そこからさらに地元の神奈川県を中心に小児医療の団体を立ち上げ、生涯を児童福祉に捧げた。著書に戦争体験を描いた『魂鎮(たましずめ)の道』、サリドマイド訴訟の顛末を明かした『青い鳥はいなかった』などがある。
http://www.asahi.com/articles/ASJBF6R3CJBFUTFL00L.html
蛇足になるが、私はかつて10年程前、飯田さんに継続的にお会いしながら、戦争体験を語っていただくドキュメンタリー映画の企画に関わっていたことがある。結局映画が日の目をみなかったことが、かえすがえすも残念だ。
http://wind.ap.teacup.com/applet/taroimo/msgcate15/archive

◎これは普段に他人事として読むぶんには笑えるけど、このほど初めての単行本を完成させたばかりの我々「出版人」には笑えない。「印刷後はやばい!(笑)厳しいチェックの目を乗り越えた勇ましい誤植たち9選」
http://corobuzz.com/archives/79878
本当に土壇場になっても致命的な誤植が発見されるなど、悪戦苦闘の連続だった。

本日はその『知られざる出版「裏面」史 元木昌彦インタヴューズ』の発売を記念し、18時より日比谷の「センチュリーコート丸の内」にて「元木昌彦さんの出版を祝う会」が開催されます。ご参加いただける方々には何卒宜しくお願い申し上げます。

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3)【深夜の誌人語録】(岩本太郎)

困難な事態を前に己の中にある迷いを冷静に自覚できる知性は必要だ。