【文徒】2017年(平成29)年9月5日(第5巻167号・通巻1096号)

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1)【記事】首相官邸から「注意」された東京新聞記者名を「匿名報道」した産経新聞
2)【本日の一行情報】

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1)【記事】首相官邸から「注意」された東京新聞記者名を「匿名報道」した産経新聞(岩本太郎)

8月25日に行われた菅義偉官房長官の記者会見での記者からの質問をめぐり、首相官邸の報道室が東京新聞に対して書面を送って注意を促した一件はネット上でも大きな話題になっている。
質問した東京新聞の記者というのが、この間の官邸記者会見で菅を終始質問攻めにしてきたことで名を馳せた望月衣塑子であることは誰しもすぐさま思い当たるところなのだが、この件について産経新聞は1日付の「首相官邸広報室、東京新聞に注意 菅義偉官房長官会見での社会部記者の質問めぐり」という記事では望月の名前を伏せ、東京新聞の「社会部記者」とだけしたうえで次のように伝えている。
《質問したのは、加計問題などで菅氏を追及している社会部記者。加計学園が計画する獣医学部施設の危機管理態勢をただす中で「(計画に対する)認可の保留という決定が出た」と言及した。
獣医学部の新設計画は大学設置・学校法人審議会が審査し、答申を受けた文部科学省が認可の判断を決めるが、この時点ではまだ公表されていなかった。
官邸報道室は東京新聞に宛てた書面で「未確定な事実や単なる推測に基づく質疑応答がなされ、国民に誤解を生じさせるような事態は断じて許容できない」として、再発防止を強く求めた。》
http://www.sankei.com/politics/news/170901/plt1709010045-n1.html
その会見で菅と望月との間で行われた質疑応答はどのようなものだったのか。『LITERA』がさっそく当該部分のやり取りを《発言をそのまま紹介しよう》と報じている。当然ここでは望月の名前入りだ。
http://lite-ra.com/2017/09/post-3428.html
他紙では東京新聞も含めて4日までにこの件についての報道は見当たらない。当の望月も自身は言及していないが、Twitterのアカウント上で志葉玲平野啓一郎による以下のツイートをRTしている。
《望月記者は、ジャーナリストとしてやるべきことをしている。皆で全力で応援しよう。東京新聞に圧力に負けるな、頑張れ、と伝えよう。》
https://twitter.com/reishiva/status/903753926482300928
《これを否定されたら、独自取材に基づく質問は出来なくなる。東京新聞はジャーナリズム然とした態度を貫いてほしい。》
https://twitter.com/hiranok/status/903756725278216195
ちなみに同じ1日、元朝日新聞記者の植村隆産経新聞に掲載された櫻井よしこのコラムに誤りがあるとして、産経に訂正広告の掲載を求める調停を東京簡裁に申し立てている。朝日在籍時代の植村による慰安婦報道を、当然植村の実名を紙面に出して批判したコラムだが、こちらは産経も植村という個人の名前を出して調停申し立ての件を報道。もっとも櫻井のコラムの具体的な中身には触れずじまいではあるが。
http://www.sankei.com/affairs/news/170902/afr1709020002-n1.html
https://mainichi.jp/articles/20170902/k00/00m/040/064000c
https://www.bengo4.com/other/n_6604/

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2)【本日の一行情報】(岩本太郎)

元朝日新聞記者で先ごろ新著『フェイクニュースの見分け方』を新潮新書から上梓したフリーランスジャーナリストの烏賀陽弘道が古巣の記事を「デイリー新潮」で批判。8月22日の朝日朝刊に掲載された米テンプル大日本校教授(現代アジア史)で、日本のメディア事情についての著書もあるジェフ・キングストンへのインタビュー記事についてこき下ろした。
《こんなこと、日本人記者が自分で書けばよいでしょう。何でアメリカ人に報道の自由のお手本を仰ぐ必要があるんですか? こういうカビ臭い欧米崇拝はいい加減やめて下さい》というツイートの真意から語り始めている。
《あのインタビュー記事こそ『代理話者』を使った『事実の取材・報道をサボって、オピニオンで紙面を埋めてお茶を濁した』という劣化した紙面です。
 しかも、あの記事には記者の署名が2人入っていました。なんで学者のインタビューに2人も記者が必要なのか理解できません。記者2人投入といえば立派な『調査報道班』です。それなら記者への圧力と自粛の事実を調べて記事にすればいい》
https://twitter.com/hirougaya/status/900416976656322560
https://www.dailyshincho.jp/article/2017/09040805/
烏賀陽が2003年に朝日新聞を41歳で早期退職した際に発表した手記「なぜ朝日新聞社を辞めたのか?」は、今でもほぼそのまま通用する内容だろう。
http://ugaya.com/asahi/1.html
http://ugaya.com/asahi/2.html

◎フリー編集者の木瀬貴吉とデザイナーの安藤順が2人で経営している赤羽の小出版社「ころから」が刊行して話題を呼んだ『九月、東京の路上で』(加藤直樹)は関東大震災での朝鮮人虐殺がテーマ。この9月にも売れ行きが好調だったらしい。「ころから」のTwitterアカウントにはこんなお知らせが載っていた。
《入荷しても入荷しても、Amazonでは即品切れ状態となっている『九月、東京の路上で』ですが、マーケットプレイスで新品(送料257円)を購入することができます。》
https://twitter.com/korocolor/status/902706909634891776
書店員の須田正晴が上記を受けてこうツイートしている。
《つまりアマゾンの仕入れが絶望的にヘタクソだということだよね。ころからはe託やって発注どおりに出荷してるのに表示はずっと「1-4週間」のまま。》
https://twitter.com/sudahato/status/904101272143355904

◎近刊情報を閲覧できる「近刊検索デルタ」というサイトの公開も8月31日から始まっている。
https://twitter.com/takashimt/status/903284089947471872
http://honno.info/kkan/

◎「マガジン航」でも仲俣暁生が9月1日付で「書誌情報の『脱アマゾン依存』を!」と題した記事を書いていた。カーリルがアマゾンのデータ主体の情報提供を見直した件について前段で触れた後、後段では《「ネット書店」対「町の書店」はニセの対立。真の課題は「アマゾン依存」をどう脱するか》と中見出しで謳いつつ、先ごろ話題を呼んだ朝日の「書店ゼロの自治体、2割強に」という記事にも言及。
《現実にそういう側面はあるし、町から本屋さんが消えていく現状を憂う気持ちは理解できる。しかし、そのことをもって「ネット書店」が「町の書店」を駆逐しているという単純な見方は、ことの本質をとらえそこなっているのではないか。
現実に起きているのは、本を買う人がますます大型書店やネット書店を利用するようになったということだ。大型書店とネット書店の共通点は、ひとつには在庫の豊富さであり、もうひとつは在庫を検索できるデータベースを備えていることだ。ようするに、いま消えているのは「本がデータベースと紐付けられていない本屋」なのではないか》
http://magazine-k.jp/?p=22748

◎ドキュメンタリー情報媒体『neoneo』編集室の主催で来年夏から「東京ドキュメンタリー映画祭」が開催されることになったそうだ。さる9月1日から作品の募集を開始(来年2月28日まで)。エントリー料はなく、またメールや動画URLによる応募も可能だという。
http://webneo.org/archives/43464

◎街案内サイト「東京DEEP案内」を書籍化した『首都圏住みたくない街』(逢坂まさよし+DEEP案内編集部著・駒草出版刊)は東京都心の大書店でも平積みされ、重版がかかるほどの売れ行きであるらしい。もっとも、ラブドールなどを蒐集する「八潮秘宝館」の館主でもある写真家の兵頭喜貴は《まぁ、所詮は、よそ者が適当に書いてることですよ。だって、八潮のDEEPゾーン案内するなら、まずうちでしょう。八潮秘宝館以上にDEEPな八潮はないですよ》と、自ら撮影して回った八潮周辺の「名所」写真を交えつつ現地ルポしている。
http://tokyodeep.info/
http://blog.livedoor.jp/hyodo_shasin/archives/50795134.html

◎都内中野区で2010年に創刊され、隔月刊で3万部を発行してきたフリーペーパー『おこのみっくすマガジン』が今年4月で休刊。ところがこの9月1日からは有料雑誌『おためしっくす』(定価800円)として復刊した。中野区内の書店、セブンイレブン、フリーペーパー時代の設置店など直販契約店などで販売するという。
http://otamesix.club/
https://nakano.keizai.biz/headline/1260/

公正取引委員会フリーランスの労働環境の改善に向けた実態調査を始めた。年度内に報告書をまとめることを目指しているという。
https://mainichi.jp/articles/20170903/k00/00m/040/097000c?fm=mnm
https://mainichi.jp/articles/20170903/k00/00m/040/099000c

マッキャンエリクソン代表取締役社長兼CEOに森浩昭が9月1日付で就任した。1990年に早稲田大学法学部を卒業後に博報堂に入社。自動車やエレクトロニクス産業の担当などを経験し、その後はTBWA HAKUHODOの中国オフィスの運営などに携わった。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000003.000027750.html