【文徒】2017年(平成29)11月21日(第5巻219号・通巻1148号)

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1)【記事】大都市の中心部以外で“独立系の個性派書店”が増えている背景
2)【本日の一行情報】

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1)【記事】大都市の中心部以外で“独立系の個性派書店”が増えている背景(岩本太郎)

日本で初めての子どもの本専門店として1973年に開店した名古屋市千種区の「メルヘンハウス」が来年3月末で閉店するという。名古屋駅や同市中心部の栄からはJRや市営地下鉄で約10分の千種駅に近い店舗に童話など約3万冊を陳列(雑誌や漫画は置かない主義とか)いたが、売り上げは最盛期(1990年代後半)の半分程度に減少。おすすめの本を定期的に届ける「ブッククラブ」も同時期には全国に約1万5000人の会員を持っていたものの、こちらも3分の1に減少してしまったそうだ。創業者で今も代表を務める三輪哲は地元の中日新聞の取材に応え、「経営理念と売り上げを何とか両立してきたけれど、百パーセント売り上げ重視のネット通販にはかなわない。これ以上頑張っても厳しいと判断した」と述べている。
http://www.chunichi.co.jp/article/front/list/CK2017111702000070.html
東京に例えれば山手線の乗り換え駅のような場所の駅前でも、今ではこうした専門書店はもとより一般の新刊書店ですら経営は非常に難しい。
しかし一方で最近は大都市圏から離れた場所で独立系の書店が新たに開業するケースが増えてもいる。今年8月に高松市の亀井町(同市繁華街の瓦町に近い)にオープンした「ルヌガンガ」は、取次からの自動配本に頼らず店主の目利きで本を揃えるセレクトショップ方式。店内にはカフェを併設のうえ読書会や映画上映会、作家のトークイベントも開催しているという。店主の中村勇亮はもともと名古屋市内の大型書店に勤めていたが《出版業界が苦境の中、独自の工夫やサービスに乏しい従来型書店の未来は暗い》と感じたことから一旦は商社に転職。10年勤めた後に中学・高校時代を過ごした高松での書店開業を決断。開店資金はクラウドファンディングで募ったそうだ。
https://www.lunuganga-books.com/
https://mainichi.jp/articles/20171116/ddl/k37/040/349000c
都内でも今年4月23日のサン・ジョルディの日田原町で開業した「Readin’ Writin’」は新刊書店だが買い切り制を採用し、店主の目利きで本を揃えるスタイルを採っている。同店については以前にも『文徒』で紹介したが、店主の落合博は元毎日新聞論説委員。前職でのスキルを活かして、本を「売ること」だけではなく「書くこと」にも力を入れようと、店内でマンツーマンの文章教室も開催している。
https://twitter.com/ochimira
http://www.asahi.com/and_w/articles/SDI2017111574391.html
http://bookpooh.com/archives/1220
都内とはいえ立地で言えば田原町は繁華街から外れていて、さほど便利な場所ではない。だが、たびたび紹介している台東区の「カストリ書房」や荻窪の「title」などの独立系書店も交通アクセスがあまり良いとは言えない場所にありながらも、トークなど様々なイベントを行うなどして話題を集めている。そういえば「title」では現在、画家で多摩美術大名誉教授の今井信吾が、聴覚障害のある娘に向けて約30年前に描いていた絵日記を展示会を店内のギャラリーで開催している。今年7月にリトルモアから今井が上梓した『宿題の絵日記帳』が反響を呼んだことを受けての開催だ。
http://www.title-books.com/event/3656
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201711/CK2017111702000267.html
東京ももちろんだが、都市部を離れたエリアに行くと、もはや新刊書店がほとんどないどころか、「書店に行って本を買う」という行為自体が”非日常”のものになってしまっている。しかし裏返せば「本屋に行く」行為の非日常性を逆手に取る形でそれをイベント化しつつ、書店自体もイベント空間として再構築する形での活路が拓けてきているということではないか。読者のほうでの積極的な動機を喚起のうえ来店してもらうのであれば多少の地の利の悪さ(駅から遠い)などさほど気にはならないだろうし、むしろ車社会で不動産価格も安い地域では有利に働く要素になるかもしれない。

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2)【本日の一行情報】(岩本太郎)

◎新生「MERY」が本日スタート。TwitterInstagramのほうは既に動き始めている。
https://mery.jp/
https://twitter.com/mery_news
https://www.instagram.com/mery.jp/
『BUSINESS INSIDER』が「MERY」社長の山岸博と副社長の江端浩人に直前取材。他にも「あるベテランライター」の《DeNAのキュレーションメディアが「盗用したかもしれないコンテンツ」の権利確認は実際のところ何も落着していないし決着もしていない》等のコメントも交えながら報じている。
https://www.businessinsider.jp/post-107347
来週発行『出版人・広告人』12月号でも山岸社長にインタビューを行っているので参照されたい。

◎来年4月からテレビの在京民放キー局5社のスポットCMの取引指標が、従来の世帯視聴率から個人視聴率に変更、さらに、タイムシフト(録画)視聴率も加味した新制度に移行すると日経が報じている。今年8月に民放側から日本アドバタイザーズ協会JAA)などに説明があり、その後はJAA内部でも数カ月にわたって議論が続けられてきたという。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcldmg/15/216709/111600038/
90年代前半、JAAの前身である日本広告主協会が機械式個人視聴率調査の導入を進め、反発した民放側と紛糾する中で「個人視聴率データは取引指標にはしない」と盛んに両者間で念押しされていたことを思うと隔世の感がある。無論、もはやそんなことを言っていられる状況にないことは民放側とてよくわかっているのだろう。

◎座間の事件で被害者の実名や顔写真がワイドショーなどで報道されていることについて、久田将義が『東京BREAKING NEWS』で「異議あり」と述べている。
《以前、週刊新潮の版元新潮社の写真週刊誌「FOCUS」では、加害者の少年犯罪者の顔写真と実名を報道しました。神戸児童連続殺傷事件、通称「酒鬼薔薇事件」です。これは物議を醸し出しましたが、支持も得られました。(略)しかし、今回の座間猟奇事件で被害者の顔写真と実名を出す意味はあるのでしょうか。記事構築の手法としても、意味はないでしょう。被害者の名前、顔写真を出さなくても、書かれた優れた犯罪ルポルタージュはたくさんあります》
http://n-knuckles.com/media/mass/news002497.html
『女性自身』も《座間事件「実名報道はやめて!」黙殺された遺族たちの嘆願》との見出しで異論を唱えている。
https://jisin.jp/serial/%E7%A4%BE%E4%BC%9A%E3%82%B9%E3%83%9D%E3%83%BC%E3%83%84/crime/31342
久田が言うように以前はこうした犯罪で顔写真などの報道に走るのは週刊誌のほうであり、それをテレビや新聞が「行き過ぎだ」と批判していたものだった。はたして何時頃からそれが逆転したのだろうか。

◎今年3月から全館改修工事のため一時休館していた汐留の「アドミュージアム東京」が、開館15周年にあたる12月1日午前11時にリニューアルオープンする。
http://www.admt.jp/pdf/NewsRelease_Reopening.pdf
https://travel.mdpr.jp/travel/detail/1727758

福島県南相馬市の自宅と倉庫を使って書店・劇場をオープンすべく準備を進めている柳美里が、プレオープンイベント「cascade 破水」を12月24日に同地で開催。柳と交流のある人々を招き、彼女の小説「ねこのおうち」の中から編集したクリスマス・ストーリーの朗読や、トークショーなどのイベントが行われる。なお、書店「フルハウス」は来年4月、劇場「LaMaMa ODAKA」は来年秋の開業を目指しているそうだ。
http://www.minyu-net.com/news/news/FM20171118-221195.php

◎『さよなら、田中さん』で話題の中学2年生の小説家・鈴木るりかが毎日新聞「15歳のニュース」にも登場。
小学館が主催(しゅさい)する小学生限定の「12歳の文学賞」で、小学4年から3年連続で大賞に輝(かがや)いた。賞品にあった図書カード10万円分を見て「(好きな少女漫画(まんが)雑誌)『ちゃお』が一生分買えるんじゃないか」と応募(おうぼ)した。漫画家になりたくて、ちゃおには小3で作品を初投稿(とうこう)している》
https://mainichi.jp/articles/20171118/dbg/048/040/010000c
《鈴木さんの頭の中は、いろいろな文章のかけらでいっぱいだ。将来は「小説家か、漫画家か、ゲーム雑誌の記者になりたい」》とのオチもなかなか良い。

◎VARUでの”インサイダー疑惑”で世間を騒がせたユーチューバーのヒカルが2ヵ月ぶりに復活。18日にTwitterの公式アカウントで復帰宣言を行い、近況を動画で報告。ハワイに行ったらしい。
https://twitter.com/kinnpatuhikaru/status/931810618931163136
http://kai-you.net/article/47688

◎「彼女の妊娠が判明し、来年4月に第一子が生まれる」という大学生ブロガーが、妻(その後に入籍)の出産に必要な費用を賄おうと”出産クラウドファンディング”を企画。まずは「CAMPFIRE」に開始前の「下書き」をアップしたうえで意見を募ったところ《出産に関して舐めくさっている》などの批判が沸き起こって炎上。公開に踏み出せず、支援総額も0円のままの状態が続いている。
https://camp-fire.jp/projects/view/48942?token=1qmp2b9n
WEDGE Infinity』でこの件を報じたライターの網尾渉も《「出産クラウドファンディング」という考え方に100%反対するわけではない》としつつも、以下のように批判する。
《要するに、ファンもいない状態からの、個人的な資金調達はキツい。よっぽど策がない限り無理だ。ここでいう「策」とは、人から好かれるための「媚び」と言い換えられる》
《どこかのブロガーの二番煎じのような文章しか書けないから、「学生結婚で出産費用が足りない」というちょっとしたニュース性だけを売りに押し切ろうとしているのでは。むしろ本当に欲しいのは出産費用ではなくネット上の注目なのでは。そんな風に思えてしまってちょっと心が動かない。「下書き」の段階でいったん公開して意見を募るのも保険かけてる感じだが、資金を入れてくれる人がゼロの状態で批判ばかり集まってしまうのだから、むしろ悪手だったのではないか》
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/11144

◎中国人から見ると「日本人は電子書籍よりも文庫本を選んでいる」と見えたりもするらしい。中国メディア「今日頭条」に13日付で掲載されたという「日本人はどうして本をこんなに小さくしたがったのか」という記事を引用する形で『サーチナ』が報じている。
http://news.searchina.net/id/1648187?page=1

◎AIが人間の代わりに原稿を読み上げる「AIアナウンサー」をコミュニティ放送のFM和歌山が導入している。アマゾンのウェブサービスAmazon Polly」を用いたもので、人手不足に悩むコミュニティFMにとっては早朝や深夜などアナウンサーが確保しにくい時間帯にもニュースを流せるなどの利点があるようだ。同局によれば国内では初の取り組みだという。
https://877.fm/nanako.php
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO23446480U7A111C1000000/

◎18日付の読売新聞朝刊に掲載された加計学園獣医学部募集の全面広告はSNSなどネット上でも大きな話題になっている。やはり批判的な声が目に付くが、紙媒体に載ったものをネットでもこれだけ話題として拡散してもらえれば広告効果もあったというところだろう。
https://tr.twipple.jp/p/28/de5475.html
http://kenpo9.com/archives/2867
http://tanakaryusaku.jp/2017/11/00016981

バックパッカー向け旅行ガイドの老舗『地球の歩き方』のウェブサイト運営などを手がける「地球の歩き方T&E」が、国内外の旅先の情報を現地在住者や読者アンケートなどを通じて集約のうえ発信するサービス 『地球の歩き方 ニュース&レポート』を15日からリリースした。
https://news.arukikata.co.jp/
http://www.dreamnews.jp/press/0000163632/

◎駐車場シェアリングサービス大手のakippaが、競合関係にあった「SUUMOドライブ」を展開するリクルート住まいカンパニーと提携。今日21日からは「SUUMO月極駐車場」 に掲載されている駐車場情報が「akippa」にも併載される予定とのこと。
http://techwave.jp/archives/akippa-collaborates-with-competing-recruit.html
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO23564280W7A111C1LKA000/