【文徒】2017年(平成29)年4月24日(第5巻76号・通巻1005号)

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1)【記事】小学館DeNA「デジタルメディアのあり方の検討に関する基本合意」が意味するもの
2)【記事】Twitterを超える? 俄かに注目のSNSマストドン」をめぐるネット上の狂騒

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1)【記事】小学館DeNA「デジタルメディアのあり方の検討に関する基本合意」が意味するもの(岩本太郎)

小学館DeNAが「デジタルメディアのあり方の検討に関する基本合意書」を20日に締結。各メディアが一斉に報道した。
http://dena.com/jp/press/2017/04/20/1/
DeNAによる上記のリリースにもある通り、現時点では双方で《デジタルメディアのあり方一般について、編集体制、記事内容のチェックなどを含む記事作成フローの研究を進めて》いきながら、互いの持つノウハウを双方のビジネスに活かしていく、という趣旨以上のことは書かれていない。
また、これを受けた形でDeNAが何らかのデジタルメディア事業を行うか否かも未定であり、何か決まり次第速やかに発表するとされているのみだ。ちなみに小学館からはこの件についての広報発表は先週末時点では行われていないが、朝日新聞は「必要とする人に必要なコンテンツを的確に届けられる技術に期待している」との小学館側のコメント入りで報じている。
http://www.asahi.com/articles/ASK4N5TWJK4NUCVL02V.html
無論、どのメディアも『WELQ』に端を発した騒動でキュレーション事業からの実質撤退に追い込まれたDeNAがこうした形で捲土重来を図って来たかという文脈で報じている。『TechCrunch Japan』は、3月にDeNAが一連の問題に関連して開いた会見での南波智子会長の発言を引き合いに、次のような見方を述べる。
南場智子氏は「(キュレーション事業を)同じ形で再開することはあり得ず、どのような形であればありえるのか。メディア型にしても、編集体制、校閲体制、教育体制など社外の専門家に話を聞くと、非常に奥が深く、経験のない我々が形だけ整えてできるものではない」と発言している。同じ過ちを繰り返さないためにも、今回は老舗出版社と手を組み、新たなデジタルメディアのあり方を模索するつもりのようだ》
http://jp.techcrunch.com/2017/04/20/dena-with-shogakukan/
一方、『WWD JAPAN』は、この合意が小学館側のメリットを以下のように解説する。
小学館もファッション分野で「しごとなでしこ」「ライブラリー トーキョー(LIVERARY.TOKYO)」で、雑誌「キャンキャン(CANCAM)」「オッジ(OGGI)」「プレシャス(PRECIOUS)」など複数の雑誌にまたがるコンテンツと独自コンテンツをキュレーションしたデジタルメディアを展開してきた。小学館にとってもデジタル特有の拡散やコンテンツマネジメントを持つディー・エヌ・エーと組むことで、自社の優良なコンテンツをデジタル分野への展開を強化できるメリットがある》
https://www.wwdjapan.com/410889
マイナビニュース』はDeNA小学館が以前からアプリの「マンガボックス」で協力関係にあったこにも言及。
《今後は、4月1日にDeNAのメディア統括部長に就任した江端浩人氏と小学館のデジタル事業局の大西豊氏を中心に現場のスタッフなどが検討を進め、DeNAのデジタルメディアをつくるべきか、つくらないべきかも考えていくという》
http://news.mynavi.jp/articles/2017/04/20/dena/
江端は元IMJ執行役員CMOで、伊藤忠商事を経て日本コカ・コーラに入社。会員数約1200万人、月間約10億ページビューを誇った会員制サイト「コカ・コーラ パーク」(昨年10月にサービス終了)を立ち上げた人物として業界では知られる。騒動以前のDeNAのキュレーション事業における牽引車的存在だった中川綾太郎(元ペロリ代表)らが騒動を受けて辞任したのと入れ替わりにペロリの新代表として入ってきた。
http://jp.techcrunch.com/2017/03/27/peroli-ebata/
出版業界的に見れば、やはり講談社が1月末にデジタルガレージと共同でキュレーションメディアの共同開発を行うと表明した件が思い起こされるところだ。この分野を切り開いてきたDeNAの突然の退場で空白が生じた市場に、業界大手2社がそれぞれ独自のアプローチで乗り込んできたというわけだ。
あるいはこうした形でキュレーションサイトなどのデジタルメディアを取り込んでいくことで、出版のソーシャル化が今後加速されていくことにもつながっていくのだろうか。

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2)【記事】Twitterを超える? 俄かに注目のSNSマストドン」をめぐるネット上の狂騒(岩本太郎)

先々週末あたりから俄かに「Twitterのライバルになるのでは?」などと注目を集めるようになってきたのがSNSマストドン(Mastodon) 」。ドイツに住む24歳のEugen Rochkoという人物が作成したものだが、ネット上にオープンソースとして公開されたソフトを使って誰でもインスタンス(サーバ)を構築できるため、Twitterのように1つの企業が運営するサイトの中にユーザーたちのやり取りが全部独占されてしまうというリスクがないという“分散型SNS”。既に4月13日の時点で500以上のインスタンスが立ち上がり、互いに緩い「連邦」を組みながら拡大を始めていたらしい。
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1704/13/news131.html
『ITMediaNEWS』は、その後のネット上での盛り上がりを自らの編集部内における興奮ぶりをまじえながらまとめている。
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1704/22/news018.html
日本では22歳の大学生だという@nullkalが自ら構築して管理人を務めているインスタンスが人気を集めているらしい。その@nullkalが4月21日には「ドワンゴに入社し、引き続きmstdn.jpを運用してゆくことになりました」と自ら公表するなど、異様に目まぐるしい展開になっている。
https://mstdn.jp/about
https://mstdn.jp/@nullkal/2259219
なおドワンゴも既にfriends.nicoというマストドンインスタンスを立ち上げていたが、これとは統合しないという。
http://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1704/19/news140.html
http://www.oricon.co.jp/article/175630/
http://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1704/21/news118.html
マスメディアでも、ニッポン放送が「TUNER」というインスタンスを開設してマストドンに参入した。
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1704/20/news150.html
マストドンについて解説した電子書籍もさっそく登場した。KDPを使って自費出版したと見られ、Kindle Unlimitedにも登録されている。
https://www.amazon.co.jp/dp/B071RBSLH6
http://internet.watch.impress.co.jp/docs/yajiuma/1055913.html
今週末にはリアルイベント「マストドン会議 -- その無限の可能性を、いま語らずしていつ語らう!」も都内で開かれることになった。告知したところ大反響を受けて、急遽定員拡大・会場変更することになったそうだ。
http://ascii.jp/elem/000/001/470/1470487/

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3)【本日の一行情報】(岩本太郎)

講談社がマンガアプリ・ウェブサイトの開発チームの募集を21日から開始。『中間管理録トネガワ』の画像を使った特設サイトがオープンしている。
http://www.kodansha.co.jp/upload/pr.kodansha.co.jp/files/pdf/2017mangaapriHP.pdf
http://attouteki-boshu.com/
http://www.sankei.com/economy/news/170421/prl1704210061-n1.html
http://natalie.mu/comic/news/229739

◎3年後に複合型エンタテインメント施設「ところざわさくらタウン(仮)」を開設するプロジェクトを進めているKADOKAWAが、所沢市に“企業版ふるさと納税”として1000万円を寄付した。
http://www.sankei.com/politics/news/170419/plt1704190019-n1.html

◎「ジャンプ+」でコミックエッセイ「すすめ!ジャンプへっぽこ探検隊!」を連載している漫画家の矢吹健太朗が、19日に公開された第3話「ジャンプ編集部の女子トイレのマークを矢吹健太朗先生がデザインしたらこうなった!!」で、パンツを下げる女性のシルエットをかたどった女子トイレのマーク(実際に編集部のトイレの表示に使われたらしい)を掲載したところ、Twitterなどを通じて「セクハラだ」といった批判が殺到。
http://www.huffingtonpost.jp/2017/04/21/shounen-jump_n_16137590.html
http://www.excite.co.jp/News/smadan/20170421/E1492756346095.html
https://togetter.com/li/1103281

◎月刊格闘技専門誌『ゴング格闘技』(イーストプレス)が22日発売の6月号(通巻300号)限りで休刊。松山郷編集長が『スポーツ報知』のインタビューに応えている。27日には神田神保町書泉グランデで愛読感謝トークイベントが行われる。
http://www.hochi.co.jp/topics/serial/CO019592/20170422-OHT1T50064.html

リクルートライフスタイルが運営してきた割引チケットの共同購入サイト「ポンパレ」が4月25日限りで新着チケット販売を停止。
https://shopping-tribe.com/feature/36275/

◎国内最大の雑誌所蔵量を誇り、1月に立川市から国分寺市に移転のうえ再オープンした都立多摩図書館が、この5月から雑誌に関するセミナーなどを継続的に行う「東京マガジンバンクカレッジ」(連続ワークショップやセミナーなど)を本格的に始めるという。
http://www.library.metro.tokyo.jp/
http://www.asahi.com/articles/ASK4B652VK4BUTIL05Z.html

◎なおも続く『ビジネスジャーナル』のツタヤ図書館問題レポート。山口県周南市のJR徳山駅前に開館予定の新図書館では、先に報じられたダミー本の大量購入の件に続き、館内の高さ9mの棚を埋める“お飾り用”に大量の洋書が購入される計画があることが発覚したとのこと。
http://biz-journal.jp/2017/04/post_18813.html

クラウドソーシングサイトを運営するランサーズが、商品の紹介記事などの制作を企業から一括受託する子会社「QUANT(クオント)」を設立した。
https://www.lancers.co.jp/news/pr/12363/
http://www.nikkei.com/article/DGXLASDZ19HQE_Z10C17A4TJC000/

◎石川県金沢市の老舗書店「うつのみや」が、同県七尾市のJR七尾駅前の商業施設に店舗を開業。連携相手の地元スーパー「カジマート」が運営するフランチャイズ方式で、スーパーの店内で本を販売するなど「本と食のコラボ」を検討するそうだ。以前は個人経営の書店や小売店が多かった能登ではこれまで自ら書店経営を行ってこなかった「うつのみや」だが、人口減少や書店の後継者難で同地域が空白地帯となっていたことからFCでの出店を決めたという。
http://www.chunichi.co.jp/hokuriku/article/economy/news/CK2017042102100013.html

盛岡市の中心街「大通」に、古本など書籍の販売スペースとカフェ、ワークスペースを併設した書店「Pono books&time(ポノ ブックスアンドタイム)」が3月にオープン。
https://morioka.keizai.biz/headline/2324/

横浜市の政策局が2020年に移転する予定の新庁舎のレイアウトをめぐり、庁舎整備の担当部署に「苦情申し立てに来庁した市民や業界関係者の言動を記者が聞きつけ、取材につながる恐れ(がある)」との理由から記者用のトイレを分けるように要望していたことが発覚。取材を受けた政策局は「記者を遠ざけようとしていると取られても仕方ない記述で、申し訳ない」とし、要望を撤回。
http://www.sankei.com/politics/news/170422/plt1704220008-n1.html
もとより、大手メディアに対して記者たちが特権的に使える記者室を、税金を使ってタダで設けていることの問題点が既に指摘されて久しいことは言うまでもない。

◎毎年6月に開催される一橋大学の学園祭『KODAIRA祭』で作家の百田尚樹の講演会が6月10日に予定されていることについて「反レイシズム情報センター」(ARIC)が反発。署名『Change.org』で企画の中止を求めるなどの行動を展開中だ。一方で大学自治への干渉を疑問視する意見もネット上ではあがり、一橋大OBの中川淳一郎もこうした動きを批判している。
http://news.nicovideo.jp/watch/nw2747714
http://blogos.com/article/218374/

日本アドバタイザーズ協会JAA)が昨年9月、「テレビ媒体への出稿状況に関するアンケート」を100社以上の会員社に対して行ったところ、約60%が「5年後にはテレビ媒体への出稿比率が下がっている」と予想。さらに約35%が社内で「テレビ媒体の利用をやめたらどうかという意見があった」と答えたそうだ。
http://digiday.jp/brands/jaa-tvcm-survey/

◎21日に手記『遺書』(幻冬舎刊)が発売された元首相の森喜朗に、産経新聞が独占インタビュー。東京五輪をめぐる小池百合子との確執のほかに、当初は文藝春秋から出す予定だった今回の手記が、今年2月になって突然ドタキャンとなった経緯についても語っている。
《実は文藝春秋を名誉棄損で訴えたんだよ。週刊文春の故なき誹謗中傷記事については法的にきちんと対処すべきだと思ってね。
 そうしたら文藝春秋の役員が飛んで来てさ。「引っ込めてくれ」とは言わないんだよ。「原告の本を被告が出すというのはおかしな話だから、なかったことにしてくれ」と。契約金まで俺が全部払ってたのにな》
http://www.sankei.com/premium/news/170422/prm1704220007-n1.html
同書には誤りが多いとして東京都特別顧問・上山信一から正誤表が出されている。
http://blogos.com/article/219411/

佐藤秀峰が運営する『マンガ on ウェブ』の支店「ボイジャー店」が23日にオープンした。
https://mow.voyager.co.jp/
佐藤の『電子書籍はなぜ儲からないのか?』ほかをRomancerで発行しているボイジャーが、昨年の東京国際ブックフェアの際に佐藤をブースに招いて講演も依頼。その際に意見交換を行い、手始めの取り組みとしてまずは始めたそうだ。
http://r.binb.jp/epm/e1_32987_16092016155935/
http://r.binb.jp/epm/e1_32986_16092016155612/
https://www.youtube.com/watch?v=BKSV8Heh3lg