【文徒】2017年(平成29)10月4日(第5巻187号・通巻1116号)

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1)【記事】ベインキャピタルアサツーディ・ケイを約1500億円で買収
2)【本日の一行情報】
3)【深夜の誌人語録】

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1)【記事】ベインキャピタルアサツーディ・ケイを約1500億円で買収

投資ファンドベインキャピタルアサツーディ・ケイ(ADK)をTOBで買収し、完全子会社化するになった。上場を廃止する。電通との合併が頓挫した段階で、いつかこういう日がやって来ると予測しないわけでもなかったが、デジタルシフトの波に業界3位の広告会社が呑み込まれてしまったということだと私は思った。周知のようにベインキャピタルは「経営再建を目指す東芝をめぐっては、半導体子会社の東芝メモリの売却先である“日米韓連合”で、中心的な役割を果たし」たことで知られている投資ファンドだ。また、すかいらーくやドミノピザ・ジャパンなどに投資していることでも知られている。
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20171002/k10011165591000.html
https://www.adk.jp/wp/wp-content/uploads/2017/10/53c61f446dd732f2af88a9b99788c37d.pdf
https://www.adk.jp/wp/wp-content/uploads/2017/10/431288c69c7ab0ef4535c81bb3ee3a6c.pdf
これにともないアサツーディ・ケイはイギリスのメガエージェンシーWPPとの資本・業務提携を解消するという。WPPとは事前に提携解消に関して合意していないそうだ。
アサツーDKは1998年からWPPと提携していたが、期待した事業上のシナジーを実現するには至らなかったという」(日経)
https://www.nikkei.com/article/DGXLASFL02HQ4_S7A001C1000000/
買い付け期間は、10月3日から11月15日までであり、買い付け価格は普通株式1株につき3660円で、4162万3579株の取得を予定しているそうだ。
「同社は、「急速に市場が変化を続ける中で、多彩な商材開発に加え、M&A投資や業務提携、さらには人材・システムなどの経営基盤などへの投資のみならず、事業の選択と集中も含め、従来の広告代理店業のビジネスモデルを超え、クライアントの改題を解決するマーケティング支援を行い、消費者の行動を喚起していく『コンシューマー・アクティベーション・カンパニー』へと大きく変革するために、大胆かつ横断的な改革が不可欠」とコメント」(「CNET Japan」)
https://japan.cnet.com/article/35108161/
https://www.adk.jp/wp/wp-content/uploads/2017/10/26076683b3a44626cdf24aeb15e21a9c1.pdf
ブルームバーグは次のように書いている。
アサツーDKによると、2013年8月に示した中期経営計画では70億円の営業利益目標を掲げたものの、16年12月期の実績は56億円。収益性の改善が不十分で、一層の事業革新や組織改革の実行が急務なため、ベインによるTOBの受け入れを判断したという」
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-10-02/OX6OMT6TTDS001

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2)【本日の一行情報】

◎「禿頭で、眼鏡を鼻先までずりおろして、人を上目遣いで見るのが特徴的な、漫画みたいな総務部長は、新館の一番小さな会議スペースで笹子を待つと、その役目をするのが難儀そうに、警告文でも読み上げるような調子で、
『男性の服装で出社してください』
と言う。
『なんでですか』
と笹子は問い返すことになった。
『なんでって』
と総務部長は目を大きく見開いた。『男性は男性の服装で』
『・・・・・・男性ではないんですけれど』」
藤野千夜の「編集ども集まれ!」(双葉社)を一気に読む。小説は滅多に読まない私であるが、舞台が神保町の出版社「青雲社」とあっては読まずにはおけぬ。「青雲社」のモデルが日本文芸社であることは数頁も読み、「『バイオレンスジャック』が巻頭に載っている」という記述に出会えば即座に了解できよう。「週刊大人漫画クラブ」のモデルは、もちろん「週刊漫画ゴラク」である。「なあ、大変なことしてくれたなあ」という梶原一騎の電話での迫力ある台詞が良いなあ。
http://www.futabasha.co.jp/booksdb/book/bookview/978-4-575-24057-3.html
藤野千夜の編集者を経て小説家になるまでの自伝的であると同時に昭和の終わりから平成にかけての漫画業界史を正確に活写している。さてと、今日の昼食は共栄堂でスマトラカレーを平らげるとするか。

◎解散、総選挙なんだけれど個人的には棄権の誘惑に駆られている私にとって、杉本仁の「民俗選挙のゆくえ 津軽選挙VS甲州選挙」(梟社)は一服の清涼剤の役割を果たしてくれた。
「私たちが考えなければならないのは、現在の荒涼たる他者への分厚い無関心を内包する近代の選挙風景に見いだすことができなくなったものについてである。すなわち、おろかな妄動とも見える選挙祭りの熱狂のなかに見える真摯なもの、よりよき共同生活へのあくなき攻究の歩みと愉しさである」
http://www.mosakusha.com/newitems/2017/09/vs_4.html
柳田政治学の可能性を示唆する一冊である。リベラルを自称する政治家で、この本を読んで総選挙に臨む政治家っているのだろうか。

◎櫻井正一郎の「京都学派酔故伝」(京都大学学術出版会)が面白かった。「各学者の内面まで踏み込んだ正統的な京都学派論だ」とはカメラマンにして、八文字屋の店主・甲斐扶佐義の弁だが、その通りだと思う。本書を一読すれば京都には東京にはない濃密な空間があることがわかる。
櫻井によれば共同研究に結実する「ヨコ社会」は、吉川幸次郎桑原武夫今西錦司が率いた第二期京都学派の特徴ということになるのだろうが、京都は狭く深いがゆえに広いから「ヨコ社会」が可能だったのである。ちなみに京都学派の本を最も多く出した出版社は筑摩書房だそうだ。
しかし、温泉旅館の酒席で吉川と井上清が大声で論争し、行司役の桑原武夫が勝負を引き分けとし、二人に風呂を勧めたところ二人は浴衣をその場で脱ぎ捨て、素っ裸で廊下を湯殿に向かい闊歩したなんて良い話じゃないのさ。高橋和巳のエピソードを紹介しておこうか。
「待合も好きだった。行ったのは父親の行きつけだった待合で、奈良に近い生駒の宝生寺の門前にあった。この待合に、あるときそわそわしながら、多田道太郎杉本秀太郎をつれていった。翌朝支払いのときに金がひどく足りない。『ええやないか、おばさん、出世払いや』」
http://www.kyoto-up.or.jp/book.php?id=2204
本書を書くべく櫻井の背中を押したのは「文藝春秋」元編集長の岡崎満義だったそうである。

◎宋徳和にパッと反射できる現役の編集者、記者は現在少ないのではないだろうか。PANA通信社の設立者である。岩間優希の「PANA通信社と戦後日本 汎アジア・メディアを創ったジャーナリストたち」(人文書院)は、宋がアジアの、アジア人による、アジアのための通信社として設立したPANA通信社を「南ヴェトナム戦争従軍記」の岡村昭彦や、トップ屋集団「東京ペン」を率いたのちPANA通信社を引き継いだ近藤幹雄といったPANA通信社で活躍したジャーナリストの足跡を辿りながら、PANA通信社の戦後史を切り取っている。いやあ、面白い!
「ある日、文芸評論家の川上徹太郎が紹介状を持って放送会館にあった宋のデスクにやってきた。二人の会見記は『文藝春秋』の十二月号に掲載されるのだが、最初の見出しには『白洲次郎から勧められて会った男』とある」
http://www.jimbunshoin.co.jp/book/b287592.html
講談社で「週刊現代」などの編集長をつとめたことのある森岩弘は確かPANA通信社を経て講談社中途採用されたのではなかったか。

加藤典洋が「もうすぐやってくる尊皇攘夷思想のために」(幻戯書房)で鋭く指摘しているように私たちは幕末期の尊皇攘夷思想を「抑圧」するという明治期の「過ち」に目をつむりつづけて来たのである。「・・・戦後の平和主義、民主主義に難点と弱点があるのと同じく、現在の二一世紀の保守主義、右翼的主張、つまり明治以来の戦前の価値を称揚するタイプの主張にも、様々な変質と空洞化が起こっている」なかで、遂に議会政治から排除されようとしているリベラルな思想と幕末の革命思想たる尊皇攘夷思想を接ぎ木することが果たして可能なのかどうか。これはなかなか日本においては、結構重要な問いである。戦後がダメだとしても、そう簡単に明治に逃げられるわけではないのである。タイムリーな一冊である。
http://www.genki-shobou.co.jp/

小熊英二の「誰が何を論じているのか 現代日本の思想と状況」(新曜社)は500頁を超える大著だ。小熊が2013年4月から2016年3月までの間に朝日新聞の論壇委員として書いた論評を一冊にまとめたものであり、論評した著者は600人を超えるという。しかし、そこに加藤典洋の名前を発見することはできない。私など加藤の仕事を抜きにして現代日本の思想と状況をスケッチすることは到底不可能だと思えるのだが、小熊にとってはそうではないようだ。
http://www.shin-yo-sha.co.jp/mokuroku/books/978-4-7885-1531-4.htm

文藝春秋中央公論新社が共同で取り組んだ「半沢直樹・花咲舞に教えて欲しい 働くあなたの意識調査」の結果が発表された。仕事上の判断を「忖度」で変えたことがある人は52.2%。意外と少ないものなんだな。私の30年に及ぶサラリーマン人生において、「忖度」以前に経営者の目を見て動くことを日常としていた。これ本当の話だよ。会議なんていうのも経験したことはなかったしね。目を見て動いたのだから私の行動に経営者の責任は全くないという論理で30年間にわたって仕事をするのは楽ではなかった。
http://bunshun.jp/articles/-/4331

◎Precious.jpでは「総額100万円相当のゲランの商品」が1名に当たる「Precious.jpスタート記念キャンペーン」を実施している。
https://precious.jp/articles/-/2297

◎「第 39 回野間文芸新人賞」の候補作品が発表された。今村夏子の「星の子」(朝日新聞出版)で決まりだと思うけどな。
http://www.kodansha.co.jp/upload/pr.kodansha.co.jp/files/pdf/20171002a.pdf

◎宝島社の蓮見清一社長は学生時代には早稲田のレーニンと呼ばれた革マル派の活動家であり、大学卒業後は「週刊現代」で記者をはじめ、「週刊ポスト」が創刊されると今度は同誌の記者をつとめ、独立というコースを辿るが、宝島社は今や女性誌王国である。その特徴は付録を毎号欠かせないことである。「withnews」に掲載された「宝島社、勝ち続ける付録戦略 周到な準備・スケールメリットが好循環」は次のように書いている。
「安価で品質の良い製品を作れる海外ルートを開拓したことも追い風に、2004年には蓮見清一社長(74)が『全雑誌、毎号、付録をつける』と大号令。現在、12誌が毎号、付録をつけており、09、10年には計3回、『sweet』が100万部に到達するなどの成果を出しています」
「最終的には、編集長のほか、書店営業、広告、広報、マーケティングといったその雑誌に関わる全部門のトップや蓮見社長も出席するマーケティング会議で決定します。
会議では『(男性向けトレンド情報誌の)『モノマックス』は革製品の付録が当たっているから、革ものを連続でやった方が良いのでは』『過去、こういうものはあまりうまく行っていないんだから、同じように失敗するんじゃないか』などの社長の鶴の一声が出ることもあり、実際、結果を見ると的確なことが多いそうです」
https://withnews.jp/article/f0171002001qq000000000000000W01l10301qq000015975A
蓮見社長の付録へのこだわりは唯物論が生きていると考えるべきだ。

◎全国のTSUTAYAで、店舗レンタルと動画配信サービスを融合させた新サービス「TSUTAYAプレミアム」がスタートした。
TSUTAYAプレミアム」は、月額1,000円から、新作・準新作除くもののDVD/Blu-rayが店舗で返却期限・延長料金なしで借り放題となり、更にTSUTAYAの動画配信サービス「TSUTAYA TV」を利用でき、計10万本(店舗レンタル9万本、動画配信2万本、重複を除いた本数)の映像作品を見放題で楽しめる。
http://www.ccc.co.jp/20171002_TSUTAYAPREMIUM_01.pdf

学研ホールディングス進学会ホールディングスと資本業務提携を締結した。学研ホールディングス保有する自己株式465,800株(発行済株式数の4.39%、議決権総数の5.24%)を総額15億円を上限として進学会HDに割り当て、同社がその割り当てを引き受けることにより学研ホールディングスの株式を取得する。
一方、学研ホールディングスは、進学会HDに割り当てる自己株式の処分により調達する資金(ただし、発行諸費用の概算額は除く。)を買付価額の上限額として、同社の普通株式を大株主4名から市場外での相対取引による株式譲渡により取得し、当該相対取引により総株主の議決権数の5%以上の普通株式を取得することを見込んでいる。
https://file.swcms.net/file/gakken/ir/news/auto_20171002483610/pdfFile.pdf

小学館の美容誌「美的」11月号の付録はファッションブランド「Velnica」とコラボした花柄の大容量バッグと化粧品ブランド「イプサ」の美容液。これで690円(税別)は確かにコスパ抜群!
https://woman.infoseek.co.jp/news/trend/20171002bgmania20172222553

サイバーエージェントは、仮想通貨取引事業を行う新子会社として、サイバーエージェントビットコインを10月2日に設立した。
https://www.cyberagent.co.jp/newsinfo/press/detail/id=14164
ディアビジネスのあり方を一変させかねないブロックチェーンの時代が現実性を帯びて来る。電通博報堂は、どうするのだろうか。

秋葉原で開催されたKADOKAWAのイベント「電撃文庫 秋の祭典2017」に過去最高となる約8万2000人が来場した。
https://mantan-web.jp/article/20171002dog00m200029000c.html

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3)【深夜の誌人語録】

私利私欲を肯定せずに個性を生かすことはできない。